長嶋洋一
たった今、ICMC1994から帰ってきました。実はこの部分は、成田に 向かうSASの機内で書いています。下の=====からあとは、全て デンマーク行きの機内から書き始めて、現地で毎日書いたものです。 おそらく最後あたりで言い訳すると思いますが、OMRONのおかげで あまりいい文章になっていないのですが(^_^;)、こういう記事は鮮度が重要 ですので、帰宅したらそのままパソコンに吸い上げて、手を加えずに アップすることにします。 <<注意>> なお、この記事は僕の私的な旅行記ですので、そのところを御了承下さい。 文中に登場する実名についてはモデルが実在しますが、あまり真剣に事実確認を しないで下さい。(^_^;) 人間の記憶というのはいい加減なものですから。 また、研究発表やコンサートに感する感想・批評・分析・解説なども全て私的 な独断と偏見に満ちたものであることを御理解下さい。 では、とりあえず、どうぞ。(^_^) ====================================== 一部の皆さん、おまたせいたしました。 ICMCレポートです。 ■バックグラウンド■ 何度か紹介していると思いますが、今年もICMCが開催されました。 僕はこのところ、1991のモントリオール、1992のサンノゼ、1993の 東京と連続参加しているのですが、今年はペーパーの応募も落ちてしまって(^_^;)、 ちょっと無理かな、と半分諦めていました。ところが、Niftyのレポーターとしての 参加という立場で、なんとか今年も参加できることになりました。(^o^)/ これで4年連続参加ということで、過去のICMCの流れと比較したような視点 でも報告できるかと思いますので、参考にしてみて下さい。 なお、サンノゼのICMCについては「音楽芸術」誌と「bit」誌に、東京の ICMCについては「bit」誌にレポートを書いていますので、興味の ある方はそちらも参考にしてみてください。 さて、何と言っても去年のICMC93は、従来の欧米交互開催のパターンを 破る初めてのアジアオセアニア地域の開催、そして実行委員会をはじめとして 音楽情報科学研究会の関係者が実質的な裏方として開催に尽力した、という 画期的なものでした。 これまでICMCに関心の少なかった多くの国内の研究者や音楽家も多数応募 して、ある程度は日本の水準を世界に印象づけられたと思います。 しかし、残念なことに今年のICMCに対する日本人の参加状況は、従来の レベルに戻ってしまい、現地の気候と同様にかなりお寒いものとなりました。 事前に音情研関係から入手した情報によれば、音楽セッションでは音楽情報 科学研究会の幹事でもある志村さんが入選したのが唯一の日本人でした。 (タナカアタウ氏は日系といってもUSAですから。) 論文セッションとしては、志村作品のシステムをデモンストレーションで 発表するのを含めて、イメメージラボから片寄さん・金森さん・井口先生と あと1名、そして昨年は涙をのんだ大矢さんがついに採択、あとは早稲田の 後藤さん、そして早稲田の橋本先生のところからはなんと3件の発表、 というものでした。 また、パネルシンポジウムのパネラーとして、片寄さんと橋本先生がそれぞれ 参加する、という情報もありました。 ここまでの発表者は全て、音楽情報科学研究会のおなじみさんばかりです。(^_^) さらに、これ以外に事前につかんでいた日本人参加者としては、こちらも 音楽情報科学研究会の先日の京都のコンサートでも活躍された中村滋延さんが、 そしてICMAアワードの審査で大阪芸大の上原先生が参加する、という ところまででした。 中村先生の奥様とレポーターの長嶋を入れても十数名、ということで、これは 東京のICMC以前の状況とほぼ同じ、というわけです。 また、例年、某楽器メーカーからは「背広を着てずっと会場後方からビデオで べったりと記録しつつ一言も発言せずに立ち去る」という不気味な行動をとる 人達がいたのですが(^_^;)、夏シンポですら楽器メーカーの社員はほとんど 皆無(R社K社各1名、それも出張でなく自腹参加!)、それなのに元楽器 メーカーが10名にせまる人数で参加していたことを思うと、果たして今年は またやってくるのかどうか、業界の景気を占う意味でも興味がありました。 ■当日まで■ 今年のICMCはデンマーク第2の都市、AARHUSで開催されました。 だいたいこの都市をなんて呼んだらいいのかも不明だったのですが、 「あーふす」 「おーふす」 「あーるふす」 「おーるふす」 「あーるず」 などの諸説が入り乱れました。だいたい、どれでも通じました。ちなみに、 現地ではARHUSと書いて、Aの上に「オングストローム」のマルを添えて いました。 僕は知らなかったのですが、コペンハーゲンというのはヨーロッパ大陸とは 離れた「島」の中にあり、ここから国内線で対岸のAARHUSに飛ぶ、 というのは陸地のデンマークの半島部分に行くことだったのです。 現地のスタッフはなかなか事前の準備とかもしっかりしていて、参加申込に 対してもキチンとアクセプトの連絡が届きました。これは、かなりアバウトな 過去の某ICMC(もちろん東京ではありません)に比べると画期的なのです。 事前に送られてきた7/5の暫定プログラムは以下のものでした。 ========== ICMC 1994 Conference Schedule ========== Monday September 12 10:00-13:00 Workshop 1 : DSP Tutorial 14:00-17:00 Workshop 2 : KYMA Tuesday September 13 10:00-13:00 Workshop 3 : Aesthetics 14:00-17:00 Workshop 4 : Interactive Automata 20:00-22:00 Concert 1 : Cikaada Ensemble Wednesday September 14 09:00-12:00 Paper Sessions 1 10:00-12:50 Posrers & Demonstrations 1 13:00-15:20 Paper Sessions 2 13:00-15:20 Studio Reports 1 15:30-17:30 Concert 2 18:00-19:30 Recception 19:45-20:15 Keynote Address 20:30-22:30 Concert 3 : Performnce & Multi Media Thursday September 15 09:00-12:00 Paper Sessions 3 10:00-12:50 Posters & Demonstrations 3 13:00-15:00 Concert 4 15:30-16:10 Special Talk 16:20-17:40 Paper Sessions 4 16:20-19:00 Posters & Demonstrations 4 16:20-17:40 Studio Reports 2 20:30-22:30 Concert 5 : Royal Danish Ballet 23:00-23:45 Concert 6 : Fireworks Friday September 16 09:00-12:00 Paper Sessions 5 10:00-12:50 Posters & Demonstrations 5 13:00-15:00 Concert 7 15:30-16:20 Special Panel 16:30-17:20 Paper Sessions 6 17:30-20:00 ICMA Banquet 20:30-22:30 Concert 8 : Athelas Sinfonietta Saturday September 17 09:00-12:00 Paper Sessions 7 10:00-12:50 Poster & Demonstrations 7 13:00-15:00 Concert 9 15:30-17:10 Paper Sessions 8 15:30-17:30 Posters & Demonstratios 8 15:30-16:30 Studio Reports 3 17:30-18:30 ICMA general meeting 20:00-22:00 Concert 10 : Aarhus Symphony 22:30-23:30 Concert 11 : Computer-Jazz なお、ここには「リスニングルーム」という毎日のスケジュールは書いて いません。セッションが忙しくて、CD/DATとヘッドホンを提供されても 作品を聴く時間はないのです。 それから、事前に送られてきた暫定コンサートプログラムは以下のものです。 なお、この2枚の資料は行きの機内で打ち込んだものですので、ミススペル 等は御容赦下さい。(^_^;) ========== ICMC 1994 Concert Program ========== Tuesday September 13 20:00-22:00 Concert 1 : Cikaada Ensemble(Oslo) Montague (UK) : Silence ... Truax (Canada) : Sequence of ... Smith (Canada) : Flux Cipriani (Itary) : Visibili Thorsen (Norway) : AbUno Wednesday September 14 15:30-17:30 Concert 2 Pecquet (France) : Cello & Co Taube (D) : Gloriette for Cage Eldenius (S) : Norweigian Fragments Mowitz (USA) I Talk Dalej Dunkelman (B) : Rituellipses Tedde (CH) : Cello Voce Nunez (E) : Jurel Smalley (UK) : Piano Nets 20:30-22:30 Concert 3 : Performnce & Multi Media Wallin (Norway) : Yo Satosi Simura (Japan) : Tikukan no Utyu II Cadoz/Luciani (France) : Esquiness Matthews (Canada) : In Emptiness ... Waisvisz (NL) : Faustos Fchrei Thursday September 15 13:00-15:00 Concert 4 Hamel (Canada) : Obsessed Again ... Ceccarelli (Italy) : Birds Lippe (USA) : Music for CL & ISPW Lunden (S) : Noises Morales (Mexico) : Cempaxuchitl Lee (CH) : YunMu 3 Tanaka (USA) : Overbow 20:30-22:30 Concert 5 : Royal Danish Ballet Ainger (USA) : Lament Wishart (UK) : Tingues of Fire Chen (Hong Kong) : Huang Zhong Pinkston (USA) : Margo's World Pamerud (S) : Jeux Imaginaries Karpen (USA) : Terra Infirma 23:00-23:45 Concert 6 : Fireworks and Computer Music Dhomont (Canada) : Artifices Parmerud/Blomquist (S) : Trio,target Friday September 16 13:00-15:00 Concert 7 Phelps (USA) : Sax Houses Gobeil (Canada) : Le Vertige Inconnu Norman (UK) : Trilling Wire Stammen (Canada) : Tuva! Rahn (USA) : Sea of Souls Gawad (Egypt/USA) : Taqaseem No.2 Penrose (USA) : Manwich Alford (USA) : IMAGE:the Pop Can 20:30-22:30 Concert 8 : Athelas Sinfonietta (Copenhaagen) Jaffe (USA) : Seven Wonders Saariaho (Finland) : Winter Aconites Frounberg (DK) : SHaTaLe Fredrics (USA) : The Raven's Kiss Hojsgaard (DK) : Nocturne Saturday September 17 13:00-15:00 Concert 9 Pennycook (Canada) : Praescio-III Roy (Canada) : Crystal Music 1 Nelson (USA) : Waves of Refraction Normandesu (Canada) : Spleen Favilla (Austria) : Improvisations Austin (USA) : !Rompido! Vinao (USA) : El Simurgh, book II 20:00-22:00 Concert 10 : Aarhus Symphony Giroudon (France) : Double 3 Bevelander (USA) : Synthecisms no.4 Kats-Chermin (Austria) : Clocks Lanza (Canada) : Piano Concerto Hauksson (Iceland) : Bells of Earth 22:30-23:30 Concert 11 : Computer-Jazz Strange (USA) : Velocity Studies IV Berg (D) : Loops, Lines ... Nilsson (S) : Random Rhapsody Fuzzy (DK) : ICMC 1994 Surprise Installations Bosch/Simons (NL) : Electric Swaying Orchestra Gronlund/Tin (DK) : Hybrid Band Keane (Canada) : Sound Lodge Svalkeapaa/Nousianinen (SF) : Half-deaf 去年の東京ではなかったのですが、コンサートセッションでは現地の開催主体 が推薦して演奏される、という、いわゆるセレクションを通っていない特別 なものもある場合があるのですが、今回はヨーロッパ、特に北欧の若い作曲家 を紹介しようというのか、けっこう「招待公演」がありました。 また、全体としてヨーロッパが多いのが目立ちました。 イメージラボでは、志村さんの作品「竹管の宇宙II」のヨーロッパ初演に 向けて、機材のコンパクト化と現地調達Mac対応化が着々と進み、リハを 含めて機材送付までの準備も無事に進みました。 現地スタッフからは、リハの時間割とか機材到着の連絡などの電子メイルが 刻々と届きました。 ....そしていよいよ、9月中旬、ICMC本番となりました。 ■いよいよデンマークへ■ イメージラボの一行は井口先生を除いて一日早く出発していること、中村先生 たちは「青春の地ドイツ」を経由してだいぶ前から出発していることは知って いました。 僕はこれまで、何故かヨーロッパには行ったことがなかったので、初めての 訪欧ということだったのですが、まぁそれ程トキメクということもなく、 浜松を朝7時の「ひかり」で東京へ、そしてNEXで成田空港へと淡々と 向かいました。前日の台風も遠くに去ってくれてよかったよかった。