生態心理学研究 =========================== 1 巻, 1 号 =========================== 染谷 昌義, エコロジカルな認識論─知覚-行為の誘導者としての概念─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 1-10, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_1/_article/-char/ja, 抄録: 知覚が哲学の中で問題にされてきた大きな文脈の一つは,命題的構造を持つ概念的な知識を非概念的・非命題的な知覚が正当化できるのか否か,また正当化するとすればそれはどのようになされているのか, という認識論の文脈である.本稿では,“<情報抽出をガイドする情報>としての言語メディア"という見方(Reed,1992; 1996a; 1996b)や“概念は知覚をガイドする地図である,概念の意味は操作の結果である"というプラグマティズムの見方(James,1 1907;1 1911; Dewey,1 1929)に倣い,情報抽出としての知覚と,抽出を補助する道具としての概念(命題・言語) とを行為調整によって結び付け,概念的知識は将来の知覚一行為をうまく誘導しガイドする機能を持っているときに正当化される点を指摘する.これによって,know-how (知覚─行為の技能知)とknow-that/what (命題知・概念的知)とのカップリングを基本にしたエコロジカルな認識論を提起したい. 塩瀬 隆之, 植木 哲夫, 川上 浩司, 片井 修, 生態心理学的アプローチからみた技能継承の技術化スキーム, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 11-18, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_11, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_11/_article/-char/ja, 抄録: これまで技能は,それ自身が個人の内に閉じた特別な行為との理解が主流であったため,技能それ自身を抽出できて,機械やコンピュータに閉じ込めようとする技能の技術化研究が進められてきた.しかし,精緻に熟練者の技能を観察すると,環境との遭遇以前に何かが決まっているというよりはむしろ,環境との絶え間ない相互作用の結果として創発してきたと解釈すべき事実が多く,まさに生態心理学的な行為理解の視点が示唆に富む.主体と環境との関係の中で結果として組織化された行為という“技能"の理解は,物理環境を他者環境と読み替えることで,師匠-弟子関係のような徒弟制度的な“技能継承"プロセスの説明にも拡張可能である.そこで本稿においては,生態心理学の視点から技能継承をとらえるための技能継承の技術化スキームについて概説する. 廣瀬 直哉, スムーズでない行為の流れを記述する試み─マイクロスリップの分類─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 19-24, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_19, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_19/_article/-char/ja, 抄録: コーヒーを入れる課題の観察からReed & Schoenherr (1992)が見出した,躊躇,軌道の変化,接触,手の形の変化,というマイクロスリップの分類は,その後の研究でも踏襲されてきた.しかしながら,実際に行為の観察を行うと,このカテゴリーではうまく捉えることのできないスリップが観察されることがある.本研究の目的は,より一貫性のある新たなマイクロスリップの分類体系を提案することである.新たな分類体系では,変化の形態,変化の方向,変化時の小停止,変化の位置の4つの観点からマイクロスリップの分類を行う.この分類体系で特に重要なことは,行為の変化の方向を,続行,取消,変更の3つに分け,スムーズでない行為の流れを記述することである.この新たな分類体系に基づきコーディングを行った実験から,その分類の有効性の検討を行った. 柴田 崇, D・力ッツのメディウム論, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 25-32, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_25/_article/-char/ja, 抄録: 道具を使うとき,わたしたちは,自分の手が対象に触れるのと同じように,直接,離れたところにある対象に道具が触れるのを感じると考えている.こうした現象に関する記述は、視覚障害者が用いる白杖や,内科医の使う探り針probeなどの事例をもとに枚挙にいとまがない.使用に供されているとき,道具はあたかも手の延長として捉えられ,それ自体は“透明”であるかのように考えられているのである.これに対し,D・カッツは,その使用時にも道具が決して“透明"にならないことを,触覚現象の考察を基に主張する.カッツによれば,道具は,使用に供されているとき,手と対象の間に介在し,行為者に,対象の情報だけでなく道具に固有の属性をも伝達する.それは,道具を含む媒介物mediumが,行為主体や対象と同じ資格で実在することを出発点にして初めて可能になった.その意味で,対象(物質),面,とともに,媒質の実在を前提に議論を展開したJ・J・ギブソンの生態学的アプローチの嚆矢になったと考えられる.以上の論点を,両者の媒体論の比較を通じて証明する. 森山 徹, オカダンゴムシによる環境の自律的同定と行動の創発, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 33-44, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_33/_article/-char/ja, 抄録: オカダンゴムシのような下等動物は,自然選択の結果,生得的行動の適応性が保証される限定的環境にて生息するに至ったと考えられている.もしそうであるならば,環境が突如として大きく変動した場合,彼らは全く適応できないことになる.これに対し筆者は,生物は環境中から刺激をその都度自律的に区別し,行動を選択していると考えている.本論文では,オカダンゴムシが新奇的環境において刺激を自律的に区別し,その結果新奇的行動を創発することを示した実験を報告する.実験個体は,水で囲まれたリング状の通路に放置された.この環境において,彼らは交替性転向反応という生得的行動の作用により危険な水際の移動を余儀なくされた.しかし 時間経過と共に,水は刺激として自律的に区別され,個体と水との距離がある一定の値に保たれるような新奇的行動が創発された.更に,通路中央部に小さな障害物が置かれたところ,個体は当初これらに対し無反応だったが次第に刺激として自律的に区別し,遂にはしばしば数個を連続的に伝うという新奇的行動を創発した. 関 博紀, 建物における “囲み" について, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 45-62, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_45/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,環境の成立を支えている構造に注目した.分析対象は建物という環境であり,1950年以降に日本国内で建設された217軒の戸建住宅である.これらを対象とし,建物がどのような環境として成立しているかを分析した.その過程では,建物を巡る既存の単位である壁や床,柱などと異なる「囲み」という単位が設定された.「囲み」とは,建物の,閉じつつ聞くという特徴を捉える単位であり,囲んでいるものと囲まれることで現れるその場の質を同時に示している.この単位を用いて分析が進められ,建物という環境の構造を,20から成る「囲み」の型と呼ばれる細かな単位へ分類し整理した. 松裏 寛恵, 乳児期におけるリーチングと姿勢の発達, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 63-71, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_63, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_63/_article/-char/ja, 抄録: 一乳児を対象とし,リーチング時の姿勢調整の発達的変化について縦断的観察を行った. リーチング時,乳児は重力の制約下で対象物を見るために頭部を定位し,体幹を主とした動的平衡状態を維持しなければならない.また,うつ伏せでリーチングを行う場合,頭部や上体を支持することと対象物に向かうことの2つの機能が両腕(手) に課される.このような制約下で,乳児はリーチング可能な姿勢を調節し遂行する.様々な条件が混在する日常場面で乳児は姿勢の再調整を繰り返す.時としてこの試みは全身体の回転等の崩れを生じさせる.本研究では,リーチング時において乳児が新しい姿勢調節を知るプロセスを記述することを試みた. 佐藤 由紀, イッセー尾形の舞台における協調の分析, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 73-83, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_73, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_73/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,舞台上におけるイッセー尾形の“台詞"と“身体"の組織化=協調構造の変化に注目し,役者の演技が変化すれば観客の反応も異なるという演劇表現の事実を手がかりに,演技の分析・比較をおこなった. 研究手順としては,2001 年の春・秋の両公演に上演された演目“ニチゲイ"を研究対象とし,観客の反応である“笑い"を分析・比較し,両公演で“笑い"に差異がみとめられる箇所を抜き出した.そしてその観客の“笑い"が起こるきっかけとなっているイッセー尾形の“台詞"の言語情報とパラ言語情報,“身体"のジェスチャーを分析し,春・秋公演間のイッセーの“台詞"と“身体"の協調構造の変化を比較し,考察した. 佐々木 正人, 高橋 綾, 林 浩司, 対象を特定する行為について─卵の表面を割る過程の解析─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 85-90, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_85, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_85/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,卵割りという行為を,対象との接触方法や,それに伴い発生する音の連鎖によって記述することを目的としている.はじめに健常者を対象とした実験を行い,異なる2種類の衝突から成る運動系列によって卵割りが遂行されていることが示された.その後,1人の高次脳機能障害者における卵割り行為の運動系列を記述し,解析した.高次脳機能障害者は衝突が明確に分化していなかったが,卵割りを繰り返すにつれて,衝突が分化し運動系列構造が成立していく傾向がみられた. 林 浩司, 佐々木 正人, ヴァイオリン演奏における身体運動協調の解析─力の制御としてのヴィブラー卜の創発─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 91-98, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_91, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_91/_article/-char/ja, 抄録: 本研究の目的は,ヴァイオリン奏者の身体に着目することにより,科学的な取り扱いが困難である“芸術性”,“個性"の記述,解析を行うことである.弦楽器演奏では様々なテクニックが必要とされるが,それらのテクニックが表現上どのような役割を果たすかについては十分な議論がされたとは言い難い.本研究では重要なテクニックのひとつである“ヴィブラート"に着目した.ヴィブラートを身体と楽器の“力の相互作用"とみなし,その測定結果と聴覚上の印象を比較することにより,楽器演奏という行為のプロセスを記述した. 玉垣 努, 行為と基礎的定位─気づきを促す触り方─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 99-103, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_99, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_99/_article/-char/ja, 抄録: 加齢障害や脳卒中や脊髄損傷などの中途障害者のリハビリテーションに関する中心的な話題は,麻痺や筋力低下した手足に集中し,共通して背景にある“基礎的定位の障害" を無視する傾向がある.加えて,力学的な動作分析は,入れ子化している体幹や骨盤,下肢の姿勢制御系を動きのない剛体として計算していることが多い.しかし,宮本ら(1999)は“行為時の同時的姿勢"に着目し,上肢で行う目的的運動と姿勢支持の運動が変化し,互いに協調し影響し合っていることを示唆した.作業療法は“行為"を媒介として治療,指導,援助を行うアプローチであり,当事者の“行為"に介入し,“良い変化"を提供しなければならない.そのためには,目的的な運動と姿勢制御系へ同時に援助すべきではないかと考えている.結果的に,安心して動けることによって,自発的で協調的な基礎的定位への気づき(無自覚)が促されることとなる. 古山 宣洋, 高瀬 弘樹, 林 浩司, 自然会話における発話,身振り,呼吸運動の協調への生態学的アプローチ─物語説明課題の話者における個人内協調データの検討─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 105-110, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_105, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_105/_article/-char/ja, 抄録: 発話にはしばしば自発的な身振りが伴うが,発話と身振りの協調はどのように成立しているのだろうか.発話と身振りの協調は,ある水準では,種類の異なる記号聞の協調であり,別の水準では,肢体間協調左同様,運動する振動子聞の協調である.このようなことから,発話と身振りの協調にアプローチするには,言語・記号的な分析と協調のダイナミクスに関する基礎的研究を進め,それらの関係を明らかにしなければならない.本稿は,発話と身振り動作の協調に関して,蓄積されつつあるデータをも踏まえながら,自然会話における発話,身振り,呼吸運動の協調について,定性的な分析および考察をする. 堀口 裕美, 写真表現の制作過程における視覚的選択─(1)写真表現の教育の場での実践─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 111-120, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_111, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_111/_article/-char/ja, 抄録: 写真表現の制作過程における選択についての分析をとおして,表現の成立を視覚的発達過程のなかで起こることとして論じる武蔵野美術大学映像学科の写真作品の制作に関する授業で,写真作品が学生によってどのように制作されるかを参加観察した.