情報処理学会チュートリアル参考資料

AKI-H8による呼吸センサ

1999年7月 長嶋洋一


作曲家・笙奏者の東野珠実さんの依頼で、彼女の「息」に 注目したプロジェクトに関連したオリジナルセンサを 作ってみました。 医療計測機器の呼吸センサを利用した、小型ポータブルな MIDIブレスセンサで、全ての完成まで1日半で簡単にできた のですが、センサが高価なので、そうなかなか作れないかも しれません。(^_^;)  まずは基礎編として、 こちらもあわせて ご覧ください。
なお、このドキュメントは、筆者がAtau Tanaka氏とともに講師を行う、1999年8月6日の 情報処理学会チュートリアル「センサ@コンピュータミュージック」の参考資料の 一部を兼ねていますので、このチュートリアルの内容に関連して、今後も変更の 可能性がありますので注意して下さい。常識ですが、全ての情報に関する著作権は 筆者にありますので、無断転載などはご遠慮下さい。


さて、またまたAKI-H8によるオリジナルシステムの開発です。 これ が、いつもの開発スペースです。要するに自宅の自室です。
デスクの正面には、 こう いうお守りが並んでいます。黄色いお守りは、「厄除御守」と 書いてあります。当然、「バグ退散」という事です。
また、上に乗っているのは こう いうもので、ぐじゃぐじゃに握り潰されてもムクムクと 膨らんできて元に戻るという、「したたかノムさん」と、 今年の長野高専のお土産のシヴァ神です。やはり、長野と いえばインドでしょう [ 意味不明 ]。(^_^;)
これら3種の神器ならぬ3種のお守りが揃ってからというもの、 不思議と新しく開発するシステムやソフトのバグが極端に 減っています。霊験あらたかなものです。(^_^)

そして、 これ が今回のセンサです。すでに本来のケーブルをあっさりと 切断してしまっていますが、本来は、心電図計とか脳波計に 接続して、呼吸のリラックス状態をモニタするものです。 抵抗値の変化するビニールチューブがあるだけのもの ですが、この2本セットで5万円もします。(^_^;)
付いてきた簡単なマニュアルには、 この ように載っています。胸と腹のところにセットして、 胸式呼吸と腹式呼吸の違いもセンシングできそうです。 ゴムひもで長さを調節できるので、たいていの体格の人に 使えるようです。

センサのアップは、 この ようになります。伸びすぎて壊れないように、リミットの長さの 伸びないビニール線が付いています。ピンク色のゴムは、 身体に巻いて固定するためのものです。 このセンサの抵抗値は、張力ナシの状態で1KΩ、限界まで引っ張った 状態で2KΩという変化をしました。ただし、どうセットしても、 フリー状態から限界までをダイナミックレンジとするような 「呼吸」というのは不可能です。そこで、わずかの抵抗変化を 検出するために、東野珠実さんのための笙ブレスセンサを 作った時に使った秋月電子の「圧力センサキット」の回路を、 そのままイタダキでまずは試しに作ってみることにしました。 まぁ、そんな程度のノリでもいけるのが、アナログのいいところ です。(^_^)


とりあえずは秋月電子の回路を流用するので回路図はナシ、と くれば、もういきなり製作開始です。 これ は、いつものようにケースとかコネクタをストックから出してきた ところです。今回は、センサを含むブリッジ回路部分を長く本体まで 伸ばしたくない、ということで、ごく小型のケースにブリッジ(OPアンプの バッファまで)を組んで、そこからいつものAKI-H8ケースにボルテージ フォロワ出力の低インピーダンス電圧出力として伸ばす ことにしました。胸と腹のセンサをまとめた小型ケースは、 たとえば腰のベルトにしまえるようなイメージです。

ということで、まずはドリルで 穴あけ です。今回は二つともケースがABS樹脂なので、卓袱台を 出すまでもなく、ゴミ箱の上空での空中穴あけ、という アバウトなものでした。(^_^;)

穴あけが済んだら、 こう いうふうに、サブBoxには中継ケーブルとセンサのコードを、 本体にはLEDと電源スイッチと中継ケーブルとMIDI出力 コネクタのケーブルを差し込んで、なんとなく全体の イメージをつかみます。なんせ回路図も何もナシで 行き当たりばったりでやっていますので、こういう作業で 確認しておかないと、後で「穴が足りなかった」(^_^;) などと悲惨なことになります。

そして、ユニバーサル基板をケースに合わせて カットします。 これ で、製作のスペースが限定されたことになりますから、 あとは空中配線になってもなんとか、その空間に回路を 押し込む、という事になります。ちょっとサブBoxが 小さかったかなぁ、とここで一瞬、躊躇しました。(^_^;)

しかし、 こう やって、AKI-H8とOPアンプを入れてみると、なんとなく 「いけそう」にも思えます。OPアンプは4回路入りの BA10324を二つということで、これ以上にICが増えなければ なんとかいけるかな、と進めていきました。