(^_^) SAS(スカンジナビア航空)については、早稲田から今はイギリスに行っている 板垣さんから「いろいろトラブルに遭ったから避けた方がいい」というメイルを もらっていたものの、コペンハーゲン往復で国内1箇所乗り継ぎサービスもある ということで、結局SASにしました。 搭乗手続きも通関も快調に進みましたが、いざフライト時刻になって「シベリア 上空が混んでいるので30分ほど待つ」との機長アナウンスがあった時には、 なんか嫌な予感がしました。 まあ、あとは11時間半ほどのフライトだったわけですが、なんと機内で、実は 大矢さんと後藤さんも一緒であることが判明しました。それでなくても到着が 遅れて、乗り継ぎの国内線に間に合うかどうか不安だったために、3人が 3人ともホッとしました。(^_^;) ...ということで、出発が遅れたために30分ほど遅れてコペンハーゲンに 到着しました。ところが僕のはスムーズに出てきたものの、大矢さんと後藤さんの スーツケースがなかなか出てこなくて、もう乗り継ぎはアウト!という時間に なりました。そこでサービスカウンターに鼻息荒く交渉に行くと、そこの おばさんは悠然として、 「17:30の乗り継ぎ便はありません」。(^_^;) もはや出てしまったかとぎょっとしてさらに聞くと、なんと 「今日はストでまったく飛んでいない」 ということだったのです。国際線は正常に海外の客を運んできても、そこから 乗り継ぐ国内線がまるで止まっているのでした。そういえば、なんとなく 天下のコペンハーゲン国際空港にしては閑散としています。(^_^;) 結局、その夜の最終便だけが飛ぶのでチケットを切り替えしたから、国内線 の空港に移動して待っていなさい、ということになりました。 なんと5時間後です。(^_^;) あとから考えれば、この5時間というのは、天から降ってきたコペンハーゲン 観光のチャンスだったのですが、なんせその時点で日本の感覚で言えば深夜の 0時頃で眠くてボケていて、僕たち3人は国内線への乗り継ぎバスに乗って あっさりと国内線空港に行きました。ショッピングとか食事でも、ゆっくり しましょう...というノリでした。 しかし、着いてから気付いたのですが、国内線がストで飛んでいない空港 ということは、国際線よりもさらにシーンとしていたのです。(^_^;;) さすがに簡単なテイクアウトの食事もある売店が営業していましたが、 それだけのところで5時間待続ける、ということになりました。 空港の外は小雨がパラつく気温15度、どこに行くところもなくウロウロと していると、やがて早稲田の橋本先生が登場しました。なんでも、ニューヨーク からロンドン経由で25時間かけてたどりついたそうで、僕たちが乗ることに なった国内線の飛行機に乗るように最初から予定していたのでした。 とりあえず3人が4人になり、それも世界を股にかける橋本先生とも合流した ことで安心し、僕たちはウトウトしながら22:30を待ちました。そしてようやく 念願のフライト。なんのことはない、飛んでみれば30分ほどでAARHUSに 付き、そこから市内へのバスで45分、その駅前のホテルにチェックインしたのが ちょうど24:00でした。本来なら19:00過ぎの筈で、日本はもう朝になっています。 ようやくそこから泥のように眠って、デンマークの初日が終りました。 <教訓>航空会社のトラブルには冷静に対応しよう(^_^;) ■いよいよICMC開始■ さて翌朝、まるで起きてくる気配のない橋本先生を置いて、僕と大矢さんと後藤 さんの3人は、ホテルからすぐのコンサートホールに行きました。パンフレット に写真があったものの、本物はもっとキレイでした。なんとも文字では説明 しにくいのですが、ガラス張りの垢抜けた素晴らしいホールで、いわば 「魂があって仏を作った」というようなものです。芸術の盛んなデンマーク の中でも、このホールはオーケストラやダンスなどの活動の拠点のようです。 まだRegistrationは開始していなかったので、3人で近くのOld Town Museum を「観光」して、午後に会場に行って参加登録を行いました。といっても、 すでに割安のEarly Registrationをしてあったので、例のズッシリと重い 論文集を含む受け付けキットを受け取っただけです。 ここでは上原先生と出会い、そして音楽情報科学研究会でも2度発表した Ioanis Zannosさんに1年ぶりで再会しました。東大先端研で研究していた のですが、今はヨーロッパに戻っているとのことで、日本人の奥さまも一緒 でした。そういえば今回のICMCは、なんだか奥さんを連れてきた人が 多いみたいです。さすがヨーロッパの名所デンマークですね。東京では 少なかったですが。(^_^;) 受け付けキットには、今回のICMC参加者リストも含まれていました。 国別になっていて、なんと「日本」にはホンコンの人たちも含まれているのに 驚きました(^_^;)が、そこから今回の日本人参加者が判明しました。 以下の皆さんです。(リスト順) Masataka Goto (Waseda Univ.) Pitoyo Hatrono (Waseda Univ.) Shuji Hashimoto (Waseda Univ.) Miki Horii Youichi Horry (HITACHI) Seiji Inokuchi (Osaka Univ.) Yoshimasa Isozaki (YAMAHA) Tsutomu Kanamori (LIST) Haruhiro Katayose (LIST) Ueda Mamoru (Waseda Univ.) Koichi Matsunuma (Kunitachi College of Music) Sachiko Mokusho (Kunitachi College of Music) Yoichi Nagashima (Art & Science Laboratory) Shigenobu Nakamura (Kyoto College of Art) Ken-ichi Ohya (Nagano National College of Tech.) Minoru Ono (HITACHI VLSI) Takayuki Rai (Kunitachi College of Music) Satoshi Simura Osaka University of Arts) Yokoyama Taiichi (LIST) Toshiyuki Takeda (Kwansei Gakuin Univ.) Taizo Tsuruoka (SONY) Kazuo Uehara (Osaka University of Arts) なんと22人。ご立派でした。さらにここには、板垣さんのように海外から 参加する日本人もいるのですから。 そういえば音楽情報科学研究会の常連としては、日立中研の堀井さんも参加 していたのでした。一緒の堀井さんというのは奥さんのようです。 あと、莱さんと国立の学生さん2名、さらにヤマハ日立ソニーなど、さりげなく 増えているところがウレシイと思いました。今回はついに、ローランドは いないのでしょうか。(^_^;) 一旦ホテルに荷物を置きに帰り、そこから2人はさらに観光でしたが、僕は 参加登録していた午後のワークショップに行きました。 ■Workshop IV : Interactive Automata■ 4つあるうち、唯一参加したのがこのワークショップでした。もともとICMC のワークショップというのは、ベテランの研究者だけでなく、新しくこの世界 に入ってきた学生などの視野を広げる、それと同時に その分野のバリバリの権威の解説に触れる 他分野の専門家がなにかヒントを得る という機会として、若手から大御所まで、興味と熱意のある人々が集まる という独特の関連イベントなのです。 講師はヘビー級のジョージ・ルイス氏。ジャズの人です。 今回はレジュメもなく、ひたすら早口でしゃべり倒されて、ちょっと英語に ついていくどころではなかったのですが、個人的には大いに得るところが ありました。 ここではキーワード的に、このワークショップで登場した言葉を、僕のメモ から以下に紹介しておきます。 Algorithmic Composition + Improvisation Emotional Transduction Improvisation = Generating Structure materials tools goal plan strategy memory personality motif learning timber control local announce community framework local intelligence 本当は、ここで参加者を交えて全員が実際に体験した「ある実験」の話を したいのですが、あまりにオイシイので、どこかで実践してから報告する ことにします。(^_^;;) 嵐のように飛び交った英語の議論はほとんどわからなかったのですが、自分 なりに興味のあるテーマだったこともあり、来年に向けてのネタとか、いま 現在やりつつある作品にも参考になるネタを多く仕入れることができました。 ■コンサート1■ Tuesday September 13 20:00-22:00 Concert 1 : Cikada Ensemble(Oslo) ICMCの正式な内容としてはワークショップはカウントされませんから、 例年通り、このコンサートはICMCのオープニングとなりました。ホール 前にはなつかしい人達がたくさん集まりました。 このコンサートは、Cikada Ensembleという現代音楽を得意とする室内楽の メンバーが中心となったために、ほとんど「いわゆる正統的な現代音楽」が 中心となりました。 なお、以下のプログラム順は本番で実際に演奏された順番です。 Stephen Montague (UK) : Silence: John, Yvar & Tim タイトルの通り、ここ3年以内に亡くなった友人に捧げて作曲された作品 のようです。弦楽4重奏にピアノとエフェクタとテープを使った作品で、 なんといっても最初の部分は圧巻でした。弦楽器を打楽器として使う、と いえばそれまでですが、バイオリンを股にはさんで指で叩く、という単純な 演奏法で、いいビートを刻んでいました。ちなみにピアノはプリペアード にしていて、低音を除いてまともな音は出ないようにしてあります。 もっともこれはチェロなども同じで、でかいクリップで弦を4本とも挟んで 鳴らないようにしていました。 けっこう和音はポップで、リズムもポップで、聴きやすい音楽でした。 生身の人間のアンサンブルらしく、全体のクレシェンドやデクレシェンド のなめらかなこと。(^_^) Ronald Smith (Canada) : Flux フルート、クラリネット、バイオリン、チェロ、シンセ+銅鑼、パーカッション に指揮者という編成の作品で、ビブラホンは弓で弾く、というありがちな 演奏法でした。 これもまともな現代音楽で、個々の演奏者の技巧もアピールし、12音技法 的なところはきっちりと12音していました。 SY77は単にベルの音を鳴らしていただけで、どうやら「たまたまそこに あったMIDIキーボード」ということで使われていたようです。(^_^;) Alessandro Cipriani (Itary) : Visibili 2人のバイオリンとテープのための作品。二人のバイオリンのピチカート演奏 とともに、テープでもピチカート音を素材として処理された音響がかけ合う、 というスタート。ところがやがてテープの音響はピチカート音のリピート速度 が次第に速くなり、ついにはバースト周期の別の音響となって溶けていく、 というものです。これは、いわばグラニュラーサンプリングに近い手法です。 曲の最後には、二人のバイオリニストがステージの後ろに立ち去り、あとは テープの音響が分厚く残りましたが、ここで二人の映像をステージ後方に 映写したのには笑いが起きていました。 Thomas DeLio (USA) : anti-paysage フルート、ピアノ、パーカッション、テープのための作品。 スタートはフルート奏者がヘッドホンのドンカマでテープと合わせる、という 古典的な形式でした。 「沈黙」「間」の多用された作品で、なかなかの緊張感が漂いました。 たとえばテープから2秒間だけ音響が出て、そのあと15秒の空白のあとに 1秒だけ演奏してまた20秒の空白...といった音楽です。 ただ、ここのところのICMCで忘れられていた「生理学的にアブナイ音」 というのが久しぶりに登場しました。(^_^;) キーンと耳に突き刺さる高音がそれで、客席では多くの人が、このキーン がフェイドインしてくるとすかさず耳を両手で被う、という、かつての ICMCでよく見られた正統的な聞き方が復活しました。 作品の最後はこの空白がさらに長くなり、最後は1分近くの沈黙で終了、 というのが見事に読めました。 Barry Truax (Canada) : Sequence of Later Heaven またまた、グラニュラーシンセシスの権威のTruax先生の、重厚で美しい グラニュラーサンプリング音響を聴くことができました。 満足です。(^_^) Lasse Thorsen (Norway) : AbUno バイオリン2名、ビオラ、チェロ、フルート、クラリネット、パーカッション、 シンセに指揮者という、アンサンブルを全員活用しての、まともな現代音楽 でした。フィボナッチ数列などいろいろな数学を駆使して音程などを決定 したという、かなり伝統的な作曲手法の作品ですが、これならコンピュータ どころか電卓、いや手計算でもできるなぁ...という下馬評でした。 まぁ、アンサンブルの技量そのままフューチャリングしたということで、 うまくできた作品でした。 ...ということで、いきなり最初から現代音楽のフルコースのような晩 になりました。まだ時差ボケの残る身にはややつらかったかもしれません。 ホテルに戻ってこの記事を打ち込んで、またまた0時になってしまいました。 .....さて、翌日からはいよいよ、ICMCのもう一つの柱であるペーパーセッション が始まりました。 基本的にシティホールとBrobjergという2つの会場での2パラレルセッション なので、同時に行われているセッションの片方しか参加できません。さらに、 どうしても聞きたい発表はセッションの途中で抜け出して、徒歩5分ほどの もう一方の会場まで急ぐ、ということになりました。 また、さらにコンサートホール内の2つの会場でもポスターセッションと デモンストレーションセッションが進んでいる、という鬼のような状況 でした。(^_^;) ポスターやデモで見たいものがあれば、なんとか時間を作って会場に駆けつける のですが、朝イチではセッティングができていなくて待たされたり、デモ時間 として掲示されている時間は他に行く予定があったりして、なかなか十分に 行きたいところで収穫を上げることはできませんでした。 それで、以下に報告するのは、あくまで僕が興味のあるセッションということに なります。 他のセッションの報告については、大矢さん片寄さん後藤さんたちのレポート を待ちましょう。(^_^;) ■ペーパーセッション1B■ Wednesday September 14 09:00-12:00 Paper Sessions 1B : Brobjerg Johannes Goebel,chair [Performance Interface] Toward a new model of Performance Mon-chu Chen 視覚的要素を入力としてグラフィクスを創造する画家の生成プロセスと、 聴覚的要素を入力としてサウンドを創造する作曲家の生成プロセスとを 入れ換えたらどうなるか? というなんとも素朴というか乱暴な発想から スタートしているらしい研究で、まだ構想だけという台湾の学生の発表 でした。(^_^;) 具体的なモデルとして、 Video Source Module Video Digitizer Module Video-Audio Transformation Module Sound Generation Module という4種類のモジュールからなるプロセスをモデル化して、ここに ビジュアル情報を食わせてサウンドを生成させよう、という無謀な発表 に、なんとも会場の反応はやや冷やかなものでした。