\documentstyle[a4j,ascmac,11pt]{article} \pagestyle{empty} \setlength{\oddsidemargin}{18mm} \setlength{\evensidemargin}{18mm} \setlength{\topmargin}{5mm} \setlength{\headheight}{0pt} \setlength{\headsep}{0pt} \setlength{\topskip}{0pt} \setlength{\footskip}{8mm} \setlength{\textheight}{248mm} \setlength{\textwidth}{163mm} \begin{document} \sf \begin{center} {\Huge {\bf Attractor Synthesisによる} \\[2mm]} {\Huge {\bf 楽音合成システムの検討} \\[6mm]} \end{center} \subsection*{1. はじめに}  コンピュータ音楽(Computer Music)の分野では、素材となる「音響」の生成は 永遠のテーマであり、情報処理パラダイムや信号処理システムの進展とともに 多くの楽音合成方式が研究されてきた \cite{kaken}。 また、非線型力学現象である``Chaos''については多くの研究・応用が続けられ ており \cite{chaos} 、コンピュータ音楽の領域でも``Chaos''や``Attractor''に 関連した試みがいろいろなアプローチによって 行われている \cite{icmc93} \cite{bit} 。 ここには、音楽における基本的なFracral構造が、音楽構造レベル・音楽要素レベル だけでなく、音響素材レベルの段階においても階層化できないか、という根本的な 課題がある。 本稿では、この非線型力学の手法にもとづいた楽音合成の方式の検討と、具体的な システム構築の経過報告として、コンピュータシミュレーションによる検討、 DSPシステムによるインプリメント、ハードウェアDSP化とリアルタイム制御 システム化について述べる。 \subsection*{2. Attractor Synthesisの概要} \subsubsection*{2.1 Attractor Analysis}  まず第一ステップとして、多次元空間における幾何学的図形である``Attractor'' の考え方を用いて、楽器音や音声などの入力音響データをAttractor空間に射影する。 たとえば、所定のサンプリング周期で離散化された入力データ \[ {\bf s}_{1} , {\bf s}_{2} , {\bf s}_{3} , \cdots , {\bf s}_{n} , {\bf s}_{n+1} , \cdots \] に対して、基底の次元数として m を、ディレイ値として k をとると、 Attractor空間における n 番目のポイントを表すベクトル \( {\bf p}_{m,k,n} \) は \[ {\bf p}_{m,k,n} = ( {\bf s}_{n} , {\bf s}_{k+n} , {\bf s}_{2k+n} , {\bf s}_{3k+n} , \cdots , {\bf s}_{(m-2)k+n} , {\bf s}_{(m-1)k+n} ) \] と表現できる。 ここでは、ポイント n 以外に m と k という異なる性格の変換パラメータを持つ ことによって、いろいろなバリエーションの可能性を持っている。 また、ある程度の周期性を持つ入力データにChaos性のランダム要素が加わった 自然楽器音の場合、2次元ないし3次元に可視化した実験によると、 Attractor図形にFractalな構造が反映されるのが特徴である \cite{attractor}。 \subsubsection*{2.2 Attractor Resynthesis}  次のステップとして、この図形を再び音響信号データに変換するために、Attractor から時間軸に沿った音データへの射影を行う。 もっとも単純な射影軸としては、m 次元空間で原点を通る任意の直線を規定し、 ここに n 番目のポイントベクトル \( {\bf p}_{m,k,n} \) を正射影させた ベクトル長を、音響出力における n 番目の量子化されたデータとする方法がある。 ここでは、射影軸の方向ベクトルを規定するための m 個のパラメータだけでなく、 互いに関連した複数本の射影軸を用いることで、単一の音響入力から同時に多次元の 関連した合成出力が得られることが、他の楽音合成方式にない特徴である。 \subsubsection*{2.3 Computer Simulation}  以上の簡単なアイデアに基づいて、コンピュータシミュレーションによって 具体的な動作を検討したのが以下の波形図である。 ここではいくつかの倍音成分を持たせた周期的な基準波形に対して、4次元の Attractor変換を施して再合成したものであり、パラメータの変化に対応した 出力波形データをリアルタイムに演算して動的にディスプレイしている。 \vspace{45mm} \subsection*{3. システム化に関する検討}  Computer Musicの研究である限り「音」で検討するのが基本であり、 ここでは以下のようなアプローチでのシステム化を進めているところである。 \begin{itemize} \item DSPシステムによるインプリメント: パソコン拡張用DSPボードを用いて、DSPマイクロプログラムによって Attractor Synthesisをリアルタイムに行うシステムを開発中であるが、 DSPの処理能力によりAttractor次元数やパラメータ数の制限が加わる。 \item ハードウェアDSP化: DSPボードによる予備実験を受けて、多数のDSP/RISCプロセッサの並列処理 による専用音響処理ハードウェアの開発を検討中である。 \item リアルタイム制御システム化: Attractor Synthesisのような「アルゴリズム楽音合成」においては、 多くのパラメータをリアルタイムに、かつインタラクティブに制御 できることの意味が大きい。 このために、MIDIと有機的に結び付いたセンサフュージョン \cite{fusion} によるパラメータ制御システムも併せて開発していく予定である。 \end{itemize} \subsection*{4. むすび}  Attractorを応用した楽音合成方式とComputer Musicシステムへの展開の 検討について報告した。 「音楽におけるFractal性」はまだまだ今後の課題であり、本研究はそのための 一つのアプローチと考えている。 なお、このような研究においては実際の音楽作品として成果を試すことも重要であり、 情報処理学会音楽情報科学研究会(SIG-MUS)などの機会に発表していきたい。 \begin{thebibliography}{99} \bibitem{kaken} 長嶋洋一 : 楽音合成技術, 音楽情報処理の技術的基盤, pp.12--23, 平成4年度文部省科学研究費 総合研究(B)「音楽情報科学に関する総合的研究」調査報告書, 1993. \bibitem{chaos} Robert L.Devany : An Introduction to Chaotic Dynamical Systems, Addinson-Wesley, 1989. \bibitem{icmc93} Y.Nagashima, H.Katayose, S.Inokuchi : PEGASUS-2: Real-Time Composing Environment with Chaotic Interaction Model. Proceedings of ICMC, pp.378--390, 1993. \bibitem{bit} 長嶋洋一 : コンピュータミュージック最前線, {\bf bit}, Vol.25, No.12, pp.15--22, 共立出版, 1993. \bibitem{attractor} Gordon Monro : Synthesis from Attractors, Proceedings of 1993 ICMC, pp.390--392, 1993. \bibitem{fusion} 長嶋洋一, 片寄晴弘, 金森務, 志村哲, 井口征士 : Virtual Musician における演奏モーションの情報処理. 情報処理学会第47回全国大会講演論文集(1), pp.353--354, 1993. \end{thebibliography} \end{document}