ところが、ICは確かに1チャンネルで1個なのですが、なんと作りながら 回路図 をよく見ると、オフセット調整とゲイン調整で二つの 半固定抵抗が必要になり、 この ように、全部で4個のヘリカルポテンションメータが 並ぶことになりました。この状態でなんとか押し込める のですが、かなりピンチです。(^_^;)
これ が、そのアップです。1円玉を比較に置いていますが、 またまた、なかなかの高密度になりました。 良い子は、 この ような 空中配線は真似しないで、大きくスカスカに作りましょう。 こういうのは年季が必要です。(^_^;)

秋月電子の気圧計キットの回路をそのまま流用し、抵抗も 手元にたまたま無いものは「330KΩも220KΩも、まぁ誤差と しては同じようなもんやろ」(^_^;)というノリでとりあえず 作ったのですが、なんとテスターで出力電圧を計測してみると、 単電源OPアンプの限界で+3.8Vまでですが、見事に出力の 電圧が出てきていました。
そこで、 この ように 一気に、システム全体を作ってしまいました。 もちろん、この段階ではAKI-H8のソフトが無いので、 ハードだけで何も動きません。
ちなみに、センサ回路の方は、 このように ゲイン調整のトリマを省略してしまい、メインBoxも この ように いつものスタイルでスッキリとなりました。 基板にAKI-H8の他に載っているのは、MIDI出力のための オープンドレインゲートの、この74HC05だけです。 +5V電源のレギュレータはAKI-H8の上のものを使い、 LEDは電源そのままでなく、AKI-H8からポート出力で 点滅します。50%は消えているので、より省エネです。(^_^)


さて、ハードがとりあえずできてしまったので、回路図もないので、 忘れないうちにソフトを開発してしまわなければなりません。 このように 2台のPowerBook2400が並びました。左は2400/180の ノーマルですが、右のは、320MHzのG3(バックサイドキャッシュ 1MB)にCPUが替わっていて、さらにHDDも4GBです。これは iBookよりも美しいスペックです。なにより、シリアルポート があるのが重要です。(^_^;)
ちなみに、それぞれの下で踏み台となっているのは、左が Kymaのホストに使うEPSONのWindows、右がテキスト系 お仕事メインのDynaBookです。Windows98というのはあまりに バグが多くて仕事に使えないので、ここにあるのは全てWin95 です。Windowsパソコンなんてのは、まぁMacの台にしてもらえる だけでも幸せでしょうか。

開発では、右側のPowerBookの画面内にWindows95を走らせて、 このように AKI-H8のフラッシュROMライタをシリアルポートから接続 します。これで、Mac内のWindows内のDOS窓で開発用のバッチ を走らせると、ほぼワンタッチで簡単にテストプログラムを 開発してダウンロードしテストランを繰り返せます。

2台のPowerBookは このように、 右ではAKI-H8の開発を、左ではMIDI出力のモニタをMAXパッチで 走らせます。これで簡単にソフトを完成に追い込めます。(^_^)


AKI-H8のソースプログラムとしては、 この ようになりました
とりあえずこのプログラムをそのままAKI-H8に焼きたい場合には、 この テキストファイルをROMライタからAKI-H8に送れば、 それで動作します。まぁこれは、笙ブレスセンサとか 汎用A/D-MIDIセンサとか、MiniBioMuse-IIとかのソフトから 切り貼りで速攻で作ったものですが、走ればOKでしょう。

センサを実際に胸と腹にセットして、適当に胸式呼吸と 腹式呼吸をしてみた例として、MAXで見ると このように なりました。
左半分、チャンネルプレッシャーの13チャンネルで表示している のが、「胸」の呼吸センシングデータです。これは、小型Boxを 腰に付けるという想定で、センサまでのコードがちょっと長い ものです。
右半分、チャンネルプレッシャーの14チャンネルで表示している のが、「腹」の呼吸センシングデータです。これは、小型Boxを 腰に付けるという想定で、センサまでのコードがちょっと短い ものです。

使い方としては、ピンク色のセンサセット用のゴムひもを調節して、 胸や腹がへこんだ状態でわずかにオフセットがある(例えばデータ として5とか10程度)ように、張力をかけておくことです。 そうすれば、呼吸によって胸や腹が膨らむと、データとしては 増大して反応します。センサがゆるゆるだとデータが出て来ません。
また、普通の人にとって、胸と腹では呼吸と「出る」「引っ込む」 の関係が逆になり、けっこう戸惑いますので、注意が必要です。 まぁ、このMAX画面を見ながら、自分で調整するというのが いいでしょう。

このセンサは、東野珠実さんのプロジェクトにおいて女性ボーカル の芸術的モーションキャプチャリングの一つとして使われる予定で、 作品は1999年秋に発表の予定です。 皆さん、どうぞ御期待下さい。(^_^)