とりあえずは 「ゴッホの絵を音楽にしてみる」という次の成果を期待しましょう。 (ただし僕はここで、関連した「次へ」のネタを2つ、ノートにメモしています) A Meta Trumppet(er) Jonathan Impett 志村さんのために作られた「サイバー尺八」と同様の、トランペット版の 開発報告でした。 トランペットから単にピッチtoMIDIでセンシングするだけでなく、 3次元位置センサでトランペットを振り回す位置に追従し、ブレスセンサで 息の量をセンシングし、ピストンの底にホール素子を入れて微妙な ピストンの運動を拾う、というものでした。 これも志村さんの場合と同様でしたが、デモのテープを聞いた感じでは、 結局は演奏者しだいだなぁ、という感想でした。(^_^;) この次は早稲田の発表だったのですが、すでによく知っているのと、ポスター を見る時間が他にとれないために、涙をのんでここでスキップしました。 ■ポスター/デモンストレーションセッション■ Wednesday September 14 10:00-12:50 Poster & Demonstrations 1 Real-time Spectrum/cpstrum games Peter Pabon タイトルからしてソソラレル発表だったのですが、行ってみるとまだパソコン を立ち上げているところ(パソコンはノート版のPC互換機でした)で、 結局はデモに参加できませんでした。残念。 内容はどうやら、タイトル通りのもののようです。 MacMusic: the MUSIC N Environment for Macintosh Isidoro Perez まだ今でもMUSIC Nなんてやっている人もいるのか、と感心しました。 一応、アカデミックサンプルとしてPDSを送ってもらうように頼みました。 (森さん、解凍とかの方法を教わりに、いずれいきますからね) どなたか、やってみる人はいませんかねぇ。 A Graphical Interface for SVP on the Macintosh Platform Philippe Depalle, Chris Rodgers, Marie-Helene, Alain Lithaud SVPというのはフランスIRCAMで開発された音声合成支援環境です。 実際には、これも時間が合わなくて見れませんでした。 The MARS Station: Algorithm Design and Real-time Performance Enzo Maggi, Fabio Armani MARSというのは、まだやっているのか、という恐怖のイタリアのグループです。 詳しくは過去のICMCプロシーディングスを読んでください。 ほぼそのまんまです。(^_^;) ....ここで、デモから戻ってセッションの後半に再び合流しました。 ■ペーパーセッション1B■ Wednesday September 14 09:00-12:00 Paper Sessions 1B : Brobjerg Johannes Goebel,chair [Musical Language] Lambda Calculus and Music Calculi Yann Orlarey, Dominique Fobber, Stephane Latz, Mark Bilton ラムダ関数というのを定義して、数学的に音楽を生成する、という典型的な アルゴリズミックコンポジションの紹介でした。 この特徴を一言で言えば、 階層的 オブジェクト指向的 再帰的 な多くの関数を組み合せて記述に使おう、というもので、僕も関心のある フラクタルの記述には本質的に向いています。そのものズバリではないの ですが、この発表の最中にノートに2件も新ネタのアイデアを書きました。 ただし惜しかったのが、Macによるカラースライドでグラフィックを 例に説明した時は面白そうだったのに、具体例としてNoteレベルに 置換して表現するとドッと地味になってしまうところです。 せめて、実際の音響として一部でも聞きたかったところでした。 Abstract Time Warping of Compound Events and Signals Roger B. Dannenberg 誰もが注目するダネンバーグの今年の発表は、やや気抜けしたものでした。 あらゆる音楽情報に対して作用させる「タイムワープ」という概念は 面白いと思うのですが、最後に聞いたデモがあまりにもチープだったので がっかりしました。(^_^;) 考え方としては、システムに記述される「論理的時間」(簡単には楽譜の イメージ)と「リアルタイム」(演奏における実際の時間)とのマッピング 関数、ということなのですが、 Shift Strech という2種類の関数を基本として規範的に構築する、というものでした。 人間のリアルタイムの演奏から逆関数としてまず時間抽出して、それを さらに関数に代入してコントロールタイム関数の値を得る、というのは、 楽音合成のAnalysis-Resynthesisを思わせるものでした。 会場もフンフンとうなって聞いていたのですが、それだけにデモが残念 でした。 ...ここでお昼となり、僕は一旦SASのオフィスに行ってストの状況を聞いたり しましたが、まだストは終っていない、ということだけで、なんとも帰国に 不安を残したままとなりました。 ■ペーパーセッション2A■ Wednesday September 14 13:00-15:20 Paper Sessions 2A : City Hall Adrian Freed, chair 午後はICMCの一つの「華」である楽音合成のセッションだったのですが、 これがなんともお寒いセッションでした。今回のICMCで最初に体験 した、まぎもない今年のトレンドの第一は「楽音合成の不作(凶作とまでは まだ言えませんが)」でした。 [Additive Synthesis] A Multirate Optimisation for Real-time Additive Synthesis Desmond Phillips, Allan Purvis, Simon Johnson 最初の発表は、楽音合成の永遠のトップスターである加算合成について、 規模とコストの点での欠点を補うためにマルチレート化して、オーバースペック な部分を出さないように効率化しよう、というものでした。 確かに経済的にはわかるのですが、基本的に「いいものには代償を惜しまない」 というICMCの暗黙のポリシーからすると、別にそれほど新しいアイデア もなく、単に経済性のために技巧を凝らしてみただけ、という「後ろ向き」 の姿勢に会場も冷やかでした。(^_^;;) 僕はディジタルフィルタのアルゴリズムなどはなかなか面白いと思った のですが、リアルタイムのレスポンスが悪くて(5.8msec)、VLSI化には あまり向いていなくて、それで7倍程度のパフォーマンス、というのは やや許せないかな、と思います。 Neural Networks for Musical Tones Compression, Control and Synthesis Roberto Bresin, Alessando Vedovetto 音色の特徴パラメータとしてfloatの値をとる入力ノードが3ノード、 隠れ層として10ノード、そして出力24ノードを何にアサインして ニューラルネットを使ったか、と思ったら1倍音から24倍音までの強度 でした。(^_^;) これには僕や大矢さんでなくても誰でもアキレルところで、会場には明らかに しらけ鳥が飛んでいました。 ちなみに、僕は途中からノートへのメモを内職モードに切り替えました。(^_^;) [Sound Synthesis] Control of Frequency and Decay in Oscillating Filters using Multirate Techniques Frode Holm Karplus-StrongのStringモデルに関して、再帰的フィルタをリサンプリング して周波数とディケイレートをコントロールした、というものなのですが、 これも会場は冷たかったです。なんせ、質問ゼロで何もなく終る、というのは きわめて稀なことで、僕には「もーいいから終れ」という英語の独り言が あちこちからテレパシーで感じられました。 なんといっても、デモのテープで比較して、明らかにこの手法の方が音が 悪いのですから...。 ただし、僕もサンノゼのICMCの時にスタンフォードのブックストアで 買ってきた、Mooreの教科書をReferしてアルゴリズムを拡張しているあたり、 まだまだこの教科書には未開の宝庫が眠っているのかなぁ、とちょっと反省 しました。 ......実は、必要なところだけで、まだ全部は読んでいないのでした。(^_^;) Circulant Feedback Delay Networks for Sound Synthesis and Processing David Rochesso, Julius O. Smith フィードバックループを複数個並べて、パラメータ行列をかましてディレイ 系列ごとに相互作用をもたせよう、というなかなか面白そうなアイデア の楽音合成・信号処理手法です。 行列のとろをニューラルネットにするだけで、来年に応募できそうです。(^_^;) 僕はここから自分のアイデアに引き込んで、ここでも新ネタのメモを2つ 書いたのですが、デモは悲惨でした。 単なるリバーブで、違いがほとんどわからなかったのです。 こうして見ると、残念ながら今年のトレンドとして「楽音合成の低迷」という 傾向がハッキリしました。新しいアイデア、新しいアルゴリズムでさえ あれば、デモの音質が悪くても皆んなは注目して、議論して、コメントもくれる のですが。 単なるアレンジやGUIやコントロールものでは、会場は冷たいのも当然でしょう。 WSでもパソコンでも、DSPやソフトで自由に音響合成できる環境になってきた というのに、ここにのせるべきソフト/アルゴリズムがない、というのは 寂しいことです。 逆に言えば、この状況はチャンスです。 荒木さんのように実験的に音響合成アルゴリズムを試せる環境にある人は、 ここで荒削りでもなにか、ひと山当てるというのはどうでしょうか。(^_^;) おそらく、しばらくは楽器メーカからも何も出てきませんから、ここはアマチュア がなにか新しいアルゴリズムを発明してPDS化してしまいましょう。 Real-time Synthesis on a Multi-processor Network Takebumi Itagaki, Allan Purvis, Peter D. Manning セッションの最後は、板垣さんが発表したイギリスのグループです。 イギリスの、というのはここでは必要条件でした。 なんせ、インモス社のトランスピュータを4*4で16個搭載したボードを 10枚使って、1400MIPSの力ワザで加算合成をする、という 鬼のような物量作戦なのでした。(^_^;;;;) デモとして、88音ポリのオルガンを構成して、32KHZサンプリングで752個 のオシレータを使って倍音成分にダイナミックアサインしていました。 デモがコヒーレントなオルガン音だった(せめて、倍音が別個にエンベロープ を持つピアノにして欲しかったです)ためだけというのでもないでしょうが、 会場はなんとなく静かだったようです。(^_^;;) ...ということで、従来のICMCでは一度もなかったことなのですが、 僕はやや重い足取りでコンサート会場に向かいました。 ■コンサート2■ Wednesday September 14 15:30-17:30 Concert 2 このコンサートでは、当初予定されていた1件がキャンセルになり、代わりに Interactive AutomataのWorkshopでスピーカをしたGeorge Lewis氏が自らの 作品を演奏したのですが、これでかなり「儲けた」コンサートとなりました。 こういうハプニングも、いいものです。(^_^) Frank Pecquet (France) : Cello & Co. フルート、ホルン、チェロとエレクトロニクス、という編成の作品で、タイトル 通りチェロのスキルをフューチャリングしたものでした。 システムとしてはおそらくISPWをリアルタイムに使って、ピッチシフトや ストレッチ、エフェクト、リバーブなどをかけていました。 (もっともこれはICMC的な好意的な解釈によるもので、普通のエフェクタ を使ってMAXでコントロールとても、ほぼ同様のことはできます。) 全体としていいバランスの模範的な現代音楽で、「生楽器のよさ」を あらためて実感しました。 なお他の作品も全てそうですが、プログラムのライナーノーツを事前に読んで しまうとテクニカルなレポートになってしまうことに懲りたので、今回は 演奏の前には(実は後でも(^_^;))、プログラムの能書を読んでいません。 つまり、僕の見立ては間違っているかもしれないのですが、今回は「そう 聴こえた」という予備知識ナシの印象を全体として書くことができたと 思います。 Heinrich Taube (Germany) : Gloriette for Cage 足踏みオルガンの音を素材として次第に厚くしていった、ポップなテープ 作品。ジョンケージのCAGEという音列をモチーフにアルゴリズム作曲 していますが、全体は次第に一気にもりあがるだたけの4分間。 変化するミニマルミュージック、そして瞬間芸(^_^;)の世界でした。 Magnus Eldenius (Sweden) : Norweigian Fragments 北欧の民俗楽器らしい、<弦の多いバイオリン>とテープの作品。といっても、 テープの部分の音素材にそのHardanger Fiddleという楽器の音を使っている だけで、演奏者はエンエンとテープの音楽があった最後のあたりで、テープと 合わせて弾いただけでした。 これは日本の民俗音楽の素材を使っても同じように感じるですが、いわゆる 西洋音楽とは異なった枠組の音楽というのは、その素材をバラバラッと ばらまくだけで「いい雰囲気」が出てくる、というポイントを再確認しました。 そしてこの曲では、全体としてツェッペリンのサウンドを彷彿とさせました。 根がプログレの人間にとっては、うれしい時間でした。(^_^;) Ira Mowitz (USA) I Talk Dalej かなり長いテープ作品。 隠れプログレが聞けばプログレだと叫ぶようなプログレ風の聴きやすい音楽 で(^_^;;;)、能書はどうあれポップな音楽でした。 効いた限りでは、MIDIシーケンサとシンセとエフェクタで多重録音すれば できる音楽なのですが、ICMCとはもともと、そういうものなのだ、と ここで改めて悟りました。 コンピュータと名がつくからといって、 アルゴリズム オリジナルのプログラム オリジナルのシステム/ハード などが必要である、などということはないのです。 現代音楽がかつて「電子音楽」「デープ音楽」としてやってきたことを、 ハードディスクレコーディングのコンピュータを単なる装置として使って実現 しても十分だし、MIDIのシーケンサとシンセと市販ソフトでも十分なのです。 いまだに主流としては現代音楽やフリージャズ(この両者はボーダーレス) が多いようですが、別にポップスやロックを禁止しているわけでもないのです。 まあ、カモンのソフトとSC55でICMCの音楽セッションに応募して通る としたら、それはそれでかなり画期的なものですが、アルゴリズム作曲の中には この環境でできる作品も通っていますから、不可能ということではありません。 Stephan Dunkelman (Belguim) : Rituellipses 自然音とパンポットと「間」を駆使した、伝統的なICMCらしいテープ 作品でした。毎度毎度、こういう作品が必ずあります。(^_^;) ...このような感想記事では何も作品の内容が伝わらないのはわかりますが、 結局は音楽なんて文字で伝わるものではないですし、まぁそんなものです。(^_^;) George Lewis (USA) : Voyager この作品は、直前にキャンセルになった別の人の代打として急遽やることに なったらしいのですが、これは実にラッキーな変更となりました。(^_^) さすが、インタラクティブ・オートマタのワークショップでエンエンと能書を 語り倒すだけのことはありました。