本稿では,この授業を担当したプロの写真家と学生とのやりとりの記録を元に,その過程を記述・分析した.その結果,撮ることと見ることのなかで繰り返される視覚的選択によって写真的な単位が発見されることが,制作の持続を促していることがわかった.作品は,そのような知覚と行為のシステムが発達していく過程のなかのひとつの到達点として成立しうるものであることが示唆された.さらに,光学的配列のなかの不変項を画面に保存することが,写真による表現を成立させるひとつの要件として探られていることが明らかになった. 右田 正夫, 生態心理学の諸概念による「進化的適応」考, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 121-126, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_121, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_121/_article/-char/ja, 抄録: 生態心理学は,動物一般を対象とし得る理論的枠組を提供する.このため,動物一般の行動を進化的適応という統一的な見方の上で扱う動物行動学とは,親和的な研究分野であると考えられる.現在のところ,二つの学問分野聞の交流はそれほど盛んではないが,今後様々な共同研究プログラムが考えられるであろう.そのような交流の結果として,単に互いの現状での正当性を保証し合うことで終わるのか,あるいは,新しい概念が流入することで各分野の理論的枠組の刷新が図れるのか,という問題は興味を引くところである.本研究では,生態心理学における“マイクロスリップ"等の概念を動物行動学に導入し,現代動物行動学の理論的基盤をなす進化的適応概念について再考することの意義について考える. 高橋 綾, 環境の中の乳児の移動発達─ハイハイまでに遊離対象への定位において生じる出来事─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 127-133, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_127, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_127/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,環境との関係性から家の中の乳児の移動発達を検討した.具体的にはGibson (1979/1986)が知覚される環境の性質として提案した“遊離対象"に焦点をあて,ハイハイまでの乳児の移動発達を検討した.その結果,乳児は多様な仕方で移動すること,前進移動は対象への定位と関係していること,移動によって拠点ができること,地面との関係が変化すること,追いかける運動が生じることが示唆された. 西崎 実穂, 乳幼児の行為が残す痕跡─表現以前の “表現" ─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 135-140, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_135, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_135/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,乳幼児とその環境を理解することを目的とし,乳幼児が残す行為とその跡に着目して検討した.これは表面の変化であると同時に乳児が対象との関係を変化させようとした意図の痕跡である. なぐりがきのような手の痕跡をGibson,J. J. (1966) は知覚の練習と称した.痕跡は操作の持続の記録であり,さらに新たな行為を生むリソースとなる.本研究で観察された痕跡はなぐりがきなどの描画行為だけにとどまらないものである.観察から得られた乳幼児の痕跡を,表現以前にある表示という範囲に含まれ,なおかつ表現と表示という両者を結び得るものであると考える. 宮本 英美, 小池 琢也, マイクロスリップ:持続するタスク制約下の修正運動, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 141-146, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_141, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_141/_article/-char/ja, 抄録: 対象物操作に伴い出現するマイクロスリップは行動の適応性を示す現象として興味深い.先行研究では,マイクロスリップが動作遷移の途上に現れる普遍的な現象であることが示唆されているが,その生起機序についてはいまだ明確ではない.生起機序を検証するための準備として,系列的行動のタスク制約を構成する3つの性質を概観するまた,系列的行動が困難な観念失行患者の事例では,症状が顕著なときはマイクロスリップが生起しないが,行動の達成に伴いマイクロスリップが生起するという臨床的な報告があり,行動系列障害の回復を示す一指標としてマイクロスリップ生起の意味が実証的に位置づけられることが期待される.本稿では, これらの手がかりに基づいて,マイクロスリップがタスク制約を背景とした視覚的な探索と運動制御によって生じる運動成分であると主張し,将来的な実験研究への有用な仮説となることを議論する. 佐分利 敏晴, 表面の肌理と光学的配列の視覚における機能─George A. Kaplanの発見─1, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 147-157, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_147, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_147/_article/-char/ja, 抄録: Kaplan, G. Aによる論文 “Kinetic Disruption of Optical Texture: The Perception of Depth at An Edge" について,現在の視覚論における役割について考察する.彼はGibson, J. J. が提唱した生態光学から視覚を,特に表面(surface)の分離と奥行き方向の配置の判定について,表面の肌理とそれにより構造化された光学的配列に基づいて実験し,考察した.その結果,彼は“隣接する構造" (Adjacent orders) と, その非トポロジカルな変形一崩壊(disruption)によって奥行きが判定できることを示した. 福間 祥乃, 街のレイアウトとナビゲーション─面のレイアウトの生態心理学的分類の試み─, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 159-166, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_159, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_159/_article/-char/ja, 抄録: 人が実際の街において,場所を特定するために使っているレイアウトについて研究することが目的である.このために,筆者はまず渋谷の街の交差点106箇所での各視界を上下150度・左右360度分撮影し,パノラマ 画像として合成することで提示画像“包囲写真"を作成した.被験者に対してこれらをディスプレイで提示し, 実験者の質問(1. 画像の撮影場所はどこか,2. 何を手がかりにその場所がわかったか)に答えてもらった.実験中の被験者の発話を,環境を面のレイアウトの集合として捉えるJ. J. ギフソンの生態心理学的観点から分析した.結果から,各レイアウトを利用し,ヴィスタを重ねることでヴィスタ群を作りだすことが,街の認識につながっているのではないかと考察した. 野中 哲士, グローバルアレーとアフォーダンス, 生態心理学研究, 2004, 1 巻, 1 号, p. 169-181, 公開日 2021/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.1.1_169, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/1/1/1_169/_article/-char/ja, 抄録: Stoffregen & Bardy (2001) によって提唱されたグローバルアレー(Global array)の概念とStoffregen (2003) によるアフォーダンス論を概観し,双方の議論が一貫した主張に基づいていることを示した上で,Gibsonの理論との比較を通してその主張を批判的に考察する.グローバルアレーに関しては,アフォーダンスの様々なレベルに応じて,それを特定する情報が様々なレベルで存在すること,また,情報の存在するエネルギー配列が単数か複数かという問題設定は,直接知覚に関して本質的な問題設定ではないことを示す.アフォーダンスに関しては,相対主義的なアフオーダンスの解釈を招きかねないStoffregenの議論の問題点を指摘した上で,環境の事実としてのアフォーダンスに,より普遍性の低い行動の事実としてのアフォーダンスが入れ子になっているという新たな見方を提示する. =========================== 2 巻, 1 号 =========================== 本多 啓, 生態心理学から見た言語の意昧─とくに自己知覚に着目して─, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 1-12, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_1/_article/-char/ja, 抄録: 本稿は,認知言語学の立場から,生態心理学の知見を導入することによって明らかになる言語の姿の一端を,特に自己知覚との関連から紹介する.第2節では,認知科学の中での認知言語学の位置づけ,認知言語学の意味観,および認知言語学と生態心理学の関係について概説する.第3節では,言語における自己の表現機構について,生態心理学の自己知覚論と関連づけて概説する.第4節では第3節の議論に基づいて,感情表現のレトリック,形容詞,可能表現,美化語など,具体的な言語現象を検討する.第5節では共同注意を自己知覚の共有,ひいては共感,をもたらすものと捉えた上で,それによって可能になる感情経験の伝達の諸相をみる.具体的には,日本語の一名詞句文(一語文),現象描写文,そして英語の現象描写文を検討する. 柴田 寛, ダイナミックタッチにおける学習過程の分析─紐の長さを知覚する課題を題材として─, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 13-31, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_13, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_13/_article/-char/ja, 抄録: ダイナミックタッチ研究のひとつとして,視覚的な情報を制限された状況で紐の長さを知覚する課題を行った.被験者は4名であり,様々な高さから吊り下がる紐の下端を持って自由に動かすことにより,紐の上端(紐の長さ)を報告するように求めた.本課題を能動的な情報探索場面と捉え,課題終了後の動作の説明などを参考にしながら,課題解決に適した情報を抽出しやすい適切動作が選択される過程や,試行が進むことによって知覚が変化していく過程を詳細に分析した.特に,知覚した長さに関するフィードバック情報の有無が本課題の学習過程にどのような影響を及ぼすかについて検討した.その結果,紐の長さを正確に知覚できるようになるには,能動的な情報探索運動やフィードバック情報が重要であることが示された.また,ダイナミックタッチ研究の目的のひとつである刺激構造(不変項)についても検討され,手を動かしたときに生じる触覚的な情報だけではなく,紐の触覚的情報と視覚的情報の関係についても議論された. 豊田 平介, 三嶋 博之, 古山 宣洋, 成人片麻痺者における間隙通過可能性についての知覚と歩行の発達: “実効π”を利用した評価, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 33-41, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_33/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,成人片麻痺者の歩行能力の発達と,それに照応する知覚能力の発達の関係について検討し,またそれらの発達について評価する指標を発見することを目的として行われた.成人片麻痺者2名を被験者として,通路の途中に設定された間隙の通過可能性について視覚的に判断させる条件,および,その間隙を実際に通過させる条件を設定し実験を行った.実験は,麻痺を伴った被験者が最初に歩行が可能となった時点からその歩行が自立した時点まで,およそ1週間の間隔で行われ,12週ないしは7週に亘って継時的な変化が測定された.その結果,(1)歩行が自立した時点では,視覚的に通過可能と判断された間隙幅と実際に通過可能な間隙幅とが近接すること,一方で,(2) 成人片麻痺者では,視覚的に通過可能と判断された間隙幅と実際に通過可能な間隙幅とが相対的に大きく乖離する時期があり,その際,視覚的判断において自身の歩行能力を健常な成人よりも過大に見積もってしまうことが示された.また,先行研究での提案(Flascher, 1998; Shaw, Flascher & Kadar, 1995)を参照しつつ,本研究で提案された“実効π”(Ⅱ)の指標を導入することによって,これらの結果が成人片麻痺者の知覚・行為能力の発達を説明しうることが示された. 李 銘義, 岡田 美智男, 足立 紀彦, 生態学的な行為システムとしての行為調整機構に関する構成論的研究, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 43-51, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_43, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_43/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,生態心理学の行為システム論の視点から,行為調整における秩序化に対して,観測実験を基に議論を行う. 我々は行為調整に必要とされる一要素を行為システムによるものと見立て,かつその行為システムを構成する志向性と調整過程のデザインを試みた.そして,デザイン構成した行為システムをロボットエージェントに導入し,ロボットエージェントが環境もしくは他のロボットエージェントとインタラクションする際に変化する身体配置や姿勢の調整をシミュレーションした.その結果,調整過程としての行為システムの分化は,行為の組織化に寄与することが示された. 