bit掲載「ICMCレポート」1992-1995より


ICMC(コンピュータ音楽国際会議)'92参加レポート

長嶋洋一

コンピュータ音楽に関する領域の研究者・音楽家などの国際組織である ICMA(International Computer Music Association) がここ十数年にわたって毎年開催している ICMC(International Computer Music Conference) に、前回のモントリオール(McGill Univ.)に続いて、米国シリコンバレーのサンノゼ(San Jose)で参加することができた。コンピュータ科学の一つの応用分野として歴史の深い「音楽」に関する現在の研究の先端状況について、その概要を報告する。

ICMAはコンピュータ科学と音楽の両方に関係する広範な領域に関係する世界中の科学者・作曲家・音楽家・研究者・技術者・組織・企業などからなるAssociationで、1992年現在の会員数は、26カ国、418名(うち269名がUSA)である。ICMAの主催する国際会議として1978年以来、従来はアメリカとヨーロッパでほぼ交互に開催(1988西ドイツ、1989アメリカ、1990イギリス、1991カナダ)されてきたこの会議は、今回はICMA発祥の地であるシリコンバレーのサンノゼ州立大学をホストとして開催された。(そしていよいよ1993年9月には初めて欧米を離れて、日本(東京・早稲田大)で開催されることになっており、スタッフの準備が日々進んでいる。)

ICMCの特色としては、研究発表やシステム発表のいわゆるペーパーセッションと、コンピュータ音楽の作品発表であるコンサートセッションとが、完全に同等に位置しているところにある。ただし、研究発表のパラレルセッションはあっても、コンサートセッションの時間帯には「裏」の行事がなく、確実に全参加者がコンサートに出席できるように運営されるところに、一般の科学系の国際会議とは異なるポリシーを見ることができる。つまり、情報処理・計算機科学の技術だけでは「音楽」への応用となり得ない、あくまで「音楽作品の場」においてその技術的アプローチを評価すべきである、という明確な姿勢がある。事実、多くの参加者と接してみると、たとえば大学でコンピュータサイエンスを専攻したあとで音楽大学の作曲科の大学院を修了(あるいはこの逆のパターン)など、本格的な音楽とコンピュータ技術の両方をベースにした、地に足のついた研究者・音楽家が非常に多かった。

日本のコンピュータ音楽の研究者の場合、あまりに「計算機寄り」というか、「私は音楽には詳しくありませんが...」という前置きで発表するような人さえいるのとは大違いであり、研究者としての「懐の深さ」の違いを見せつけられた。また、国内の学会(とくに全国大会)が、「一方的に発表するだけの場」に近いものであのに対して、ICMCは「ディスカッションの場」であり、発表内容に触発されて大勢の参加者の議論が続くような場面に何度も遭遇した。Conferenceをポイント実績の「儀式」とするのか、それとも研究のための情報交換・討論議論の場として活用するのか、ここでも「差」が顕在化していたように思う。ICMCのペーパーと音楽作品は世界的に募集され、ICMAが中心となる選定委員会によって国際審査されて通過したものが発表される。国内の学会の全国大会などと違って、音楽作品で5-6倍、ペーパーで3倍程度の応募があるために、ICMCでの発表はその時点での一定の水準として評価され、Proceedingsは多くの研究論文等で参照されている。

今回のICMC92は、サンノゼ市にある San Jose State Univ.がホストとなった。全体の Director は同大の Allen Strange 教授。彼は繊細かつパワフルな太っちょオジサンで、我々のインタビューにも積極的に応じてくれた、ICMAおよびウエストコーストの研究者の人気者である。また、近郊にあるスタンフォード大学のコンピュータ音楽研究のメッカであるCCRMA(Center for Computer Research in Music and Acoustics)も全面的にICMC92に協力し、プレイベントとして研究所公開やコンサート開催、さらにICMC92スタッフとして活躍した。CCRMAはフランスのIRCAMやMITのメディア・ラボなどと並ぶ世界的なコンピュータミュージック研究の重要拠点の一つで、John Chowning, Max Mathews, John Pierceなどの権威と若手の研究者、さらに世界中からの Visited Researcher/Composer とともに最先端の研究と音楽創造を続けている。従来のWSベースのシステムに固執することなくISPW(IRCAM Signal Processing Workstation)が多数導入され、それをCCRMA流にシステムアップしているところが印象的だった。

