「幻の単行本」を読ませていただいています(只で見せていただくのはなんか 申し訳ないですね)。  キーアサイナのところに紙面を割かれているのは、さすがと思いました。 昔趣味でシンセの自作をしていたときに一番苦労したのがこのあたりだったので すが、音源の回路やエンベロープの管理はけっこう本に書いてあるのに、キーア サイナに関しては言及されているものがほとんどなく、自作のモジュラーシンセ をポリフォニック化するときに最初に困ったところでした。やはり、「業界の方」 もいろいろ苦労されていたのですね。非常に参考になりました。  当時は我流で、「未使用音源をFIFOで管理すると余韻が最大限残るがLIFOで管 理すると余韻がうるさくなくてソロ演奏に向いている」とかやっていたのですが (トラ技'87年9月号に少しだけ書きました)、同じような話が長嶋さんの記事に もあったのでちょっとうれしく思いました。  「現在の音量を見ながら音源を横取りしてくる」などのテクニックが紹介されて いましたが、少しでも音が出ている音源を取ってくるとなると、急に音を止めると ノイズが出るでしょうから、急遽フェードアウトして、それが終わったのを検出 して取ってくるとか、めまいがするような複雑な処理が必要なのでしょうね。  もっとも、このあたりの話は、実際に音を出しながらいろいろやってみないと ピンとこないのですよね。 >CQも、アマチュア無線の衰退と、パソコン物はどうしても書店でパソコン関係 >書籍と対等に扱ってくれないらしくて苦戦しているようです。他に、ちゃんと >こういうハード系を出しているところは無いので、無形文化財として保護しない >といけないと思うのですが。(^_^;)  確かに、「普通のパソコン関係の本」とは、「一味ちがい」ますものね、。 「自作パソコンの本」とか出して一生懸命部数を上げようとしているのは涙ぐま しいです(そうでなくても不況で、企業の一括購入の部数が減っていますし)。  昔はオーム社(白砂昭一先生のモジューラーシンセ自作の本が非常に参考にな りました)とか、技術評論社、誠文堂新光社、電波新聞社なんかがハード物、 シンセ物をいろいろやっていましたが、どうなってしまったのでしょうね。  「音源の製作」というのは、やってみるとどんどんハマる面白い世界なのです が、不思議なぐらい文献がないのですね(特に日本では)。昔はあちこちの高校 や大学のサークルでやってましたけど、今はロボット関係に比べるとマイナー なのでしょうか? 確かにGS音源など品質の高いものが安価に入手できるように なりましたが、「音作り」という点では、まだまだアマチュアにもやることが あると思うのですけどね。 >関係ない分野の人にも参考になると思うので、どんどん、宣伝して下さい。(^_^) エンジニアばかり見ている私的MLで宣伝しておきました。 ------------------------------------------------ > 「幻の単行本」を読ませていただいています(只で見せていただくのはなんか > 申し訳ないですね)。 どうもです。(^_^) 果たしてどんな人が読んでいるのかも、Webではログを調べないと不明 ですので、まったく分かりませんが、どうぞ皆さん活用して下さい。 >  キーアサイナのところに紙面を割かれているのは、さすがと思いました。 > 昔趣味でシンセの自作をしていたときに一番苦労したのがこのあたりだったので > すが、音源の回路やエンベロープの管理はけっこう本に書いてあるのに、キーア > サイナに関しては言及されているものがほとんどなく、自作のモジュラーシンセ > をポリフォニック化するときに最初に困ったところでした。やはり、「業界の方」 > もいろいろ苦労されていたのですね。非常に参考になりました。 これはまあ、ギョーカイでは常識ですが、トラ技とかで表面的なMIDI製作記事 を書く程度の人には判ってもらえない事ですので、とてもマイナーなことです。 しかしマイナーとはいえ、音楽のこと/楽器のことを少しでも真剣に考えれば、 技術的には音源の信号処理部分に匹敵する重要なファクターなわけです。 