\documentstyle[a4j,ascmac,11pt]{jarticle} \pagestyle{empty} \setlength{\oddsidemargin}{15mm} \setlength{\evensidemargin}{15mm} \setlength{\columnsep}{8mm} \setlength{\topmargin}{0pt} \setlength{\headheight}{0pt} \setlength{\headsep}{0pt} \setlength{\topskip}{0pt} \setlength{\footskip}{8mm} \setlength{\textheight}{255mm} \setlength{\textwidth}{180mm} \begin{document} \sf \twocolumn[ \begin{center} {\Huge \bf Chaotic Interaction Model for Real-Time Composition \\  } \end{center} \begin{center} {\Large   \\ \bf Abstract} \end{center} {\sf This is a progress report of ``PEGASUS Project'' (Performing Environment of Granulation, Automata, Succession, and Unified-Synchronism), to research musical environment for composition and perfomance. After the experimentally composition with simple chaos generator using ``Logistic Function'', one new model is constructed and experimented, called ``Chaotic Interaction Model (CIM)''. Single chaos generator generates simple chaotic vibration, but CIM system generates more complicated and interesting reactions with external interruption or control. CIM is considered not only as one kind of random musical event generator, but also as higher level representational model, for example as the real-time compositional model with the hierarchical structure in music. } \begin{center}   \end{center} ] \section{はじめに} 「統合的なComputer音楽環境」として1991年より開始した``PEGASUS Project'' では、従来からComputer Musicの分野で研究されているテーマの中で 統計的な情報処理に関する幾つかの視点、すなわち自動作曲\cite{chadabe}・ Granular Synthesis音源\cite{nagasm2}・フラクタル\cite{degazio,beyls}・ 時間的な統合・音楽的構造の継承・インタラクティブ演奏環境などの要素技術を 順に研究し、ボトムアップ的な構築を目指している。 昨年は第1ステップとして、統計的なComputingに親和性のあるGranular Synthesis 音源をポータブルに実現し、パラメータをNeural Networkによってリアルタイムに 制御する\cite{nagasm1}とともに、この音源を活用 した作品(``Growing Glue Grains''、``Chaotic Grains'')を実験的に作曲 した\cite{nagasm4}。 Computer Musicの研究においては、このように理論やシステムの構築だけでなく、 \pagebreak 実際に音楽作品の場で実現・検証していくアプローチも重要だからである。 本稿では、まず自動作曲という研究分野の状況を概観し、次にこの ``PEGASUS Project''の第2ステップとして``Chaos''を取り上げた 経緯と、研究課題および感性情報処理との関係について議論する。 さらに、2段階に分かれたアプローチの前半の経過報告として、実現された システムの概要と音楽的意義を検討し、後半では2つのChaos系の相互作用を もとにした新しいChaos生成系(CIM)の考え方と、現在進行中の研究状況について 述べる。 そして最後に、CG系とのリンクによるマルチメディア作品に向けたアプローチ を紹介する。 \section{自動作曲の歴史と課題} \subsection{``Random'' Composition} 自動作曲はComputer Music研究スタート時からのテーマであり、 その一種「サイコロ音楽」は50年近い歴史をもつ。 これは現代音楽において12音音楽と結び付いたもので、Computerが生成した 乱数を音楽要素(音程・リズム・強弱など)に対応させて「作曲」する。 完全な乱数では無秩序な音楽となるために、ここに一種のフィルタとして 伝統的な音楽ルールに従った規則を与え、最終的に音楽として聴こえるように ヒューリスティックにチューニングしたシステムが使われてきた。 たとえば乱数出力を音程に対応させ、和声学のルールに従って厳しい禁則処理を 施せば教科書的なコラールが生成され、 モーツァルトの音楽的語法データベースによってフィルタをかければ、 「モーツァルト的なメロディー」を生成することができた。 しかし、音楽には時間構造やフレージング等の階層的構造があり、「単純な 乱数生成+音楽規則のフィルタ」という自動作曲では、人間の感性に訴える 面白い作品が生まれるには何かが決定的に欠けている、との認識が一般的 であった。 \subsection{Interactive Composition} もう一つのアプローチとしては、現代音楽のミニマルミュージックと結び付いた もので、Computerが一定の周期で繰り返される音楽要素(フレーズ・リズムなど) を演奏して、ここにリアルタイムにパラメータの変更を加える、という「作曲」 がある。 Macintoshコンピュータ上のソフト``M''がその代表で、演奏される音楽作品は 事前にMusical Events Sequenceとしてプログラムされておらず、繰り返しの アルゴリズムだけが用意されて、演奏の際にオペレータ(演奏者)の操作によって 刻々と変化する音楽情報を生成する。 これはソフト``Max''などでも容易に実現できるが、全体的な音楽的構成のない、 刹那的な音楽になりがちな問題点が指摘されている。 \subsection{Algorithmic Composition} これに対して、作曲家の頭の中の作曲活動・音楽的想念をそのままモデル化・ ルール化して記述するという、「作曲アルゴリズムによる自動作曲」の アプローチも、根強い支持を受けて研究されてきた。 ここでは、伝統的な音楽技法や規則に対応するばかりでなく、新しい アルゴリズムとして新しい作曲パラダイムを生み出すことも指向されて おり、従来の自動作曲を発展させる糸口として注目されている。 \subsection{「音楽的」要素の自動生成} ここで問題となるのが、従来からAIの分野で議論となっている、 「人間の思考を実際に解析して忠実にモデル化する」「振舞いとして人間の ような動作をすれば中身は問わない」という2つの方針である。 現在のところでは、音楽情報処理に関しては音響物理学・聴覚心理学・認知心理学 から音楽心理学・美学までの領域を含めてあまりに未開拓の分野が多く、 前者のアプローチは非常に困難である。 音楽情報処理を「感性情報処理」の一例としてとらえた研究においても、 具体的にはシステムのルールとして、ヒューリスティックな調整を必要として いる\cite{katayose}。 この意味で、 将来的に人間の音楽情報処理がより研究された時点では、人間の実際の音楽行動 をモデリングしたアプローチも可能となるかもしれないが、当面はBlack Boxと して、「人間が作曲したのかComputerが作曲したのかわからない」作品を生成 するシステムを実現するだけでも、十分に研究すべき課題が山積していると言える。 本稿で紹介するChaosによるアプローチも、そのような「音楽的」要素を 自動生成するための一つの可能性を求めたものである。 \section{Chaosによる音楽情報処理} \subsection{1次元Chaosの振舞い} 自然界で散見するChaos現象は、その単純な数式表現と対照的に複雑な振舞いを することから、情報処理の分野でもいろいろな応用が試みられて いる\cite{devaney,aihara}。 本研究では、もっとも単純な1次元Logistic Function: {\boldmath \[ X_{n} = \mu \cdot X_{n-1} \cdot (1 - X_{n-1}) \] } に限定しているが、これだけでも十分に興味ある結果を得ることが可能であり、 今のところ十分な理解のないまま2次元・3次元等に拡張する予定はない。 この漸化式では、{\boldmath \( 1 < \mu \leq 3 \)} の領域 では {\boldmath \( X_{n} \)} の値は初期値に関係なく1つに収束する。 ところが {\boldmath \( 3 < \mu \)} の領域で増加させて いくと、1値に収束していた {\boldmath \( X_{n} \)} の値は異なる2値への 分岐を起こし、さらに4値、8値と次第に収束先が複数になる複雑な変化を経て、 やがてついには ``Chaos Zone'' に突入する。 このChaos状態の領域で完全なランダム状態であるならば、一般の乱数生成系と 変わらないことになり、従来の自動作曲の乱数源との違いがないことになる。 しかしChaos系では、この領域のあちこちに「窓」と呼ばれる部分があり、ここでは 3値、5値、6値などの限定された収束値に縮退する。そして「窓」とChaos状態 との境界の領域では、パラメータを外部から摂動させることで、Chaos状態と 周期振動状態とを行き来するような、興味ある振舞いを示す。 \begin{figure*}[t] \begin{center} \begin{minipage}{150mm} \begin{screen} \begin{footnotesize} \begin{tt} \begin{verbatim} 3.922218 = 14 3.922227 = 28 3.922229 = **** 3.922232 = 28 3.922234 = **** 3.922239 = 56 3.922240 = **** 3.922246 = 21 3.922247 = **** 3.923814 = 10 3.923815 = 20 3.923816 = **** 3.925847 = 12 3.925848 = **** 3.926278 = 9 3.926279 = **** 3.926280 = 18 3.926281 = **** 3.930472 = 8 3.930474 = 16 3.930475 = 8 3.930477 = 16 3.930478 = **** 3.930479 = 16 3.930480 = 32 3.930481 = **** 3.930482 = 64 3.930483 = **** 3.934700 = 9 3.934702 = **** 3.934703 = 18 3.934704 = **** 3.936006 = 11 3.936007 = **** 3.936100 = 237 3.936101 = **** 3.937517 = 6 3.937555 = 12 3.937556 = 6 3.937560 = 12 3.937562 = 6 3.937564 = 12 3.937567 = 6 3.937572 = 12 3.937585 = 6 3.937586 = 12 3.937587 = **** 3.937602 = 12 3.937620 = 24 3.937621 = 12 3.937623 = 24 3.937624 = 12 3.937625 = 24 3.937626 = 12 