CCRMAはスタンフォード(シリコンバレー)という地の利を生かして、ソフトウェアだけでなく、たとえば特殊なセンサやメカ機構の試作(得意な企業が周辺に多く、共同研究としやすい?)などにも意欲的で、今回もユニークな「楽器」を発表していた。CCRMAの出版/発表リストにあるものだけで184冊にのぼり、コンピュータミュージックらしく、作品のCDもCCRMAとして発表している。研究公開のあった日には、CCRMAが主催したコンピュータ音楽の野外コンサート(Digital Music Under the Stars)にも参加することができた。しかし、コンピュータ音響の現代音楽を野外劇場でナイトコンサートとして一般に開放し、近郊の多くの聴衆がピクニック気分で集まってくる風景は、日本ではまだしばらく望めそうもない。 ICMC92では全期間フル参加者が約350名で、これに1日参加者も多数加わり、さらにコンサートセッションは有料で一般にも公開され、常時ほぼ満席となった。昨年の Motreal までは日本人の発表は非常に少なかったが、今年は音楽セッションで4名(全員が海外での活動をメインとしている)、ペーパーセッションでは音楽情報科学研究会のメンバーばかり7名が審査を通って発表でき、一般参加者を含めて10数名がICMC92に参加し、来年のICMC93に向けて日本の参加を印象づけた。 

(中略)

かつてコンピュータ音楽といえば、大型計算機による演算結果を「テープ音楽」として聴くものばかりだったのが、パソコンやWSの発展によって、高度な情報処理をリアルタイムに演奏する作品が主流となってきた。ここではコンピュータが担当するパートに合わせて演奏者が独奏(という名の協奏)する形態から、独奏者の演奏をシステムがリアルタイムにセンシングしてダイナミックに変化する、インタラクティブな音楽へと重点を移しつつある。たとえば、独奏者の自然楽器の音響をISPWがリアルタイムに認識して、シンセサイザパートを駆動するパソコンを制御する作品とか、歌手の「声」やパーカッションの「音」をリアルタイムにISPWがプロセッシング(信号処理)する作品などが多く発表された。ISPWがリアルタイム処理の道具(楽器)としてすでに活用されているのである。ただ、今回気になったのは、何故か音質があまり良好でない作品、あるいは全体として各作品の音響が「丸い」「おとなしい」印象を受けた。会場のPAシステムの限界もあったかもしれないが、どうもISPWの処理能力の限界からか、全体にサンプリング周波数が低いような現象となった。人間の聴覚に挑戦するような、過激な音響を駆使するばかりがコンピュータ音楽というわけではないが、なにか物足りない気がした。

ISPWやMAXという、先人には望んでも手に入れられなかった強力なツール/環境が整ってきたのは素晴らしいことだが、道具に溺れて自分の「音楽」を見失わないようにするのは、このあまりに魅力的な道具を前にしては、かえって至難の技なのかもしれない。音楽の根元には「音」があり、あるいは「時間」がある。コンピュータ科学とともに歩むコンピュータ音楽とはいえ、技術が音楽に追従してきた今こそ、もう一度「人間」が見直されていくような予感がある。 

(後略)


ICMC(国際コンピュータ音楽会議)1993 報告

91年のMontreal、92年のSan Joseに続いて、ICMC(International Computer Music Conference)に参加した。しかも今回のICMC1993は、過去20年近いICMCの歴史の中で初めて欧米を離れて我が日本・早稲田大学を会場とし、音楽情報科学研究会を中心とした国内の研究者・音楽家たちが約2年半にわたって準備してきた、いわば「日本のコンピュータ音楽研究の国際的デビュー」の場でもあった。参加者・発表者・裏方という3役で関わってきたこの会議について、今回は速報としてその概略を報告する。

