情報処理学会チュートリアル・テキスト

新・筋電センサ "MiniBioMuse-II"

長嶋 洋一


コラボレータの生体センシング専門家・照岡正樹さんの協力のもと、 新しい筋電センサ「MiniBioMuse-II」を製作してみました。 まずは基礎編として、 こちらもあわせて ご覧ください。
なお、このドキュメントは、筆者がAtau Tanaka氏とともに講師を行う、1999年8月6日の 情報処理学会チュートリアル「センサ@コンピュータミュージック」のサブテキストの 一部を兼ねていますので、このチュートリアルの内容に関連して、今後も変更の 可能性がありますので注意して下さい。常識ですが、全ての情報に関する著作権は 筆者にありますので、無断転載などはご遠慮下さい。


照岡さんの協力で製作した、初代のMiniBioMuseは、 こういう ものでした。中身の解説などについては、 ここら を参考にして下さい。
これが今回、照岡さんから届いたニューバージョンの 回路図 です [いつものテキストメイル回路図を、今回はちょっと 複雑なので、半日がかりでこういう図にしてみました]。 OPアンプを使わずに、FETをカスケード多段接続した もので、なかなかの力作です(^_^)。試作した照岡さんのレポート によると、筋肉のパルスのざわめき、呼吸や心拍の筋電まで聞こえる そうです。これは楽しみです。苦労して部品を入手し、 ようやく製作開始ということになりました。

ケースの穴あけ、とかの ここらの 話はここでは省略ですが、結果として、 こういうものになりました。 MIDIケーブルと同じ大きさのコネクタが出ていますから、ここから 大きさを推定して下さい(10cm * 6cm * 3cm)。 これは、帯電バンドから筋電パルスをp-pで5Vの差動出力にする フロントエンド回路部分のみですが、この大きさで2チャンネル分 を入れています。

内部回路ですが、1点アースなどのセオリーは省略して(^_^;)、極力、 小さく小さく、空中配線にて作りました。ハンダづけに慣れていない 初心者は真似しないようにしましょう。

内部写真集 :


この回路部分を製作したところで実験してみると、確かに前回よりも だいぶノイズが減りました。まだハムは少し残っているのですが、 筋肉の神経パルスの動きがより鮮明に出てきたような印象です。 このBoxは、2系統4本の帯電バンドへのケーブルを出したことで、 たとえば胸元のポケットに入れておいて、ピアニストの両腕に 左右それぞれ繋ぐ、という使い方を想定しています。右手と 左手の動きの違いがセンシングできれば面白いと思います。

これ は、左手と右手それぞれに、手首と数センチ離れた位置にそれぞれ 帯電バンドをはめて、実際に出てくる筋電ノイズをレコーディング した波形の例です。対応するサウンドは、 これ ですので、合わせて聞いてみて下さい。
録音のスタートから約10秒間は、左手(画面の上チャンネル)は リラックスして、右手にちょっと力を入れては脱力したものです。 10秒すぎから20秒すぎまでは、両手でそれぞれ、空中で鍵盤を 弾くような仕草をしてみました。 その後、両手でそれぞれ、力を入れたり抜いたりというのを繰り 返しています。自分でモニタしながらであれば、まさに自然な パルスですが、これだけ聞くと判らないかも。(^_^;)

そしてこれ は、左手と右手のそれぞれから、一方の電極プラグを反対の腕に移した ものです。対応するサウンドは、 これ ですので、合わせて聞いてみて下さい。
これはつまり、両方のチャンネルとも、ほぼ「右手の手首から左手の 手首までの筋肉の全パルス」をセンシングしていることになります。 センシングのラインがかなり伸びた(電極間の距離が相当に長い) ために、周囲のディジタルノイズを拾っていますが、周期的な 心臓の拍動がよく判ります。また、波のようなさざめきは、 呼吸による筋電パルス群です。 35秒から45秒あたりでは、意図的に呼吸を激しく繰り返して みました。また、1分過ぎから1分25秒あたりまでは、ボディビル の選手のように(^_^;)、胸と両腕の筋肉を緊張させています。 この結果、心臓の拍動が速くなったことも判ります。


フロントエンドのBoxからちょっと長めのケーブルで伸ばした マスターBoxは、 こう いう感じになりました。まぁ、いつものスタイルです。 この AKI-H8の基板と006Pの電池から、おおよそのサイズは判ると 思いますが、フロントエンドBoxより一回り、大きなもの です。これまでにもこのケースでいくつかセンサを作っています。

内部はいつもの通りですが、 この 部分は、フロントエンドからそのままアナログ出力として 筋電ノイズを出すルートなので、AKI-H8のディジタル系とは 一応、離しています。 また、 これ が、AKI-H8のA/Dコンバータに分岐して入力している部分 ですが、単に抵抗で中点電圧を作るだけ、という、考えられる もっともシンプルなものです。なんと今回のシステムでは、 OPアンプをただの1個も使っていないのです。(^_^;)

ちなみに、AKI-H8の部分の回路図はいつもの通りで、 これ だけです。 フロントエンド回路の出力(コンデンサで直流カットされている) の差動出力の一方をGNDに、そしてもう一方を+5VとGNDとの間に 入れた2本の100KΩで分圧した中点に接続して+2.5Vを 中心としてスイングするようにして、AKI-H8の アナログ入力に接続しているだけです。(^_^)

親子の二つのボックスを並べると、 この ように なりました。まずまず、というところでしょう。使い方と しては、フロントエンドBoxはPerformerの胸ポケット あたりに入れて、マスターBoxはちょっと離れたところに ころがしておく、という想定です。 2チャンネルの筋電センサでオーディオとMIDIが出力される ものとしては、おそらく世界最小・最軽量でしょう。(^_^)


AKI-H8のソースプログラムとしては、 この ようになりました。ちょっと現物合わせをしています ので、皆さん自分の製作したハードに合わせて修正して 下さい。(^_^;)
とりあえずこのプログラムをそのままAKI-H8に焼きたい場合 には、 この テキストファイルをROMライタからAKI-H8に送れば、 それで動作すると思います。

MIDI出力としては、いつものようにチャンネルプレッシャーの 15チャンネルと16チャンネルを使っています。 これは 両腕とも脱力している状態のMIDI出力、 これは 左手だけときどき力を入れた状態のMIDI出力、 これは 右手だけときどき力を入れた状態のMIDI出力、 これは 両手に力を入れた状態のMIDI出力です。

これだけでは、ほとんど筋電そのものと変わりませんが、 あとはMAXのパッチで、どのようにも料理できます。今回は、 このパルスを使って音楽系を私が作曲し、またCGは 中村文隆さんが制作しますので、ここであまり加工せず、 このセンサ出力をそのまま中村さんの方にも送って しまい、それぞれ独自にパターン認識しつつ料理する(^_^)、 というのもいいかな、と思っています。
このコラボレーション(長嶋+中村+照岡)作品は、 まず1999年10月16日に、京都で実験的作品として発表する 予定です。また、最終作品としては、1999年12月15日に、 神戸・ジーベックホールで初演する予定です。 皆さん、どうぞ御期待下さい。(^_^)