古山 宣洋, 三嶋 博之, Michael Turvey教授,Claudia Carello教授による共同講演会:イントロダクション, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 54-55, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_54, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_54/_article/-char/ja Claudia Carello, 廣瀬 直哉, 筋感覚の物理学と心理学─Claudia Carello教授講演─, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 57-67, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_57, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_57/_article/-char/ja Michael T. Turvey, 工藤 和俊, 21世紀の脳と行動の理論:幽霊も機械もいらない─Michael T. Turvey 教授講演─, 生態心理学研究, 2005, 2 巻, 1 号, p. 69-79, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.2.1_69, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/2/1/2_69/_article/-char/ja =========================== 3 巻, 1 号 =========================== 三嶋 博之, 特集:Robert E. Shaw教授 来日講演, 生態心理学研究, 2008, 3 巻, 1 号, p. 2, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.3.1_2, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/3/1/3_2/_article/-char/ja Robert E. Shaw, Jeffrey Kinsella-Shaw, 野中 哲士, 慣性力としてのオプテイカル ‘プッシュ'─インテンショナルダイナミクスにおけるd'Alembertの原理の役割─, 生態心理学研究, 2008, 3 巻, 1 号, p. 3-19, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.3.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/3/1/3_3/_article/-char/ja 仲本 康一郎, 行為の空間と接近可能性, 生態心理学研究, 2008, 3 巻, 1 号, p. 23-34, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.3.1_23, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/3/1/3_23/_article/-char/ja, 抄録: 生態心理学は,知覚者を刺激に対する単なる受動的な存在とみなすのでなく,意図や欲求を持って環境のなかを能動的に探索し活動するエージェントとみなす.本稿は,このような生態心理学の知覚・行為観に基づき,空間認知に関わる日英語の言語現象を観察・記述し,周囲の空間が世界を外から眺める観察者の観点からでなく能動的な行為者の観点から見た“行為の空間"として組織化されることを指摘する.特に,空間的な位置の表現が 行為者にとっての“接近可能性“として理解される現象に焦点をあてる. 柴田 寛, 行場 次朗, 他者から手渡された物体を受け取る動作の選択, 生態心理学研究, 2008, 3 巻, 1 号, p. 35-44, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.3.1_35, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/3/1/3_35/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,他者から手渡された物休(円筒)を受け取る動作を調べた.実験には20人が参加した.円筒の長さ,手渡し側が円筒を持つ位置,手渡し側の動作の軌道(直線か曲線) を操作した.観察された受け取り動作を「握る」「摘む」のせる─そえる」の3つに分類した.受け取り動作の選択を規定する特性に焦点をあてたところ、「物体の大きさ」「接触領域の面積(手渡し側によって遮蔽されていない領域)」「接触領域の形状」「手渡し動作の軌道」の要因によってうまく記述できることを見出した.これらの結果は,受け取り動作が物体の特徴だけでなく手渡し側の動作も含めた要因によって規定されることを示している. 浦上 大輔, 郡司 ペギオ・幸夫, 地理把握における動的双対性─不定性を伴う内包・外延対とアフォーダンス─, 生態心理学研究, 2008, 3 巻, 1 号, p. 45-56, 公開日 2021/11/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.3.1_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/3/1/3_45/_article/-char/ja, 抄録: 伝統的な地理把握研究においては,ルートマップ(内包的地理把握)とサーヴェイマップ(外延的地理把握)という二つのタイプの認知地図が,個人の発達段階において順次獲得されるものと考えられてきた.このような見方に対して本研究では,仮想迷路を用いた認知実験において見出される「動的双対性」という概念装置を通じて,これら二つの認知地図の様式は個人において同時的に現れるものであることを主張する.地理把握における動的双対性は,仮想迷路を複数のブロックに分割しそれらを回転させることにより,内包的地理把握に不定性がもたらされると外延的地理把握が卓越してくるという形で見出された.動的双対性という概念の生態心理学における有効性は,直接知覚の理論において特に発揮される.直接知覚の理論においては主体と環境の分離不可能性が過剰に強調され,生物の進化や発達における主体性が過小評価されてしまう危険があるが,全体と環境が動的双対性をなすと考えることにより,分離不可能な単一のシステムの構成要素と見えながらも変化し得る(適応可能性を有する)という様相が理解される. =========================== 4 巻, 1 号 =========================== 廣瀬 直哉, イントロダクション:マイクロスリップの起源とわが国での展開, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 3-5, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_3/_article/-char/ja 栗原 一貴, マイクロスリップのHuman Computer Interaction研究への応用, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 7-13, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_7, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_7/_article/-char/ja, 抄録: 本論文ではHCI(Human Computer Interaction)研究者の立場から,現象としてのマイクロスリップを計測することを出発点として,それをどのように応用してインタフェースデザインに生かすかを2つの可能性から考察する.ひとつはマイクロスリップを許容したインタフェース,もうひとつはマイクロスリップ検出を積極的に活用したインタフェースである.これらを通じて,HCI研究におけるマイクロスリップの重要性を指摘し今後の研究展望を示すことが本論文の目的である. 南 誠一, 鍛治 秀生, 末宗 梓, 小林 真紀, 古澤 正道, 烏瀬 義知, 堀 健寿, 寺井 淳, 脳卒中後遺症者の系列物品使用課題におけるマイクロスリップの役割と評価─お茶入れ課題を通して─, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 15-24, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_15, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_15/_article/-char/ja, 抄録: 物品操作に伴い出現するマイクロスリップは,行為の適応性を示す現象とされる.本研究の目的は,適応的な系列が構成されない脳卒中後遺症者において,その回復を示す一指標としてマイクロスリップの生起の意味を実証的に位置付けるとともに,定量化を試み治療への手掛かりを検討することである.回復経過ではマイクロスリップの増減や,その中でも軌道の変化,手の形の変化の増加が特徴としてみられ,見通しを持った効率良い探索活動への移行の必要性が確認された.治療的介入ではリーチ後の操作に対する手の構えや操作を直接誘導し,探索反応としてのマイクロスリップへの移行を援助して,物品間の関連性の改善を促すことが有効であると考えられる. 安田 哲也, 小林 春美, 作業の熟達におけるマイクロスリップ躊躇の生起時間の変化, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 25-30, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_25/_article/-char/ja, 抄録: 作業を繰り返し熟達したときにマイクロスリップの生起に変化が生じるかについて,実験場面を撮影したデジタルビデオ映像を1フレームごとに分析する方法により調べた.作業はインスタント・コーヒー作りとし,試行の間に1分間の休憩を挟み10試行を成人の実験参加者に行ってもらった.熟達が起こったかについて,各試行における作業時間を調べ,熟達が起こっていたことを確認した.1杯作成するときに起こるマイクロスリップ生起頻度は試行を重ねるにつれて全体的に減少した.マイクロスリップのうちの1秒未満の躊躇(操作の対象物に向けられた手の動きの小停止)について,各停止時間(躊躇の生起時間)間隔における頻度と試行回数との関係を調べたところ,1,2杯目では停止時間が1秒近くと長いものから0.1秒近くと短いものまで幅広く分布していた.9,10杯目では停止時間が長いものは皆無となり,短い時間のものだけとなっていた.これらの結果から,熟達が進むとマイクロスリップの頻度は減少すること,特に停止時間の長い躊躇が減少する一方,停止時間の短い躊躇は試行を重ねても残ることが確かめられた. 松田 哲也, 谷 星子, 鈴木 牧彦, 視覚制限下の行為における知覚情報の探索─マイクロスリップの出現と姿勢の変化─, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 31-38, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_31, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_31/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は知覚の制限によって起こる行為の変化について,マイクロスリップを通して検討することを目的とした.健常成人男女10名を被験者とし,両眼視野狭窄眼鏡(視野10度)を装着して課題を遂行する実験群(狭窄群)と,正常視野にて課題を遂行する統制群に5名ずつ無作為に振り分けた.ベースライン試行として,両群とも正常視野にてインスタントコーヒーを入れる課題を遂行し,本試行としてそれぞれの視野条件のもとで,同じ課題を実施した.ベースライン試行から本試行にかけての課題遂行時間,右手リーチング時間,左手リーチング時間,マイクロスリップ出現頻度の増減について,狭窄群では増大,統制群では減少し,両群間に有意な差が認められた.特に,狭窄群では「手の形の変化」が著しく増加した.リーチング時の姿勢に関しても狭窄群にのみ変化が認められた.行為者の「運動制御‐情報探索」の局所における変化がマイクロスリップの生起に関与する可能性があること,視覚制限下においても,能動的な運動が可能であれば,運動形成に有用な知覚情報が探索され,失敗に至る前に修正を起こす無自覚な「気付き」としてマイクロスリップを生起させ,行為を繋いでいることが示唆された. 大海 悠太, 池上 高志, 複雑系としてのマイクロスリップの数理的研究, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 39-50, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_39, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_39/_article/-char/ja, 抄録: マイクロスリップのコンピュータシミュレーションによるアプローチを提案し,そのモデルを解析する.このモデルでは,エージェントが運動を切り替えながらフィールドの上の2つのオブジェクトに接近し選択する.エージェントはニューラルネットワークによって動作し,そのネットワークは遺伝的アルゴリズムによって進化されたものである.エージェントの挙動を解析した結果,その運動モジュールの関係はヘテラルキーな構造をしており,その運動選択は複雑なベイスン構造になっていることが分かった.