Computer Music分野の研究者数は、研究分野としての認知度の低さと同様、まだ国内ではそれほど多くない。しかし、「音響学会音楽音響研究会」「音楽知覚認知研究会」と共に歩んできた「音楽情報科学研究会」(音情研)が情報処理学会の正式な研究会になったり、音情研有志による文部省科研費課題研究「音楽情報処理の技術的基盤」報告書がまとまったり、IEEEにComputer Generated MusicのTask Forceが設立されたり、と次第に世間の注目・評価も得られるようになってきた。考えてみれば、コンピュータが出現してすぐの時代から音楽に対する応用は検討されてきたが、いろいろな局面で制約・限界に囲まれたものだった。現在のブームよりずっと以前から、音楽は本質的にリアルタイムであり、インタラクティブであり、マルチメディアであり、並列的感性情報処理の典型例である。従来の研究で代表的な、大型計算機による非実時間的な信号計算、楽曲データベースの情報処理、自動作曲編曲アルゴリズム、楽譜の光学的認識、対話的で高品位な楽譜の編集印刷などは、その制約内で進められてきたのである。しかし時代はComputer Music研究にとって好ましい進展をとげた。CPUパワーの向上による計算処理能力アップ・DSPに代表されるリアルタイム信号処理によって、厳しい条件の「時間」に支配される音楽の「演奏」段階と「情報処理」段階が同時に実現されるようになった。各種のセンサ技術とパターン認識技術はマンマシンインターフェースを向上させ、コンピュータと人間の演奏家との「対話」も実現されるようになってきた。マルチメディア技術やVR技術は人間とシステムとを複数のメディアによってインタラクティブに結び付けた。初期のブームを越えたいろいろなAI技術にとっても、人間の創造性・芸術性といった「感性」の領域が、音楽という分野で手の届く研究対象として、ようやく見えてきたように思える。そして今、デスクトップのWSにDSPボードと音楽情報処理用のパッケージソフトを導入することで、十年前には専門の研究機関が多くの研究者と莫大な研究費を投入して行っていた規模に匹敵する研究を、個人で容易に実現できる時代が到来した。ここで重要となるのは、当然ながら「音楽」そのものへの考察であり、アイデア・コンセプト・理論・モデルなどの独創性である。そして、数学・音楽学・心理学・美学・哲学にまで広がる過去の研究のサーベイも重要となる。ICMC93で新しく発表された研究の多くは、テクノロジーの進展によって「初めて」実現されたにもかかわらず、音楽的・理論的なアイデアは相当の歴史を持つものも多く、50-60年前の論文も参考文献としてreferされていた。音楽の歴史は深いのである。

ICMCとは、コンピュータと音楽に関する広範な領域の音楽家・研究者・技術者の国際組織であるICMA(International Computer Music Association)が毎年開催する国際会議である。すでに20年近い歴史をもち、ある意味で世界のComputer Music研究を常にリードしてきた。国内と違って、世界ではComputer Music研究は立派な研究分野として認知されており、多くの研究機関・大学がComputer Music研究の専門家を擁している。学生は音楽大学の作曲家を卒業して計算機科学の大学院を出たり、逆に計算機・人工知能の大学から音楽大学のComputer Musicのドクターになるなど、音楽とテクノロジーの両方の分野をマスターした人々が多い。当然、研究は「システム作り」に留まらず、システムやソフトウェアやアルゴリズムやモデルの研究とともに、それらを具体的な音楽作品・音楽演奏に反映させることも多く、研究者であるとともに作曲家や演奏家であることが当然のような雰囲気である。

筆者が連続してICMCに参加して痛感したのは、このコミュニティのメンバの明るさとクレイジーさである。なにより音楽が好きで、自分でも作曲したり演奏するために耳も肥えているし、音楽がよくわかっている。よほどのマニアでも閉口する、毎日連続して深夜までの現代音楽のコンサートも平気で楽しんでしまう。それでいてコンピュータ技術には敏感で、昨年発表された研究を今年は自分のモノにして発展させてしまうエネルギーがある。国内の学会と違って、ICMCのセッション会場はすぐに議論の場となって、「畑違い」などと遠慮するのでなく、他人の「畑」も貪欲に自分の世界に取り込んでしまおう、という好奇心が旺盛なのである。そこでICMCの特色としては、コンピュータ音楽の作品発表であるコンサートセッションと、ペーパー・ポスター・デモンストレーション(ソフトウェア・システム・理論等)などの研究発表セッションを、完全に対等に位置付けている。また、研究発表のパラレルセッションはあっても、コンサートセッションの時間帯は確実に全参加者が出席できるように運営される。一般の国際会議ではコンサートをいわば「余興」としているのとは対照的なポリシーである。つまり、情報処理・計算機科学の技術だけでなく、あくまで「音楽」そのものの場においてその技術的アプローチを評価すべきである、という明確な姿勢であり、評価は分かれるが、これが「ICMCのカラー」なのである。

