音楽/芸術表現のための新インターフェース

長嶋 洋一

要旨
コンピュータ音楽、インタラクティブ・メディアアート、メディア・インスタレーションなどに関して、「音楽/芸術表現のための新しいインターフェース」という視点からの報告を行った。具体的には、(1) これまでに開発研究してきたインターフェースの実例概要、(2) NIME(New Interface for MusicalExpression)という若い国際会議の活動経緯と事例紹介、(3) 2003年5月に研究発表と作品公演で参加したMontrealでのNIME03の参加報告、(4) 2004年6月にSUACで開催することになった国際会議NIME04とメディアアートフェスティバルMAF2004についての状況、などを紹介した。

New Interfaces for Musical Expression

Yoichi Nagashima

Abstract
This paper reports some activities in Media Art fields with the keywords "New Interfaces for Musical Expression". I report (1) Some results of my research and creation with new sensing systems, (2) About the new International Conference : NIME (New Interfaces for Musical Expression), (3) Report of the NIME03 held at McGill University in Montraeal Canada (May 2003) which I had my presentation and performance of my work, (4) NIME2004 and MAF2004 (Media Art Festival) which will be held at SUAC in June 2004. SUAC will be better known as the pioneer of this field with these activities.


1. はじめに

 コンピュータ音楽、インタラクティブ・メディアアート、メディア・インスタレーションなどに関して、「音楽/芸術表現のための新しいインターフェース」という視点から、(1) これまでに開発研究してきたインターフェースの実例概要、(2) NIME(New Interface for MusicalExpression)という若い国際会議の活動経緯と事例紹介、(3) 2003年5月に研究発表と作品公演で参加したMontrealでのNIME03の参加報告、(4) 2004年6月にSUACで開催することになった国際会議NIME04とメディアアートフェスティバルMAF2004についての状況、などを紹介する。

2. 新インターフェースの実例紹介

 まず、(1)のこれまで開発研究してきたインターフェースの実例のうち、筆者がこれまでに、SUAC紀要第1号「インタラクティブ・メディアアートのためのヒューマンインターフェース技術造形」[1]、第2号「SUACにおけるメディアアート活動の報告(2000-2001)」[2]、第3号「メディア・アートと生体コミュニケーション」[3]、において報告・紹介しているものについては本稿では省略するので、詳しくは参考文献[1-3]を参照されたい。また、筆者のComputer Musicに関する研究のうち「インターフェース」に関した代表的なものとしては、参考文献[4-13]を参照されたい。

 文献[4]にあるように、筆者はComputer Musicに関する研究成果、講演・公演の事例紹介、発表した文献や記事の原稿、開発したシステムの回路図やソースプログラム等を全てWebで公開している。この資料を頼りに自主制作した面識のない作家や学生からの問い合わせも少なくない。ここではこの中で、SUAC紀要[1-3]で紹介していない事例のいくつかを簡単に紹介する。詳細は個々のWeb解説ページを参照されたい。

 図1は、汎用の「アナログ-MIDI変換ボックス」として制作したインターフェースと、市販の「超音波距離センサキット」を改造して接続した、非接触タイプのインターフェース「距離計測センサシステム」の例である[14-15]。距離センサキットの出力はディジタル的にLED表示をするだけなので、アナログ電圧化した上で汎用のA/D入力信号として供給しただけであるが、後日、ギャラリーに展示し来場者に反応するインスタレーションの有効なセンサとして機能した。

図1 超音波距離センサシステム

 図2も、汎用のアナログ-MIDIコンバータとして製作した小型センサであり、実験用に4個のボリュームが付いている。新しいセンサデバイスに出会った際には、このボリュームの代わりに接続することで簡単に評価できるものである[16]。

図2 汎用アナログセンシングシステム

 図3は、フランス国立研究機関IRCAMで活動する作曲家から依頼されて製作したコントローラで、両腕に時計のようにベルトで取り付けて、ライブ音楽パフォーマンスの際に多様 なコンピュータ制御を容易に実現するマシンである[17]。

図3 リストコントローラシステム

 図4は、小型の「テルミン」型センサとして開発したモジュールである[18]。任意の電極を接続すると、非接触/軽微な接触の状態をセンシングしてMIDI化する。SUAC学生のインスタレーション作品(触れる造形)に利用した事例もある。

図4 小型テルミンセンサ

 図5は、ピッチtoMIDIコンバータ「聞き取りくん」である[19]。マイク/ライン入力(音声帯域)の基本周波数をリアルタイムにピッチ抽出し、さらに音楽的ピッチ(MIDIノートナンバ)に変換して出力する。実際に作品公演に利用した。

