大人と子ども、時間の感じ方なぜ違う 原因は「代謝」の違い?
「スローモーションに見える」は本当だった
一川教授と大学院生の小林美沙さんの研究チームによる最新の研究成果を紹介しましょう。交通事故に遭った人が、周りがスローモーションのように見えたと言うことがあります。これは記憶のゆがみではないかと考えられていましたが、実験によって、怒りや驚きなど、感情が喚起されると、視覚が短時間に処理できる能力(時間精度)が上がることがわかりました。平たく言うと、スローモーションのように見えるのは本当だったのです。 しかも、危険を感じたときだけではなく、喜びの感情でも同じことが起きました。一川教授は中森明菜のヒット曲「スローモーション」の歌詞に感心したそうです。出会ったときの恋の予感の「ドキッ!」がスローモーションと表現されているからです。 千葉大学では、実験心理学を学ぶ行動科学コースは文学部の中にありますが、自然科学的な関心を持つ学生が多く集まっています。一川教授自身は高校生のときから人間について勉強してみたいと思い、心理学、知覚、認知などについての新書を読んでいました。そして心理学が学べる大阪市立大学の文学部に入学しました。 「心理学には大きく分けて、臨床心理学と実験心理学があります。臨床心理学はカウンセリングをして個人の悩みにずっと付き合っていくものですが、私は人間の心を科学的に理解することに関心を持っていたので、自然科学的な方法で人間を理解する実験心理学を選びました。心理学は人間の理解が進み、生活の質の向上にもつながる分野です」 大学時代は関心を持ったテーマを自由に調べられ、人生の中でも貴重な時間なので、ぜひ自分で研究テーマを見つけてほしいと一川教授は言います。 最後に、保護者に向けてこう語ります。 「私が学生だったころに比べて大学は大きく変わっています。今はAI(人工知能)が注目されているように、関心を持たれるテーマもどんどん変わっていきます。 ご自分の価値観とか世界観は置いておいて、お子さんの視点や価値観を優先して、自由に研究テーマを選ばせてあげてほしいですね。自戒を込めてそう思っています」
プロフィール
一川誠(いちかわ・まこと)/千葉大学大学院人文科学研究院教授。博士(文学)。1965年、宮崎県生まれ。大阪市立大学文学研究科後期博士課程修了。カナダ・ヨーク大学研究員、山口大学助教授などを経て、2013年から現職。専門は認知心理学。著書に『大人の時間はなぜ短いのか』『仕事の量も期日も変えられないけど、「体感時間」は変えられる』など。
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