このICMCの開催母体であるICMAから日本開催の打診を受けたのは、なんと1990年のICMCである。詳しい経緯は別の機会に紹介するとして、それから3年間かかって準備が進められ、そしてICMC93Tokyoは開催されたのである。いちばんICMCを楽しみにしていた、音情研を中心とした実行委員会メンバーは、期間中も裏方として奔走し、皮肉にも肝心の発表・コンサートそのものにはほとんど参加できなかった。筆者は実行委員会メンバーながら、「bitに報告記事を書く」という口実で極力参加できたのだが、この場を借りて多くの人々に感謝とねぎらいの言葉を贈りたい。 紆余曲折の末にICMC開催を立候補した計画当初に比べて、バブルが崩壊し、世界的な不景気と円高の中、海外の多くの研究者がわざわざ日本に来るだろうかという心配があった。しかし、ICMCのペーパーと音楽作品の募集には世界中からそれぞれ250件ほどの応募があり、最近のComputer Music研究は、ますます盛んになっていることを実感できた。この応募はICMAが中心となる選定委員会によって国際審査され、ペーパーで約3倍、音楽作品で約5倍の倍率を通過したものが発表された。今回は論文審査の査読者としても協力したが、英語で多数の応募アブストラクトを読むのはいい経験になった。この中から、自分の研究テーマに関する新しいネタが拾えたのも事実である。また、音楽作品のセレクションには各国の審査員が来日してホテルに罐詰になり、朝から晩まで電子音響の現代音楽を聴き続けた。応募してくる作品も凄いが、これを全部聴いてブラインド審査してしまうパワーもすさまじいものがある。

今回のICMC93の内容の概略をプログラムから紹介すると、3つのチュートリアル、8回のコンサート(演奏曲数52曲)、16回のペーパーセッション(発表件数64)、34件のポスターセッション、10件のデモンストレーション、1種類のパネルディスカッション2件のスペシャルセッション、4件のインスタレーション作品発表、4件の研究所公開(Studio Open House)、というものであり、従来のICMCに匹敵する規模となった。また、会議への参加者総数は約420人(海外160人、国内260人)であり、この分野への関心の高さを見せつけられた。 これだけのComputer Music分野での研究者・音楽家が一挙に来日する機会はもう当分は望めないものであり、ICMC93に関連したいろいろなイベントも各地で開催された。たとえば、UPICシステムのワークショップ、芸術と知識工学に関する国際ワークショップ(IAKTA/LIST)、神戸国際現代音楽祭(IMMF)などであり、ICMCに来日した多くの「有名人」は、ICMCの前後に日本各地で講演・ワークショップ・セミナー・コンサート等で活躍したのである。(筆者も東京のICMC・大阪のIAKTAワークショップ・神戸のIMMF、と発表の連続で、国内ながら10日間の全国行脚を体験することになった)

ICMC93の会場は、研究発表等については早稲田大学内の国際会議場と、隣接する15号館で行われ、コンサートは会議場内「井深ホール」と、水道橋の尚美学園「バリオホール」が使用された。多くの学会の全国大会と似たペーパーセッションは2パラレルで行われ、全参加しても半分の発表しか聞けなかった(MontrealのICMC91では4パラレルだった)が、事前にセッションテーマを分散させたために、内容の重複はほぼ避けられた。ポスター発表とは、発表者が一定時間、ブースにポスターを掲示して簡単なデモを交えて発表するもので、回ってきた参加者とディスカッションすることを特長としている。これよりも本格的に機材を準備して行うのがデモンストレーション形態の発表で、これらは全てProceedingsに論文が収録される。コンサートは2つのホールをフル回転して、機材セッティングからリハーサルを繰り返し、コンサート時間には会議参加者とともに一般の聴衆も入場した。早稲田とバリオホールとの移動にはチャーターバスも走った。

(中略)