図5 「聞き取りくん」

 これらの例にように、新しいインターフェースを開発・制作することにより、新しい表現・関係性・パフォーマンスの可能性が拡大する。Computer Music研究の分野で歴史の長い国際学会 ICMA (International Computer Music Association) が1978年から毎年開催している国際会議 ICMC (International Computer Music Conference) では、伝統的にこのような「インターフェース/システム」のセッションが継続して、世界中で多くの研究者が日々、新しいインターフェースについて研究開発・実験・公演を続けている。筆者もICMC2000 (Berlin)において、このテーマでのWorkshopのOrganizeを依頼され、講師を担当して世界中の専門家と交流した[20]。

3. NIMEでの実例紹介

 国際会議 NIME(New Interfaces for Musical Expression)は、世界最大のコンピュータ国際学会 ACM(Association for Computing Machinery) がシアトルで開催したコンピュータ・ヒューマン・インターフェース国際会議 CHI2001の中の「新しい音楽インターフェース・デザイン」というワークショップ [21] としてスタートした若い国際会議である。これを発展した形で翌年にはアイルランドのダブリンにある欧州メディア研究所で国際会議「音楽/芸術表現のための新インターフェース」(NIME02) [22] を開催し、2003年5月にはカナダMontrealにあるMcGill大学を会場としてNIME03 [23] が開催された。

 NIME(発音は「ナイム」派と「ニーム」派に分かれる)は、コンピュータ音楽やテクノロジーアート(メディアアート)の領域で、(1)コンピュータ・エレクトロニクス・ソフトウェア技術(IT)、(2)システムと人間の掛け橋となるセンサやインターフェース、(3)人間の感性や表現などの芸術性、の三者の融合/展開をテーマとしている。筆者は2002年にNIME国際運営委員会からのNIME日本開催打診を受けて、関連する研究者・専門家によるNIME04実行委員会を組織し、世界中の研究者・専門家を日本に招いて国内の関係者との国際的文化交流・友好親善・研究交流に貢献するという視点から、NIMEの精神を引き継いで発展させると立候補し、MontrealでのNIME総会において承認された。本稿の後半ではこの件について報告紹介する。

 NIMEでは論文集Proceedingsに掲載された論文を、WebにてPDF形式で全て公開しており、会議直前から参照可能となっている。過去のNIMEの論文も文献[21-23]から入手できるが、ここではその中から、ビジュアル的に(造形作品としての意味)興味深いいくつかの実例を簡単に紹介する。

 図6は、"EViolin"という新楽器であり、バイオリンに似た弦を弓で弾く身体動作は、光背のようなアンテナによってさらに身体演奏情報としてセンシングされ、コンピュータに送られている。

図6 EViolin

 図7の"MATRIX"というインターフェースは、8*8=64本の棒(スライダーセンサに接続されている)を面状に配置して、それを押す手の平の状態をライブにセンシングするインターフェースである。

図7 MATRIX

 図8は、Sony CSL(Paris)のAtau Tanaka氏がNIME02コンサートで演奏している風景であるが、この鉢状の楽器はチベットの民族楽器そのもので、新インターフェースは本来であればその伝統楽器を演奏(縁を擦ることで発音)するスティックの方である。ここに仕込まれたジャイロセンサにより、演奏の回転角速度情報を検出し、コンピュータ音響生成システムのパラメータとして、筋電センサと共に音楽表現を拡大した。

図8 Atau Tanaka氏の公演風景

 図9は、各種のセンサを仕込んだスーツ(衣服)型のセンシングシステム "Vibrotactile Suit" のデモンストレーションの模様である。楽器というインターフェースを持って操作するだけでなく、身体動作そのものを検出して「楽器」としてしまう、という発想である。

図9  "Vibrotactile Suit"

4. NIME03参加報告

 筆者は2003年5月に開催されたNIME03に参加し、採択された研究発表とともに、採択された作品発表(コンサート公演)を行った。本報告ではコンサートのリハの合間に筆者が実際に聴講した発表を中心に、そのごく一部を紹介する。各論文はWeb公開版[23]を参照されたい。なお、本報告で省略した報告・写真等は筆者のWebに報告ページを用意した[24]ので参照されたい。図10は、NIME03の会場であるMcGill大学・音楽学部の「Pollackホール」の入口である。

図10 Pollack Hallの入口

4-1. 研究発表の概要(5/22)

 初日5/22午前の"Paper Session I"の1件目、Cormac Cannon, Stephen Hughes, Sile O'Modhrainによる "EpipE: Exploration of the Uilleann Pipes as a Potential Controller for Computer-Based Music" は、スコットランドの伝統楽器「バグパイプ」をセンサの塊のような新楽器として作り、さらにその音響合成についてもサンプリングされたサウンドなどでなく、きちんとダブルリードの物理モデル音源で生成していた。CPUはPICである。口頭発表セッションながら実演もしたのはNIMEらしい。