自分でトロンボーンを吹いて、システム 内マルチエージェントは相互にもソリストとも作用し合って、見事な テンションのフリージャズを実現できていました。 まずトロンボーンを持ってルイス氏がステージに登場、いきなりパワーブック をクリックして、ドラム・ベース・管・弦などのBGMが始まりました。 といっても、リズムとかビートの感じられない断片的な羅列で、もしかしたら 何かトラブルがあるのかな?と思わせるスタート。そしてルイスはトロンボーン を吹こうと持ち上げるやいなや、「Oh...」と言ってステージのそでに 引っ込んでいってしまいましたが、シンセはそのまま鳴っています。 実はソフトウェア内の複数の演奏エージェントは、それぞれ独自に勝手に 他のパートやソリストの様子をうかがいながらも自分で好きなことをする、 というものなので、勝手に走らせておけばそれでちゃんとフリージャズに なっているのでした。 そでから出てきたルイスのトロンボーンには、ちゃんとワイヤレスがついて いました。これを付けにいっていたので、別にこれはパフォーマンスでは なかったのです。(^_^;) 自分がジャズプレイヤーでもありソフトも書いてしまうルイスの作った 演奏エージェントですから、ルイスがジャズのインプロビゼーションとして 期待する「性格」はことごとく入っています。たとえば、 他の人を聴く 他の人に合わせる 他の人とわざと合わせない(イケズー...) 勝手に仕掛ける ドンととこられたら一瞬おとなしくなる ドンとこられたらガンと返す 他からのモチーフをエコーする 他からのモチーフを変形して返す ちょっと遅れて返答する 同じ音程で合流する ハーモナイズして返す 同じフレーズを倍速のリズムで刻む 音量の盛り上がりに追従して大きくする あまり回りが大きくなってきたら休んでしまう 他のパートと「次はどちらが出るか」にらみ合う しばらく様子を見る 誘いに乗って盛り上げる 敢えて誘いに乗らない(^_^;) しばらくテンションが高かったので疲れた そろそろ終りにしたくて音を減らして様子を見る などといった、ミュージシャンなら当り前の多重人格を持たせているみたいです。 (上に書いたのは僕の勝手な解釈の例で、これはワークショップでのルイスの話 を含めたものです。実際にはどうかは知りません。) このような連中と、ルイスも完全にフリーにやりあって、全体としてテンション の高いアドリブが実現された、というものでした。当然ながら、エンディング は全体の収まったあたりでルイスがMacをクリックすると、なんとなくそれっぽく 終りました。(^_^;;;) ......「スゴイ」の一言。これがタダとは儲けました。(^_^) Adolfo Nunez (Spain) : Jurel フラメンコの音素材を駆使した、コンピュータミュージックでやるとこうなる、 という現代のフラメンコでした。僕は個人的には好きでした。 ただし、さすがにスペイン人でないとここまでは作れないかもしれません。 やはりコンピュータミュージックでは「音素材」として自然音を使うと いいなぁ、とまたまた感心しました。これからはHDレコーディング、さらには HDレス(全部RAM)になって、ますます使われることでしょう。 コンピュータは便利なサンプラーになってきたというわけです。 Denis Smalley (UK) : Piano Nets ピアノがテープを聞いて合わす、非インタラクティブ作品。 今年もまたまた登場の某ピアニストおじさんに助けられて、名演となりました。 まったくソリスト次第だなぁ、とまたまた思い知りました。 ■レセプション■ Wednesday September 14 18:00-19:30 Recception ICMCでは、レセプションというのは開催主体が参加者に無料でサービス する簡単なパーティで、バンケットというのは有料の懇親会ということに なっています。中身はいずれも単なる飲み食い会です。(^_^;) デンマークの通貨はDkk(デンマーククローネ)というのですが、日本円で 15円くらいで計算していました。そして最初は参加するつもりのなかった バンケットも、270Dkkと結構安かったので、今年は参加することにしました。 レセプションの場となったホールのホワイエで、僕はグラニュラーシンセシスの 権威のBarry Traux教授とようやく話をすることができました。 なんせあまり英語がうまくないので、100%内容をつかめたわけではないの ですが、システムの話(CMJを読みなさいと言われました(^_^;;))、作曲の手法 などの有意義な情報を仕入れました。これはマル秘ですね。(^_^) こちらからも、いずれグラニュラーシンセシスの聴取心理実験をしてみます、 と伝えたのですが、どうもあまり興味はなかったようです。人がどう聞こう と、自分が気に入っている音ならそれでいい、ということかもしれません。(^_^;) そういえば、今年もモントリオール以来のお友達になったIchiro Fujinagaさん と再会しましたが、イチローさん(彼は日系で、日本語もできるので嬉しい ことです。それにしても今イチローといえば日本ではポピュラーですね)も グラニュラーシンセシスをやっていました。 彼の今年の発表はグラニュラーシンセシスのパラメータ処理に遺伝アルゴリズム を使った、というもので、「ナガシマさんの論文もReferしてありますよ」との ことでした。確かに論文集のReferencesのとこころには、僕がサンノゼのICMC で発表した論文名が載っていました。他人の研究に自分の論文がReferされて 初めて一人前だ、という話を聞いたことがありましたが、確かに、とっても ウレシイ気持ちになりました。(^_^) .....そして食べ物がなくなってきたので、早々にホテルに戻って記録の整理を していました。 ■基調講演■ Wednesday September 14 19:45-20:15 Keynote Address [Touching a Public] Trevor Wishart ホテルでワープロしていたところ、ふと気がつくとすでに時間になっていました。 原稿書きをしていると時間のたつのが早いです。 そこであっさり、基調好演はプロシーディングスにあったので、今回はパス しました。中身の知りたい方は、ICMAに問い合わせて入手して下さい。 (^_^;;) ■コンサート3■ Wednesday September 14 20:30-22:30 Concert 3 : Performnce & Multi Media それまでの2回のコンサートは小ホールでしたが、初めて大ホールでの コンサートがやってきました。なんといっても我らが志村さんの作品の本番 ということで、井口先生と一緒に緊張していました。僕は片寄さん金森さん たちとは敢えて別行動の「お客さん」していましたが、ステージ上の志村さんの 足元のMIDIディスプレイ(いまどのあたりまで進行しているかを簡単にモニタ できるLEDのディスプレイ)も、コンピュータ付近にある2台のMIDIマージャも、 僕の作ったものが日本からここに来て働いているのですから、まったく人ごと というわけでもないのです。 このコンサートはマルチメディアと題するだけあって、ステージ後方の タテヨコ10メートルぐらいの巨大スクリーンに映像を投射したり、マイム やダンスという要素もあるバラエティに富んだものになりました。 Claude Cadoz, Annie Luciani, Jean Loup Florens (France) : Esquiness 最初の作品は、大勢のスタッフによって実現されたという能書の割には、 ごく普通の「CGと音」というビデオの再生でした。(^_^;) 泡がポコポコ流れていったり、水滴の波紋がひろがったり、というのは 最近ではスクリーンセーバにも多いものですが、そこに合わせて電子音響 がついている、というものです。 ...イマイチでした。(;_;) Rolf Wallin (Norway) : Yo 作曲者自身がセンサを張り付けたスーツを着て登場しました。 ステージ上のモニタを見ながら、両手のグローブ(指先が金属スイッチ になっている)を、全身に張り付けた導電ゴムにタッチするとサンプラー から音が出る、というものです。 なんとなく仕掛けがわかると、そこでパフォーマーとしての限界が 見えてしまいました。(^_^;) 左肩のセンサが不調で何度も触れても反応がなかったり、首の後ろを タッチすると次のシーンに行くところなど、見えるべきでないところが ミエミエで見えてしまいました。 センサをいろいろ使う僕としても、教訓が収穫になりました。(^_^;;) Satosi Simura (Japan) : Tikukan no Utyu II そしてついに志村作品。(^o^)/ 出だしのビデオ映像がなかなか出なくてハラハラしましたが、始まってしまえば 会場を圧倒しました。 よく知っている身内としてはあれは100%ではなく95%、というところはある のですが(一度センサの反応が鈍くてキメがキマらなかったのです(^_^;))、 無事によくできました。 .....これでようやく、井口グループは安心して眠れます。(^_^) Michael Matthews (Canada) : In Emptiness, Over mptiness 冒頭のテープの電子音響で、志村さんの尺八の潤いのある自然音響の世界から ICMCに一気に引き戻されました。(^_^;) ピエロのような白塗りの顔、黒と真っ赤の印象的なコスチュームのソプラノが マイムをしながら歌って、そこにリアルタイムのエフェクトがかかる、という ものでした。 なかなかよかったのですが、あまりに視覚的なインパクトが強烈で、さらに 歌詞のわかる人にはそちらからの情報も過剰にあって、相対的に音楽を あまり聴けずに終ってしまいました。マルチメディアアートの課題を感じた 作品でした。 Michel Waisvisz (Holland) : Faustos Fchrei 最後は「Hands」というセンサを作曲者自身が使って(これは他に使う人は いない(^_^;))、さらに肩の上に女性ダンサーを載せて幕が開きました。 最後には少年も登場して、ステージ上のスタッフがリアルタイムに手作業で サンプラーに取り込んだ声までこのセンサで発音させていたのですが、どうにも 基本的に大音量すぎて、会場のあちこちで耳をふさいでいました。(^_^;) いかにもヨーロッパ的な、生理的に苦痛のある音量も作品のうちなのでしょう が、このコテコテには参りました。 時間は長かったものの、そして現地の特別推薦でプログラムに入っていた 作品ではあるものの、......イマイチでした。(^_^;) .....3日目となったICMCですが、この日は朝からかなりの雨降りになりました。 どうもこの季節のデンマークというのは、雨期というか日本の梅雨のような 気候だそうで、初日は小雨のパラつく曇り空、2日目は一転して暖かい 晴れ間、そしてこの日は雨、と天気もその日にならないとわからなないと いったものでした。(^_^;) 実際にホテルを一歩歩きだしてみると、まるで台風のような雨と風で、 これでは遠くのホテルの人はタイヘンだなぁ、と同情しました。 ■ペーパーセッション3B■ Thursday September 15 09:00-12:00 Paper Sessions 3B : Brobjerg この日の午前は、シティホールでは大矢さんが座長をしているのですが、 低迷といっても低迷なりに楽音合成の状況を見届けようと、3Bの方に 行きました。 Julius O. Smith, chair [Physical Models - Control Level] Stability/Instability of Periodic Solutions and Chaos in Physical Model of Musical Instruments Xavier Rodet ディレイのフィードバックループに非線型要素をかます、という「非線型変換の プロ」Rodet氏が物理モデルを扱った発表でした。 Indigoでリアルタイムにトランペットの楽音合成をデモすると、なるほど 唇の状態で倍音が次々とシフトしていきました。 ところが、このローパスフィードバックの解が一意に決まらない領域があり、 ここでは振舞いがカオスになる、というところが新しく、有名なメイの式と グラフも登場しました。 カオスの領域では見事にノイズの音がでて、こういうインタプリタ感覚で 使えるIndigoはやっぱりいいな、と感心しました。 Dynamically Configurable Feedback/Delay Networks: A Virtual Instrument Composition Model Micheal Hamman 楽音合成の世界ではユニットジェネレータを多数使用して楽音合成をするのが 古典的な方法だ、と今月の情報処理学会誌にも書いたところなのですが、 ここでは 入力段の加算器 遅延要素 フィードバックアンプ という1セットのブロックを、いわば新しいUGとして自由に組み合せて 楽音合成する、というコンフィギュレーションについての発表でした。 僕は面白いと思って聞いていたのですが、どうやらあまりに当り前のこと らしく、ここでも会場の反応は思わしくありませんでした。 自分としては、ちょっと実験してみたいネタをメモできたのですが。(^_^;) Organizing the parameter space of physical medels with sound feeature maps Bermard Feiten, Gerhard Behles 物理モデル楽音合成のパラメータを、対称性を用いてマッピングしてコントロール しようという、ちょっとアリガチなものでした。 楽音から「feature map」をとって、そこからさらに「parameter map」を作る、 という意味がよくわからなかったのですが、SGIで作ったデモ音響を聞いて、 ようやくその狙いがわかりました。 画面の2次元空間内をマウスでぐりぐりと動かすと、物理モデルの楽音合成 のパラメータが連続して変化し、見事にレゾネーションから発振まで いきました。(^_^) 先日の京都のコンサートで、僕はマウスで描かれる「絵」から発音するのに MIDIベースの音高とカットオフ周波数を使ったのですが、これが物理モデル 楽音合成の次元でできる、というのは、なかなか可能性があると思います。 Intelligent Synthesis Control with Applications to a Physical Model of Acoustic Guitar Zoltan Janosy, Matti Karjalainen, Vesa Valimaki 物理モデルのPlucked String Modelによるギター音の合成に特化させて、 ギター特有の演奏法と対応したコントロール体系を作った、というブタペスト の人の発表でしたが、これもやや空を切っていました。(^_^;) 一応、ちゃんとTIのDSPでやっているということで、最後のデモを 聞いて、会場も納得していました。なかなかリアルな音がするのですが、 残念ながらノイズがありません。最近のMIDI音源のように、ミエミエで ノイズを足した方がそれっぽくなるのですが、 「フレットノイズは別PCMチャンネルで同時に再生できる」 と、そっけない回答でした。(^_^;) Kevin Elliott, chair [Composition Systems and Techniques] Formal Processes of Timbre Composition Challenging the Dualistic Paradigm of Computer Music Agostino Di Scipio アルゴリズミックコンポジション、音色のデザイン、マイクロコンポジション となかなかソソラレル用語の並んだロングペーパーで期待していたのですが、 会場は極限までシラケまくりました。(^_^;;;;;;;;) OHPもナシ、イタリアの人で英語が苦手らしく、30分間、単にプロシーディング を棒読みしまくり、というだけの発表で、内容もよくわかりませんでした。 自分もああいう発表をしているのかな、と思わず過去を振り返ってしまいました。 (^_^;) Algorithms Adapted from Chaos Theory: Compositional Considerations James Harley ICMC91の会場だった、モントリオールのマッギル大学の発表で、 「カオス理論を作曲に適用するアルゴリズム」という、どこかで聞いた ような(^_^;)もので期待したのですが、イマイチでした。 発表の中で用いられたのは僕と同じメイの式なのですが、Myuの値が4.0という ことは、完全なカオス状態で、いわば一種のランダムというだけで、僕は 面白くないので使っていない領域です。(^_^;) そこからの扱い方もアリガチなもので、果たしてどんな音楽になっているのかな、 と不思議でした。 ところがデモを聴くと、これは反則スレスレ、生のオケでした。(^_^;;) つまり、カオスを利用して伝統的なクラシックの現代音楽を書いているので、 僕もいつも言われる「どこがカオスかわからない」という問題点がさらに 鮮明になるのです。 質疑応答でも、この音楽美学的なところがつっこまれるとともに、Ioannis さんも「カオス利用に関する音楽心理学的な検討が必要ではないのか」と、 僕にも耳が痛いつっこみをしていました。(^_^;) The Morpho Concepts - Trends in Software for Acousmatic Music Composition Daniel Teruggi どうしてもポスターを見たかったので、この発表はパス。 外は一応、雨の合間でしたが、まだまだ寒々としていました。 日本でいえば12月です。(^_^;) ■ポスター/デモンストレーションセッション■ Thursday September 15 10:00-12:50 Poster & Demonstration 2 Dynamic Intonation for Keyboard Instruments Roger Munck-Fairwood Live Performance and Virtuosic Pitch-bend Technique for the Synthesizer Stuart Favilla The LDR Controller Stuart Favilla The MIDI Time Clip: A Performance/Machine Synchronization System for Live Performance Bruce Pennycook, Dale Stammen Using HyperInstruments for the Redistribution of the Performance Control Interface Tim Andersen, Debbie Hearn The Digital Trautonium Jorg Spix Using the Digital Compovistation to Arrange a Performance for Piano, Computer, and Synthesizer Hilmar Thordarson ....ちなみに、Interactive Systemsというサブタイトルのこのポスター ですが、結論としてはあまり面白いものはありませんでした。(^_^;;) 最後に立見のIRCAMデモをちらっと覗いたのですが、金森さんと志村さん がいたので、MAXのSGIへの話はあとで聞くことにしました。 ■コンサート4■ Thursday September 15 13:00-15:00 Concert 4 外はどしゃぶりの雨ですが、コンサートもだいぶ調子が出てきて、今回は いろいろ面白い収穫がありました。 Keith Hamel (Canada) : Obsessed Again ... バスーンとインタラクティブ・エレクトロニクス、ということで、バスーン からピッチtoMIDIあたりでMAXの処理、という仕掛けは始まる前から見えて いたのですが、なんと演奏の途中でソフトがソリストを見失ったらしく、 独奏者は演奏を止めてMacを再クリックする、という展開になってしまいました。 (^_^;;;;;;;;;) ......「MIDIのライブは恐い」とまたまた体感してしまいました。 ただし作曲の方法から言えば、どう転んでも止まらないように作るべきで、 そのへんの危機管理というかフェイルセーフが甘い、ということも言えます。 Luigi Ceccarelli (Italy) : Birds テープ音楽にしては、ちょっと長かったです。 ICMCの作品の場合には、「長い」ことに意味を持たせたものもあるので、 まぁこんなものかなぁ、というところでした。 Cort Lippe (USA) : Music for Clarinet & ISPW クラリネットとISPWのための作品で、僕は去年のICMC93のポスト イベントである神戸国際現代音楽祭で、リッペさんと御一緒(IAKTA ワークショップでやった作品を再演)したのですが、そこでリッペさんが 発表したこの作品を再び聴きました。その時よりもだいぶ改訂されて、完成度が 上がっていたように思います。 まさに「ここまでやれるのはISPW」という強烈なアピールとなりました。 僕は以前にもISPWは単なる高価なエフェクタである、と書いたことが ありましたが、ここまでくればISPWでないとできない、という世界でした。 ただし、これだけ使えるのは世界中でもリッペさんぐらいだと思います。(^_^;) 音の素材として事前に用意するものは不要であり、DSP-MAXのパッチとして リアルタイムにサンプリングした音響を素材として、パッチに書いた 信号処理を施す、という最新の手法による理想的なサンプル作品となりました。 Peter Lunden (Sweden) : Noises スウェーデンの人の電子音響テープ作品で、なんとなくタイトルから警戒 していたことが現実になりました。(^_^;) モントリオールでは一部であったのですが、サンノゼと東京と、過去の最近の ICMCの音響は「ソフト&マイルド」である、と僕は書きました。 それが今回は電子音楽のメッカのヨーロッパということで、きっと人間の 聴覚に挑戦するような厳しい音響の作品が来るゾ、と心配しつつも内心は 期待していました。 ...そして、ついに、ありました。(^_^;) 出だしは普通のプログレてなもんでしたが、後半は来た来た、強烈な音響 が聴衆を圧倒しました。これぞヨーロッパの電子音楽。多くの聴衆が 耳をおさえて、ひたすらこの「嵐」がおさまるまでじっと耐える、という 音楽です。(^_^;) やっぱり、欧州は奥が深かったです。 Robert Morales-Manzanares (Mexico) : Cempaxuchitl メキシコの篠笛と太鼓、そしてフルートの演奏を作曲家自身が行った、 民族音楽の香り漂う作品でした。 いわゆる電子音響は極力少なくて、自分の演奏をあらかじめサンプリング した素材をフルに使っていて、ほとんどコンピュータ音楽と感じさせない ものでした。 それにしても、僕は一瞬、ステージに坪井さんがいるのかと思ってしまい ました。(^_^;) Junghae Lee (Switzerland) : YunMu 3 テープ作品。かなり音素材と時間的配置にこだわった、同じ東洋人として共感 できる作品てした。こういう若い女性作曲家が、もっと日本でも活躍して欲しい ものです。(^_^;) Atau Tanaka (USA) : OverBow コンサートの最後は、タナカアタウ氏のBioMuseのソロでした。世界で初めて のBioMuse演奏家、と紹介されていましたがそれもその筈、これは誰にでも できるものではなく、個人向けのチューニングが必須のものです。(^_^;) BioMuseについては、東京のICMCでアタウ氏が自分で筋電位センサの バンドを腕に巻いてデモしながら発表していましたが、なるほど作品 としてはこうなるのか、と感心しました。 開始前のセッティングでいきなりMacをリブート(^_^;;)したので心配した のですが、始まってしまえばどう転んでも自分の作品、問題なく通るのでした。 (^_^;) 音源として専用のFMや非線型変換音源を用意して、センサに合った音響 をうまく活用していました。 なんせ両腕の筋肉の緊張が全ての「演奏」ですから、見ているとこちらも思わず 力が入りました。演奏はそのままマイムのようなものです。 ここまでのコンサートで一番のブラボーで終ったあたり、まさに今回の ICMCのテーマであるHumanな作品だったと思います。 ■特別講演■ Thursday September 15 15:30-16:10 Special Talk [Is There Life After MIDI ?] Miller Puckette あのMAXの作者ですから、話を聞きたかった気もしたのですが、なんせSASの ストのこともわからず帰途に不安があるので、この時間を利用して街に出ました。 ということで、この講演も聞いていません。詳しくはプロシーディングスを どうぞ。 メモをとっていたシステム手帳が、ここまでですでに20ページになってしまって リフィルがなくなってきたので、まずは文房具屋さんを探すことから始めた のですが、なんせ英語がどこにもない国です。いちいちショーウインドウを 覗きこんでいきました。結局、2件目の本屋で無事に見つかりました。(^_^) 英語がない、という意味では最初に困ったのがトイレです。どっちが「男」 かわからなくて、いちかばちかで入ったHarrer?(ウロおぼえです。 Hで始まるのが男子用、たしかDで始まるのが女子用)が男子用だったので そこで覚えたようなものです。(^_^;) まずはAARHUSの市内中心部(ホテルの目の前です)にある、大きな駅に 行きました。ストで飛行機が飛ばないなら、AARHUSの港からフェリー で対岸に渡り、そこから列車でコペンハーゲンに行かなければなりません。 ところが、駅構内のInformationに置いてある時刻表はデンマーク語で 書いてあって、まったく完璧に読めません。(^_^;) 値段もわからず、とりあえず駅の隣のトラベルビューローに駆け込みました。 そこでコペンハーゲンまでの行きかた、料金がおよそ200Dkkであること、 約3時間で行けること、という情報を仕入れて、ちょっと安心しました。 そして昨日に続いて再びSASのオフィスに。なんとこのオフィスは、僕の 泊まっているホテルの1階にある(ドアは外にある)のです。 そこで確認してみると、なんと本日、ストが終了したとのこと。今日の便は 混乱しているが、日曜日は正常に運行されるということでした。(^_^) しかし、コペンハーゲンでのSASのいろいろなところを見ていたので(^_^;)、 とても成田へのフライトにダイレクトに接続している国内線ではアブナイ とみて、チケットを変更して10:20の便にしました。これなら荷物が1時間程度、 迷子にされても大丈夫です。(^_^;) 大矢さんたちは朝7:00のフライトで、午前中だけやっている土産もの屋に 行くとか言っていますが、前夜のコンサートが0時に終るのに、6時のバスと いうのはあまりにリスクが大きいので、こちらにしました。 帰路の確保ができたこと、SASのストが解決したことを皆んなに伝えられる ことなどを収穫に、再びセッション会場に向かいました。(^_^) ■ペーパーセッション4A■ Thursday September 15 16:20-17:40 Paper Sessions 4A : City Hall [Foot Tapping] このペーパーセッションは、ビートトラッキングやビートインダクション の研究に興味のある者がE-mailで連絡を取り合って、一緒に行ったという ユニークなものでした。 正面の壇上には、われらが後藤さんもビシッときめて座っています。(^_^) Foot-tapping: a brief introduction to beat induction Peter Desain, Henkjan Honing Rulebased models of initial beat induction and an analysis of their behaviour Peter Desain, Henkjan Honing A Model of Beat Induction Accounting for Perceptual Ambiguity by Continuously Variable Parameters Richard Parncutt Rhythm Tracking Using Multiple Hypotheses David Rosenthal, Masataka Goto, Yoichi Muraoka An Auditory Motor Model of Beat Induction Neil P. McAngus Todd, Chris Lee The Resonant Dynamics of Beat Tracking and Meter Perception Edward W. Large Advanced issues in beat induction modeling: syncopation, tempo and timing Peter Desain, Henkjan Honing ステージ上のデザインとホーニングのところには、Macのパワーブックが あって、それぞれの研究成果をシーケンサでデモするようになっています。 ....これが傑作で、システムに食わせる入力リズムはMIDI音源のタッピング として鳴らされるのですが、システムの解釈したビートをデモるのが、特製 のタッピングマシンなのです。これはMacにつながった「箱」で、ビート のたびにソレノイドで棒を突き上げるのですが、ここにハイヒールとか長靴 とかスリッパをわざわざ発表者ごとにネジをゆるめて付け替えていました。 クリックに合わせて靴がタッピングし、これが木でできた「箱」を心地よく 鳴らしていました。なかなか、やることがイキです。(^_^) 僕の手帳には、それぞれの短時間の発表の簡単なメモが残っているのですが、 なんせこのセッションは後藤さんがいましたので、詳しくはいずれの機会に 後藤さんにサーベイしてレポートしていただきましょう。(^_^;) .....以下、チャチャ入れ程度の「感想」だけ。 後藤さんは英語スラスラ、鬼のように練習したであろう成果をバッチリと きめていました。なかなか、かっこよかったです。(^_^) 単にビートのインダクションといっても、 ルールベース オプティマイズ(最適化) サーチ(探索) コントロール ディストリビュート ミンスキー方式(エージェント?) ニューラルネット 統計的 musicological .... など、いろんなアプローチがある、という指摘に感心しました。 壇上に並んだ研究者の顔ぶれを見ていて、フト気がつきました。ICMCに 見る、「研究分野とその研究者のタイプ」の分類です。(^_^;) これは過去何回も参加していないとなかなか確信できません。 ・ビート検出を研究している人 →スッキリとあかぬけた繊細タイプ。目が涼しげにスルドイ。 ・楽音合成・信号処理の人 →偏執狂的な異常性。オタク的な雰囲気がオーラのごとく漂う。 ・インタラクティブをやる人 →もろB型のファンキーな人が多い。トラブルなんて気にしないさ!! ・音楽認知をやる人 →学者肌。(○矢説) ・IRCAMの人 →みんなホモである(○矢説) ちなみに○矢さんによれば、後藤さんはあの風貌なので、IRCAMに行ったら アブナイのではないか、ということてした。(^_^;) (さらにあとで聞いたところでは、このIRCAMホモ説は片寄さんから聞いた のだそうです。念のため) ■コンサート5■ Thursday September 15 20:30-22:30 Concert 5 : Royal Danish Ballet 後藤さんの発表、大矢さんの座長も無事に終ったということで、コンサート 前に3人でビール付きの夕食をとったこともあって、このコンサートは すごく眠かったです。もっとも前日のコンサートの前の方が、レセプションで はるかに飲んでいたのにちゃんと聞けましたから、これは今回の曲にも 問題があるのだと自分に言い訳していました。