およそ2年半にわたってICMC93を検討・準備してきた我々は、ICMC93Tokyoの合言葉として、「Opening a New Horizen」というキャッチフレーズを提示してきた。そしてICMC93が終わって、世界中から「よくやった」の泣かせる電子メイルが舞い込む中で、この言葉の本当の意味をあらためて実感しているところである。海外から来日した多くの研究者・音楽家は、日本の文化と伝統芸術に相当のインパクトを受けた。レクチャーコンサートで目の当たりにした、「本物の尺八」の表現力と演奏は、今後の作品に安易に「奇異な音響」として尺八を使うことを抑制することになるだろう。そして一方、これまでは海外の研究状況を知らなかった、という言い訳で済んだ国内の一部の研究者も、ICMC1993のProceedingsという証拠がこれだけ国内に出回れば、今後は「サーベイレス」の研究として失笑を買うことになる。たとえば、MAXのパッチによ自動作曲、機械とMIDIによる自動演奏装置、クラシック音楽の記号表現による分析「だけ」等というのは、世界ではとっくの昔に終わっている研究であり、「その先」でなければ研究テーマとしての意味がないのである。筆者はたまたま2年連続で発表できたが、それぞれの内容は1年遅れていればrejectされる程度のレベルであることを誰よりも知っている。今後のテーマは、さらに先を展望していかなければならないのである。国内の学会では10年前のICMCネタでも発表できるが、それでは自己満足にもならない。いよいよ、「井戸の底」だった国内の研究者もICMC93を好機として、世界と同じ土俵でComputer Music研究に取り組む時代になったのである。

次回のICMC1994は、デンマークのARHUSで開催される。その次は北米西岸(USAかカナダ)(その次には香港か中国...という噂もあったが...)だという話で、ますますICMCは世界を舞台に発展していくだろう。研究者は今回のICMC93で多くのネタを仕込み、議論によって問題点を明確にし、コンサートで新しい流れを体験し、早くも次回に向けての材料をタップリ準備している。そこには一つの研究分野にしがみついている研究者はいない。新しいアイデア、有効なコンセプトは誰でも翌年には自分の持ちネタとして吸収している。誰もが新しい音楽の境地を夢みて、コンピュータ技術の最新の成果を注ぎ込んでいる。Computer Music研究は文字通り、コンピュータと音楽を愛する者なら誰でも参加できる、そして限りなく奥深い世界である。ICMC1993を契機として、より多くの人々にこの世界を知り、理解していただければ幸いである。


ICMC(コンピュータ音楽国際会議)'94 参加レポート

コンピュータ音楽に関係する研究者・音楽家の国際的なコミュニティであるICMA(International Computer Music Association)が毎年開催している国際会議のICMC(International Computer Music Conference)1994に参加した。これで連続4回の参加ということもあり、特に今回のトレンドや最近の傾向について詳しく報告したい。今回が20回目となったICMCそのものについての解説や過去の経緯などについては、ICMC1992(San Jose)およびICMC1993(Tokyo)のレポートを本誌に書いているので、バックナンバ等で参考にされたい。また、情報処理学会音楽情報科学研究会の会報、Nifty-ServeのFMIDIUSR内「音楽情報科学の会議室」にも報告記事があるので、興味のある方はこちらも参照されたい。

今回のICMCはデンマーク第二の都市Aarhusで開催された。モントリオール、サンノゼ、トウキョウをまたいで1990年のグラスゴー以来の久しぶりのヨーロッパ開催ということもあり、ヨーロッパ系ICMCの特徴と言われる「音楽系ICMC」のカラーが目立った。もともとコンサートセッションと研究発表セッションの2本柱からなるICMCであるが、特にコンサート関連の十分な準備とサポートが印象的で、参加者も最近になく音楽系の人が多かったように思う。

主催のDIEM(Danish Institute of Electroacoustic Music)はデンマーク国立の電子音楽研究機関であり、会場となったMusikhusetの雰囲気や深夜の花火パフォーマンスを許容するあたりに、ヨーロッパ芸術文化の懐の深さを感じた。名簿に載っていた会議参加者は約350名、ここに当日登録者や熱心にコンサートを聴く地元市民が加わった。会議期間中は会場のホールのロビーには写真のようなインスタレーションも展示発表された。 コンサートは全部で11回あり、それぞれにサブタイトル的なテーマが設定された。今回は「北欧の若手作曲家を広く紹介したい」という地元の推薦作品も数多く含まれていたのが特徴といえよう。なお、本誌の特性上、コンサートでの個々の作品についての音楽的な解説・紹介は割愛させていただく。

