\documentstyle[a4j,ascmac]{jarticle} \pagestyle{plain} \setlength{\oddsidemargin}{18mm} \setlength{\evensidemargin}{18mm} \setlength{\topmargin}{0pt} \setlength{\headheight}{0pt} \setlength{\headsep}{0pt} \setlength{\topskip}{0pt} \setlength{\footskip}{8mm} \setlength{\textheight}{248mm} \setlength{\textwidth}{163mm} \setlength{\unitlength}{0.2500mm} \begin{document} \sf \begin{center} {\Huge {\bf マルチメディアComputer Music作品} \\[1mm]} {\Huge {\bf の実例報告} \\[10mm]} {\LARGE {\bf 長嶋 洋一 } \\[6mm]} \end{center} \paragraph{} Computer Musicのマルチメディア・パフォーマンス作品として、1993年から1994年に かけて実験的に作曲された2つの作品について、理論的考察、音楽的コンセプト、 作品創造の過程等について報告する。第一の作品は、ICMC1993の関連イベントである 「芸術と知識工学に関する国際ワークショップ」と「神戸国際現代音楽祭'93」で 発表された``CIS (Chaotic Interaction Show)''であり、第二の作品は音楽情報科学 研究会と共に開催の「眼と耳の対位法」で発表された``Muromachi''である。 いずれの作品も「Computer Music:長嶋洋一、Computer Graphics:由良泰人」と いう、音楽と映像のコラボレーションとして実現されたリアルタイム・インタラク ティブな構成をもつが、パフォーマーによる進行の駆動形態はまったく逆のコンセプト をとった。また音楽の部分では、カオス理論を適用したアルゴリズム作曲の手法 を用いて、演奏のたびに異なる音楽となるように作曲されている。 \paragraph{} \paragraph{} \begin{center} {\Huge {\bf Report of the experimental compositions} \\[1mm]} {\Huge {\bf with Multi Media} \\[10mm]} {\LARGE {\bf Yoichi Nagashima \\[5mm]}} \end{center} \paragraph{} This paper describes two experimental compositions of computer music with multi media technology. One is ``CIS (Chaotic Interaction Show)'' which is performed at IAKTA (International Association for Knowledge Technology in the Art) Workshop and Kobe International Modern Music Festival '93, and the other is ``Muromachi'' which is performed at ``Kontrapunkt fur Augen und Ohren'' in Kyoto. Both compositions are produced by Yoichi Nagashima (Computer Music) and Yasuto Yura (Computer Graphics), and are performed interactively in real-time. The music is composed with chaotic concept and algorithmic composition technique. \newpage \subsubsection*{1. はじめに} 「統合的なComputer音楽環境」として1991年より開始した``PEGASUS Project'' (Performing Environment of Granulation, Automata, Succession, and Unified-Synchronism)では、従来からComputer Musicの分野で研究されている 情報処理モデルに関する幾つかの視点、すなわち自動作曲・ Granular Synthesis [1]・フラクタル/ カオス [2]・時間的な統合・音楽的構造の 継承・インタラクティブ演奏環境 [3]などの要素技術を 順に研究し、ボトムアップ的な構築を目指している。 またComputer Musicの研究においては、理論やシステムの構築だけでなく、 実際に音楽作品の場で実現・検証していくアプローチも重要であり、研究内容を 適用した具体的な作曲・発表活動も並行して行っている。 本稿では、Computer Musicのマルチメディア・パフォーマンス作品として、1993年 から1994年にかけて実験的に作曲された2つの作品について、理論的考察、音楽的 コンセプト、システム構成、作品創造の状況等について報告する。 この両作品は、「音楽:長嶋 + 映像:由良」というコラボレーション により実現されたリアルタイム・インタラクティブ作品であり、パフォーマー がライブ演奏によって音楽と映像を駆動すること、カオス理論を適用したアルゴリズム 作曲の手法によって演奏のたびに異なる音楽となるように作曲されている、等の 特徴を持っている。 \subsubsection*{2. ``CIS (Chaotic Interaction Show)''} \paragraph{作品コンセプト} マルチメディア・インタラクティブ性を意識したコンセプトとしては、ステージ上の 打楽器奏者(花石真人)と指揮者(長嶋)が、ドラムパッドとパワーグローブによる 「演奏」で音楽を駆動し、同時に駆動されてスクリーンに投射される Computer Graphicsを見ることで即興していく、というリアルタイム性にある。 このため、音楽の進行の一部は完全にパフォーマーに委ねられて静止(待機)したり、 カオス生成系によって生み出される背景音楽とCGによるBGVの部分は演奏のたびに 少しずつ異なった様相を生み出すようにして、「シーケンスデータに合わせるだけの カラオケ演奏」とは異なる自由な展開を目指した。 また、ドラムパッド演奏によってトリガされて生成されるCGにおいても、画像に ランダム性をもたせて独奏者の即興(次に出る「絵」への期待)を誘引した。 \paragraph{システム構成} システムは Fig.1 のような構成であり、ここでは2台のAMIGAコンピュータによる CG系は完全に音楽系に対してスレーブ動作を行っている。 