実録・笙ブレスセンサを作る(^_^)

2000年3月 長嶋洋一


笙奏者/作曲家の東野珠実さんのための笙ブレスセンサのワイヤレス版を 作りました。ここでは、実際の製作の模様を実況します。参考にして下さい。

笙の場合には、息を吹き込む方向と、息を吸う方向と、両方で鳴りますので、 ブレスセンサとしては両方向のセンシングが必須です。 そこで便利なのが、 この 秋月電子の「気圧センサ」モジュールです。 これはどうやら、エアコンに内蔵されている気圧センシングのモジュール のようで、 基板裏面 にあるOKIの1チップマイコンが管理しているのですが、秋月電子では、 このマイコンの部分は無視して(^_^;)、マイコンのA/D入力に 行っている電圧だけを取り出すためにこのキットを売っています。

これ がその心臓部、フジクラの半導体気圧センサです。 半導体チップ上にブリッジ抵抗を構成して、圧力によるチップの変形を検出するものです。 この基板はかなり小型のものですが、そのまま笙に取り付けるのは無理なので、 こうして 基板からセンサを取り外します。オフセット調整用に、1Kのトリマも一つだけ取ります。 センサ部分で使う主な部品は、 この 三つです。基板から取り外した圧力センサ、1Kのポテンショントリマ、そして OPアンプとして324です。基板上の324はミニフラットで加工しにくい ので、通常のDIPを使います。真空管時代のラグ板の感覚でこれを使います。(^_^;)

これ が、センシング部分の回路図です。秋月のセンサモジュールキットに附属している 回路図とまったく同じものです。ただし、超小型空中配線をしていくので、こうやって 回路図を用意して、配線した部分をマーカーペンでなぞって確認していきます。 場当たり製作の定番手法です。(^_^;)
どのくらい場当たりかというと、まず こうして 圧力センサとOPアンプとを、両面テープで背中合わせに貼ります(^_^;)。 あとは、基板も何もなく、基本的には配線の「足」としてこの両者のリード だけを使って空中配線していくのです。 素人さんは真似いないで下さい。(^_^;)

超小型空中配線といっても、電源には定石のパスコンを このように ちゃんと付けます。324は単電源ですので一つです。電源端子の左右が、 ディジタルICとは反対なので注意しましょう。
スズメッキ線も有効活用して、 このように 配線していきます。基本的に、抵抗のリードだけで、ビニール線など は使わないぐらいまで高密度にします。それにより、完成すると どこも動くところがないので、ハードな使用に対してもけっこう頑丈な センサとなります。(^_^)

あとは、ひたすら回路図とにらめっこで、 この ように 配線していきます。作った本人でも、あとで修正はほぼ不可能(^_^;)ですので、 気合いを入れて集中して作ります。失敗したら、最初からやり直しの方が 早くて確実です。
やがて、 この ように センサ部分の配線が終了します。
これをまず絶縁のためにビニテで巻き、さらにGNDとつないでスリーエムの 銅箔テープで巻いてノイズ対策して、さらに外側をビニテで巻くと、 この ように センサ部分が完成します。(^_^)

ここで、電源を与えて、ポテンションを回してオフセットを調整すると、 圧力情報としては0V-4Vの範囲でプラスマイナスが程良く出てくれました。 ワイヤードのセンサでは、これをAKI-H8のA/D入力に与えれば、それで センサ-MIDIシステムは完成するのですが、ここではワイヤレスですので、 もう1ステップが必要となります。


センサの部分はケーブルで電源と信号を延長して、 このように コネクタにします。MIDIと間違わないように、4ピンのDINとしてあります。
ところで、ここから先については、実は既に完成しているものに 取り付ける、ということになりました。というのも、以前に キーエンスの気圧センサで笙ブレスセンサのワイヤレス版を 作っていたのですが、残念ながらこれは工業用で圧力レンジが 大きいところ用で、笙の繊細なブレスはあまり検出できなかった のです。そこで今回は、センサの部分だけ秋月のワイヤード版と 同じものに「すげ替え」の製作だったのです。
そこで、ワイヤレス送信用モジュールとてしは、既に このような ものが完成していました。信号としては、笙の内部に置く小型の プッシュスイッチとセンサとで このように ケーブルとコネクタも付いています。細いリード線はアンテナです。

ワイヤレスのモジュールとしては、トラ技にも広告の載っている 「ナビ・システム」というところの このような ものをそのまま使います。これは、アナログ2チャンネルとディジタル 16チャンネルの情報を内部的にエンコードして送信し、受信側では デコード結果が電圧とディジタル信号として出る、という超お手軽な ものです。応答速度に限界がありますが、笙ブレスのように 比較的ゆっくりと変動する情報にはうってつけなのです。(^_^)
これ が、送信モジュールの内部です。 キーエンスの圧力センサのデータ変換ブロックと、そのためのDC-DC コンバータがあったのを取り去っただけなので、スカスカになりました。
単3電池が4本並んだ上に、 このように ワイヤレス送信機基板をプチプチマットのクッション材でくるんで そのまま入れてパチンと蓋を閉めると、それだけで固定されます。 このアバウトさが、システムのロバストさとなるのです。(^_^;)

ということで、既に完成していた旧版のワイヤレス受信モジュールが これ です。周波数はピッタリは合っていないのですが、アンテナが 付いて、それっぽく(^_^;)なっています。
パネルの出力は このように MIDIだけです。スイッチとブレスの情報は全てMIDIとなり、MAXなどで 処理するというわけです。 実際には今回は、東野さんのリクエストで、SymbolicSoundのKurtと やりとりして、「Kymaの制御のためのアナログ出力」というのも 増設する予定です。これは、MIDIのブレス量と比例したアナログ電圧 を振幅とする、約1KHzの矩形波をオーディオ信号として出力する もので、Kymaのエンベロープフォロワ機能によって、MIDIとは 別のルートでも制御情報を得る、という作戦です。(^_^)

ケースの中身は この ように いつもの風景です。電源は今回は「ゴリラ」です。
ワイヤレスの受信部分の基板は送信側より大きくて、実は このように 全体が2階だてになっていて、その1階部分が受信基板です。 このアナログ出力をAKI-H8のA/Dに入れて、ディジタル出力を AKI-H8のポートにつないでいるだけです。 このようなワイヤレスモジュールを使うと、ほとんどシステム が簡単に空間的に分離できていいのですが、スピードとかは かなり制約があり、この上のランクのスピードのワイヤレスと なると、コストが一桁上がって、軽く10万を越えてしまいます。
内部配線は このように いつものような空中配線ですが、動作は確かです。(^_^)

...ということで、ここから先は、まだ先に東野さんに送ったセンサの感度の チェックの連絡を待っているところなので、ストップです。もっとも、 あとはAKI-H8のD/A出力ポートからOPアンプ1個でKyma用信号を出す だけで、AKI-H8のソフトも既に完成しているので(テーブルのパラメータ だけ微調整)、東野さんのメイルをもらえば1-2時間の作業というわけです。 このセンサは、2000-2001年の東野さん作品のプロジェクトで活躍する ことでしょう。(^_^)