大人と子ども、時間の感じ方なぜ違う 原因は「代謝」の違い?
分刻み、秒刻み…人間的ではない
もともと人間に器官が備わっていないということは、本来、人間はそこまで時間を気にしなくても生きられたということでしょうか。 「人類の歴史の大半はそうだったと思います。現在のような分刻み、秒刻みの生活になったのは日本では戦後からでしょう。昔はみんな時計など持っていなくて、お寺の鐘が鳴ったからそろそろ帰ろうか、という生活でした。それが体感に合っていたのです」 ところがいまは仕事や勉強に追われて、多くの人が分刻みのスケジュールをこなしています。 「分刻み、秒刻みの正確さを求めるのは、あまり人間的、生物的ではありません。かなり無理があるので、ストレスを感じている人も多いと思います」 人間には時間を判断する器官がないのですから、学校や会社に遅刻してしまうことは、人間的な行為ともいえるのかもしれません。
時間研究の魅力とは?
一川教授はなぜ時間に興味を持ったのでしょうか。 「子どものころに大阪で開かれた万博で大画面の映像を見て、映像なのにリアルに浮き上がって見えるのがすごく面白かったのです。立体写真も好きでした。なぜリアルな立体が見えるかというと空間の錯覚が起きているのですね。それで大学院で空間の心理学を研究し始めると、空間の中での動きに時間が関わることがわかりました。時間の感じ方を調べ始めたら面白い研究テーマがいろいろ見つかり、今は時間と空間の感じ方の両方を研究しています」 実験は10人から40人くらいの被験者を集め、研究室のパソコンでいろいろな画像を見せるなど条件を変えてデータを取ります。結果を統計的に処理して分析し、論文にして発表します。 時間については物理学、哲学、生物学、脳科学などでも研究されており、日本時間学会では各分野の最新の研究が発表されます。他分野からの視点や情報が入ることによって、自分の実験データに新しい意味や可能性が見えてくることもあるそうです。 一川教授は時間研究のどこに魅力を感じているのでしょうか。 「人間が時間をどう体験するか、生物にとって時間はどういうものなのか、体験の科学である心理学はいろいろな特徴を提示することができます。 人間は人間のことをまだまだ全然知らないですね。研究を通じて時間の感じ方の癖がわかって、時間との付き合い方が変わるので、サイエンティストとしてだけではなく、生活者としてもすごく面白い研究だと思っています」