(^_^;) このコンサートは、6作品のうち4作品にデンマーク王立バレエ団?の バレエがつきました。 通常のICMCと違って、コンサートセッションの募集の段階からバレエの 音楽に対応できることを宣伝していたわけで、いかにもそれっぽい作品が 集まりました。 ところがバレエいう視覚的なパフォーマンスのためか、あとになってみると ほとんど、作品ごとの印象の差がありません。ホールからの帰途に井口先生 と一緒だったのですが、「皆んな同じようにしか思い出せない」というような ことを言われていました。まさにその通りです。 ロックやディスコのようにまったくコンスタントビートということでは ありませんが、やはり舞踏を意識して冗長性の高い音楽であったのも 共通しています。 ...ということで、以下の曲については、とりあえず順序が変更になった ので並べましたが、コメントは特にありません。(^_^;;;;) Russell Pinkston (USA) : Music for Margo's World テープとバレエの作品。 Ake Pamerud (Sweden) : Jeux Imaginaries テープのみの作品。 Kwok-ping John Chen (Hong Kong) : Huang Zhong Elements テープとバレエの作品。 Marc Ainger (USA) : Lament テープとバレエの作品。 Trever Wishart (UK) : Tingues of Fire テープのみの作品。長い長い25分。(^_^;;) Richard Karpen (USA) : Terra Infirma テープとバレエの作品。 ちなみに、これは話すと(書くと)長くなるので笑えないかもしれませんが、 連日はやったギャグを紹介します。 まず伏線として、初日のコンサートから始まります。 コンサート冒頭に、ちょっと気の弱そうな(なんせICMCの参加者は、圧倒 させるような風貌のコテコテか多いですから)コンサート担当のスタッフの人が、 「プログラム変更」をアナウンスしました。ところがうまく英語の発音が 通じなくて、ちょっとザワザワ(といっても単にひやかしただけです)しました。 そして2回目のコンサート。 コンサート冒頭にまたまた同じ彼がステージに上がり、またまたプログラム変更 のアナウンス。 ところが日本人なら機械的にやるのでしょうが、 「Bad NewsとGood Newsがあります」 と切り出しました。なかなかウマイです。皆んな注目しました。(^_^) 「Bad Newsというのは、予定していたTedde氏の作品がキャンセルになりました」 ということで、会場がザワザワ...。 「Good Newsとして、代わりにジョージルイス氏がやります」 ということで、一転してブラボー!! ...なかなかうまいこと、直前のドタバタをカバーしていました。 そして3回目のコンサート。 別にプログラム変更のプリントも配られていないのに、またまた彼がステージ に立ちました。 「Bad NewsとGood Newsがあります」 こうなると、いやがうえにも皆んな注目しました。(^_^;) 「Good Newsとして、今回はプログラムの変更がありません」 これはウケました。(^_^) ...そして、 「Bad Newsというのは、.....今日は雨です。ごめんなさい」 これはサイコーです。大ウケでした。 これぞICMCのノリです。 さらに4回目のコンサート。またまたありました。 「Bad NewsとGood Newsがあります」 また来たか、と皆んな待ちます。(^_^;) 「Bad Newsというのは、会場での写真撮影などはお断わりします」 ちょうど前回のコンサートでストロボが何度もたかれていたので、一同、納得。 このコンサートで最前列で写真をとったプレスの人には、周囲からブーイング が出ました。(^_^;) そして... 「Good Newsとしては、..........」 なんとなく勢いで切り出したものの、アドリブでは何も思いつかず、そのまま 笑って退場。(^_^;) ....これもまた、ウケました。 そして、この5回目のコンサートです。 後半のテープ作品の冒頭で、作曲者自身がステージに上がって、この曲の聞き方を 解説しました。最初の音響をいろいろに変形していくとこころを聴け、とか そういうことです。 そして、 「Bad NewsとGood Newsがあります」 ときました。ついにギャグとして走り出したのです。(^_^) 「Bad Newsというのは、このテープ作品は25分間もあります」 会場にOh My God的なドヨメキが走ります。 「皆さんは時計を見ながら、あと何分と思って聴かなければなりません」 作曲者からこう言われると、返す言葉もありません。(^_^;) 「しかし、Good Newsがあります」 誰でも、こうなると、なんだ??と思います。 「どこまでいったかわかるように、曲の1/3のところで時計の音がなります」 ...大ウケ。 「そして、さらに曲の2/3のところで、また合図の音が入ります。これを参考 にして耐えてください」(最後のところは僕の意訳です) ....なかなか笑えました。 このフレーズは、ICMC94のギャグとしてこれからあちこちで使える と思いますので紹介しました。 また、結局、この日は終日雨だったので、以下の野外コンサートは翌日に、 ということになりました。明日も雨ならキャンセルです。ぜひ晴れてほしい、と 誰もが思いました。 ■コンサート6■ Thursday September 15 23:00-23:45 Concert 6 : Fireworks Francis Dhomont (Canada) : Artifices Ake Parmerud and Anders Blomquist (Sweden) : Trio Ake Parmerud and Anders Blomquist (Sweden) : Target .....いよいよICMCも後半戦に入りました。連日、コンサートが23:00ぐらいに 終ってホテルに戻り、忘れないうちに(ペーパーはあとから論文を読んでも 思い出すことができますが、コンサートはあとになったらもうダメです) ワープロに記事を打ち込んで、フロにつかって暖まって眠るのが25:00あたり、 というパターンを繰り返していますが、まだ日本の体内時計があるために、 午前6時より前には目が覚めてしまいます。(^_^;) ちなみに同じホテルに泊まった大矢さんや後藤さんの部屋はシャワーだけだ そうですが、僕の部屋にはゆったり全身が浸せるバスタブがあって、 夜にも朝にもフロを楽しめました。これで同じ料金ということで、やはり 速攻で予約したのは正解だったみたいです。(^_^) ...この朝は例によって6:00に目が覚めたのですが、ベッドの中でムラムラと いろんなアイデアが湧いてきました。さっそく忘れないうちにとノートを ベッドに持ち込んで、一気に1ページ半、びっしりと書きました。(^_^) これは今までのセッション中のメモよりもはるかに大ネタ、なかなか 自分でも驚いたテーマです。 正確に言えば、これは全く突然に浮かんだというものではなく、それまで 何度もトライしていた「漠然としたもの」が一気にスッキリとまとまった、 ということなのですが、AARHUSだからこそ浮かんだと思いました。 ICMCのいいところは、日本というか自分の日常にいては絶対に 出てこないアイデアや視点が、朝から晩までコンピュータミュージック漬け になることでハッキリとしてくる、というところなのです。 今回はちょうどICMCのまんなかで最初のコレがあったということで、 ますます後半が楽しみになりました。(^_^) ■ペーパーセッション5B■ Friday September 16 09:00-12:00 Paper Sessions 5B : Brobjerg Xavier Serra, chair 前に「今回のICMCでは楽音合成が寂しい」と書きましたが、この中で 唯一、元気だったのが「物理モデル」の一派だったように思います。 このセッション、そして続いてスキップして覗いたポスターの賑わいは なかなか印象的なものでした。 [Modeling Instruments] A Simplified Approach to Modeling Strings and Plates Scott A. Van Duyne, Julius O. Smith まずはいきなり、同じメンバーで2件連続の発表。一人で両方をエンエンと やりました。(^_^;) ストリングとプレートのスティフネスを考慮した微分方程式をまじめに とらえて、1ポールのオールパスフィルタを使って近似的に実現していました。 デモの音響を聞くと、確かに弦の振動がそれっぽく、インハーモニシティが うまく実現できていました。サンノゼの頃に比べると、なかなかいいセンに 行っていると思います。これがヤマハの物理モデルシンセとして実現される のは果たして何年後でしょうか。(^_^;) (藤森さん、頑張って下さい。応援しています) Traveling Wave Implementation of a Lossless Mode-coupling Filter and the Wave Digital Hammer Scott A. Van Duyne, John R. Pierce, Julius O. Smith 同じ人の連続発表。ストリングの振動だけでなく、ピアノのイメージでハンマー の打撃まで物理モデルとしてアタックするというのは、なかなかいい根性です。 Wave Digital Hammerモデルを2次元メッシュとしていました。たしか去年の ICMCであった発表の、より具体的な進展というところです。 ここで印象的だったのは、弦をハンマーが叩く瞬間のシミュレーション のグラフィクスで、ハンマーで叩かれて変形した弦が、バウンドしてきて ハンマーを跳ね返し、さらにもう一度、しばらくしてからハンマーに触れる まで振動する、という様子でした。 現実のピアノでは、ハンマーフェルトにあのような微妙な2度タッチがあって 音色が形成されているとすると、これはイニシャルタッチなどでは、とうてい 制御できない微妙な音色変化となると思います。 (さらに言えばジャックの抜けのところも重要だと思うのです) また、このモデルについての音のデモでは、 弦 → 強く弾くとうまく歪んだ プレート → コンコンがうまくキンキンに変わった 叩いたハンマーが再度バウンドするモデル → なかなかそれっぽい 非線型変換の応用 → 自然楽器でない、新しい音の可能性がある という感想を持ちました。 特に最後の可能性については、ちょっと今後もしばらくチェックしたいと 思います。(^_^) On the Use of Schrodinger's Equation in the Analytic Determination of Horn Reflectance David Berners トランペットの物理モデルから、ホルンの朝顔のテーパの効果を記述するために なんとシュレジンガー方程式を持ち出した、という、大矢さんとともにウケた 発想の発表でした。...ちゃんと境界条件を与えてやっています。 ただしデモの音を聞いた限りでは、 「プワー」 という管楽器の音の後半の 「ンワー」 の部分はいい味を出しているのですが、肝心の 「プ」 のノイズ成分が寂しいものがありました。こうしてみると、とりあえずノイズ でも何でもPCM化して付加している、という民生の楽器メーカーの方便(^_^;)と いうのは、なかなかウマい手なのです。 Digital Waveguide Modeling of Wind Instruments Bores constructed of Truncated Cones Vesa Valimaki, Matti Karjalainen 音声合成と楽音合成のフィールドの両方の人の発表でした。 従来の管楽器(というより声道)のモデルが、複数の区間で太さの異なるパイプ を連結させているのに対して、それをテーパ状のパイプ連結として精度を上げた、 といえばそれまでですが、反射や拡散のファクタを考慮していた力作です。 できれば、デモとして音を聞いてみたかったです。 ■ポスター/デモンストレーションセッション■ Friday September 16 10:00-12:50 Poster & Demonstration 3 なんだか「音響信号処理」というタイトルの割にはゴッタ煮のポスターセッション で、ひとわたりサーッと通り抜けました。(^_^;) この時間にパラレルの裏セッションには、おそらく森さんの興味のある Networking: MIDI - ISDN なんていうセッションもあったのですが、おそらくヤ○ハの磯崎さんがチェック しているでしょうから、磯崎さん、ROMばかりしないでここで報告して 下さいね。 ...といっても会社の出張では無理でしょうかね(^_^;) [Audio Signal Processing] Efficient Fourier Synthesis of Nonstationary Sinusoids Michael Goodwin, Xavier Rodet いつも常連のロデさんの情熱的なポスター。僕はつかまるのが恐いので、 遠くから見ました。(^_^;) Connections between Feedback Delay Networks and Waveguide Networks for Digital Reverbration Julius O. Smith, Davide Rocchesso こちらも物理モデルの王道を行くスミスさんたちの発表。ちょうどペーパーで 聞いていたので近付いていくとツカマリ(^_^;)、基本的な原理からこと細かに レクチャーしてくれました。 Combined Linear and Nonlinear Periodic Prediction in Calibrating Models of Musical Instruments to Recordings Gray Scavone, Perry R. Cook Analysis/Synthesis of sound Using a Time-Varying Linear Model Charles W. Therrien, Roberto Cristi, Olav Kjono この2件はなんだか印象が残っていません。ペーパーの内容をフォローするような ポスターだったと思います。(誰もいない部屋もありました) Geometric Sound Transformations Gordon Munro, Jon Drummond この人は、去年のICMCで「アトラクタシンセシス」というなんだか不気味な 発表(^_^;)をした人で、僕も今年の春の情報処理学会全国大会で関連ネタの発表を しました。 今年はなんと、グラフィクスにますますハマッているようで、ICMCにしては 非常に珍しく、音をグラフィック化してまったく音の無いビデオをいろいろ 見せていました。(^_^;) なんとなく、関連ネタの発展しそうな、しかしメジャーになれそうのない 発表というところでしょうか。 Synthesis of Trumpet Tones Using a Fixed Wavetable and a Centroid-Controlled Second Order Filter Andrew Horner, James Beauchamp ビショップさんにはカ○イ時代からお会いしていて、ICMPC、3回のICMC でも話をしたりしていたのですが、今回は部屋にいなくて、すれ違いとなって しまいました。(;_;) ■コンサート7■ Friday September 16 13:00-15:00 Concert 7 Ronald E. Alford (USA) : IMAGE:the Pop Can 始まる前から、なにやらステージの上に空缶がごろごろしているので何かやって くれると思っていたら、やっぱりやってくれました。(^_^;) ステージ上で作曲者と助手の女性が一緒に空缶を落とすところからスタート で、いわゆる自然ノイズを活用した音楽でした。 