\documentstyle[a4j,ascmac]{jarticle} \pagestyle{empty} \setlength{\textheight}{246mm} \setlength{\textwidth}{170mm} \begin{document} \sf \begin{center} {\huge {\bf Interactive Computer Musicのための} \\[1mm]} {\huge {\bf 生体センサ等を応用した「新楽器」について} \\[6mm]} \end{center} \subsection*{1. はじめに} コンピュータ音楽のパフォーマンスに不可欠なマンマシン・インター フェースである「新楽器」について、いくつかの新しい実験と実例を 紹介しつつその課題と可能性について検討する。人体と密に結合する 力学的センサを避けて、生体電気信号タイプ、非接触タイプ、静電結合 タイプなどの新しいセンサの開発例と作品への応用事例を紹介する。 \subsection*{2. 心拍センサ} 人間が生きていれば絶対に発生し続けるのが心拍情報であり、運動や興奮で 速くなる、というその特性は、人間とインタラクティブに関わるアートの 分野でも注目されている。 筆者の一人(長嶋)は、NTTの新しい美術館ICCの「ビエンナーレ1997」 で準グランプリを獲得した作品 ``Audible Distance'' のために、 作家・前林明次氏に依頼されて、小型携帯タイプの心拍センサを開発した。 具体的に心拍をセンシングする方法にはいくつかあるが、この 作品のように美術館への来場者が体験するタイプのインスタレーション では、心電図装置のように直接肌にジェルを塗って取り付ける、と いうわけにはいかない。 そこで、耳たぶクリップ状のセンサを用いた。ここには赤外LEDと フォトトランジスタが向き合うような構造となっていて、耳たぶの 毛細血管を心拍と同期して流れる血液の影によって、心拍と同期した 光量の変化をセンシングできる。 実際の作品のセンサシステムにおいては、暗い会場内をHMDをかけて 自由に移動する3人のプレイヤーの位置と視線の向きを、上空のCCDカメラ の画像情報からリアルタイムにセンシングする画像処理系とともに、 この心拍センサ部分も一緒に組み込んだ。 アナログ回路部分は筆者の一人(照岡)の回路を用い、小型の ケース内に006P電池、センシング信号処理のためのマイコン回路、 そしてワイヤレス送信回路までを組み込んだ。心拍センシング情報 はMIDI出力されて、環境``MAX''による3次元音響生成系に供給され、 映像と音響の同期のために利用された。 \subsection*{3. 筋電位センサ「MiniBioMuse」} 世界的に知られる``BioMuse''は非常に強力な生体アナログ信号 センサであるが、残念ながら非常に高価な装置である。 コンピュータ音楽のセンサとしては、「一つのセンサでパーフェクト な表現の情報は得られない」「多数の低精度センサの情報を組み合わせる 方が得策」という経験則があるために、BioMuseを実際に購入して使って いる音楽家はあまり多くない。 そこで、BioMuseと同じタイプの筋電位センサでありながら、 コストがBioMuseの約100分の1という、「MiniBioMuse」 と名付けたセンサを開発した。 本体のサイズはVHSビデオテープ程度の大きさで非常に軽く、腰に ぶら下げても負担とならない。これでいて、BioMuseやミブリのように 外部に接続する大型の機器の必要なしに、筋電パルスをアナログ電圧と して出力しつつ、同時にA/D変換されたMIDI信号を標準で出力する。 センサの筋電バンド部分には、コンピュータのメモリを増設する時に 人体に帯電した静電気で故障するのを防ぐために付属してくる、 静電気放電用のリストバンドを改造して利用した。このリストバンド には、人体へのショックを防止するために、内部に1Mオーム程度の 高抵抗が内蔵されていて、生体用電極としてはこの抵抗が邪魔になる。 そこでリストバンドのモールド部分を壊して露出させ、抵抗を外して 直接にコードをハンダ付けした。 BioMuseと違って、このマシンではノイズをキャンセルするため に、接地電極として足首にも同じバンドを付ける。