 次のセッション"Keynote I"では、MIT Media LabのJoe Paradiso氏による "Dual-Use Technologies for Electronic Music Controllers: A Personal Perspective" という招待講演であった。世界にアッと驚く新楽器を発表し続けるMIT Media Labの重鎮の、これまでの「こだわりの歴史」の披露で、次々と提示される「実際に制作してきたもの」の連続は圧巻であった。

 5/22の午後のペーパーセッションは会場を講義室に移して、午前(25分)に比べてやや短かめ(20分)の発表であった。まず "Report Session I"の1件目、Gary P. Scavoneによる "THE PIPE: Explorations with Breath Control" の発表は、ちょっと太めのパイプに圧力センサを仕込んでスイッチも並べた新インターフェースである(図11)。実際のデモの様子では、かなり「息」からサウンドまでのレスポンスが遅く、楽譜にある音符を演奏するというような用途ではなかった。この発表者はコンサートでも作品発表したが、作品のメインはノイズをブレスでコントロールしていて、楽器の特性と音楽は合致(楽器の弱点をカバーする音楽)していた。

図11 "THE PIPE"の発表風景

 "Report Session I"の2件目は、ベルリン工科大の学生Marije A.J. Baalmanによる "The STRIMIDILATOR, a String Controlled MIDI-Instrument" の発表である。彼女が木製のケースで持参した新楽器(図12)は、4本の弦の振動状態をセンシングするものである。

図12 "STRIMIDILATOR"の発表風景

 "Report Session I"の3件目、Scott Wilson, Michael Gurevich, Bill Verplank, Pascal Stangによる "Microcontrollers in Music HCI Instruction - Reflections on our Switch to the Atmel AVR Platform" の発表は、インターフェースのためのCPUの選択についての比較検討、という内容であった。具体的なセンサでなく、システムの中核となる汎用CPUのサーベイもNIMEのテーマであろうか。

 "Report Session I"の4件目、Tue Haste Andersenによる "Mixxx: Towards Novel DJ Interface" は、DJのためのミキサーというインターフェースについての研究であった(図13)。ICMCなど従来の研究では、対象として現代音楽のような難解なものが中心であったが、NIMEではその若さから、「DJやVJ」「テクノ」「ダンス」等のジャンルも積極的に扱っているようである。MIDIベースのセンサ部分は既製品にお任せ、出力部分の音響信号処理もサンプルプレイバック中心ということでやや物足りない印象はあったが、大学院生の自分の好きなテーマでの研究、という迫力は伝わってきた。

図13 "Mixxx"の発表風景

 初日5/22の "Report Session II"の3件目では、筆者が "Bio-Sensing Systems and Bio-Feedback Systems for Interactive Media Arts" を発表した(図14)。内容は既に国内で1年ぐらい前に発表したものである[25][26]。現物のセンサ"MiniBioMuse-III"はここでは持参せず、2日後のコンサートで実際に使用して演奏するのを見て、と紹介した。同様に研究発表と作品公演の両方が採択された研究者は3-4人いたようで、この結びつきはNIMEの活力の大きな特長であると言える。

図14 筆者の発表風景

 研究発表はICMCと違ってシングルトラックであり、同じく時間を区分して別の部屋ではポスターセッションが行われた。図15はその中でEric Singer, Kevin Larke, David Bianciardiにより" LEMUR GuitarBot: MIDI Robotic String Instrument" というタイトルでデモ展示を含めて発表されていたシステムで、コンピュータ音楽システムからの制御情報により、弦を押さえる部分がモーターで移動する、一種の自動演奏「ギターロボット」のようなシステムであった。これ自体は音楽において一種の発音体(楽器)として機能するが、発音する音響信号を音響センサでシステムに取り込んでフィードバック制御することにより、複雑な振る舞いを実現することができ、音楽表現の新しいインターフェースでもあった。

図15 Poster Sessionの発表風景

4-2. 研究発表の概要(5/23)

 2日目となった5/23の朝に会場に着くと、入口のロビーでプログラムにないゲリラ的なデモが行われていた(図16)。詳細は不明だが、開催地McGillの学生?が、採択されなかったグローブ型の新センサのデモを(許可を得て)独自に行っていたらしい。このあたりも、自由で若い国際会議・NIMEっぽいところであろう。

図16 ロビーでの自主デモ

 "Paper Session II"の1件目は、Ali Momeni, David Wesselによる "Characterizing and Controlling Musical Material Intuitively with Geometric Models" の発表であった。昨年Max/MSPの発展として発表されたJitterを使って、3次元空間で物理モデル音源による音響合成を可視化したものである。グラデーションでカラフルにモーフィングされたパラメータと、対応した音響のスムースな変化が良好なデモであった。NIMEというと何か新しいセンサ等のハードウェアが必要である、という誤解があるが、この研究は純然たるソフトウェア内でのものであり、いわば「テープ音楽の作曲を支援する作曲家インターフェース」であるが、これにより音楽的な表現が拡大される、という意味で十分にNIMEテーマなのである。