このような結果から実際のマイクロスリップに関し理論的に予測し,いくつかの議論と提案を行なう. Edward S. Reed, Carolyn F. Palmer, Denise Schoenherr, On the Nature and Significance of Microslips in Everyday Activities, 生態心理学研究, 2009, 4 巻, 1 号, p. 51-66, 公開日 2021/10/05, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.4.1_51, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/4/1/4_51/_article/-char/ja, 抄録: Psychologists have traditionally made a strong distinction between behavior that is under voluntary, conscious control and behavior that is habitual or automatic. This distinction is supposed to emerge from experience and/or practice: early on in learning a task, an actor is supposed to require conscious, deliberate control for successful performance; whereas, after mastery of the skill is achieved, control appears to be smooth and relatively effortless. In the first case (conscious control) errors in performance are attributed to an inability to plan or organize the action adequately; in the second case (automatic control) errors are supposed to be the consequence of a lapse of attention and control, so-called action slips. The two studies reported here show that the control of everyday habitual skills is not by any means as smooth as it is assumed to be. In the two skills studied here, making a cup of coffee and brushing one's teeth, significant discontinuities were observed even in naturalistic unconstrained performance. These discontinuities, which we dub "microslips" undermine the classical distinction between conscious and automatic control, and also call into question a number of ideas about cognition in action based on that distinction. =========================== 5 巻, 1 号 =========================== 三嶋 博之, 特集:William M. Mace教授 来日講演, 生態心理学研究, 2012, 5 巻, 1 号, p. 2, 公開日 2021/08/30, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.5.1_2, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/5/1/5_2/_article/-char/ja William MACE, 染谷 昌義, 認知に対するエコロジカル・アプローチにおいて遮蔽は『未だ隠された』役割を持っている─William Mace教授講演─, 生態心理学研究, 2012, 5 巻, 1 号, p. 3-11, 公開日 2021/08/30, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.5.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/5/1/5_3/_article/-char/ja 柴田 崇, ハイダーとギブソンのメディウム概念, 生態心理学研究, 2012, 5 巻, 1 号, p. 5-28, 公開日 2021/08/30, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.5.1_5, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/5/1/5_5/_article/-char/ja, 抄録: 環境の特性に注目して生態心理学を提唱したJ ・J ・ギブソン(1904〜1979) は,20世紀の心理学史の中で際立った地位を占めている.しかし,環境に注目して理論を展開した心理学者はギブソンだけではない.F・ハイダー(1896〜1988) は,ギブソンに先駆けて20 世紀初頭から半ばに心理学の焦点を環境に移行させるための研究を行っている.ギブソンとハイダーは親しく交わり,二人の理論はメディウムのへの着目という点で共通する.しかし,つぶさに見ると,二つの心理学理論の差異は,メディウムの捉え方の違いに顕著に現われている.ハイダーが媒質の考察から出発してメディウムの概念を道具や人工物に拡大したのに対し,ギブソンはメディウムを空気と水の媒質に限定した.本稿の目的は,本邦で紹介されることが稀なハイダーの知覚理論を概説した上で,アフォーダンス理論と対照させるところから,生態学的な道具論,または人工物論の方向性を探ることにある. 第1節では,ハイダーの知覚理論の基礎となった“Thing and medium" (Heider, 1926/1959)を解題し,メディウム,道具,道具より複雑な機構を持つ人工物についてのハイダーの思想を理解する.第2節では,ギブソンによるハイダー批判を皮切りに,両者のメディウム概念を比較,検討する.第3節では,自動車の研究(Gibson and Crooks, 1938/1982)を中心にギブソンの道具論と人工物論を概観する.以上の考察から,使用時の道具が“透明になる現象"を“メディウム化"として説明したハイダーに対し,extensionの概念で“現象"を記述したギブソンの思想が,道具論,人工物論を“身体化"として説明するための生態学的基礎を提供することが明らかになる. =========================== 6 巻, 1 号 =========================== 佐々木 正人, 野中 哲士, 染谷 昌義, 細田 直哉, ギブソン66 を読む 座談会─日本生態心理学会第4回大会シンポジウム─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 1-44, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_1/_article/-char/ja 和泉 謙二, 第2 回「生態心理学とリハビリテーションの融合」研究会特集発刊に添えて, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 45-46, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_45/_article/-char/ja 野中 哲士, 対象を特定する探索行動, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 47-50, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_47, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_47/_article/-char/ja 中根 征也, 大西 智也, 木村 保, 生態心理学的概念に基づいた運動療法が跨ぎ動作に及ぼす影響, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 51-52, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_51, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_51/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,生態心理学的概念に基づいた運動療法が跨ぎ動作にどのような影響を及ぼすのかを検討した.対 象は,日頃から特別な運動をしていない健常人とし,背臥位で胸郭と骨盤に重錘をのせて運動を行う群、Puppy Position で左右に揺れる運動を行う群と腹臥位で安静を保つ群の 3 群に分類して,それぞれを 2 分間施行した. 運動介入の前後に,40cm の高さのバーを跨ぐ動作を行い,その動作の前後を含めて、第四胸椎と骨盤との加速 度を3 軸加速度センサを用いて測定した.その結果,第四胸椎と骨盤の加速度は,運動の介入によって増加する 傾向を示した.このことから,生態心理学的概念に基づいた運動療法によって,身体に何らかの変化が生じるこ とが推測されるが,更なる検討が必要である. 中尾 和夫, 上西 啓裕, 池田 吉邦, 有馬 聡, 浦 正行, 安井 常正, 冨田 昌夫, 青木 恵美, 環境のレイアウトや作業に関する手順が行為に及ぼす影響―マイクロスリップの観点から―, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 53-56, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_53, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_53/_article/-char/ja, 抄録: 今回の研究では,行為の手順を意識した場合と環境を視覚的に識別容易にした場合,行為が容易に遂行できる ように整理した環境の場合における行為の円滑度を比較し,行為への環境の影響度合いを検討した.行為はイン スタントコーヒーをつくり好きな菓子を選びとるという行為を選択し,指標には生態心理学的な概念にあるマイ クロスリップをカウントした.マイクロスリップとは行為中に観察される円滑でない無自覚な4 種類の手の動き を指し,行為に柔軟性を与えると考えられている.対象は健常成人男性 15 名女性 13 名(平均年齢 25.2±5.9)を 無作為に 4 グループ,各グループ 7 名に振り分けた.これらのグループに課題1:操作を加えない基本的な環境 条件,課題2:遂行前に行為の流れを強制的にイメージ,手順を筆記,課題3:環境の全物品に文字でラベリン グ,課題4:遂行前に被験者任せの物品配置換えを各々施行してもらった.デジタルビデオに録画した行為を繰 り返し観察し,検者 3 人が一致したマイクロスリップのみカウントし,平均値と標準偏差を算出した.結果は, 課題1:平均 14.6±7.2/回,課題2:平均 13.4±6.2/回,課題3:平均 9.9±5.3/回,課題4:平均 8.7±5.2/回と課題3 と4 でマイクロスリップが少ない傾向となった.結果から,行為手順を意図したり言語化し意識するより,環境 に配慮した方がマイクロスリップの出現に大きな影響を及ぼし,行為が円滑に行える傾向が示唆された. 安井 常正, 上西 啓裕, 池田 吉邦, 浦 正行, 有馬 聡, 中尾 和夫, 冨田 昌夫, 症例から見た知覚循環, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 57-58, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_57, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_57/_article/-char/ja 柴田 崇, 昇降時における階段の“陰”と“影”の生態学的意味, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 59-64, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_59, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_59/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,階段についての先行研究をレヴューし,そこで示された“影”という視覚情報の重要性を踏まえ,J・J・ギブソンの生態心理学の立場から,階段の視覚的研究に必要な理論的基礎(“陰”と“陰”)と今後の展望を提示する. 池田 吉邦, 中尾 和夫, 上西 啓裕, 有馬 聡, 浦 正行, 安井 常正, 冨田 昌夫, 起き上がり動作時の揺すりと支持面の連続性について─背臥位及び起き上がり動作を通して─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 65-68, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_65, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_65/_article/-char/ja, 抄録: 今回の研究では,身体内部の環境を「揺すり」を通じて変化させる事で外部環境としての支持面(床面)を知覚・探索しやすい身体づくりと,もう一つは外部から知覚しやすい環境として,支持面(床面)に情報(タオルなど)を提供することで,起き上がり動作がし易くなるという事から,その「動き易さ」がより支持面の変化を知覚でき環境との相互作用によりダイナミカルに起き上がり動作の中で「楽に動ける」という身体の連動性を促通し,知覚行為循環が促されたと考えている.まず「揺すり」の対象は,健常成人男性(22 歳)1 名で床上背臥位から対称的な起き上がりを,(1)臥床直後(2)10 分間安静臥床直後(3)頚部からの揺すり後について,ビデオ撮影にて視覚的分析し,圧センサーにて支持面の変化を、またボルグスケール(自覚的運動強度)にて「動き易さ」の自覚度を比較した.「揺すり」後は,視覚的分析で「滑らかさ」が見られ,支持面では,臥床時の接触域が増加し,ボルグスケールでは最初は「ややきつい」揺すり後は「かなり楽である」になった.以上のことから,「揺する」ことは身体動作を楽に行う治療手段となる可能性が示唆された.また,もう一つの研究からも対称的な起き上がり動作を通して,腰部と床面の空間にタオルを挿入することで,身体と支持面(床面)との相互関係の中で,より知覚行為循環を促すことは,起き上がり動作が楽に行える可能性が示唆された. 八木 崇行, 冨田 昌夫, 三嶋 博之, 杉山 智久, 頚部から脊柱を揺する治療の効果に関する検討─重心動揺計を用いた定量的評価─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 69-72, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_69, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_69/_article/-char/ja, 抄録: 今回,頚部から脊柱を小さく揺する治療の効果に関して,重心動揺計を用いて定量的に評価した.その結果,揺すり治療によって構造物を見る,文字を黙読するなどの視覚課題に合わせた構えをとることが容易になることが示唆された.このことから,揺すり治療は,視覚と体性感覚が協調して働き,身体や環境の変化を知覚し,運動を自己組織化できるような身体作り,つまり運動学習できる身体作りに有効な方法と考えられた. 鎌田 優子, 真下 英明, 嚥下障害を有する脊髄損傷者の活動性に着目した治療介入, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 73-75, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_73, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_73/_article/-char/ja, 抄録: 嚥下障害に至る原因は様々あるが,加齢などの生理的な影響に,何らかの疾患が加わり活動性が低下するとその症状はより一層進展してしまう.今回報告する症例は,脊髄損傷によって活動性が低下し嚥下障害となり,一般的な嚥下アプローチを受けたがその後も誤嚥性肺炎を繰り返していた経過から,嚥下障害の問題の本質は頭頚部だけでなく,全身的な身体の活動性の低下にあると考え,介入を行った.まず脊髄損傷により内・外環境との関係性が途絶え内に固定的な身体となり,嚥下に必要な筋活動や呼吸などが機能し難くなっていたため,セラピストによるゆすりや自身の動きによるダイナミックタッチによって内・外環境との知覚循環を改善し,起居動作を利用して嚥下関連筋群を促通したことにより,嚥下運動に改善をみた.さらに活動性に介入したことで,嚥下以外の場面においても能動的かつ選択的な運動場面がみられるようになった.今回の症例を通して,「自ら動ける体つくり」は「自ら食べられる体つくり」につながり,作業療法士や理学療法士の嚥下への介入に意義があることを再確認した. 