ライヴ"Risset Rhythm"音楽への道

長嶋洋一(SUAC)


Abstract

ピッチに関する有名な錯聴の"Shepard Tone"(無限に上昇/下降するピッチや音階)を、作曲家Jean-Claude Rissetがリズムに拡張した錯聴が"Risset Rhythm"である。単調に刻まれたリズムのテンポが自然に刻々と加速または減速していくシンプルなサウンドなのに、気付いてみればそのテンポがずっと加速/減速を続けているという不思議な「時間錯覚」である。時間学的には「テンポとは時間あたりのビート数」という定義から考えてみると、枠組みとして伸び縮みしない筈の「時間」に対して、ビートを構成する音響の方にある細工をすることで「時間/テンポの伸び縮み」と知覚させるというのは興味深いテーマであるだろう。
COVID-19環境下の2020年前期に進めた科目「音楽情報科学」のリモート講義の中で、北京から参加する筆者のゼミの研究生が「温故知新」的に発掘してきたこの"Risset Rhythm"を、格好のテーマとして学生たちと議論・実験しながら再現し、さらに色々に発展させてみた。例えば、リズムだけでなくピッチ要素を持つ音楽フレーズでも実現できるのか(→できた)、左右の音響チャンネルの片側は無限加速し反対側は無限減速するサウンドを両耳ヘッドホンで聞いたら面白い現象が発見できた実験、などの新しい成果があった。そしてさらに発展系の可能性として、刻々と生成する"Risset Rhythm"のパターンをライブに変容させる「Real Time Risset Rhythm Generator」(下図)を提案し、オンライン学会で報告発表した。
本発表では、ライヴComputer Musicパフォーマンスの領域で、これまで前例のない「対話的/即興的にテンポが自然な"Risset Rhythm"連続加速/連続減速を繰り返す」という音楽(存在するかも不明)を実現していくための手法として、「Live Sampling Risset Rhythm」というアプローチについて検討している最新状況について報告する。

オンライン発表用資料

関連Web資料