 2日目・5/23の午前の後半のセッションは"Keynote II"で、フランス・グルノーブルの"ACROE - ICAのClaude Cadoz"氏による "ACROE-ICA. Artistic Creation and Computer Interactive Multisensory Simulation Force Feedback Gesture Transducers" という招待講演であった。こちらは、いわばセンシングの対極にあるフォースフィードバックに対する「こだわりの歴史」の披露で、これも圧巻であった。

 午後のペーパーセッション"Report Session III"の1件目は、 Motohide Hatanaka氏による "Bento-Box: A Portable Ergonomic Musical Instrument" の発表であった。楽器として完成されているものでなく、話を聞いてみると機械工学の授業の課題として検討・試作したものをNIMEに出したら採択されたので発表に来た、というものであった(図17)。

図17 "Bento-Box"の発表風景

 "Report Session III"の2件目は、Hiroko Shiraiwa, Rodrigo Segnini, Vivian Wooによる "Sound Kitchen: Designing a Chemically Controlled Musical Performance" の発表であった。これは文字通り、キッチンで音楽を作ろうというものである。オレンジの果汁とか化学電池の化学反応からの各種情報をセンサで拾って、そのまま音響合成パラメータとして利用して音楽を「化学反応と同時進行」のライブで生成(ステージにはエプロンを着て登場)しよう、というアイデアには脱帽である。スタンフォードCCRMAでMax Mathews先生のゼミで一緒になった3人が共同で研究した「課題」だそうで、3人のうち2人が女性という学生チームが生き生きと研究発表する姿は小気味良いものであった(図18)。

図18 "Sound Kitchen"の発表風景

 5/23午後の後半"Report Session IV"の1件目は、David M Howard, Stuart Rimell, Andy D Huntによる "Force Feedback Gesture Controlled Physical Modelling Synthesis" の発表であった。フォースフィードバックの付いたジョイスティックで物理モデル音源による音響合成を制御する、というのはもはや古典的であるが、1次元の弦モデル、2次元のメッシュ面モデル、さらに3次元のメッシュ立体モデルなどを3次元空間内で自由に結合した系の全体を自由に制御してサウンドにする、というデモには圧倒された。(図19)。

図19 David M Howard氏の発表風景

4-3. コンサートの模様(5/23)

 筆者のWebには研究発表セッションに関する報告がもう少しあるが本稿では割愛して、2日目5/23のNIMEコンサートについて紹介する。NIMEではICMCのように、研究発表セッション(口頭発表、ポスター、デモ)とともに、作品公演というセッションにおいても公募・審査を行っている。特にライブパフォーマンス、それも出来ればNIMEらしく新しいインターフェースをそのまま活用した事例となるものを推奨する、というような雰囲気が強い。

 2夜にわたるコンサート初日の1曲目は、Andrew Brouse氏の作品"Conversation"で、ノイズシールドのための金網の籠の中には、脳波センサを付けた作曲家自身と、センサ電極を挿した鉢植えの植物が対峙していて、その「対話」ライブセンシング情報で音楽音響を生成する、というものであった。これが本当に対話だったのかどうかは、本人と植物自身しか判らない世界である(図20)。

図20 "Conversation"の公演風景

 2曲目は、研究発表でPIPEセンサを紹介したGary Scavone氏の作品"Pipe Dream"で、ライブでブレスコントロールしたノイズミュージックのような作品であった、

 3曲目は、Thomas Ciufo氏の作品"Eighth Nerve"で、プリピアード・ギターを使った即興的作品であった。

 4曲目は、Daniel Arfib, Loic Kessous, Jean-Michel Couturierkの3氏による4曲からなる組曲"Synthetic Entities"である。ジョイスティック、タプレット、グローブ型、などのセンサをインターフェースとして使ってインド風のメロディーを作っていたのが印象的であった。  この日のコンサートの最後、5曲目は、Perry Cook他多数からなるアンサンブルによる作品"Giga Pop Ritual"である。McGill大学のステージ上には4人のPerformerがいて、さらにステージ上のスクリーンには、プリンストン大学のスタジオにいる3人のPerformerのライブ映像が出ていて、向こうの3人のライブ演奏情報もインターネットで同時中継でMcGillに送られて全体として音楽演奏を実現する、というネットワークアンサンブルの作品であった(図21)。プリンストンのスタジオにも同様にMcGillのステージ映像が送られた。

図21 "Giga Pop Ritual"の公演風景

4-4. 研究発表の概要(5/24)