音楽と映像に関するすべてのリアルタイム情報はMIDI信号として与えられ、 特別に定義されたプロトコルのMIDIを使用している。 打楽器奏者はドラムパッドを、指揮者はパッドとジョイスティック コントローラとワイヤレスパワーグローブを担当し、足元のビデオモニタで スクリーンのCGと同じ映像を見ながら、さらに音響を聴きながら即興演奏を行った。 2台のノートパソコンのうちの1台は、作品の一部であるオリジナルのソフトウェア が走り、もう1台は通常のMIDIシーケンサによって、BGM部分の演奏情報とシステム パラメータが与えられる。ただしBGM部分の情報はごくわずかであり、大部分の音楽 要素(音列・リズム等)はステージ上でリアルタイムに生成(作曲)された。 音源群は通常のPCM音源・DCF音源に加えて、作曲者の製作によるオリジナル音源と して、Granular Synthesis音源とSinusoid音源がそれぞれ2台ずつ使用された。 CG系も同じようにMIDI情報によってコントロールされ、2台のAMIGAコンピュータが 2種類のソフトウェア(``Performer'':トリガCG、``Bars \& Pipes'':背景CG)を 使用した。 Fig.2 は、この作品のコントロールメッセージを示したフロー図である。 打楽器奏者の演奏するドラムパッドに内蔵されている音源は使用せず、 全ての情報はMIDI化されてシステムに取り込まれ、パーカッション音として アサインされる場合でも、オリジナルソフトウェアによって刻々と音色の 割当を変更した。 \subsubsection*{3. ``Muromachi''} \paragraph{作品コンセプト} 長嶋+由良のコラボレーション第2弾として、前作では長嶋が全体をリードしたのに 対して、この作品ではネーミングを含めて由良による全体構成を中心とした。 具体的には、ステージ上のパフォーマー(八幡恵美子)が由良のオリジナルCG ソフトによって自由に「お絵描き」をすることが、同時に音響と音楽を駆動する、 という前作と正反対の流れのパフォーマンスを採用した。 また、作品の全体を3つのブロックで構成し、パフォーマーがその気になった時に 「画面イレース」コマンドを発行すると次のブロックに進むシナリオとしたため、 原理的には3度目の画面イレースを行わない限り、永遠に終わらない音楽となる。 実際にリハーサルの段階でも全曲のDurationは約15分から約30分まで自在に変化し、 本番が何分で終了するかは誰にもわからない上演となった。 \paragraph{システム構成} システムは Fig.3 のような構成であり、AMIGAコンピュータ上のオリジナルCGソフト によって、パフォーマーはペンシル型のマウスでアクリル板に「お絵描き」する。 音楽系はCG系に対してスレーブ動作を行うが、作品の冒頭のスタートだけは、 パフォーマー自身がMacのボタンクリックで行った。 なお、Fig.4 は由良と長嶋のインターフェースのために制作されたシステム情報の チャート、Fig.5 は長嶋が作曲に用いた楽譜シート原稿の1ページである。 4台のノートパソコンのうちの1台では``CIS''で使用したカオス生成ソフトを 再び走らせ、あとは``MAX''の走る2台のMacと``Performer''の走る1台のMacを 使用したが、シーケンスデータは刻々と変更されるために、「全体を統括するBGM」 は存在していない。 音源としては``CIS''での音源に3台のPCM音源(合計発音数64)を加えて、頻繁なCGの 描画に対して音抜けすることを避ける構成とした。 なお、画面と音源の発音の対応としては、左右方向がMIDIノートナンバ、上下方向 をMIDIベロシティとするとともに、音源パラメータとして物理的音量を一定にして MIDIベロシティが音色(フィルタのカットオフ周波数)に対応するようにした。 \subsubsection*{4. 音楽的コンセプト} 両作品に共通した音楽的なコンセプトは、「Tonalityのメタモルフォーゼ」である。 Fig.6 に示したオリジナルのChaos Generatorソフトウェア(実際には同時に 8系列が独立に動作する)が生成する音楽要素は、MIDIノートナンバによって12等分 平均律の体系に取り込まれており、ここでは音程出現確率を刻々と変化させることで、 スケールがもたらすTonalityがいくつかのブロック間でなめらかに変化していく。 この変化は背景CGの変化ともリンクしており、``CIS''においては音楽は局所的には Whole Tone Scale、琉球音階、Diatonic Scale、Pentatonic Scale、12音音階、など に対応したTonalityを持ちながら、次第に次のTonalityへと推移した。 また``Muromachi''においては、``Kyoto''・``Okinawa''・``Tokyo''と名付けられた 3つの描画モードに対応したTonalityを使用した。 そしてもう一つの共通な音楽的コンセプトは「リズムのメタモルフォーゼ」である。 ``CIS''の中間部では、具体的に打楽器音色の背景音楽がChaosの周期的出力によって 生成され、指揮者のセンサーパッドからのトリガで5beat・6beat・7beat・8beat・ 9beatなどの拍子の変化を受けながら、さらになめらかに加速していくことで パーカッション奏者を挑発した。 また``Muromachi''においては、全体としてある種の和声を構成する各パートの 持続音が交互に繰り返されるリズムが、刻々と変わる非常に長い周期を公倍数に持つ ように作曲され、一定のビートやリズム構造を知覚しにくいように作曲した。 \subsubsection*{5. おわりに} Computer Music研究に関連した作曲活動について報告した。 PEGASUS Project はまだ始まったばかりの長期テーマであり、いろいろな要素の中 にはアイデアだけ・構想だけの領域もある。 今後もステップを追って理解を進めていくとともに、作品の形で実際に 具体化するアプローチを続けていきたい。 \subsubsection*{参考文献} {\footnotesize {\bf [1] Y.Nagashima : Real-time Control System for ``Psuedo Granulation''. Proceedings of ICMC, pp.404--405, 1992. [2] Y.Nagashima, Haruhiro Katayose, Seiji Inokuchi : PEGASUS-2 : Real-Time Composing Environment with Chaotic Interaction Model. Proceedings of ICMC, pp.378--380, 1993. [3] 長嶋洋一 : Chaos理論とComputer Music. 京都芸術短期大学紀要[瓜生]第16号1993年, pp.28--44, 1994. } } \end{document}