3.937627 = 24 3.937628 = 12 3.937629 = 24 3.937630 = 12 3.937631 = 24 3.937632 = **** 3.937639 = 24 3.937642 = 48 3.937645 = **** 3.937647 = 96 3.937648 = **** 3.937670 = 288 3.937671 = **** 3.937677 = 18 3.937678 = **** 3.937689 = 36 3.937690 = **** 3.940370 = 9 3.940372 = **** 3.944213 = 8 3.944214 = 16 3.944215 = 8 3.944217 = **** 3.944218 = 16 3.944220 = **** 3.944401 = 14 3.944402 = **** 3.947735 = 9 3.947736 = 18 3.947737 = 36 3.947738 = **** 3.951028 = 7 3.951040 = 14 3.951044 = **** 3.951048 = 14 3.951054 = 28 3.951056 = **** 3.951057 = 28 3.951059 = **** 3.951066 = 21 3.951067 = **** 3.954484 = 9 3.954485 = 18 3.954486 = **** 3.956614 = 20 3.956615 = **** 3.958036 = 11 3.958037 = **** 3.960104 = 4 3.960315 = 8 3.960316 = 4 \end{verbatim} \end{tt} \end{footnotesize} \end{screen} \end{minipage} \end{center} \begin{center} {\bf Fig.1 Sample of Simulation Result of ``Loop'' and ``Chaos''} \end{center} \end{figure*} \subsection{Chaosのフラクタル構造と音楽} この1次元Chaos動作を解析してみると、あるパラメータ領域を拡大した中に、 より大きなスケールの構造と類似した構造を発見できる。これはフラクタル 構造の本質である「自己相似性」であり、よく知られたMandelbrot集合や Julia集合と同様に、拡大しても拡大しても同じ構造を繰り返す。 ところで音楽においても、これと同様の階層性と自己相似性は指摘されており、 たとえばBartokのように、自己相似性を数学的指導原理として、 フィボナッチ数列と黄金分割を基本に作曲した作曲家もいて、フラクタル 構造の数学的性質は作曲のひとつのテーマとなっている\cite{bidlack}。 サイコロ音楽やミニマルミュージックに決定的に欠けている、音楽の全体的構成 や階層構造をComputer Musicで実現するための一つの可能性としてフラクタルや Chaosが注目される理由の一つは、この自己相似性である。 \subsection{Chaosの周期性と音楽} Fig.1 に示したのは、1次元Logistic FunctionのSimulation結果の一部であり、 パラメータ {\boldmath \( \mu \)} の微小な変化によって、Chaos動作の 周期数が劇的に変化し、さらにChaos状態と周期状態が頻繁に交代することが わかる。 もっとも単純な例として、この {\boldmath \( X_{n} \)} の値をMIDIノート ナンバに割り当てると、周期的に変化する一種のフレーズに対応させる ことができる。この場合、2周期であればトレモロ的なメロディー、 4周期であれば装飾音的なメロディーになり、さらに6周期や9周期の 聴取実験によると、変拍子系のビートやシャッフルのビートにも移行 しうる音楽的可能性をもっている。 またChaos出力に対する12音生成確率のフィルタを調整することで、古典的 和声の枠組みに従った「分散和音」とすることも容易である。 さらにChaosパラメータを微小に変化させていった場合、同じ2周期でも 2つの収束点の値が次第に変化するために、あるメロディーからの「変奏」 のように知覚され、非常に長い周期を持ったメロディーを高速で演奏させる ことで、Jazzのアドリブ的なフレーズと知覚できる結果も得られた。 これは従来の単純な乱数生成系では見られない特徴であり、音楽の基本的要素 である「時間的繰り返し」という特性にChaos動作の周期性を対応させ、 さらにパラメータを変化させて周期状態が変化し、場合によっては Chaos状態(クラスター音楽に対応?)にも推移する、という発展の可能性を 示している。 \subsection{``Chaotic Grains''での実現例} このChaos系による自動作曲の具体的な実現として、1993年2月 (音楽情報科学研究会主催・現代音楽協会共催「電楽II」) に初演された作品``Chaotic Grains'' では、単純な1次元Logistic Functionを使用して、リアルタイムにChaos状態を 変化させる音楽生成ソフトを作曲の一部として製作した。 並列処理によって8系列それぞれ別々のサンプリング速度で動作するChaos出力は、 最終的なMIDIイベントに変換される前に、音域・音量変化・定位・音色などの フィルタとともに、12音平均律の中での音程生成確率 を与えるフィルタを通過することで、非Chaos音源群の演奏と結合された。 演奏の際には、時間とともに推移するSequenced DataおよびJoy-Stickコントローラ を操作する演奏者によって、各種のパラメータやChaosパラメータ、また12音生成 確率パラメータが刻々と変化し、リアルタイム作曲が実現された。 この作品では主に音程要素に対するリアルタイム変化に焦点をおいたが、 次のステップとして、音程要素同士の時間関係にもChaosを反映させることで、 休符やビートを考慮した、より高度なメロディーを生成する系としてさらに 検討が進められている。 \section{孤立Chaos系からCIMへ} \subsection{Chaotic Interaction Model} Chaos系が一定のパラメータでFree Runして生成するChaos状態だけでなく、 2つ以上のChaos系の同期・相互作用についての研究も進められて いる\cite{isabelle,pecora}が、これは2次元Chaosに類するものであり、 あくまで全体の系に共通の時間軸を設定している。 ところで、音楽演奏における複数の演奏者の独自性と相互作用、あるいは作曲家の 思考過程に存在する複数のエージェントを想定すると、音楽生成系としての Chaos源が複数個存在していて、それらが非同期的に相互作用する 新しいシステムが考えられる\cite{nagasm3}。 このシステム(CIM)では、まったく無作為に相互のパラメータを交換するのでなく、 たとえばNeural Networkを学習によってチューニングするように、なんらかの 最適化が必要である。 しかし、周期状態とChaos状態との境界を微妙に行き来するような状態に設定 することで、音楽的に興味ある生成データが実験的に得られてきており、 さらにSimulationと検証が進められているところである。 \subsection{マルチメディア生成系に向けて} 第2ステップとしてChaosを取り上げた``PEGASUS Project''では、CIMを導入した 新しい作品の製作を開始している。ここでは音響だけでなく、CGシステムとも MIDIを介してリアルタイムにリンクさせたマルチメディア作品を目指して いる。この作品は、センサフュージョンによる Virtual Performer システムと ともに、IAKTA Workshop (1993.9.16 Osaka) でデモンストレーションされるが、 これを機会として聴覚系・視覚系を含めた感性情報処理へと研究を進める 予定である。 \begin{thebibliography}{99} {\small \sf \bibitem{chadabe} L.Chadabe : Interactive Composing. Proceedings of International Computer Music Conference, pp.298-306, 1983. \bibitem{nagasm2} Y.Nagashima : Real-time Control System for ``Psuedo Granulation''. Proceedings of International Computer Music Conference, pp404--405, 1992. \bibitem{degazio} B.Degazio : Musical Aspects of Fractal Geometry. Proceedings of International Computer Music Conference, pp.435-442, 1986. \bibitem{beyls} P.Beyls : The Musical Universe of Cellular Automata. Proceedings of International Computer Music Conference, pp.34-41, 1989. \bibitem{nagasm1} Y.Nagashima : Neural Network Control for Real Time Granular Synthesis. Proceedings of 6th Annual Conference of JSAI, vol.1, pp.381-384, 1992. \bibitem{nagasm4} Y.Nagashima : Musical Concept and System Design of ``Chaotic Grains''. IPSJ SIG Notes Vol.93, No.32, pp9-16, 1993. \bibitem{devaney} Robert L.Devany : An Introduction to Chaotic Dynamical Systems (Second Edition). Addinson-Wesley Publishing Company, 1989. \bibitem{aihara} K.Aihara, T Yoshikawa : Ordered and Chaotic Systems and Information Processing. Journal of JSAI, vol.8, no.2, pp.179--183, 1993. \bibitem{katayose} H.Katayose et al. : Music Interpreter in the Kansei Music System. Proceedings of International Computer Music Conference, pp147-150, 1989. \bibitem{bidlack} R.Bidlack : Chaotic Systems as Simple (but Complex) Compositional Algorithms. Computer Music Journal, vol.16, no.3, pp.33--47, 1993. \bibitem{isabelle} S.Isabella, A.Oppenheim, G.Wornell : Effects of Convolution on Chaotic Signals. Proceedings of 1992 IEEE ICASSP, vol.4, pp.133--136, 1992. \bibitem{pecora} L.Pecora, T.Carroll : Synchronized Chaotic Signals and Systems Proceedings of 1992 IEEE ICASSP, vol.4, pp.137--140, 1992. \bibitem{nagasm3} Y.Nagashima : Chaotic Interaction Model for Hierarchical Structure in Music. Proceedings of 46th Annual Conference of IPSJ, vol.2, pp.319--320, 1993. } \end{thebibliography} \end{document}