廣瀬 直哉, マイクロスリップにおける行為の非流暢性と修復パタン, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 77-78, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_77, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_77/_article/-char/ja, 抄録: 日常的なタスクにおいて頻繁に生じる行為の淀みであるマイクロスリップは,これまで有効な記述の方法が確立されていなかった.本研究では,マイクロスリップを修復とみなし,修復対象reparandum,非流暢disfluency,修復repair の3 つの区間に分けて記述することを提案する.そして,この枠組みを食事場面の観察に適応した結果を報告する. 大西 智也, 中根 征也, 木村 保, 杉本 圭, 佐竹 勇人, 身体軸と立位姿勢保持戦略の関連性について─両側の中殿筋活動に着目して─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 79-80, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_79, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_79/_article/-char/ja, 抄録: 立位で左右に重心移動したときには中殿筋が反応する.また,背臥位では身体の軸と想定される側がどちらかに存在する.本研究では,左右に重心移動したときの中殿筋の反応のパターンと身体軸の相関性について検討した.対象は健常成人6 名とした.背臥位で身体軸を推定し,立位で骨盤を左右に誘導したときの両側の中殿筋の筋活動を導出した.その結果,推定された身体軸側に骨盤を誘導すると,その側の中殿筋が活動し始め,続いて対側の中殿筋が活動する.そのことは,対象者すべてにおいて同様の結果が得られた.立位姿勢保持のためのバランス戦略は身体軸がある側と対側では違った戦略をとっている可能性がある. 湯川 智史, 中根 征也, 大西 智也, 支持面の違いが大腿四頭筋セッティング時の大腿四頭筋活動に及ぼす影響, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 81-82, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_81, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_81/_article/-char/ja, 抄録: 要旨: 一般的な筋力増強練習を行う際の中枢部の支持面の違いが,筋活動にどのような影響を与えるのかを明らかにするため,支持面の異なった状態での大腿四頭筋セッティング時の筋活動について検討した.対象は健常男性 5 名とし,膝窩部に比較的硬いものを挿入した安定群と,膝窩部に軟らかいものを挿入した不安定群の 2 パターンで大腿四頭筋セッティングを実施した.そして,大腿四頭筋セッティング時の大腿直筋,内側広筋,外側広筋から筋電図を記録した.結果,安定群と不安定群の筋活動(%iEMG)の間に有意な変化は認められなかった.しかし,安定群と不安定群における各筋の%iEMG の中央値の比較として,箱ひげ図を用いると,不安定群に比べ安定群の各筋の筋活動が高値を示す傾向にあることが示唆された.今後,対象者の数を増やし再度検討していく必要はあるが,筋力増強練習を行う際は中枢部の支持面を知覚しやすい状態にすることで,より筋活動が得られやすくなる可能性が考えられた. 杉本 圭, 中根 征也, 継ぎ足歩行練習が静的・動的立位バランスに及ぼす影響―縄上とテープ上継ぎ足歩行の比較―, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 83-84, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_83, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_83/_article/-char/ja, 抄録: 【はじめに】本研究では継ぎ足歩行について,単純に床上で継ぎ足歩行練習を行う方法と床面の上に縄を設置してその上で継ぎ足歩行練習を行う方法について立位バランス能力でその効果を比較検討した.【対象と方法】被検者は健常者 20 名とした.被検者を床に設置した縄の上で継ぎ足歩行を実施する群(以下,縄群)とビニルテープの上で継ぎ足歩行を実施する群(以下,テープ群)の 2 群に 10 名ずつ分け,静止立位での重心動揺検査,立位での重心可動域検査を各群で継ぎ足歩行を実施する前後で測定した.【結果】重心動揺検査の面積・総軌跡長は両群ともに継ぎ足歩行後の変化は小さかった.一方,重心可動域検査の面積は,縄群の継ぎ足歩行後の値が前値に比べて増大し,テープ群では,継ぎ足歩行によって減少する傾向を認めた.左右移動距離の変化は,両群ともに小さかったが,前後移動距離は縄群で継ぎ足歩行後の値が前値に比べて増大し,テープ群では減少した.【考察】縄の上を継ぎ足歩行する課題により,静的立位バランスの向上は認めなかったが,動的立位バランスの向上を認め,単純な歩行練習を繰り返すより,縄の上を歩くという,より支持面を探索的に行う歩行練習の方が,効果的に患者のバランス能力を向上させる可能性があることが示唆された. 玉垣 努, 麻痺した身体は知覚できるか?─リモートタッチからの考察─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 85-88, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_85, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_85/_article/-char/ja, 抄録: 臨床において,従来の残存機能強化型リハビリテーションの重要性は認識しつつも,麻痺域の管理の問題や結果としての痛みや痙性の増強によるADL改悪の可能性を否定できない.今回,麻痺域へのアプローチをする意義として,単に回復を促すのではなく,過分なく適切な知覚を促す事で,ADLが改善する可能性があること.この事を説明できる可能性のある,ダイナミックタッチの理論の適応を片麻痺者へのアプローチを事例として検討する. 安井 常正, 上西 啓裕, 池田 吉邦, 浦 正行, 有馬 聡, 中尾 和夫, 冨田 昌夫, 脳卒中片麻痺者における知覚行為循環―腹部筋活動に着目して―, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 89-92, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_89, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_89/_article/-char/ja 野村 寿子, 村口 健一, 「定位のかたち」が導く運動─適合されたシーティングが姿勢・運動に与える影響について─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 93-94, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_93, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_93/_article/-char/ja, 抄録: 快適さの中で自ら発達することを可能にする定位の場Optimized Seating System (以下OSS)の基本的な考え方と製作方法にについて紹介する.次に具体的な姿勢と運動の改善例をもとに.定位のシステムが常に連続した姿勢と運動の変化の中で起こるものであること,直前の知覚が次の知覚の手掛かりとなり,行動に影響を与えていることを示す.そして連続した流れの中で「釣り合いを調整することを促す定位の場」を適切に示すという方法が,リハビリテーションの有効な手段となることを示す. 戸塚 誠司, 伊能 寛, 沢田 護, 三嶋 博之, 支持面としてのシートの座・背面形状が身体の運動性に与える影響, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 95-98, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_95, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_95/_article/-char/ja, 抄録: 自動車の運転において、運転者と乗員の支持面として用いられる自動車用シートは姿勢の維持で 重要な役割を果たしている。 本研究において、我々はドライバーの姿勢に着目して、オリジナル の姿勢維持システムを開発した。 まず、ドライバーのドライビングポジションと運転技量の関係 を分析して、運転に適したシートについて必要用件を決定した。 シートを製作し、運転のしやすさと快適さについて効果を検証した。 髙田 勇, 竹田 智幸, 冨田 昌夫, 空間的定位と基礎的定位の再構成を目的とした運動療法が姿勢制御に及ぼす影響, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 99-102, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_99, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_99/_article/-char/ja, 抄録: 今回,視覚と体性感覚の協調を再構成すると考えられる運動療法が,姿勢制御に及ぼす影響を検討した.結果,「頚部からの揺すり」「腹臥位・パピーポジションでの上下肢運動」「縄抜け動作」において,深層筋が活性化し表在筋が緩むことが確認され,また視覚と体性感覚の協調が再構成されることで,環境の変化に対して身体の振る舞いを柔軟に変化させて適応し,安定性と可動性を両立した姿勢制御が可能であったと推察される. 佐藤 由紀, 発話行為における身体─早期失明者と俳優を巡って─, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 103-105, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_103, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_103/_article/-char/ja 平上 尚吾, 脳卒中片麻痺患者の手指運動機能障害に対するミラーセラピーの臨床的意義に関する効果の検証, 生態心理学研究, 2013, 6 巻, 1 号, p. 107-108, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.6.1_107, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/6/1/6_107/_article/-char/ja =========================== 7 巻, 1 号 =========================== 細田 直哉, 生態心理学とリアリズム─稲垣論文へのイントロダクション, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 1-2, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_1/_article/-char/ja 稲垣 良典, 中世におけるリアリズムの転換, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 3-11, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_3/_article/-char/ja 野中 哲士, The Ecological Approach to Visual Perception 執筆の舞台裏─William M. Mace 氏インタビュー─, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 13-17, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_13, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_13/_article/-char/ja, 抄録: J.J. Gibson(1979)による“The Ecological Approach to Visual Perception”公刊 35 年を記念し,同書が執筆されるプロセスを当時垣間見ていたWilliam Mace 氏にインタビューを行った.インタビューは 2013 年 7 月 9 日の夕方,ポルトガルのエストリルで行われた17th International Conference on Perception and Action の空き時間に行われ,佐々木正人氏(東京大学),三嶋博之氏(早稲田大学)が同席した. 野澤 光, 植物の知性はどこにあるのか? “Unnerving Intelligence ――神経系を介さない知性”, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 19-23, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_19, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_19/_article/-char/ja 井上 優, 脳卒中患者の転倒リスクに対する二重課題処理能力の関与の検証─無作為化比較試験による二重課題トレーニングの効果検証を通じて─, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 25-26, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_25/_article/-char/ja, 抄録: 本論文では,脳卒中患者における転倒リスク軽減に向けた介入根拠を提示するため,無作為化比較試験による二重課題トレーニングの効果検証を通じて,脳卒中患者の転倒リスクに対する二重課題処理能力の関与を明らかにすることを目的とした. 関 博紀, 建築行為の生態学的分析, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 27-28, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_27, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_27/_article/-char/ja, 抄録: 本論文は,竣工後の建物と設計過程の分析を通して,建築設計という営みを人間と環境との関係に注目して検討するものである.また以上の検討を通して,建物の設計と利用という2つの営みを一元的に捉える試みである.論文は5つの章から構成されている.第1章では本論文の目的が,第2章では目的を遂行するための検討課題が整理されている.第3章と第4章では本論文が行なった分析とその結果が示されている.第5章では,検討結果にもとづいた全体的な考察が行なわれている.以下が各章の概要である. 