あちこちのマイクから、 カンを落とす カンをころがす カンを開けてグビグビと飲む カンを踏み潰す などの音響をサンプリングして、即時にMIDIシーケンスデータとしてBGM とともに再生する、というものです。 別にISPWなど使わなくたってできるよ、とでも言いたいのか、いちいち ラックのサンプラーのところで手でトリガをセットしていましたが、これも 一種のパフォーマンスということで、違和感はありません。 サンノゼの時にいろいろあった、人によっては怒る瞬間芸のような作品と 言えますが、ようやくヨーロッパでも、ありました。これがないとICMC としては片手落ちですから。(^_^;) Katharine Norman (UK) : Trilling Wire クラリネットとテープの、きわめてスタンダードな現代音楽。電子音響と ソリストのインタラクティブな仕掛けもなく、安心して聴けました。 BGMとしてはかなり限定された素材として、狭い音域の電子音とクラリネット のサンプリングされた音が使われて、それでも結構、女性作曲家ならでは、 ということでもないのですが、こだわりを感じて参考になりました。 Gilles Gobeil (Canada) : Le Vertige Inconnu テープ作品。ハイクオリティの音響でした。 自然音響のサンプリング音を中心に、グワーーッとクレシェンドしてはドカン!! と終る、という決まりパターンをエンエンと繰り返します。この繰り返し、 これれでもかこれでもかこれでもかというところが重要なのですね。(^_^;) ハイクオリティの音楽かというのは意見が分かれると思いますが、間違いなく ハイクオリティの音響でした。 James Phelps (USA) : Sax Houses サックスとNeXTとテープのための作品。 ところがNeXTという割には、どうも単なるエフェクターのままで、さらに 音質が悪いのです。あとでプログラムを見ると案の定、ISPWでなく 「素の」NeXT、つまり内蔵DSPだけでした。 それならこんなものでしょう。(^_^;;) John Rahn (USA) : Sea of Souls テープ作品。素材としてサイン波だけでここまでの音響を作りあげる、という のは、もう尋常ではありません。超オタクの域です。(^_^;) ピンクフロイドのECHOESという僕の大好きな曲に、これとまったく 同じ音響があったなぁ、ということはこの音はアナログでもできる、というか ようやくディジタルがあのピンクフロイドのアナログの音を作れるまでに 出世したんだなぁ、などと考えていました。(^_^) Riad Abdel-Gawad (Egypt/USA) : Taqaseem No.2 作曲家自身のバイオリン演奏で、途中でテープが入って途中でテープが おしまいになって、結局バイオリンがずっと演奏し続ける、というスタイル の音楽でした。 これまでの中では、もっともコンピュータを感じさせなかったかもしれません。 このバイオリンというのが超絶技巧で、たとえば 弓で弦を弾く 弓を持つ手の指でピチカートする 左手の指でも弦を弾く ということを、完全に同時にしているのです。つまりこの時、バイオリンは 同時に3種類の音を鳴らしていました。 音楽の雰囲気は、もろ「エジプトの喧噪」でした。いい味を出していて、 僕は気に入りました。 Christpher Penrose (USA) : Manwich テープ作品。ナレーションやクラシックからロックまでのありものの音楽の 断片を切り貼りした、ミュージックコンクレート作品でした。 どんなハードディスクレコーディングツールにも付いている「リバース」を 多用して、これもなかなか手のかかる作品でした。 実はこれを聴きながらメモした、ちょっとしたアイデアがあるのですが、 これは秘密です。(^_^;) Dale Stammen and Sean Terriah (Canada) : Tuva! モントリオールのICMCでお世話になった、マッギル大学のDale氏がサックス を吹いて、もう一人がMIDIギターを弾く、というこの二人の作品でした。 どんな音楽になるのかな、と期待していたのですが、....これがまぁ何というか、 日本で言えば、ズバリ「演歌」というところでしょうか。(^_^;) ときどきサンプルされた電子音響や自然音も出しましたが、基本的には甘い ロックというのかポップスというのか、僕には「北米のムード演歌」と 聴こえるものでした。 DSPでサックスの音にリアルタイムのエフェクトをかけているのはわかりますが、 コンサートでこういう曲が出てくるたびに「選曲審査はどうなっているの?」 と考えさせるのも、ICMCの持ち味です。 ■特別パネルセッション■ Friday September 16 15:30-16:20 Special Panel コンサートのあと、午後のペーパーセッションまでの間に、 Touched by Machine? Composition and Performance in the Digital Age という特別パネルがあり、片寄さんと志村さんがパネラーで出ていたのですが、 僕はこの時間に一旦ホテルに戻って、記事をまとめていました。まぁ、他の 日本からの人は皆んなここに参加しているでしょうから、いずれこのセッション の報告はアップされることと思います。 このパネルのあとの時間帯は地獄のような時間帯で、行きたいセッションが 4つ、完全に重複していました。 何度も作戦を練って、途中で出会った片寄さんとも立ち話で検討して、結局 はGAのセッションを片寄さんと金森さんに任せて、FMIDIでも知りたい人の 多いIRCAMの発表を聞いてから、デモ会場に走ることとしました。 ■ペーパーセッション6A■ Friday September 16 16:30-17:20 Paper Sessions 6A : City Hall Carla Scaletti, chair [Music Workstation] さて、いよいよIRCAMの「今後」についての話となりました。といっても、 実際にはこれまでに出ていた情報の現在のところの確定話、ということでした。 まぁ結論としては、「皆さんIndyを買いましょう」というところでしょうか。 (^_^;;) なお、記録はペラペラの英語とともにほんの一瞬だけで取り去られるOHPを 必死にリアルタイムに訳しながら速記メモったものですので、いろいろ間違い があるかもしれませんが、御容赦を。 (全体にハイテンションで参加した今年のICMCですが、このセッションの 30分間がもっとも集中したものだと自分でも思いました) The IRCAM 'Real-time Platform' Evolutions and Perseptives Francois Dechelle, Marurizio De Cecco, M. Puckette, D. Ziccarelli まず冒頭に、「NeXTの教訓により(^_^;)、今後は長く続くプラットフォームで あるために、特定のハードウェアに依存しないことにしていく」とありました。 確かに、せっかく作ったシステムが、肝心のコンピュータがメーカから(あるいは メーカごと(^_^;))消えてしまうのでは、ちょっとたまりませんよね。 僕も、そろそろ作曲のためのオリジナルソフト(作品の一部)としては、 PC9801で作るのはやめていかないといけませんね。(^_^;) そこでIRCAMでは、FTSというオープンプラットフォームの構想を 進めています。従来のNeXTとISPWボードにしばられていたシステム と同様(そして今後さらに成長する)の環境が、 NextStep DECのAlpha PC互換機にTIのDSPボードを増設したもの SGI などのいずれでも同等に走る、というものをほぼ同時に開発していける、 というわけです。 (ただし、GUIの点でSGIはかなり強いと思いますが...) MAX/FTSでは、 ファイル パッチ コンフィギュレーション コントロール DTD(これだけ意味不明(^_^;)) DSP A/D,D/A MIDI などの要素を、全てブラックボックスとして扱うことになります。 そして、UNIXのサーバとして、これらをネットワーク越しに自在に配置できる ことになります。イメージとしては、ネットワークのどこかにDSPエンジンを ぶら下げておいて、自分のマシンの中のMAXパッチウインドウから、それを 自在に使える、というものです。当然、ハードには依存しないわけです。 FTSの現在のところの特徴としては、 データの表現形式を限定しない トランスポートレイヤのバイトストリームとして実現する 今のところ、TCP/IPとUnixのパイプとシェアードメモリで実現 マルチプルクライアントはOK イベントハンドリングなどのgenetic abstractionを含む ユーザのサブプロトコルを許す となっています。 徹底したオープン思想ですね。(^_^) FTSライブラリとしては、 C/C++、コモンリスプのサポート イベントドリブンOK ポーリングOK フローコントロールOK プロトコルの拡張も許す というあたりが特徴として紹介されました。 ここで会場に1枚のペーパーが配られたのですが、このMAX/FTSの イメージをよく伝える図がありました。 ここでは図を描くのもカッタルイので言葉で伝えますが、MAXを使ったことが ある人にはピンとくるでしょう。 要するに、自分のマシンのMAXパッチとして、たとえば「dac」という オブジェクトを置きます。ところが、ネットワークの向こうのサーバのMAX パッチにも「dac」というオブジェクトを置いていれば、このオブジェクト間 でメッセージやデータが送られる、というものなのです。sendとreceivee、 あるいはサブパッチと完全に同じ感覚です。(^_^) たとえば、PCMデータファイルをあらかじめいろいろ用意しておき、パッチとして こちら側の「playpcm」というオブジェントがbangされると、サーバに PCMデータが送られてD/A出力される、ということのようです。 その他に報告されたものとしては、 プロファイルtoolを用意する 半自動プロセッサロード/repartitionのツールも用意する コントロール系もコンパイル可能 DSPに対してグローバルに最適化してくれる などの、これも言うは易し行うは難しという、美味しいサポートがあります。 まあなんというか、さすが世界のコンピュータミュージック研究を支える のはIRCAMである、という自信がそことなく漂ってくる話でした。 さて、ここで当初の予定では以下のセッションに行くつもりをしていました。 論文をちらっと読んだところでは大したことはなさそうなのですが、なんせ ネタがGAということで、一応チェックしておきたかったのです。 しかし、ちょうど朝に片寄さんと出会ったので、ここをお願いしてデモに 行くことにしました。 なお、あとで聞いたところでは、やっぱり予想通りだったようです。(^_^;) ■ペーパーセッション6B■ Friday September 16 16:30-17:20 Paper Sessions 6B : Brolerg Ole Caprani, chair [Genetic Algorithm] GenJam: A Genetic Algorithm for Generating Jazz Solos John Biles Genetic Algorithms as a Method for Granular Synthesis Regulation Ichiro Fujinaga, Jason Vantomme ■ポスター/デモンストレーションセッション■ Friday September 16 16:30-17:20 Poster & Demonstration [Performance Systems] The Granulation and Time-Shifting of Sampled sound in Real-time Tim. Bartoo, David Murphy, Rusell Ovans, Barry Turax 思えばグラニュラーシンセシスの音に出会ったのはモントリオールのICMC。 そして自分でこれを作ってNNでパラメータ制御して発表したのが翌年の サンノゼのICMC。ところがそこではTurax教授の不思議なグラニュラー サンプリングの音響を聴いて感動し、この音響が翌年のトウキョウICMC では一つのブームになっていた、という、僕にとってICMCそのものでも ある、グラニュラーシンセシスの権威のデモセッションでした。 過去のペーパーが豊富な権威といってもスグに抜かれるのが仁義なきICMC の世界(^_^;)(いいものはいい、誰がやってもいい)ですが、こちらはリアル タイム処理のためのエンジンを実現していました。 実は僕もちょっと狙っていたのですが、やや僕のDSP環境では力不足です。 しかし、会場で配られていたレジュメに書かれていたDSPアルゴリズムは、 まさに僕が考えたアイデアと同じでした。ちょっとくやしい...。(^_^;) ちなみに、Truax教授の最新CDを購入していたのですが、あとでコンサート会場 でたまたま前列にいたので、お願いしてサインしてもらいました。(*^_^*) 作曲者自身のサインの入ったCDなんていうのは、ICMCでないとなかなか 手に入りません。 ■バンケット■ Friday September 16 17:30-20:00 ICMA Banquet バンケットでは、またまた例のギャグとかもあったのですが、とりあえず 速報として、 「ICMC1996はホンコンで開催」 と発表されたことだけ、記すことにします。 (ちなみに来年のICMC95はカナダのBanffです) ...他にもいろいろ話題はあったのですが、まぁいいでしょう。(^_^;) ■コンサート8■ Friday September 16 20:30-22:30 Concert 8 : Athelas Sinfonietta このコンサートは、テープ音楽の1曲を除いて、すべてアンサンブルを 伴うものでした。大ホールにずらりと楽器が並ぶと、なんとなくICMC離れ した雰囲気でスタートしました。 David A. Jaffe (USA) : Seven Wonders マックス・マシューズさんの、あのラジオドラムがヤマハのMIDIピアノの 演奏用として使われて(当然MAXが間に入っています)、あとハーモニウム、 チェンバロ、ハープ、ギター、コントラバス、バンジョー、マリンバ2人 というわけのわからない編成を指揮者が振りました。(^_^;) ハーモニウムだけが持続音楽器ですが、ビブラートや微小音程のない無機的な 楽器ですから、全体としてかなりドライな音素材を配置したことがわかります。 冒頭からいきなりラジオドラムのバトンを下げると、ピアノの鍵盤が さざ波のようにわらわらと動き、ほとんどいつも同時に数十音のイベント がMAXから送られていました。 最初はシリアスかな、と思ったのですが、何故か途中でポップになり、結局 この曲はラジオドラムを目立たせるためのものなのかなぁ、と思っていたら 終ってしまいました。(^_^;) Frances White (USA) : Winter Acoustics クラリネット、ビブラホン、エレキギター、ピアノ、チェロ、ダブルベース にテープ音響と指揮者、というこれも大げさな編成の作品。 始まる前にピアニストがなにやらごそごそやっているので、ハハアこれは プリピアードピアノかな、と思っていたら、なんと弦のところにタコ糸みたい なのをあちこちにひっかけていました。(^_^;) で、演奏が始まると、ピアニストはピアノにおおいかぶさって、両手でこの 糸を左右にボウイングするのです。すると、けっこうバイオリンというか チェロみたいな音がしました。どうせならバイオリンに弾かせればいいのに、 なんて思ってはいけません。ピアノでボウイングしてバイオリン風の音を出す ところに意義があるのです。(^_^;) ...で、音楽ですが、おとなしいというか静かであるというレベルを越えて 禁欲的なまでになんともおだやかな曲で、もう眠い眠い。(>_<) 作曲家というのは、聴衆をなるべく眠らせる音楽というのを一度は書いてみたい のだそうですが、もしこれがそうだとしたら、かなり成功していました。 