\documentstyle[a4j,ascmac]{jarticle} \pagestyle{empty} \setlength{\textheight}{246mm} \setlength{\textwidth}{170mm} \begin{document} \sf \begin{center} {\huge {\bf ネットワーク上で相互作用する} \\[1mm]} {\huge {\bf アルゴリズム作曲系を用いた音楽教育システム} \\[6mm]} \end{center} \subsection*{1. はじめに} ネットワークで相互接続された24台のUnixワークステーションを用いて、「アルゴ リズム作曲」および「音楽における即興」について体験的に演習するための音楽教育 システムを構築した。 Ethernet上の24台のSGI Indy上にOpen-GLのGUI環境で対話的に即興演奏/音楽生成 するプロセスを走らせて、相互の情報交換にRMCP(Remote Music Control Protocol) を用いた。 音楽情報は基本的に個々のクライアント側でアルゴリズム作曲の考え方で生成され、 このパラメータがRMCPによって他のサーバに伝播して互いに影響を及ぼし合う ような動作を目標として、現在も検討・開発が進められている。 \subsection*{2. アルゴリズム作曲と「音楽における即興」} 神戸山手女子短期大学音楽科では1994年より「コンピュータと音楽」(長嶋)と いう講義において、FDDI-LAN接続された24台のSGI社Indyワークステーションを 用いたMultimedia作品制作演習・Internet演習およびComputer Musicについての 紹介などを行ってきた\cite{ipsj9409}。 ここでは、Computer Musicの重要な要素であるAlgorithmic Compositionについて の考察と、「音楽における即興」について色々な体験的演習を交えて考察している。 あらかじめ固定的に決定されたシーケンスデータを「再生」するだけ の音楽演奏において欠落する創造性と芸術性を考える上では、 演奏される時点まで具体的な音楽演奏情報が決定していない(音楽情報を リアルタイムに生成するアルゴリズムを「作曲」するのであり、実際には 演奏の際に人間の作用によって演奏情報が変わりうる)という音楽のスタイル は日常的にクラシック音楽を専攻している学生にとっても、新たな視点を提供 する機会となっている。 また、センサを活用した、Multimediaインタラクティブ・アート\cite{icmc95} を実際に体験することで、音楽演奏における「即興」について検討し、音楽活動 における広がりの一つとしての理解・吸収を目指している。 「即興」は伝統的な音楽でも重要な要素であるが、パートナーとして異質の 相手であるために、Computer Musicというのは音楽的即興を客観的に考察 する手段としても、きわめて有効である。 \subsection*{3. 開発環境とRMCP} このような状況において、24台のIndyを揃えている環境を利用した オリジナルの音楽教育システムとして、ネットワークを利用した分散処理 による集団即興セッションの実現を目指した実験を開始した。 システムを実現するためのプラットフォームとしては、GUI環境として SGI Indy上でXのMotifを用いるとともに、映像系はOpen-GLによるCGを 利用し、音響系はIRCAMから公開のアナウンスのあったFTP (DSP-MAX on IRIX) を利用するつもりであったが、IRCAMの発表が既に2年以上も遅れている ために、早稲田大学の後藤らが開発し音楽情報科学研究会(SIGMUS)の場で 報告・提唱\cite{rmcp}したRMCP(Remote Music Control Protocol)を採用 することにした。 RMCPとは、サーバ・クライアントモデルに基づいて、MIDI演奏情報などを クライアントプロセスからネットワーク上のサーバプロセスにbroadcast して共有するシステムである。 そこで、これまでイメージ情報科学研究所で行ってきたIRIXの Digital Media Libraryを用いた開発環境\cite{ss95}を活用しながら、 RMCPパッケージのサンプルを利用し既存のMotif/X-GL環境のプログラム として幾つかの試作プログラムを開発するとともに、上記「コンピュータ と音楽」を受講する学生に実際に実験的に利用させて、体験的な感想など をMLで収集しながら仕様を改訂する、という実験的開発を進めている。 この種の音楽教育プログラムには市販品と違って「完成」はなく、その 都度、議論となったアイデアを盛り込んだバージョンで実験をさらに 進めていけるというメリットがあり、今後もさらに改訂版の試作を 続けていくつもりである。 \subsection*{4. 