山本 尚樹, 姿勢転換運動の個体発生・微視発生プロセスの分析, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 29-30, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_29, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_29/_article/-char/ja, 抄録: 本論文は背臥位から腹臥位への姿勢転換運動(以下,寝返り運動と表記)に着目し,実証的データから運動発達という現象にアプローチする.理論的にはEsther Thelen の提起する運動発達研究の枠組みに依拠しつつ,本研究で得られたデータからその研究枠組みについて理論的貢献を行うことを目指した. 稲上 誠, 枯山水庭園の魅力と環境による包囲の関係─第17 回知覚と行為に関する国際会議の参加報告─, 生態心理学研究, 2014, 7 巻, 1 号, p. 31-34, 公開日 2021/03/31, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.7.1_31, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/7/1/7_31/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,第 17 回知覚と行為に関する国際会議の参加報告として,そこで発表した研究の一つを紹介する.この研究では,枯山水庭園の魅力を科学的に解明する試みとして,周囲の環境による包囲と鑑賞者が感じる印象との関係について調べた.京都市にある 18 カ所の庭園を対象に選び,実測調査および心理実験を行った.実測調査では,3D レーザースキャナーを鑑賞場所に設置し,周囲全方向の空間構成を計測した.実験では,バーチャルリアリティ技術を用いて,鑑賞場所の周囲の環境を体験できるようにした.被験者には,それぞれの庭園を自由に鑑賞した後,その印象(美しさ,面白さ,落ち着き)を評価してもらった.そして,環境計測データから包囲の度合いを算出し,印象評価との関係を分析した結果,正の相関があることが分かった.この結果は,周囲を包囲するという全体的な空間構成が,庭園の魅力を生み出す一要因であることを示唆している. =========================== 8 巻, 1 号 =========================== James J. Gibson, Gibson’s Notes of Encounters, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 1-23, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_1, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_1/_article/-char/ja James J. Gibson, 青山 慶, エンカウンターに関する覚書, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 24-28, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_24, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_24/_article/-char/ja 青山 慶, “エンカウンター”を読む─不可避な未来の知覚,その制御としての行動─, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 29-32, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_29, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_29/_article/-char/ja, 抄録: 本稿は,本号にておそらく世界初公開となったJ. J. Gibson による “エンカウンターに関する覚書”についての簡単な解説である.手稿では詳しく述べられていない部分や省略されている部分を補いながら,自発的行動,接触を特定する情報,配置とイベント,移動と操作,そして予知の理論について論じた. 後安 美紀, 辻田 勝吉, 石川 卓磨, 高嶋 晋一, 木原 進, 岡﨑 乾二郎, 遮蔽縁が創り出す包囲空間の奥行き─絵画における空間表現の研究─, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 33-47, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_33/_article/-char/ja, 抄録: 本研究の目的は,包囲空間 (ambient space) という概念に焦点をあて,包囲空間に関する生態学的な研究法やその枠組みについて考察し,遮蔽縁が包囲空間の奥行きを創り出すという理論的な提案をおこなうことである.本理論を実証するための最初のステップとして,これまでに開催した美術館でのワークショップのなかから,絵画における包囲空間表現に関わる事例を取り上げ,絵画模写課題での参加者の振る舞い方について重点的に観察した.その結果,図と地の反転知覚が想定する論理枠組みの次元を上げ,“地と地の交替”という知覚の在り方が存在することが示唆された.図と地の問題系では,図を見ているときは,地は見えないとされてきたが,そのようなことは全くないどころか,焦点が結ばれることのない“地と地の交替”がなされる界面,すなわち遮蔽縁において奥行き知覚すら生じさせることができる,という可能性を示すことができたと考えられる. 廣瀬 直哉, マイクロスリップに関する研究の動向, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 49-61, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_49, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_49/_article/-char/ja, 抄録: 本稿は,マイクロスリップの研究の現状と今後の展望を述べたものである.マイクロスリップとは,日常的活動において観察される行為の淀み現象のことであり,日本を中心に研究が行われてきた.本稿では,まずマイクロスリップ研究が始まった経緯と,マイクロスリップに関連する研究について言及した.続いてマイクロスリップ研究で用いられる課題,研究対象者について整理した.次にマイクロスリップの生起要因についての研究を詳察し,さらにそれ以外の研究についても検討した.以上から,マイクロスリップは主として日常的系列動作課題を用いて検討されてきたこと,課題の種類・無関連な対象物・対象物の配置・課題の負荷・繰り返しがマイクロスリップの生起に影響を与えることなどが明らかにされた。最後に,マイクロスリップ研究の今後の課題について論及した. 山﨑 寛恵, 乳児期における知覚-行為発達への生態学的アプローチ―リーチングとつかまり立ちの縦断的分析―, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 63-65, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_63, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_63/_article/-char/ja 岡田 美智男, 第5回 日本生態心理学会 大会報告, 生態心理学研究, 2015, 8 巻, 1 号, p. 67-68, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.8.1_67, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/8/1/8_67/_article/-char/ja =========================== 9 巻, 1 号 =========================== 髙村 夏樹, 髙村夏輝氏講演録 ラッセルの知覚論, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 3-14, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_3/_article/-char/ja 西尾 千尋, 乳児の歩行の発達と部屋のレイアウト─移動の終わり方とゴール─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 17-18, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_17, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_17/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では 2 名の乳児(女児A, 男児B)について生後約 10 ヶ月から歩行開始後 3 ヶ月が経過するまでの間,月 2 回約 1 時間の観察を行い,移動手段(ハイハイ,つたい歩き,歩行,その他)と滞在中の姿勢(座位,四つ這い,しゃがみ,立位)について分類を行った.その上で,移動手段の変化を A と B それぞれについて各観察日における移動手段の合計時間で示し,さらにひとつの移動の終わり方についての分類を,Cole ら(2016)を参照して行った.2 名ともに歩行を開始した後はハイハイがほぼ見られなくなり,移動合計時間がそれまでに比較して大幅に増加した.両者ともに家族,物,家具や部屋の構造体といった目的地に到達する移動が移動の停止,同じ場所内での移動,転倒,抱き上げられる等の目的地のない移動を上回った. 園田 正世, 子守帯と母子のふるまいの関係, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 19-21, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_19, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_19/_article/-char/ja, 抄録: 日本の多くの地域で行われてきた乳幼児をおんぶすることは, 運搬のみならずあやしやなぐさめなどの保育の要素も含んだ, 労働と子育てを両立できる方法である. 近年では背中でのおんぶではなく体の前面で抱く親子が増えてきた. 母子が抱き合うとお互いが環境となり,子守帯を使えば更にそれを布や紐が取り巻く幾重もの入れ子状になる.本研究では母と子が子守帯を用いて抱いた状態で歩行や動作課題を行い,母のふるまいの差を検討した.子守帯には多様な種類があるが,あらかじめ道具としての構造を設計されたベルト付き抱っこひもと布を母子に巻き付けることで密着を安定させる布製抱っこひもを用いた.歩行では母が装着した抱っこひもによって姿勢が変化することで,腕の動作への制約に影響を及ぼした.動作課題では子の安定性と子の相対位置により母の課題遂行動作に違いが見られた. 山本 尚樹, 腹臥位における運動の分岐と合流, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 22-25, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_22, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_22/_article/-char/ja, 抄録: 1 名の乳児を対象に,寝返りを始めてから四つ這いの移動を始まるまでの発達プロセスを縦断的に観察した.寝返りをした後の腹臥位に見られる運動パターンを質的に記述し,寝返りの始まった 5 ヶ月後半から四つ這いでの移動の始まる 8 ヶ月後半まで,約 2 週間ごとに運動パターンのヴァリエーションの特徴をまとめていった.結果,様々な運動のヴァリエーションが分岐,部分的に合流しながら現れていき,それらが合流していくことで四つ這いでの移動が始まっていたことが示された.この結果は,ヴァリエーションが運動発達に関わることを具体的に示すものと考えられる. 野澤 光, 書道熟達者の運動学習─再帰定量化解析による縦断的評価を手掛かりに─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 26-30, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_26, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_26/_article/-char/ja, 抄録: 本稿ではケーススタディとして,書道熟達者 1 名が 16 回の試行を経て臨書を制作する過程を,書家の運動協調の縦断的変化に焦点を当てて分析した.書家の頭部の水平面の旋回周期を再帰定量化解析(Recurrence Quantitative Analysis)により評価した結果,特定の試行数と,特定の紙面位置において,旋回周期は高い再帰性を示していた.このことは,書家の身体システムが,試行を通じて平均的に底上げされるかたちで発達するのではなく,特定の描画シーンにおいて,異なる協調関係を実現している可能性を示唆している. 辻田 勝吉, 後安 美紀, 岡﨑 乾二郎, 相対運動ロボットを用いた触覚による自己運動パターンの想起, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 31-34, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_31, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_31/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,人間と協働して絵を描くロボットシステムを用いて,自己主体感および自己所有感発現のメカニズムを調べることを目的とする.本研究では,描画行為は主体と媒体との相対運動の中で生じるものだと考えている.具体的には,ロボットがペンを保持したアームを可動させるのではなく,ロボット上部に設置された画板を実際の描画方向とは逆に可動させることで描画を行う.本描画ロボットを用いた実験を通して,人間がペン先に伝わる触覚のみによって,過去の自分の描画運動パターンを想起し,再現できるか否かを検討した.その結果,ペン先の触覚のみによる運動知覚によって,画像刺激による想起と同等の線画の形態的特徴の再現能力と,線画の局所的な特徴点近傍では,むしろ視覚想起条件よりも優れた再現能力が発現することが確認された. 沢田 護, 大山 宏, 山下 晃一, 中島 章徳, 中川 雄樹, 和田 陽介, 冨田 昌夫, 三嶋 博之, 人を取り巻く空気振動の知覚─呼吸の質に対する影響─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 35-36, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_35, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_35/_article/-char/ja, 抄録: 筆者らは、2012 年第 2 回生態心理学とリハビリテーションの融合研究会において、身体に快適で動きやすい音場空間に関するデモンストレーションを実施した。この内容は、背臥位安静時の被験者の両サイドに空気振動を拡散反射する部材を設置し、被験者の筋緊張の度合いを実験協力者が揺すりによって確認することであった.