日本時間学会大会2023

「システム開発技術」に関する時間学的考察

2023年7月2日 長嶋洋一


概要
H-3ロケット打上げ失敗のニュースは、巨大化/複雑化するシステムの開発技術において未だ人類は未熟な段階にある事実を突きつけた。エレクトロニクスとコンピュータ技術の進展はオープンソース・ソフトウェアに続いて21世紀にはオープンソース・ハードウェアの時代に突入したものの、あらゆる段階での高度化とブラックボックス化のために、システム開発における柔軟性と信頼性の両立はいまだ永遠の課題となっている。最近の何度目かの「AIブーム」による開発支援の活用が望まれているが、ここでさらにAIやバーチャルというブラックボックスに依存することの倫理的/哲学的/政治的な問題も残っている。
かつては数万個の半導体回路、そしてコンピュータ・ソフトウェアを活用した数多くのシステムを開発してきた筆者(技術士)から見れば、オープンソース文化に取り残されclosed文化に固執した日本企業の衰退は必然であった。本発表では、あらゆるシステムを過去には想像できなかったスピードで実現している海外の新興勢力のアプローチについて、統合開発環境(IDE)だけなく人類が獲得しつつあるオープンソース文化の面から解説するとともに、実際にChatGPT4によって実験的に検証してみた時間学的な検討について紹介し、その可能性と課題について議論してみたい。
筆者の大学のデザイン学部において、理系でない学生が各種のソフトウェアを活用し、中身の詳細を理解せずともブラックボックスとして電子回路ハードウェアやマイコンを活用して実際に動くインタラクティブ・システムを制作できてしまうのを目の当たりにしているが、筆者がこの領域での教育活動を始めた30年前から見れば画期的な進展である。このような素晴らしい状況を実現するためには、過去に専門家が電子工学や情報工学の専門知識を獲得するために必要だった膨大な「時間」をブラックボックスの彼方に縮約させてしまう新しい叡智が必要である。日本企業が「ものづくり」「秘伝」「伝承」などと美化して知識を秘匿し停滞している一方で、世界では「皆んなで一緒に知識を交換して成長しよう」というオープンな文化が醸成されていたのである。言語の壁もまたAIによって打破されつつある現在、これからの若い世代は過去の人類が遅々として獲得してきた知識を時間の壁を乗り越えて活用し、AIに使われるのでなく正しくAIを活用することになるのかどうか、この点についても検討してみたい。

最初に結論

用語の整理

参考資料リンク