プログラムからペーパーセッションのタイトルを拾ってみると、これだけで現在のコンピュータ音楽研究の傾向がわかるのは例年の通りである。以下、タイトルと簡単な内容紹介のみを記しておく。(順不同): 3D Sound Simulation 空間音響制御 / Pitch, Timbre, and Loudness Perception 音の知覚について / Performance Interface 演奏者とコンピュータとのインターフェース / Music Languages 音楽表現言語 / Composition Systems & Workstations WS上での作曲支援環境 / Music Workstations(文字通り) / Additive Synthesis 楽音合成のうち加算合成タイプ / Sound Synthesis Methods 楽音合成手法 / Music and Graphics 音と映像、マルチメディア / Music Notation 音楽表記 / Teaching Compute Music Engineers(文字通り)パネルディスカッション / Expressive Performance Analysis 芸術的表現の分析 / Neural Networks ニューラルネット応用 / Physical Models - Control Level 物理モデルによる楽音合成 / Composition Systems and Techniques 作曲支援、作曲法 / Interactive Performance Systems(文字通り)/ Foot Tapping タッピングの認知、パネルディスカッション / Acoustics 音響関係 / Aesthetics, Philosophy and Criticism コンピュータ音楽の哲学 / Networking: from MIDI to ISDN(文字通り)/ Modeling String, Plates, and Horns 物理モデルによる楽音合成 / Music Analysis 音楽分析 / Audio Signal Processing Techniques 信号処理 / Genetic Algorithms 遺伝アルゴリズム応用 / Interactive Performance(文字通り)/ Audio Analysis and Re-Synthesis リアルタイム楽音合成 / Re-Synthesis oh Human Voice ボイスに関する合成 / When Computer Listen コンピュータによる音楽知覚認知 / Composition Systems 作曲システム / Education, intelligence, perception 教育、心理学 / Data Structures and Reprensations 音楽表現とデータ構造 / New Instruments 新楽器シリーズ / Studio Reports 研究機関や大学の紹介 。

(後略)


ICMC1995参加レポート

世界中のコンピュータ音楽/音楽情報科学に関係した研究者・音楽家・技術者などからなるICMA(International Computer Music Association)が主催する、年に一度の国際会議ICMC(International Computer Music Conference)に今年も参加した。1993年の東京での開催の裏方を含む5年連続のICMC参加から眺めた、最新の潮流について報告してみたい。なお、興味のある方は筆者が本誌で報告した過去3回のICMCレポート(93年4月号、93年12月号、95年3月号)も参照されたい。

すでに20年以上の歴史をもつICMCは、ヨーロッパと北米での交互開催から1993年の東京・早稲田大での開催を機に「欧州・北米・アジア」の3極開催を目指しているらしく、昨年のヨーロッパに続いて、今回はカナディアンロッキーの観光都市Banffで開催された。会場となった国立のBanff Centre for the Artsは音楽に限らず、映像・舞踊・マルチメディアアートなど全般にわたって先端の芸術と技術を支援する機関である。 1993年の東京では「Opening a New Horizon」と東洋の文化との交流を強調し、1994年のデンマークでは過度の技術指向への反動からか「The Human Touch」というテーマが設定されたICMCだったが、今回のテーマは一転して「Digital Playground」とされた。時代がマルチメディアやインターネットに注目する中、初めて会議情報や論文がWWWサイトで公開され、従来の基調講演に代わってマルチメディアを駆使した「Keynote Event」(実際にはかなり簡略・縮小された公演であったが)を行う、というテクノロジー主導型のICMCである。

(中略)

会議最終日の朝にはICMAの総会があり、次回1996年は返還直前の香港(香港科学技術大学)で8月中旬に開催され、翌1997年にはギリシャのThessaloniki(サロニカ)で、さらに1998年にはICMC発祥の地のミシガン大学で開催される、と発表された。ICMC1996の応募締め切りは例年になく早く(1995年12月21日)、このレポートは間に合わないかもしれないが、同じアジアとして開催されるだけに、日本の音楽情報科学コミュニティの人々の参加を期待している、との実行委員長からメッセージを伝えておきたい。

香港の次のローテーションである1999年にアジア地域に戻ってくればまた日本で、という構想も既に話題となっている。過去の論文に埋もれるよりも、ICMCの場で最新の発表と議論に接すること、実際の音楽に適用した事例を体感することが、なによりも新しい研究テーマの宝庫となることを今後も期待したい。