神戸山手女子短期大学公開講演会

自然と人間とコンピュータ音楽

長嶋 洋一


人間の音楽活動のパートナーとして、あるいは人間の五感と機能を拡張するツール 
として、さらに人間の音楽に新しい可能性を提供するカウンターカルチャーとして 
のコンピュータについて検討し、世界の状況と最新のアプローチを紹介する。   

昨年に続いて2回目となる今回は、京都で開催される地球環境国際会議を意識した 
テーマとして、「環境/人間」にスポットを当てる。音楽と環境、音楽と自然、  
音楽と人間、というような視点からコンピュータ音楽のいろいろな可能性を紹介する
とともに、ギリシャで開催されたコンピュータ音楽国際会議の最新状況を報告する。

また今回は、後半をコンサートとして、このために新しく作曲した3作品の世界初演
を行う。いずれもテーマを作品のコンセプトとして意識して新たに作曲した作品で 
あり、コンピュータ音楽の多様なアプローチの生きた実例として発表する。    

コンピュータ音楽とメディアアート

  • Computer Musicとは(研究テーマの代表例)

    1. 音楽分析(音楽形式・様式、作曲家の特徴抽出、民族音楽の分類)
    2. 音楽演奏情報の表現(データベース、インターネット、楽譜)
    3. 音楽の知覚・認知・鑑賞などの研究(音響心理学)
    4. 音楽の構造解釈のモデル(音楽心理学、認知科学)
    5. 音楽音響(楽器、空間音響、音響信号処理)
    6. 「知的な自動伴奏」、「芸術的な自動演奏」
    7. 音楽の生成(アルゴリズム作曲、作曲支援、演奏支援、セッション)

  • メディア・アートとは

    1. 音楽演奏とは本質的に「マルチメディア」「インタラクティブ」である
    2. マルチメディア(多種メディアの統合)とマルチモーダル(多種のルートから 人間の感覚・感性に訴える)
    3. 視覚的メディアと聴覚的メディアの融合(※「時間」要素が重要)
    4. インタラクティブ性(対話的なしかけ)
    5. 商業的メディア・アート(映画、ミュージカル、ファッションショー)

  • Computer Musicの楽譜

    1. 楽譜の意義と意味(音楽における「作曲」と「演奏」)
    2. クラシック音楽 / 非実時間音楽 における「楽譜」
    3. リアルタイム作曲 / 即興音楽 における「楽譜」
    4. 作品「Brikish Heart Rock」について
    5. 作品「The Day is Done」について
    6. 作品「Atom Hard Mothers」について

環境と音楽

  • サウンドスケープ

    1. 「音の風景」(サウンド+ランドスケープ)
    2. JRの駅の列車発車音
    3. 都市空間を音から構成する
    4. 建築音響 : 残響と反響のもたらす心理的効果
    5. 生活空間BGMとやすらぎ音楽
    6. 人間にとって「音楽の意味」とは

  • インスタレーション

    1. 動きのある造形作品から音の出る造形作品に
    2. 鑑賞者が参加できる「体験型作品」へ
    3. サウンド・インスタレーションとセンサ
    4. Computer Musicとインスタレーション
    5. ICCビエンナーレ・前林作品「Audible Distance」について
      (東京・初台「東京オペラシティ」内NTTギャラリー ICC(Inter Communication Center)にて一般公開の予定)

  • 地球環境的視点での音楽

    1. 石油危機とフォークの復権
    2. バブル景気とロックの復権
    3. 景気低迷とバロックの復権
    4. 高齢化社会と大正琴の復権
    5. 環境問題とカラオケ

  • 屋久島と縄文杉

自然と音楽

  • アコースティック楽器

    1. 電子楽器の新しい潮流「物理モデル音源」(音源方式の歴史 : アナログ→ PSG→FM→PCM→物理モデル)
    2. 自然楽器の特性と歴史(音楽の歴史は楽器の歴史)
    3. 「木」「金属」「皮革」はまったく自然に太刀打ちできない
    4. 楽器のポイント : 演奏者へのリアクションとコントロール性
    5. 楽器のポイント : 演奏技術の修得と習熟の意義
    6. 自然楽器は永遠に不滅

  • 宇宙の音楽

    1. 太陽系の音楽(物理的な記述の作る「調和」の世界)
    2. 宇宙線の音楽(「風の音楽」→飛来する宇宙線をセンシング)
    3. 重力波の音楽 : 時間との戦い

  • 数学の音楽

    1. 音響の物理と数学(基音と倍音、協和・調和と音律)
    2. 音楽理論と数学(和声理論、音楽構造理論、作曲法)
    3. 音楽の統計分析(音楽理論、楽曲構造、音楽様式、作曲家の個性)
    4. 「1/fゆらぎ」音楽(スペクトルのゆらぎが「1/f」になる)
    5. フラクタル数学と音楽(自然界に多いフラクタル : 自己相似性)
    6. カオス音楽(自然界に多いカオス現象)
    7. 調和と黄金分割の音楽(バルトーク)
    8. 確率・統計の音楽(クセナキス)
    9. 偶然性・乱数の音楽(ケージ)

  • 生物の音楽

    1. 植物の音楽(植物にセンサを差し込んで音響に変換)
    2. 動物の鳴き声は音楽になるか
    3. 人工生命(マルチエージェント)による音楽(蟻の群は音楽になるか)
    4. ニューラルネットワークと音楽 : 「学習」のシミュレーション
    5. 遺伝アルゴリズムと音楽 : 「経験と発達」のシミュレーション