 3日目となる5/24の朝9時からの "Paper Session III"の1件目は、Lalya Gaye, Ramia Maze, Lars Erik Holmquistによる "Sonic City: The Urban Environment as a Musical Interface" の発表であった。元気のいい女性2人の掛け合いのこの発表(図22)は、各種センサをユビキタスのように身に付けた人間が、どこでもいいので街に出て歩く、そこで体験したライブ情報を動員して音楽をライブ生成する、というコンセプトで、これまた筆者には目から鱗の視点であった。サウンドスケープなどのデータを記録してあとで利用するのは過去にもあったが、ユビキタス・モバイルコンピュータの時代となり、センサからのライブ情報で「その場でPdにより音楽音響を生成する」、というのは素晴らしい発想である。(図23)。

図22 "Sonic City"の発表風景

図23 "Sonic City"のインターフェース

 "Paper Session III"の2件目、Michael J. Lyons, Michael Haehnel, Nobuji Tetsutaniによる "Designing, Playing, and Performing with a Vision-based Mouth Interface" の発表であった。これはとことん「口のコントロール」にこだわったセンサで、CCDカメラで人間の口元を撮影して画像認識から「口の開け方」を検出するというものである(図24)。

図24 "Mouthesizer"の発表風景

 "Paper Session III"の3件目は、"Donna Hewitt, Ian Stevenson"による "Emic - Extended Mic-stand Interface Controller" の発表である。この2人のコラボレーションは、女性はボーカルパフォーマンスとしてマイクを使う、男性はそのマイクをセンサとして開発する、という組み合わせの研究である。考えてみれば、マイクというのは、ボーカルPerformerからの働きかけとして、撫でたり投げたり回したり叩いたり踏んだり蹴ったり握りしめたりテレミンぽく揺すったり・・・・と色々とアクションを受けているので、それなら色々とセンサを仕込んだ特製マイク(スタンド)という「新楽器」を作ってしまおう、という事であった。スタンドの台座部分のフットスイッチとかマイク側面のタッチリボン、マイクスタンドの傾き検出のジャイロだけでなく、マイクの根元付近に左右方向の超音波センサを入れて、両手を広げて表現する歌手の動きを取る、というこだわりはさすがである(図25)。

図25 マイクスタンド型センサの発表風景

 コーヒーブレークのあとの午前中最後のセッションとして「NIME04」があった。筆者はNIME04のOrganizerということでステージの上に並ぶことになり、前夜にホテルで作った資料を提示して、「世界に誇る楽器の街、浜松でのNIME04にどうぞおいで下さい」とアピールした(図26)。

図26 セッション「NIME04」の風景

4-5. コンサートの模様(5/24)

 ここでは3日目5/24のNIMEコンサートについて紹介する。コンサート直前には、3件目の招待講演があった。STEIMのMichel Waisvisz氏の、気合いの入ったセンサ尽くしの人生の紹介とともに、冒頭も最後も、センサを見せつけた即興パフォーマンスで喝采を浴びた(図27)。

図27 Michel Waisvisz氏の公演風景

 コンサートの1曲目は、Sergi Jorda, Robin Davies氏の作品"untitled"で、研究発表でも紹介したFMOLによるフォースフィードバックインターフェースのパフォーマンスであった。

 2曲目は、John Young氏の作品"Ars Algorymica"で、アボリジニの民族音楽をベースにした作品である。鍛えた身体での循環奏法による民族楽器の熱演は好評であった(図28)。

図28 "Ars Algorymica"の公演風景

 3曲目は、Bob Gluck氏の作品"Zemirot Fantasy"で、タッチシートのセンサを貼付けたリュート様の楽器をインターフェースとして用いた作品の演奏であった。

 4曲目は、Donna Hewitt氏の作品"Dyphonia"で、センサてんこもりマイクを使った公演なので期待していたが、実際には過激なアクションとかがなくて、おそるおそるセンサを操作しているような感じが個人的にはやや残念であった。研究発表ではさんざん各種ボーカリストのマイクアクションを紹介していたこととのギャップがある意味で興味深かった。

 5曲目は、Joel Chadabe氏の作品"Applegate"である。リハの様子から、どうもPerformerの足下に置いた上向きスポットライトに照らされた手の動きをCCDから画像認識してセンサとして音響操作する作品らしかったが、実際の公演ではこのセンシング機構がうまく働かず、Performerは口パクならぬ手パクをしていた模様である。  6曲目は筆者の作品"Quebec Power"の世界初演であった。16チャンネル筋電センサ"MiniBioMuse-III"も活用した。昨年のMAF2002で公演した作品"Berlin Power"ではライブ音響処理システムにKymaを使用し、ライブグラフィクス制御にRoland DV-7PRを使用したが、いずれもカナダまで持参するのは非常に困難であるために、1台のチタニウムでMax/MSP/Jitterによりライブ音響処理もライブ映像生成も実現した。DSP使用率は経験則の限界値に近い28%となかなか綱渡りであった。図29はそのリハの模様である。