たとえば 両手首にバンドをつけてこの間の筋電パルスをセンシングする時には、 この2本と足首の1本、合計3本のバンドを取り付ける必要がある。 しかし、BioMuseでは必須だった、導電ジェルをべたべたと塗る 必要もなく、ただこのバンドをはめるだけで、なかなか良好に筋電 パルスをセンシングする。BioMuseの生みの親、世界的な生体 センサ専門家のAtau Tanaka氏にも、このセンサは好評を博した。 \subsection*{4. ハープセンサ} 1997年10月15日に神戸・ジーベックホールで行われた神戸山手女子短期 大学音楽科公開講演会コンサート、および1997年11月24日に神戸・ ジーベックホールで行われた日本コンピュータ音楽協会(JACOM)の 「コンピュータミュージック・アンデパンダン」コンサートにおいて、 筆者の一人(長嶋)が発表した作品 ``Atom Hard Mothers''の 作曲の一部として制作したのが、光ビームを利用した「ハープセンサ」 である。 これは、張り合わせた額縁に仕込んだFA用の光ファイバセンサに よって実現した。この長方形の枠内に、垂直方向に走る13本、 水平方向に走る3本の光ビームを、Perfromerが「弾く」ことで演奏する。 個々の光ビームは、センサモジュールの調停機構によってまったく干渉 することなく独立にセンシングされ、この情報がMIDI化出力されて、 環境``MAX''のパッチとして作曲された情報処理系によって、曲の展開 とともに「1面のゴング」「6面分割されたゴング」「6弦ハープ」 「16弦ハープ」のようにリアルタイムに動作モードを切り替えて演奏 した。 \subsection*{5. タッチセンサ} テレミンやオンドマルトノの演奏の微妙なニュアンスを求めて、人体に 誘起する静電気をセンシングしよう、という試みの歴史も長い。 ただし、静電気の場合には個人差がかなり問題となるようである。 1997年10月15日の神戸山手女子短期大学音楽科公開講演会コンサートに おいて作品``Brikish Heart Rock''の中で、および1997年11月24日の 「コンピュータミュージック・アンデパンダン」コンサートにおいて、 プロジェクト「怪談楽団(ばんど)」の作品``天にも昇る寒さです'' の作品発表の中で使用するために、筆者の一人(長嶋)が 作曲の一部として制作したのが、人体の静電誘起電圧を利用した 「タッチセンサ」である。 ここでは、市販の静電タッチセンサの回路をアレンジしし、 大電力抵抗器の放熱フィンを静電タッチの接触電極とした、 一種のインスタレーション作品として制作した。単にセンシング するだけでなく、オンボードの80個のLEDがタッチ情報を3種類の モードでディスプレイする機能も加えた。 ところがこのセンサでは、当初の目論見であった「微妙なタッチの ニュアンスの検出」には成功しなかった。センシング回路部分に 飽和特性があり、どうしてもON/OFF以上の情報を安定して得られなかった からである。 同じような例は他にもあったが、机上の空論でなく、実際に製作してみて こそ、新たな課題が出てくるという好例と解釈して、さらに検討している ところである。 \subsection*{6. むすび} 「新楽器」について、いくつかの新しい実験と実例を紹介した。 このようなセンサ技術に関しては、「身体障害者の意志伝達」と いうような福祉機器への応用の可能性も視野に入れていきたい。 また、研究に関する情報やツール等はホームページやMLを通じて広く 公開し \cite{1} \cite{2} \cite{3} 、興味ある人々との情報交換を進めていきたい。 \begin{small} {\sf \begin{thebibliography}{99} \bibitem{1} http://www.kobe-yamate.ac.jp/〜nagasm/sigmus9612/sigmus.html \bibitem{2} http://www.kobe-yamate.ac.jp/〜nagasm/kyotoart/index.htm \bibitem{3} http://www.kobe-yamate.ac.jp/〜nagasm/uryuu\_98/index.html \end{thebibliography} } \end{small} \end{document}