ちなみに、この本でも僕はかなり控え目に書いていて、本当に気合いを入れれば、 十数種類のアサイナのアルゴリズムを紹介し、それぞれAKI-H8に実装して、同じ SMFデータで演奏して比較検討する、ということぐらいはできます。ただし、 これはギョーカイから出ている数百件の特許にもろに抵触しまくり(^_^;)、 アマチュアが実験できてもメーカが製品にはできないので、やめました。 最近、日本の特許庁でも、過去の全ての特許関連情報をWebで公開しているよう なので、「アサイナ」「発音割当」などのキーワードで検索すると、ドカドカと 出てくるでしょう。(^_^;) >  「現在の音量を見ながら音源を横取りしてくる」などのテクニックが紹介されて > いましたが、少しでも音が出ている音源を取ってくるとなると、急に音を止めると > ノイズが出るでしょうから、急遽フェードアウトして、それが終わったのを検出 > して取ってくるとか、めまいがするような複雑な処理が必要なのでしょうね。 はい、当然、そうなります。このために、ギョーカイでは一般に、エンベロープ がADSRを進行する、という「フェーズ」だけでなく、「Rで減衰中のフェーズ」 「アサイナから要求された高速リリースの中でのフェーズ」等の、いろいろな 時間的なフェーズを管理し、さらにこれとは別にレベルの軸での「音量フェーズ」 も管理して、もっとも違和感なく消せるチャンネルを探して、そこに次の発音を 割当てます。音源のCPUファームウェアの仕事の大半は、多数のパラメータをDSP に転送することと思われがちですが、実はアサイナなのです。1音の処理のために、 同時発音数の全チャンネルをサーチして、それぞれの中の優先度を順に全部、 比較しては書き換えることを何度も回さないと処理は完了しないのです。(^_^;) まぁ、そこそこアサイナのソフトが書けるようになるまでには、ギョーカイ内部 のエンジニアとして数年の年季が必要です。これは、そこそこ音源LSI(DSP)が設計 できるようになるまでに必要な年季とほぼ同じようなものです。いずれも、過去 何千件かのギョーカイ特許を読むことと、自分でも何件かの特許を出すぐらいの 経験を必要とします。僕はかつてこれをやってますので。(^_^;) この幻の本で書いていることは、そういう実際的なことにはまだまだ入っていない ほんの入口です。たぶん、ギョーカイの新入社員のテキストにはなりますが。 (音源でピッチを作る部分でも、だいぶ重要な点を省略して簡便化しています) >  確かに、「普通のパソコン関係の本」とは、「一味ちがい」ますものね、。 > 「自作パソコンの本」とか出して一生懸命部数を上げようとしているのは涙ぐま > しいです(そうでなくても不況で、企業の一括購入の部数が減っていますし)。 パソコン自作の本は、パソコン業界関係でも出ていますが、たいていは、 個別のボードとかを買ってきて自分でアッセンブルする、つまり「電子ブロック」 というか、組み合わせだけです。これは回路技術とかハードウェアのセンスとは 異質のものですよね。そういう意味で、パソコンを改造してメモリを独自に 増設するとか、プリンタポートからROMライタにするとか、そういうトラ技の ようなアプローチは少ないですが、実は重要だと思っています。 そういえば、最近では以下のようなものが要チェックでしょうか。 新たにネタ振りです。誰か、食いついて下さい。(^_^;) <5関節のロボットアームのキット> あちこちで見かけます。5関節か6関節のプラスチック製のロボットアーム で、リモコンでそれぞれ操作できます。リモコンは単なるスイッチで、ここを AKI-H8で制御できる、と考えるとなかなかソソラレます。 (PICか何かの制御マイコンがあったかも...) <マイコン内蔵レゴ> 最近の新しいレゴは、モータだけでなく、制御ブロックが、たしかPICか 何かのマイコンで、WIndows上で簡易言語でプログラムして、赤外線で それをダウンロードできるんでしたっけ。メカもレゴなので自由に作れる というものです。 ちょっと両者がゴッチャになって混乱しています。