図29 "Quebec Power"のリハーサル風景

5. NIME04に向けて

 このNIME03の成功を受けて、来年2004年6月3日(木)-5日(土)に、静岡文化芸術大学(SUAC)を会場として、国際会議「音楽/芸術表現のための新インターフェース」(NIME04) を開催する(本来、NIME(New Interfaces for Musical Expression)を直訳すると 「音楽的表現のための新インターフェース」となるが、今回はNIME運営委員会の了承のもと、日本語においては「音楽/芸術表現」と記した。その理由は二つあり、一つはこの"Musical Expression"というのは「音楽における芸術的な表現」という意味であり、単なる音楽表情記号の解釈という意味の「音楽的表現」という訳では不備であること、もう一つはNIMEの対象領域は音楽だけに限定されず、ダンス、インスタレーション、映像、エンターティメント(機器、ソフトウェア、ゲーム)などに渡っているために、NIMEの趣旨からは「音楽/芸術(的)表現」という訳がより妥当であるからである)。図30はICMC2003会場でも配付した海外向けNIME04暫定チラシ、図31は国内学会で2003年後半に配付した日本語版NIME04暫定チラシである。

図30 海外向けNIME04暫定チラシ

図31 日本語版NIME04暫定チラシ

 NIME04の開催にあたっては、開催地である静岡文化芸術大学(SUAC)がこの分野において過去に連続して開催してきた「メディアアートフェスティバル(MAF)」も、2004年には関連イベントとしてNIME04の期間にMAF2004を開催し、来日する世界中の専門家との交流・ワークショップ・コラボレーション等を企画している。MAF2004とともにNIME04の展示やコンサートについては広く一般に開放し、科学技術と芸術と人間の感性の融合したこの新しい学際領域を紹介する。 NIME04は非営利の学術会議であり、ISBNを付して出版する論文集Proceedingsの刊行を含めて、開催経費は会議参加者の参加費、研究/芸術振興財団等からの助成金、および協賛企業からの助成(寄付)等により運営する。海外からの参加者は、過去のICMC93とNIME03から推定して、50人から100人程度、そして国内からの参加者を150人から200人程度と想定している。

 後援としては、外務省(※)、文化庁(※)、静岡県/浜松市/静岡県教育委員会/浜松市教育委員会(※)、静岡大学(情報学部)、情報処理学会(※)、電子情報通信学会、芸術科学会、日本コンピュータ音楽協会、日本音楽知覚認知学会、情報処理学会音楽情報科学研究会、浜松アクトシティ財団、国際交流基金を既に得ている(※印は2003年10月16日現在、手続中)。また、各種助成財団および企業に支援を申請中である。

 以下が2003年10月16日現在での「NIME04実行委員会」の役員名簿である。

  組織委員会 Local Organizing Committee
          * Yoichi Nagashima, ASL/SUAC - conference chair
          * Yasuo Ito, SUAC
          * Chikako Ooyama, SUAC
          * Yuji Furuta, SUAC
          * Kiyonori Sato, SUAC
          * Yoichi Takebayashi, Shizuoka University
          * Shigeyoshi Kitazawa, Shizuoka University
          * Yukio Umetani, Shizuoka University
          * Fumitaka Nakamura, University os Tokyo
          * Michael J. Lyons, ATR
          * Ivan Poupyrev, Sony CSL
          * Yumiko Takahashi, HMACS
          * Emi Kawamura, HMACS

   論文委員会 Papers Committe
          * Michael J. Lyons, ATR MIS Labs, Kyoto Japan - coordinator
          * Ivan Poupyrev, Sony/CSL Tokyo
          * Haruhiro Katayose, Kwansei Gakuin University/PRESTO, JST
          * Kia Ng, Leeds

   音楽委員会 Artistic Committee
          * Atau Tanaka, Sony/CSL Paris - coordinator
          * Teresa Marrin Nakra, Immersion Music
          * Butch Rovan, University of North Texas
          * Todd Winkler, Brown University

   NIME運営委員会 Steering Committee
          * Tina Blaine (Bean), CMU, Pittsburgh PA
          * Sidney Fels, UBC, Vancouver
          * Michael J. Lyons, ATR MIS Labs, Kyoto Japan
          * Sile O'Modhrain, Media Lab Europe, Dublin
          * Joe Paradiso - MIT MediaLab, Cambridge, MA
          * Ivan Poupyrev, Sony/CSL Tokyo
          * Atau Tanaka, Sony/CSL Paris
          * Marcelo M. Wanderley - McGill University