その結果,殆どの被験者は拡散反射部材を置くと筋緊張が緩和した.本研究では,臍部に装着した加速度センサを使用して呼吸の質を分析し,人を取り巻く空気振動環境が人の呼吸活動に影響を与える事例を示す. 伊藤 精英, 沢田 護, 三嶋 博之, 空気流動を遮蔽する物体の知覚, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 37-40, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_37, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_37/_article/-char/ja, 抄録: 空気流動を利用して物体の形状を知覚できることを明らかにするために実験を行った.予備実験では扇風機を利用して空気流動を起こし,空気の動きを遮断する物体の形状により空気流動がどのように変化するかを検討した.その結果,遮蔽する物体由来のうなりが生じることが示唆された.そこで,うなりを振動発生機から出力して空気振動を発生させ,遮蔽物による振動の変化を分析した.その結果,遮蔽物の形状に特有の波形及びスペクトル構造を得た.物体の形状の違いによる振動の差異を触覚によって弁別できるかを検討した結果,チャンスレベル以上の確率で形状由来の振動パターンを弁別することができた.本報告では,空気振動配列の構造が光学的配列と同様に物体表面の状態を反映するテクスチャーであることについて言及する. 佐藤 由紀, 青山 慶, 佐々木 正人, 俳優の演技デザインの変遷─ひとり芝居の創作実験の分析─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 41-43, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_41, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_41/_article/-char/ja, 抄録: 俳優という職業における中心的技術の一つは,“不在の環境(佐藤, 2004, 2006)”の現出である(ブルック, 1993).それは,紙上に書かれたテキストを俳優の身体というメディアによって“行動を現在化(グイエ, 1976)”することでもある.そこで本研究では,プロの俳優 2 名に一人芝居の上演戯曲を基に,40 時間(4 時間/日×10 日間)の稽古で演技を組み立てるよう依頼し,その稽古過程を観察および分析した. 長谷川 愼哉, 吉田 彩乃, 伊藤 精英, 櫻沢 繁, 触知覚を与える生理的振戦, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 44-47, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_44, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_44/_article/-char/ja, 抄録: 繊細な物に触ろうとするとき,指の生理的振戦が心理的要因と無関係に変化することが知られている.このような生理的振戦は,触知覚において何らかの機能を持っている可能性がある.そこで本研究では,柔らかい物を指で触れ,柔らかさを触知覚するとき,筋の電気生理的な活動から振戦の生成因を明らかにすることを目的とした.その結果,柔らかい物に触れている時,指関節の運動に寄与する拮抗筋のスパイク状の活動が大きかった.これらの実験事実より,柔らかい物に触れている時の生理的振戦は,加えた力に対する指の動きによる筋紡錘-脊髄反射系から引き起こされていると考えられる. 佐古 仁志, <移動知>の身体化について─徒歩旅行と輸送─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 48-51, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_48, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_48/_article/-char/ja, 抄録: 本発表の目的は,インゴルドの「徒歩旅行」と「輸送」という移動の区別を引き受けたうえで,諸々の移動研究を参照することで,それらの移動に伴う知,つまりは<移動知>がどのように身体化されるのかを考察することにある.まず「徒歩旅行」と「輸送」の区別を明確にし,それからそのような区別と接続可能な身体性認知科学についての検討を行なう.そのうえで,「モビリティ」に関する研究を参照することで,さまざまな移動に伴う実践および知識,すなわち<移動知>がどのように身体化されているのかについて考察する.また,このような<移動知>の身体化の考察からは,移動形式のもたらす「自己」への影響が明らかになると思われる.「徒歩旅行」という形式の移動研究は,地図に依存することなく,むしろ物語(境界・俯瞰的ではない地図)の創出を通じて影響を与える点で,そして「輸送」という形式の移動研究は,「モビリティ」研究を媒介にし,社会性をもたらす点で,「自己」の形成に重要な役目を果たすということが提示されることになるだろう. 工藤 和俊, 鳥越 亮, 根本 真和, 進矢 正宏, 沢田 護, 三嶋 博之, 拡張された身体とともにある知覚─自動車運転による間隙通過時の視覚-運動協調─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 52-53, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_52, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_52/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,自動車運転による間隙通過の際の注視点計測を行うことにより,運転時の視覚-運動協調について検討した.実験では7名の参加者が乗用車を運転して100m 先の障害物(パイロン)間を通過する間隙通過課題を行った.この際の注視点をアイマークレコーダーを用いて計測した.また,車両幅の知覚における個人差を明らかにするため,静止した車両の前方に置かれたパイロン位置を車両の左右端に合わせる車両幅知覚課題を行った.その結果,知覚課題における誤差(実際の車両幅と知覚された車両幅の差)と間隙通過課題時の障害物注視確率との間に正の中程度の相関が認められた.この結果は,車両幅知覚の誤差が小さかった参加者は運転時に進行方向である間隙中心を注視していた一方で,車両幅を過大に知覚していた参加者は障害物を注視することによって車両の接触可能性を確認するという注視行動が生じていたことを示唆している.これらの注視パターンはそれぞれ,目標方向への移動および障害物の回避課題において典型的に認められることから,自動車運転による間隙通過時の注視行動は拡張された身体である車両の行為可能性を反映していると考えられる. 三嶋 博之, 沢田 護, 車両運転者の熟練度による光学的流動の差異─注視点分布の分析─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 54-55, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_54, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_54/_article/-char/ja, 抄録: 熟練ドライバーが生成する光学的流動と,非-熟練ドライバーが生成する光学的流動を,それぞれ動画としてディスプレイ上に提示し,それらを観察する実験参加者の注視点分布を視線計測装置により記録した.分析の結果,熟練ドライバーが生成する光学的流動(熟練ドライバーが運転する車両のビデオカメラによって撮影された走行時の前方風景の動画)を提示した場合には,非-熟練ドライバーの動画(熟練ドライバーと同様の方法で撮影)を提示した場合に比べて,それを観察する実験参加者の注視点はより遠位かつ左右に広がって分布することが確認された.一方,非-熟練ドライバーの走行時前方風景の動画再生速度を単に上昇させた場合には,注視点の分布は全体的に遠位にシフトするものの,遠位で左右に広がることはなかった.これらの結果から,熟練ドライバーが生成する光学的流動には,注視点を遠位左右(道路上のコーナー出口など)に向けて誘導する固有の構造──情報──が含まれている可能性について議論される. 玉垣 努, 頸髄損傷者によるリモートタッチの知覚の検証, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 56-60, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_56, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_56/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,ダイナミックタッチの知覚およびリモートタッチの知覚に麻痺が与える影響について検討した.頸髄損傷者 5 名と健常者 6 名を対象に,視覚的に遮蔽された状態で,道具の長さと,その道具を打ち付けた接触面までの距離について知覚判断させた.分散分析から,健常者では,道具の長さと長さのタスクおよび接触面までの距離と距離のタスクにおいて単純主効果が有意であった.しかし頸髄損傷者では,道具の長さと距離のタスクにおいても有意な単純主効果が生じていた.このことは,タスクに関係する性質を選択的に知覚する能力が,神経障害の有無に影響を受けることを示唆する. 廣瀬 直哉, マイクロスリップとアクションスリップ─記述とタイプ─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 61-64, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_61, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_61/_article/-char/ja, 抄録: 本稿の目的は,マイクロスリップとアクションスリップを統一的に記述・分類し,両者の相違点について検討することであった.そのため,スリップを含む行為を動作系列として記述する方法を提案した.また,その記述方法を使って記述したスリップを修復モデルの 3 つの観点(修復対象,非流暢,修復)からタイプ分けした.さらに,マイクロスリップとアクションスリップを統一的に記述・分類することで明らかになった両者の相違点についても検討した.その結果,マイクロスリップは単にアクションスリップがマイクロなレベルで生じているだけではなく,両者には本質的な違いがあることが推察された. 藤田 雄人, 遅延制御システムを用いた行為の予期についての研究─第18 回知覚と行為に関する国際会議参加報告─, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 67-69, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_67, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_67/_article/-char/ja, 抄録: 第 18 回知覚と行為に関する国際会議の参加報告として,本稿にて発表した研究を紹介する.この研究では,人間の視覚性運動制御に予期による行為が利用されているかを調査した.地面に対して水平なレール上を転がる鉄球を制御する課題を用いて実験を行った.制御システムには被験者の操作が反映されるまでに遅延を設定し,視覚情報の遅れを実現した.計測した操作と鉄球の位置との相互相関解析から,操作が鉄球の運動に追従するフィードバック制御であることがわかった.そして,制御対象に対する操作の遅れはシステムの遅延に依存せず一定であった.被験者は操作を行う中で,システムに遅延があることを認識していた.しかし,相関解析の結果に被験者が鉄球の運動を予期して鉄球の運動よりも先に操作を行う傾向は見られなかった.このことは人間の視覚性運動制御が軌道計算の予期によるフィードフォワード制御ではないこと示唆し,運動制御が制御モデルで与えられるような認識‐運動過程ではなく,運動調整に対する生態心理学的なアプローチを支持する結果である. 野中 哲士, 学会模様:北米生態心理学会から, 生態心理学研究, 2016, 9 巻, 1 号, p. 70, 公開日 2021/01/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.9.1_70, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/9/1/9_70/_article/-char/ja =========================== 10 巻, 1 号 =========================== 佐藤 将人, 姿勢制御系の制約が行為の変化に与える影響─修復モデルに基づいたマイクロスリップ─, 生態心理学研究, 2017, 10 巻, 1 号, p. 3-10, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.10.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/10/1/10_3/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,行為者の姿勢制御系の制約が系列行為に与える影響を明らかにすることを目的に,マイクロスリップの観点から動作系列の推移を修復モデルに基づいて分析した.被験者は健常成人 10 名とし,統制群と姿勢制御系に制約を与える実験群に無作為に振り分け,お茶を 1 杯淹れる課題を遂行した.動作系列の推移は修復対象,非流暢,修復と 3 つの連続する区間に分けて記述し,特徴的なタイプを抽出した.実験群においては,修復対象の抽出,非流暢の有意な増加,中でも躊躇と接触が特徴的に抽出された.動作系列レベルにおける修復対象については,次の行為に向けた準備的役割や対象知覚の補償といった探索機能的な意味を再検討する必要性が示された.修復区間では,視知覚系による探索過程が躊躇と関連して続行が有意に増加し,転換と代替は課題対象と対象間における場の知覚と操作制御の知覚に関連していることが確認された.少なくとも姿勢制御系に困難性を抱えるということは,系列課題遂行の戦略となる知覚‐運動の探索過程に影響を与えることが明らかとなった.それは,予期的に行為が連結されず,全体構造を安定して知覚することを困難にするが故に,マイクロスリップの生起によって環境と行為者の持続した関係を保ち,行為を繋いでいることが示された. 下川 遥子, 廣瀬 直哉, 児童期後期における子どもの自然観, 生態心理学研究, 2017, 10 巻, 1 号, p. 13-22, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.10.1_13, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/10/1/10_13/_article/-char/ja, 抄録: 自然環境問題の要因の一つとして,自然に対する見方(自然観)が挙げられているが,子どもの自然観を実証的に検討した研究は少ない.そこで本研究は,日本の児童の自然観を,宗教意識との関連において,明らかにすることを目的とした.大阪府内の小学 3 年生から 6 年生の児童を対象に,自然観および宗教意識に関する質問紙調査を実施し,218 名の有効回答を得た.因子分析の結果,“神仏の存在”,“神秘性”,“自然との一体感”,“自然保護”,“自然の脅威”,“自然の温情”の 6 因子を抽出し,宗教・自然観尺度を構成した.