自然と人間とコンピュータ音楽 長嶋 洋一
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人間の音楽活動のパートナーとして、あるいは人間の五感と機能を拡張するツール として、さらに人間の音楽に新しい可能性を提供するカウンターカルチャーとして のコンピュータについて検討し、世界の状況と最新のアプローチを紹介する。 昨年に続いて2回目となる今回は、京都で開催される地球環境国際会議を意識した テーマとして、「環境/人間」にスポットを当てる。音楽と環境、音楽と自然、 音楽と人間、というような視点からコンピュータ音楽のいろいろな可能性を紹介する とともに、ギリシャで開催されたコンピュータ音楽国際会議の最新状況を報告する。 また今回は、後半をコンサートとして、このために新しく作曲した3作品の世界初演 を行う。いずれもテーマを作品のコンセプトとして意識して新たに作曲した作品で あり、コンピュータ音楽の多様なアプローチの生きた実例として発表する。 コンピュータ音楽とメディアアート
環境と音楽
自然と音楽
人間と音楽
ICMC 1997 (Greece) の報告
- - - - - C O N C E R T - - - - - Brikish Heart Rockfor performances and live computer music with bio-sensorsPerformance : 住本絵吏、佐藤さゆり"Brikish Heart Rock"は、フルートとセンサ奏者の2人のパフォーマーのた めのライヴ・コンピュータミュージック作品である。フルートのパートは コンピュータシステムから独立しており、フルート奏者はアベイラブル・ノート を指示した楽譜から即興的フレーズを演奏する。センサー奏者はタッチセンサ ・パッドと「ミニ・バイオミューズ」という2つのオリジナルのセンサを演奏 する。この作品では、「ミニ・バイオミューズ」のMIDI出力は使用せず、筋肉 から発生する電気信号パルス出力のみを利用している。 この作品の主なコンセプトはロックやジャズのミュージシャンたちの「セッショ ン」の精神である。演奏者は、リアルタイムでMAXのパッチから生み出されるBGM パートとともに、即興的に演奏する。BGMパートは単純な8ビートのロック・ パターンで始まり、16ビートないしユーロ・ビートに発展し、ランダムに変拍子 を挿入する。パフォーマーはこのフェイク・リズムを聞きながら演奏する。 この作品の長さは、2人の演奏者とコンピュータ・オペレータがどのシーンを 続けたりどのブレイク・パターンを即興的に反復してもよいため、不定である。 The Day is Donefor voices and live computer music with spacial sound systemsPerformance : 下川麗子、石田陽子"The Day is Done"は音楽の素材としての「声」に焦点を当てたライヴ・コンピュ ータミュージック作品である。この作品は様々なタイプの「声」――人間の声、 信号処理された自然な声、そしてコンピュータによって作られるマッキントッシュ の声――を含んでいる。ロングフェロウによって書かれた叙情詩"The Day is Done" はその幻想的な音韻とイメージのゆえにのみ用いられている。 この作品の他のコンセプトは、「環境」というキーワードである。川の流れ、滝、 雨、海辺、そして波といった多くの自然音が用いられている。これらのイメージは 屋久島の縄文杉(樹齢7000年)によってインスパイアされたものである。 背景音楽のパートは、予め処理されCDに録音されており、音響信号処理はSGI Indy ワークステーション上のツールとオリジナルのソフトウェアで行っている。 リアルタイムのパートは6台のマッキントッシュ(「スピーク」オブジェクトと ともに"MAX"が作動)と、ヴォーカル(メゾソプラノ)とMacのボタンをリアル タイムで演奏する「コンピュータ・パーカッショニスト」によって演奏される。 2人のパフォーマーはタイミングを調整するためにストップウォッチを用いるが、 即興演奏の自由なフィーリングで演奏する。 Atom Hard Mothersfor performances and live computer music with live graphicsPerformance : 寺田香奈、吉田幸代"Atom Hard Mothers"は「マルチメディア・ゲーム」という概念に焦点をあてた、 ライヴ・コンピュータミュージック作品であり、ライヴ・グラフィックスと ライヴ・ビデオ映像とともに演奏される。 この作品の音楽パートは3つのタイプからなる。背景のサウンドはSGI Indyで予め 処理されCDに録音されたものだが、このパートはコオロギの鳴声だけで作り出さ れている。ライヴのバックグラウンドのパートはMAXのアルゴリズムでリアルタイム に作曲され演奏されるもので、このパートは演奏のたびに異なって演奏される。パ フォーマーのパートは、彼らのセンサ――ハープ・センサ、スネイク・センサ、 ミブリ・センサ――(作曲者自身による製作)によって作り出される。この作品の グラフィックのパートは3つのタイプを含み、これらのソースは演奏とリアルタイム でスイッチされ、スクリーンに投影される。3つのタイプとは、予め処理された 背景イメージ・ビデオ(Hi-8)、リアルタイムで生成されるコンピュータ・グラフ ィックス、そしてステージ上のパフォーマーのライヴ映像である。ただし今回の 公演ではコンピュータ・グラフィクスのパートは都合により省略しており、完全な 形での本作品の発表は、11月24日のコンピュータ・ミュージック・アンデパンダン コンサート(ジーベックホール)で行われる。
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