  • 生体の音楽

    1. 音楽とバイオリズム(「心理現象」と「生理現象」の科学)
    2. 心拍と音楽(不随意系)
    3. 脳波と音楽(アルファ波、脳活性領域)
    4. 皮膚電位と音楽(ウソ発見器)
    5. 筋電位と音楽(BioMuse)
    6. 生体分泌化学物質と音楽
    7. 遺伝子と音楽(DNA配置を音楽情報に変換)

人間と音楽

  • 音響信号処理

    1. 人間の「聴覚」の不思議(まだ未解決の課題も多い)
    2. ピッチの知覚、音色の知覚、音圧の知覚、音の時間的な知覚
    3. 音に関する錯覚(MDはこれを最大限に利用)
    4. 「声」は最良の楽器(Computer Musicの対象素材としても重要)
    5. 楽音合成(楽器としてのComputer)
    6. 音響処理(広義の楽器としての拡張)
    7. 空間音響処理(空間を楽器として活用)

  • センサ

  • 仮想現実感

  • 感性情報処理

  • 音楽認知モデル

ICMC 1997 (Greece) の報告

  • ICMC(International Computer Music Confrernce)とは

  • ICMC1997紹介の記録ビデオ


- - - - - C O N C E R T - - - - -

Brikish Heart Rock

for performances and live computer music with bio-sensors

Performance : 住本絵吏、佐藤さゆり


"Brikish Heart Rock"は、フルートとセンサ奏者の2人のパフォーマーのた  
めのライヴ・コンピュータミュージック作品である。フルートのパートは   
コンピュータシステムから独立しており、フルート奏者はアベイラブル・ノート
を指示した楽譜から即興的フレーズを演奏する。センサー奏者はタッチセンサ 
・パッドと「ミニ・バイオミューズ」という2つのオリジナルのセンサを演奏 
する。この作品では、「ミニ・バイオミューズ」のMIDI出力は使用せず、筋肉 
から発生する電気信号パルス出力のみを利用している。           
この作品の主なコンセプトはロックやジャズのミュージシャンたちの「セッショ
ン」の精神である。演奏者は、リアルタイムでMAXのパッチから生み出されるBGM
パートとともに、即興的に演奏する。BGMパートは単純な8ビートのロック・  
パターンで始まり、16ビートないしユーロ・ビートに発展し、ランダムに変拍子
を挿入する。パフォーマーはこのフェイク・リズムを聞きながら演奏する。  
この作品の長さは、2人の演奏者とコンピュータ・オペレータがどのシーンを 
続けたりどのブレイク・パターンを即興的に反復してもよいため、不定である。

The Day is Done

for voices and live computer music with spacial sound systems

Performance : 下川麗子、石田陽子


"The Day is Done"は音楽の素材としての「声」に焦点を当てたライヴ・コンピュ 
ータミュージック作品である。この作品は様々なタイプの「声」――人間の声、 
信号処理された自然な声、そしてコンピュータによって作られるマッキントッシュ
の声――を含んでいる。ロングフェロウによって書かれた叙情詩"The Day is Done"
はその幻想的な音韻とイメージのゆえにのみ用いられている。         
この作品の他のコンセプトは、「環境」というキーワードである。川の流れ、滝、
雨、海辺、そして波といった多くの自然音が用いられている。これらのイメージは
屋久島の縄文杉(樹齢7000年)によってインスパイアされたものである。    
背景音楽のパートは、予め処理されCDに録音されており、音響信号処理はSGI Indy
ワークステーション上のツールとオリジナルのソフトウェアで行っている。   
リアルタイムのパートは6台のマッキントッシュ(「スピーク」オブジェクトと 
ともに"MAX"が作動)と、ヴォーカル(メゾソプラノ)とMacのボタンをリアル  
タイムで演奏する「コンピュータ・パーカッショニスト」によって演奏される。 
2人のパフォーマーはタイミングを調整するためにストップウォッチを用いるが、
即興演奏の自由なフィーリングで演奏する。                 

Atom Hard Mothers

for performances and live computer music with live graphics

Performance : 寺田香奈、吉田幸代


"Atom Hard Mothers"は「マルチメディア・ゲーム」という概念に焦点をあてた、 
ライヴ・コンピュータミュージック作品であり、ライヴ・グラフィックスと    
ライヴ・ビデオ映像とともに演奏される。                   
この作品の音楽パートは3つのタイプからなる。背景のサウンドはSGI Indyで予め 
処理されCDに録音されたものだが、このパートはコオロギの鳴声だけで作り出さ  
れている。ライヴのバックグラウンドのパートはMAXのアルゴリズムでリアルタイム
に作曲され演奏されるもので、このパートは演奏のたびに異なって演奏される。パ 
フォーマーのパートは、彼らのセンサ――ハープ・センサ、スネイク・センサ、  
ミブリ・センサ――(作曲者自身による製作)によって作り出される。この作品の 
グラフィックのパートは3つのタイプを含み、これらのソースは演奏とリアルタイム
でスイッチされ、スクリーンに投影される。3つのタイプとは、予め処理された  
背景イメージ・ビデオ(Hi-8)、リアルタイムで生成されるコンピュータ・グラフ 
ィックス、そしてステージ上のパフォーマーのライヴ映像である。ただし今回の  
公演ではコンピュータ・グラフィクスのパートは都合により省略しており、完全な 
形での本作品の発表は、11月24日のコンピュータ・ミュージック・アンデパンダン 
コンサート(ジーベックホール)で行われる。