Computer Musicに関する テーマとしては、数年前に、自動車工場で使われるFAロボットをMIDI制御で 「ダンス」させる、という公演をニューヨークで橋本先生が見てきました。 人間のダンサーと工業用ロボットの競演だそうです。(^_^;) あるいは、より知的な「コッツ軍団」にもなりそうですね。 >  昔はオーム社(白砂昭一先生のモジューラーシンセ自作の本が非常に参考にな > りました)とか、技術評論社、誠文堂新光社、電波新聞社なんかがハード物、 > シンセ物をいろいろやっていましたが、どうなってしまったのでしょうね。 いずれも、ほとんどハード関係は全滅でしょう。「子供の科学」でも、最近 は電子工作なんて載っていないんじゃないかなぁ。最近、トラ技の最初の ところにある電子工作なんて、昔は「子供の科学」で小中学生が作っていた ものですよね。ケースはタッパーで。(^_^;) 時代が進んで、ここまでテクノロジーが退化してきた、という証明かなぁ。 進化でなく退化です。かつて人類は人間を月まで送れましたが、いま現在は 不可能と言われます。ハードを知らないでソフトばっかりやっていると、いずれ 「コンピュータが設計製造してくれたハード(ブラックボックス)の上のソフト しか書けない」というエンジニアも出てくるのでしょうね。ハードが故障したら 修理どころか原因も判らない、という。(^_^;) >  「音源の製作」というのは、やってみるとどんどんハマる面白い世界なのです > が、不思議なぐらい文献がないのですね(特に日本では)。昔はあちこちの高校 > や大学のサークルでやってましたけど、今はロボット関係に比べるとマイナー > なのでしょうか? 確かにGS音源など品質の高いものが安価に入手できるように > なりましたが、「音作り」という点では、まだまだアマチュアにもやることが > あると思うのですけどね。 音源LSIとしてDSPがASIC化された時点で、当時は今のようなFPGAとかGALとか LCAがなかったので、そこで技術的に大きく、プロとアマのギャップが開いて しまったのですね。アナログ時代は、アマチュアの情熱でメーカ製に遜色ない 音源も作れたのですが。 実際には、日本では全てのノウハウが、メーカの特許として秘匿されています。 これは昔の「文献」とは比較にならないほどレベルは高いのですが、なんせ 公開されていないので、知的財産としての貢献はゼロなのです。出願された 特許情報を入手すれば、その部分だけは理屈の上では知ることができますが。 海外では、研究機関からの情報がICMAなどのように公開されています。 そして現在では、大規模FPGA(パソコンで手元で1個から設計して書き込みできる プログラマブルLSI)が、数万ゲート規模まできましたので、音源LSIも作れる ようになっています。ただし、内部的なノウハウが相当にあるので、テーマと してやるには相手が大きすぎるのです。大学の卒論としてはもちろん、修士2年 や博士3年では終わりませんので。(^_^;) そこで大学では、1年程度でできる、「CPUを作る」という方にいっています。 FPGAでZ80とか8086を作る、というのはちょうどいい課題です。オリジナルの CPUを設計する、というのも、修士あたりのテーマの定番です。この場合、 当然ですがコンパイラまで作ることになれば一人では難しいので、研究室単位 のプロジェクトということになりますね。 音源テーマでは、十分に高速化したパソコンで、ハードのことを全て忘れて、 「ソフトシンセ」としてアルゴリズムとプログラミングだけに特化すること で、学生の論文テーマとしてなんとかそこそこの規模になります。音情研でも たまに散見します。中身として客観的に見れば、とてもプロで使えたものでは ないのですが。(^_^;) ということで、希望としては、「作るサウンドエレクトロニクス」を理解して、 独自の音源をハードとして(TTLでなくてFPGAで結構ですので)作る、それも てきれば「MIDIを受けてカラオケ伴奏をする」程度までいけたら、それは 相当に凄いことではないかな、と思っています。この本は教科書として出す、 というのが当初からの目標だったのです。