Erik Hojsgaard (Denmark) : Nocturne Ivar Frounberg (DK) : SHaTaLe この2つの作品は、いずれもこのアンサンブルをフルに使って、あとコンピュータ というものでしたが、共通した感想としては、「これだけ現代音楽として 完成しているのなら、コンピュータ音なんていらないじゃないか」(^_^;)という ちょっとICMCでは顰蹙のものでした。 しかし、オーソドックスではあるのですがやはり眠くなるということは、 まだなんとなく不満が残りました。 本当にレベルの高い現代音楽作品を聴いていると、一寸先も読めない緊張感 がもっとあるものです。 Howard Fredrics (USA) : The Raven's Kiss テープ作品。ボイスをいろいろに料理する、というアリガチなものでした。 ここでインターミッションで全員がロビーに出たのですが、そこで香港の ICMC96のchairwoman(というのでしょうか)のLydia Ayers女史と話を することができたのですが、かなり日本を期待していました。(^_^;) 返還の前年ということで、香港市内のホテルは異常に高く、そこでドミトリーを 使える時期ということで、なんと開催は8月の第3週ということでした。 こうなると、1996の音情研の夏シンポは、香港ですね。 平田さん、検討しましょうね。(^_^;) ただしこの時期は航空運賃が相当に高い、と板垣さんはボロクソに言って いました。まだまだいろいろ考えないといけませんねぇ。 ...と、皆んなで盛り上がっていると、開演のベルが鳴りました。 Kaija Saariaho (Finland) : Amers ソロのチェロと、全部で12人の演奏者、そしてコンピュータと指揮者という 編成の作品。ほとんどチェリストの熱演に支えられていた作品ですが、完成度 は高いものを感じました。チェロの音って本当にいいですね。(^_^) それにしても、この作品なら、わざわざピアニストにシンセを弾かせてベル みたいな音をMIDI音源から出さずに、生のパーカッションに割り当てて、 いっそのことノイズの気になる電子音をなくしたらどれほど良くなるか、と ここでも感じました。(^_^;) .....ちょっと驚いたのは、ピアニストの女性がガムをかみながら弾いていた ことです。 別に管楽器じゃないからいいのかな。 それにしても、このコンサートでいろいろな楽器を眺めて思ったのですが、 タナカアタウ氏のBioMuseでもそうなのですが、単にいろいろなセンサというか 「新楽器」を考えても、自然楽器に比べるとまったく歯がたたないなぁ、と つくづく思います。(^_^;) ラジオドラムによってMIDIピアノを「弾く」、というその事実が目標なのでは なく、あくまでビアノの音響が音楽の時間内にコントロールされることが 音楽の要請である筈です。 BioMuseの演奏はとってもよかったのですが、あれを巨大ジョイスティック (ブルーワーカーに歪みゲージセンサをつけたものだと思ってください(^_^;)) でやった方が、見ている方もコントロールする方も、そして肝心の音響も スムースだったのではないかな、とも思いました。アタウ氏の作品が よかったのは、筋電位センサではなくて、それのつながった音源の扱いに あったと思うのです。 最初は「あ、僕も新センサで何かやろう!!」と軽薄にも思ったのですが、 さっそく反省しました。 ■コンサート6■ Friday September 16 23:00-23:45 Concert 6 : Fireworks 前日の雨で流れた野外コンサートが、なんと夜中の11時過ぎから始まりました。 僕は寒さを覚悟して、チョッキを着込んでの立見です。強風で傘が壊れた 井口先生は、その代わりにと買ったカラフルなウインドブレーカーを頭から スッポリかぶって、なかなかカワイイ姿でした。(^_^) Ake Parmerud and Anders Blomquist (Sweden) : Trio ホール内の照明が暗くなったので外に出ると、広場の池の向こう側にステージ ができていて、演奏が始まりました。上からバスドラムを3つ吊して奏者 が踊るように乱れ打ちをする、という、日本のあちこちの祭や鬼太鼓座の ようなパフォーマンスでした。ビートのあるノリノリの音響で、同期して バスドラムの後ろの照明が点滅するのが見える、というのがミソです。 まあここんなもものかなぁ、ということで終りました。 この曲は次の曲と同じ人の作品ですから、まぁ前座というところでしょう。 Ake Parmerud and Anders Blomquist (Sweden) : Target そしていよいよ、話題の「花火とコンピュータミュージック」になりました。 野外なので、そしてかなりの横風が吹いているので、それに負けないような 強力なPAです。さらに音楽の音響も相当に強烈なもので、これをホールで 聴くのはちょっと勘弁(^_^;)...というものでしたが、野外には合っていました。 そして途中からいきなり、花火が打ち上がり始めました。横風がすごいので 煙はまったく漂わないのはいいのですが、むこうの建物の屋根にドカドカと まだ火の出ている破片が落下したり、もうハラハラもの。(^_^;) 花火というのは腹にズシンときますから、あの過激な音楽もこのためか、と 納得するほど花火とマッチしていました。 さすがに「たーまやー」という声はかかりませんでしたが、数分間で尺玉クラス の乱れ打ち、これはスゴイお金がかかったと思います。 それより驚くのは、深夜11:30過ぎに、市内中央の野外であの大音響の演奏に 花火ドカンドカン、というのを何事もないように許す、というこの街の ほうです。芸術に対する理解がものすごく奥深いのだなぁ、日本では逆立ち したってできないよなぁ..などと考えながらホテルに向かいました。 .....さて、いよいよICMCも最終日になりました。まだまだ大矢さんのポスターも これから、早稲田の発表も2件が残っています。 朝食の時に橋本先生と一緒になりましたが、昨夜は発表の準備などで たいへんだったようです。 ちなみに、僕は行きたいセッションがあちこちにあり、残念ながら橋本研の 発表も大矢さんもパスで、ひたすらスキップしまくる予定を立てていました。 なんせ国内ですでに知っている研究ですから、まぁお許しください。(^_^;) なんとか雨は降っていないものの、日本でいえば12月といった肌寒さです。 とはいっても大矢さん言わせれば、長野の10月だそうで、「日本で言えば」 でなく「浜松で言えば」ということだったようです。(^_^;) ■ペーパーセッション7A■ Saturday September 17 09:00-12:00 Paper Sessions 7A : City Hall Glovanni de Poll, chair [Audio Analysis and Re-Synthesis] Real-time Musical Applications using FFT based Resynthesis Zack Settel, Cort Lippe これはなかなか強烈なセッションでした。だいたい、壇上に登った二人は 世界をリードするIRCAMのスーパースター。なんと「掛け合い漫才」 をしているものの、中身はといえば、ISPWの超強力なお話です。 論文集の図を見るだけで、ほとんどその内容の凄さが理解できる、実のある ホンモノの発表でした。(^_^) 中身は簡単明瞭です。 「DSP-MAXのオブジェクトとして、FFTやIFFTがある」 これだけです。しかし、この意味はとてつもなく大きなものです。 FFTやIFFTのオブジェクトにはちゃんと実数部と虚数部の出力があり、 ここにルックアップテーブルやsin/cosなどを使えば、ほとんど自在に あらゆる信号処理が、それも「リアルタイムに」できるのです。 これはもう、現在のところ世界でもISPWだけの独壇場です。 (...小坂さん、NTTあたりでビシッとやってくれませんか?) 一つ一つ、ていねいにデモ音響を交えて紹介してくれましたが、これを聴く だけでモトが取れました。(^_^) 信号入力とスペクトルエンベロープのコンボリューションを取ると、簡単に フィルタができます。さらに、コンボリューションの相手として普通の信号 を使えばダイナミックフィルタリング。 音声の喋りをピッチトラッキングとエンベロープフォロワを通してFMに 畳み込んだクロスシンセシス。 バンドエリミネートフィルタとしてアクティブノイズゲートに使う、などという リッチな、というか勿体ない例もありました。成分ごとにパワーゲインを 制御できるので、当然と言えば当然ですが、ノイズに埋もれた演奏を抜き出す ことも簡単なのですね。(^_^) 最後のQ/Aで、デモで聞かせた例ではサンプリングがいくらか、というところで (32KHzでも44.1KHzでもOKだそうですが)、リッペが「ISPWを1枚でできる」 と言えばザックが「これは2枚必要だ」と言い、二人で言い合いを始めました。 もう完全に漫才で、会場は爆笑。IRCAMの余裕というかなんというか。 ...このセッションはとりあえずここの1件だけで、道路を渡って別会場に。 ここでは、パラレルだった冒頭の発表のあとにすべりこんで、2件を聞いて、 さらに再び抜け出して別会場に、という目論見です。(^_^;) ■ペーパーセッション7B■ Saturday September 17 09:00-12:00 Paper Sessions 7B : Brobjerg Shuji Hashimoto, chair [When Computer Listen] Pattern Processing in Music Robert Rowe, Tang-Chun Li 過去のサーベイをよくしているのは判ったのですが、お話が多くて、自分が なにをしているのかがよく判りませんでした。セグメント化したテンプレート マッチングということだけで、グルーピングのところは片寄さんのところの アプローチと同じような気もしました。 ...詳しくは片寄さんの報告を待ちましょう。(^_^;) Automating Ensemble Performance Lorin Grubb, Roger B. Dannenberg ダネンバーグと連名の発表なので期待したのですが、ちょっとイマイチでした。 ちょっと「伴奏ネタ」も低迷しているのかもしれません。 ソリストと伴奏というところから、アンサンブルのトラッキングで伴奏する システムに行こうとしているのでしょうが、デモのビデオで見ると、なんとも 能書の割には完成度が不満でした。 ICMAの、ダネンバーグのトランペットに追従するデモビデオの印象が あるからなのかもしれませんが、モーツァルトというのもなんか反則だし(^_^;)、 とにかくちょっと物足らない印象でした。 ただし、なんとなく感心したのは、「これぞ発表論文」という見本のような すっきりしたペーパーだったところで、思わず論文集の全体をペラペラと 全部、比べて眺めてしまいました。 ■ペーパーセッション7A■ Saturday September 17 09:00-12:00 Paper Sessions 7A : City Hall Glovanni de Poll, chair [Re-Synthesis of Human Voices] A Real-time singing voice analysis/synthesis system Peter Pabon マイクからリアルタイムに音声を分析してグラフィック表示をして、さらに この逆にグラフィックのパラメータから音声合成をできる、という発表。ちょうど X軸方向がピッチで、Y軸方向が強さ(音量と音色)ですから、僕が京都の コンサートでやったものと同じようにマウスでぐりぐりと動かすと、MIDI音源 の代わりにシンセが歌う、というものです。 Male/Female/Childなども切り替えできて、さらに母音もいろいろと選べる ものです。ただし、DSP96000ということで、そう簡単に一般に出回ると いうには、まだまだ高価なシステムのようです。(^_^;) A Virtual Castrato (!?) Philippe Depalle, G. Garccia, Xavier Rodet IRCAMホモ説(^_^;)をまたまた裏付けるような、しかしIRCAMでないと できない話の発表でした。 「カストラート」というのは、ボーイソプラノの声を大人になっても使う ために去勢して変声させない歌手のことというのは知っていましたが、ホテル に戻って辞書を引いたら、「去勢する」という普通の動詞でもあったのですね。 それで、この研究の目的というのが、18世紀の有名なカストラート(歌手)の 映画のサウンドトラックとして、39分間のカストラートの歌声を作る、という ものなのでした。さすがフランスというか。 ところが、今世紀最後のカストラートも1922年にいなくなったとかで、歌手 がいないのです。(^_^;) このへんの話も、本人が真面目にするほどおもしろいです。 「誰かボランティアでカストラートしてくれますか?」 一同爆笑。 「というわけで、Digital Processingでやることにしました」 ...という論理的な展開(^_^;)で、IRCAMのボイスシンセサイザSVPを 使っての挑戦ということでした。 実際には、最後のカストラートのわずかに残った録音を参考にして、ソプラノ やカウンターテナーの歌に対してリアルタイムにフィルタリングするという もので、完全な音声合成ではないようです。 半自動セグメント化でラベリングして、データベースを引いていくという ものですが、 実際に聴ける、という芸術性 リアルタイム処理の技術的課題 の両方とも、ちょっと真面目に考えてみるととてつもないもので、よくこんな 話をIRCAMは受けるなぁ、と感心しました。 [Interactive Performance System] The Virtual Piano Acction: Design and Implementation Brent Gillespie サンノゼのICMCで、オタッキーなブレスコントローラで力量を見せた CCRMAが、今度はなんとピアノアクションにまともにアプローチして きたようです。 OHP用に透明プラスチック板で作った「動く」アクションには驚きました。 僕はかつて、ピアノアクションの部品の一つ一つ作りから響板・張弦・調律まで、 全てのピアノの行程を一年近くやった経験がありますが、それだけにピアノの 音に関しては、シンセの合成やPCMの議論はもちろん論外として、音響屋 さんのアプローチも「そんなのピアノのメカの闇の中さ」と、比較的さめて 見ていました。(^_^;) しかし、もしかするとCCRMAが本気でしっかりとアプローチすると、この 神秘がベールを剥されるかもしれません。簡易的モデル、と言いながらキチンと 微分方程式を立てていますし、このモデルがCCRMAのこれまでの研究の、 弦の剛体振動モデル ハンマーの打弦モデル 響板のプレート振動モデル などの物理モデル楽音合成に結び付いたら、いよいよ夢の「本物のピアノ音 合成」に向かっていくかもしれません。 ついに、PCMでごまかしてきた楽器メーカの最後の砦に手がかかったのです。 (^_^;) 実際にはまだ始まったばかりで、今回は有限ステートマシンとして、ハンマーと 鍵盤とメカ部分の相互作用を4つのステートとして状態の推移を記述する、 という程度でした。しかし、来年は何か「音」が出てくるかもしれません。 The use of active tactile and force feedback in timbre controlling electronic instruments Bert Bongers インタラクティブシステムに必須の、センサからのフィードバックなどについて の発表でした。 VRの世界では常識となってきましたが、人間からのアクションを拾うセンサ だけでは人間は十分にコントロールできません。アクションに応じたリアクション が必要で、VRの世界ではフォースディスプレイなどと言いますが、ここでは フォースフィードバックと言っていました。 図にすると簡単なのですが、要するに <人間>←−−−−−−− ↑ ↓ | アクチュエータ/センサ |Sound ↑ ↓ |
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