音楽教育プログラムと実際の体験例} 第一段階として実験的に試作したプログラムでは、「X-Windows内の スライダーをマウスによって操作して、pitch、velocity、duration、 panpot等を[演奏]する」というモードと、「画面内のボタンでランダム 8音のフレーズを[演奏]し、画面内のスライダーで、音域、ランダム幅、 インターバル等を指定する」という二つのモードしか持っていない 簡易版であった。それぞれの「演奏」情報は各自のクライアントプロセス からbroadcastされ、あらかじめrootプロセスとしてバックグラウンドで 走っているMIDI演奏サーバプロセスによって、それぞれがヘッドホンを 経由してそれぞれのマシン毎のMIDI音源で聞くことができる。 しかしこのバージョンでも一部の学生には画期的に好評で、MotifのGUIに よって「マウスでクロマティックに上昇させながらカーソルキーで逆転下降 させる」などの演奏ワザを開拓したり、多数が騒然とセッションしている 中で、離れた席の学生同士が「対話」するための音楽的条件の検討など、 音楽演奏における「情報」の意味を深く考えさせる課題はいくつも出現した。 第二段階として現在進めているのは、それぞれのクライアントにカオスの アルゴリズムなどを組み込んだ柔らかなリアルタイム自動作曲プロセスを 走らせ、そのパラメータをお互いに「つつき合う」というモデルである。 カオスのアルゴリズムとそのパラメータを叩く人間との対話だけでも 面白い「音楽」が生成されることがあり\cite{icmc93}、これが複数の参加 によるセッションに発展した場合にどうなるか、という点は興味ある ところである。 今後の課題としては、セッションとしての時間的同期性を確保するために、 音楽構造について遅延を考慮した条件を与えて、即興性について体感できる 教育的効果を求めていくことがある。 また、神戸山手女子短期大学情報教育センター内の情報演習室での セッションを超えて、Internetの外の世界と同様のセッションをしていく 可能性についても、現在検討しているところである。 \subsection*{5. むすび} 本稿では、ネットワークで相互接続された「アルゴリズム作曲」および「音楽 における即興」について体験的に演習するための音楽教育システムの構築に ついて報告した。この実験はまだ始まったばかりであり、講義の進展とともに 成長させていくソフトウェアであると考えている。また、実験の状況と音楽的 な検討、さらにツール自体についても、ホームページやMLを通じて広く公開し、 興味ある人々との情報交換を進めていきたい。 なお、本研究の一部は(財)ローランド芸術文化振興財団の平成8年度助成 を受けて行われた。 \begin{small} {\sf \begin{thebibliography}{99} \bibitem{ipsj9409} 長嶋洋一, 中村文隆, 稲松千奈美, 渡辺卓也 : マルチメディア・ワークステーションによる情報基礎教育の試み. 情報処理学会平成6年度後期全国大会講演論文集I, pp.5--6, 1994. \bibitem{icmc95} Y.Nagashima, H.Katayose, S.Inokuchi : A Compositional Environment with Interaction and Intersection between Musical Model and Graphical Model --- ``Listen to the Graphics, Watch the Music'' ---. Proceedings of 1995 International Computer Music Conference, pp.369--370, 1995. \bibitem{ss95} 長嶋洋一, 片寄晴弘, 由良泰人, 藤田泰成, 井口征士 : マルチメディア生成系におけるプロセス間情報交換モデルの検討. 情報処理学会研究報告 Vol.95,No.74 (95-MUS-11), pp.63--70, 1995. \bibitem{rmcp} 後藤真孝, 橋本祐司 : MIDI制御のための分散協調システム ---遠隔地間の合奏を目指して--- 情報処理学会研究報告 Vol.93,No.109 (93-MUS-4), pp.1--8, 1993. \bibitem{icmc93} Y.Nagashima, H.Katayose, S.Inokuchi : PEGASUS-2 : Real-Time Composing Environment with Chaotic Interaction Model. Proceedings of 1993 International Computer Music Conference, pp.378--380, 1993. \end{thebibliography} } \end{small} \end{document}