   論文査読委員会 Program Committee (paper reviewers)
          * Daniel Arfib, CNRS, Marseille
          * Curtis Bahn, Rensselare
          * Tine Blaine (Bean), CMU
          * Bert Bongers, Metronom
          * Richard Boulanger, Berklee School of Music
          * Bill Buxton, Alias Wavefront
          * Antonio Camurri, Genoa
          * Perry Cook, Princeton
          * Gideon D'Arcangelo, NYU
          * Stuart Favilla, Australia
          * Sid Fels, UBC
          * Suguru Goto, IRCAM, Paris
          * Tomie Hahn, Tufts
          * Andy Hunt
          * Sergi Jorda, Bareclona
          * Michael Lyons, ATR
          * Jonatas Manzolli, UNICAMP, Brazil
          * Max Matthews, CCRMA
          * Tereas Marrin Nakra, Boston
          * Axel Mulder, Infusion
          * Sile O'Modhran, MLE, Dublin
          * Kia Ng, Leeds
          * Nicola Orio, Padova
          * Joe Paradiso, MIT
          * Ivan Poupyrev, Sony CSL
          * Andrew Schloss, UVIC
          * Laetitia Sonami, Oakland
          * Atau Tanaka, Sony CSL
          * Bill Verplank, CCRMA
          * Marcelo Wanderley, McGill
          * David Wessel, Berkeley
          * Kenji Mase, Nagoya/ATR
          * Kazushi Nishimoto, JAIST/ATR
          * Hideyuki Sawada, Kagawa University
          * Rumi Hiraga, Bunkyo University
          * Haruhiro Katayose, Kwansei Gakuin University/PRESTO, JST
          * Takayuki Rai, Kunitachi College of Music
          * Naoki Saiwaki, Nara Women's University
          * Yutaka Sakane, Shizuoka University
          * Yoichi Nagashima, ASL/SUAC

   事務局 secretariat
          * Yoichi Nagashima, ASL/SUAC
          * Yumiko Takahashi, HMACS
          * Emi Kawamura, HMACS
          * Masumi Kawasaki, HMACS
          * Naoki Takahashi, HMACS
          * Eri Fukuda, HMACS
          * Syojun Miyoshi, HMACS
          * Ayumi Saguchi, HMACS
          * Yutaka Kato, HMACS
          * Atsushi Hoshiai, HMACS
          * Akane Iyatomi, HMACS
          * Masatoshi Oka, HMACS
 以下が、NIME04の会議スケジュールである。
2004年6月3日(木)
	08:00-09:00	Registration
	09:00-11:50	Paper Session [1]
	13:00-14:30	Poster/Demo [1]
	14:30-17:30	Paper Session [2]
	18:00-20:00	Keynote / Welcome Event

2004年6月4日(金)
	08:40-09:00	Registration
	09:00-11:50	Paper Session [3]
	13:00-14:30	Poster/Demo [2]
	14:30-17:30	Paper Session [4]
	19:00-21:00	Concert [1]

2004年6月5日(土)
	08:40-09:00	Registration
	09:00-11:50	Paper Session [5]
	13:00-14:30	Poster/Demo [3]
	14:30-17:30	Paper Session [6]
	18:00-20:00	Concert [2]
 以下は、NIME04のWebサイト(http://nime.org)で公開中した「研究発表/デモ/作品/展示の募集」要項(Topics)である。
Papers :
We invite the submission of research papers, reports, and posters on topics related to 
new musical controllers including, but not restricted to:
    * Design reports on novel controllers and interfaces for musical expression
    * Surveys of past work and/or stimulating ideas for future research
    * Performance experience reports on live performance and composition using novel controllers
    * Controllers for virtuosic performers, novices, education and entertainment
    * Perceptual & cognitive issues in the design of musical controllers
    * Music and motion and/or music and emotion
    * Movement, visual and physical expression with sonic expressivity
    * Musical mapping algorithms and intelligent controllers
    * Novel controllers for collaborative performance
    * Interface protocols (e.g. MIDI) and alternative controllers
    * Artistic, cultural, and social impact of new performance interfaces
    * Real-time gestural control in musical performance
    * Mapping strategies and their influence on digital musical instrument design
    * Sensor and actuator technologies for musical applications
    * Haptic and force feedback devices for musical control
    * Real-time software tools and interactive systems
    * Pedagogical applications of new interfaces - Courses and curricula
    * Performance rendering system (RENCON)
    * Evaluation criteria for evaluating rendered music (RENCON)

Demos :
We encourage the submission of demos, either as part of papers and reports or as standalone contributions.

Performances :
We encourage artists, performers and conference presenters to submit proposals for performances 
and live demonstrations that employ new musical controllers, novel interface concepts, and/or 
new mapping systems that can be featured in the concert events.

Industrial Demos :
We invite industrial vendors to show products relating to new musical interfaces. 
 なおNIME04の基調講演には、世界的に有名な「ムーグシンセサイザー」の生みの親である、R.Moog博士、そして世界を舞台に活躍するメディアアーティストの岩井俊雄氏をともに招聘する予定である。また、関連イベントとして、ヤマハ、ローランド、カワイなどの工場・研究所バスツアー(海外研究者中心、業界関係者以外)、DJ/VJライブなどの企画も検討中である(全て本稿執筆時点 : 2003年10月現在)。

 NIME04の発表募集の締め切りは2004年1月末である。NIME03に続いてシンガポール国立大学でのICMC2003にも参加したことで分かったのは、ICMCも若いがNIMEはさらに若い、という点である。「音楽/芸術表現のための新インターフェース」というのは一つの切り口であり、NIME04では関連する重要な音楽情報科学研究のテーマであるRENCONと組んだ関連企画も検討中である。詳しくは蓮根WGのページ[27]を参照されたい。多くの研究者、音楽家、愛好家、などの積極的な参加を期待するとともに、交流により有意義な国際会議とするために全力で取り組みたい。全面協力いただく音楽情報科学研究会とともに、関係する皆様の協力を期待している。

7. おわりに

 国際会議NIMEを軸として、メディア・アート、音楽/芸術表現のためのインターフェースなどについて報告した。NIME04、MAF2004などにより、この新しい領域での今後の本学の活動がいっそう期待されるようになってきた意義は大きいと考える。これをチャンスとして、自由な発想と意欲的なテーマを念頭に、才能ある本学の学生や教員とのコラボレーションにより、新しい研究・創作に挑戦していきたい。

参考文献

[1] 長嶋洋一 : インタラクティブ・メディアアートのためのヒューマンインターフェース技術造形 ; 静岡文化芸術大学紀要第1号, 
	静岡文化芸術大学, pp.107-121, (2001)
[2] 長嶋洋一 : SUACにおけるメディアアート活動の報告(2000-2001)  ; 静岡文化芸術大学紀要第2号, 静岡文化芸術大学, pp.137-150, (2002)
[3] 長嶋洋一 : メディア・アートと生体コミュニケーシション ; 静岡文化芸術大学紀要第2号, 静岡文化芸術大学, pp.107-122, (2003)
[4] http://nagasm.org/
[5] http://nagasm.org/1106/
[6] http://nagasm.org/vpp/
[7] 長嶋洋一 : 「コンピュータサウンドの世界」、CQ出版、1999年
[8] 長嶋洋一 : 「作るサウンドエレクトロニクス」、ASL出版、1999年
[9] 長嶋洋一 : 身体情報と生理情報 ; コンピュータと音楽の世界, 共立出版, pp.342-356, (1998)
[10] Yoichi Nagashima : Real-Time Interactive Performance with Computer Graphics and Computer Music ; 
	Proceedings of the 7th IFAC/IFIP/IFORS/IEA Symposium on Analysis, Design, and Evaluation of Man-Machina Systems, IFAC, pp.83-88, (1998)
[11] Yoichi Nagashima : BioSensorFusion:New Interfaces for Interactive Multimedia Art ; 
	Proceedings of 1998 International Computer Music Conference, ICMA, pp.83-88, (1998)
[12] Yoichi Nagashima : "It's SHO time" --- An Interactive Environment for SHO(Sheng) Performance ; 
	Proceedings of 1999 International Computer Music Conference, ICMA, pp.32-35, (1999)
[13] 長嶋洋一, 赤松正行, 照岡正樹 : 電気刺激フィードバック装置の開発と音楽パフォーマンスへの応用 ; 情報処理学会研究報告 Vol.2002,No.40, 
	情報処理学会, pp.27-32, (2002)
[14] http://nagasm.org/SSS/step004/index.html
[15] http://nagasm.org/SSS/step009/index.html
[16] http://nagasm.org/ASL/original/index.html
[17] http://nagasm.org/ASL/midi02/index.html
[18] http://nagasm.org/ASL/nadenade/index.html
[19] http://nagasm.org/ASL/kikitori/index.html
[20] http://nagasm.org/ASL/workshop/icmc2000/index.html
[21] http://www.csl.sony.co.jp/person/poup/research/chi2000wshp/
[22] http://www.mle.ie/nime/
[23] http://www.music.mcgill.ca/musictech/nime/
[24] http://nagasm.org/NIME/report03/index.html
[25] 長嶋洋一 : 新・筋電センサ"MiniBioMuse-III"とその情報処理 ; 情報処理学会研究報告 Vol.2001,No.82, 情報処理学会, pp.1-8, (2001)
[26] 長嶋洋一 : 生体センサとMax4/MSP2による事例報告 ; 情報処理学会研究報告 Vol.2002,No.14, 情報処理学会, pp.59-64, (2002)
[27] http://shouchan.ei.tuat.ac.jp/~rencon/index-j.shtml

PDF版