各尺度について学年間の比較を行ったところ,学年が高くなると,宗教意識や自然との心理的つながりが低くなっていることがわかった.さらに自然観と宗教意識の関連について検討するため,6 つの下位尺度を高次因子分析によりモデル化したところ,最終的に“宗教的自然観”,“客体的自然観”の 2 つの二次因子を含むモデルが導かれた.このことから,自然を客観的にみる科学的な自然観だけでなく,宗教性を帯びた日本の伝統的な自然観が児童に存在することが示唆された. 佐古 仁志, エコロジカル・アプローチのあらたな展開に向けて─染谷昌義『知覚経験の生態学: 哲学へのエコロジカル・ アプローチ』書評─, 生態心理学研究, 2017, 10 巻, 1 号, p. 25-29, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.10.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/10/1/10_25/_article/-char/ja 野澤 光, 書道熟達者の臨書制作プロセス─第19 回知覚と行為に関する国際会議参加報告─, 生態心理学研究, 2017, 10 巻, 1 号, p. 33-37, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.10.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/10/1/10_33/_article/-char/ja, 抄録: 第 19 回知覚と行為に関する国際会議の参加報告として,本稿にて発表した研究を紹介する.この研究では,書道熟達者 1 名が 16 試行を通じて臨書作品を制作する過程を,16 枚の臨書画像を縦断的に分析することにより検討した.臨書された文字の諸変数を検討した結果,行中央の文字が上下に移動して,紙面の余白を埋める最適な位置を探索していたこと,またこの探索の過程で行中央と行頭の文字が,相補的にプロポーションを変形させていたこと,さらにこれらの調整の足場となるために,行頭文字の位置変動が抑えられていたことが明らかとなった.つぎに 16 試行を通じた字間調整を行った.字間の試行間差分をダイヤグラムとして視覚化し,性質の異なる 2 種類の調整タイプを,斉一型,伸縮型と区別し分類を行った.その結果,試行を通じた字間調整の質的な変化をマクロに捉えたとき,伸縮型調整から斉一型調整への交代として捉えることができることが明らかとなった.このように,臨書制作中の書家の方略は,(A)生態学的制約に従って自らの調整レベルを複数の背景レベルに差異化する能力と,(B)複数の変数を相補的な入れ子にする能力から成っていた. 野中 哲士, 学会模様: 第19回知覚と行為の国際会議, 生態心理学研究, 2017, 10 巻, 1 号, p. 38, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.10.1_38, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/10/1/10_38/_article/-char/ja =========================== 11 巻, 1 号 =========================== 山本 尚樹, ジョン・デューイ(1896)「心理学における反射弧の概念」, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 3-9, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_3/_article/-char/ja 山本 尚樹, ジョン・デューイの反射弧論文について, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 10-14, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_10, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_10/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,生態心理学やダイナミックシステムズアプローチとの関連から,ジョン・デューイが1896 年に発表した論文,「The Reflex Arc Concept in Psychology」(「心理学における反射弧の概念」)を再検討する意義を指摘する.その意義について,デューイの論文の内容に言及しつつも,大きくは「要素還元主義に抗するシステム論的アプローチの潮流」と「生態心理学,DSA の理論的相違とプラグマティズムの古典」から論じた. 伊庭 新也, 第5 回生態心理学とリハビリテーションの融合研究会を振り返って─ようこそ、滋賀・びわ湖へ─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 17-18, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_17, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_17/_article/-char/ja 下堂薗 花枝, 櫻井 靖一郎, 髙木 英樹, 中枢神経系障害患者の動作能力障害に対する水中運動療法の有効性, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 19-22, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_19, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_19/_article/-char/ja, 抄録: 中枢神経系患者の多くは,地上では身体を硬くし,一つの固まりにすることで自発的・自律的に動きにくくなり,全身的な筋緊張のバランスを維持できなくなっている.その為,本来活動すべき筋がスムーズに活動出来ず,不良な運動パターンが強化されていく.このような重力環境下で学習された不良な運動パターンは,異なる環境下での修正が必要であると考え,重力の影響が軽減できる水中環境下において治療効果が期待できると考えた. そこで本研究では,慢性期中枢神経系障害患者の動作能力障害に対する水中運動療法の有効性を検証することとした.対象は,療養病棟入院中の9 名の中枢神経系障害患者とした.水中運動療法試技は,ハリビック法とラガッツ法を使用し,対象には,週3 回40 分の水中運動療法と,週1,2 回の通常の理学療法訓練を含む,12 週間の治療を実施した.評価項目は,起き上がり動作の質的評価とし,評価は治療前,4 週間後,8 週間後,12 週間後に評価をおこなった.結果,起き上がり動作の質的評価においては,評価者間の高い信頼性が得られ,有意な主効果が認められた.本研究において,水中運動療法は,慢性期中枢神経系障害患者のリハビリテーションにおいて,安全で有益であり,動作を改善するために有効であることが示唆された. 西出 達也, 杉本 圭, 中根 征也, ダイナミックタッチによる知覚の違い─同じ形状のペットボトルによる水の量の測定─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 23-24, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_23, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_23/_article/-char/ja, 抄録: 棒の長さや方向・紐の長さを知覚する課題を用いたダイナミックタッチの研究は散見されるが,液体を用いた報告はみられない.そこで本研究では液体を用いたダイナミックタッチでは個人差があるのか検討した.被験者は20 名で,水の量が異なる4 種類のペットボトルと基準となる水の量が入ったペットボトルを振ってもらい4 種類の中でどれが基準の量と近いかの回答を求めた.その結果,振り方のバリエーションが多ければ正答率が良く,振り方の工夫も確認された.また,今後のダイナミックタッチに関する研究に繋げていく上での課題も見出された. 谷貝 祐介, 古山 宣洋, 三嶋 博之, 熟練ドラマーの正確な演奏はどのように実現されるのか─床反力データを用いた姿勢制御に関する検討─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 25-26, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_25/_article/-char/ja, 抄録: ドラム演奏では,正確な演奏を維持することが要求される.正確な演奏を実現する熟練したドラマーの身体動作には,一体どのような特徴があるのだろうか.本研究では,ドラム熟練者(N=3)と初心者(N=4)の違いを明らかにした.実験課題は,ドラムセット(ハイハット,スネアドラム,バスドラム)を用いた 8 ビート課題とし,演奏時の打圧データ,床反力中心データ(CoP データ)を計測した.計測したデータを用いて,演奏の正確性や強度を評価するためのパフォーマンスの分析と,その背景にある身体動作の分析を実施した.分析の結果,熟練者の演奏パフォーマンスは,出力が大きく,ばらつきも小さいことが示された.身体動作では,熟練者の方が大きく,運動方向のばらつきも小さいことが示された.ドラム演奏(i.e., 8 ビート課題)は,上肢や下肢,全身の複雑な運動から成り立つ.本研究により,大局的な姿勢(例えば,運動方向を一定に保つような姿勢)を維持することや,身体を楽器に向けて適切に定位させるなどの姿勢制御が,複雑な身体動作を取りまとめ,正確な演奏を支えていた可能性が推察された. 阿部 廣二, 山本 敦, 古山 宣洋, 帰り道はなぜ短く感じる?─リターントリップエフェクトへのエコロジカル・アプローチ─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 27-30, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_27, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_27/_article/-char/ja, 抄録: 往復の旅程において,往路よりも復路のほうが短いと感じる,リターントリップエフェクトと呼ばれる現象がある.本稿では,まずリターントリップエフェクトの発生メカニズムについて,先行研究のレビューを行った.その後,先行研究の問題点を指摘した上で,生態心理学を理論仮説として,リターントリップエフェクトの生成メカニズムを理論的に検討した.その結果,1)往路と復路において同一対象であっても知覚される面が異なる可能性があること,2)表面/裏面のどちらからでも同一対象であることが特定できる付着対象であるランドマークの探索が失敗したとき,”もうここか/まだここか”といった経験をする可能性があること,3)視角の制約や環境内の対象によってもたらされるランドマークの遮蔽のタイミングが,往路と復路で違う可能性があり,復路において早期の段階でスタート付近のランドマークが知覚されたとき”もうここか”といった経験をする可能性があることが示唆された.最後に今後の実証研究の方向性として定性的分析,および実験研究の可能性が示された. 友野 貴之, 三嶋 博之, 古山 宣洋, 人と人の間の通過可否判断は物と物の間の通過可否判断とどのように違うのか, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 31-34, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_31, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_31/_article/-char/ja, 抄録: 私たちは人混みの中を歩くとき, 可能な限りぶつかることなく安全に通り抜けなければならない. このようなすき間の通過可否(通り抜けられる, 通り抜けられない)の判断はどのように行われているのであろうか. 本稿の実験では, a) 静止した2 人の間, b) 箱と箱の間において, 実験参加者が静止した状態で, 肩を回旋することなく通過可能だと判断した間隙幅を求めた. また, 人が持つパーソナルスペースには異方的構造があることから(田中, 1973), 間隙を構成する2 人の向きによっても通過可否判断が異なると考えられる. そこで, 間隙を構成する2 人の実験協力者(男性)が向かい合う条件, 背中合わせの条件, 正面(実験参加者のいる方向)を向いて並列する条件, 後ろを向いて並列する条件を設定し, 実験参加者の静止した状態での間隙の通過可否の判断について検討した. 加えて, 箱型のパネルの条件を設定し, 人と人の間を通過する場合, 箱型の障害物(パネル)の間を通過する場合での間隙の通過可否判断を比較した. 分析では, 先行研究(Warren & Whang, 1987)に倣い, 通過可否判断の指標としてπ値(“間隙幅/肩幅”)を算出し, 分析単位として使用した. 結果, 向かい合う条件でのπ値が他の条件のπ値よりも大きくなった. このことから, 実験参加者は人と人の間の通過可否判断をする際, 間隙を構成する人のパーソナルスペースの異方的構造といった社会的要因を考慮していることが示唆された. 百田 巧, 有馬 聡, 術前後の一貫した知覚へのアプローチが機能改善に繋がった一症例, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 35-38, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_35, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_35/_article/-char/ja, 抄録: 今回,後縦靭帯骨化と黄色靭帯骨化による胸髄症患者に対して術前から寝返りや起き上がりを通して支持面の変化の知覚を促したことで,連続・分節的な動きに繋がり,表在筋の過活動が軽減,深層筋の微細な姿勢調整がはかれた結果,滑らかな動作の獲得に繋がった.また,過剰な上肢残存筋の使用を控えて,足底や座面からの知覚を促したことで術前から下肢機能改善が得られた.術前後を通して一貫したアプローチを行ったことは術後の身体の変化や改善に対しての自覚をより強調し,その経過から信頼関係の構築,能動的な知覚探索活動に繋がった.今回の症例を通して,術前早期から一貫した知覚へのアプローチを行うことは身体機能面,情動面に対しても有用であると強く感じた. 多田 裕基, 環境への適応を目指したアプローチ―恐怖心の強い片麻痺患者を通して―, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 39-40, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_39, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_39/_article/-char/ja, 抄録: 脳卒中患者は恐怖を感じると体を硬直させ,そのために動揺が増えるといった悪循環を呈する.また,硬直した身体では細やかで柔軟な環境知覚が困難となる.今回,恐怖心が強く過剰固定を呈した症例に対し環境適応を促すアプローチを行った.壁・床への適応を行うことで固定的な歩行の改善がみられた.しかし,過剰固定の改善とともに骨盤帯の動揺などの不安定性がみられるようになった.セラピストによる揺すりによる深層筋の活動性維持,左下肢支持練習を行い,介入後不安定性は改善し骨盤帯の動揺は減少した.本症例の回復経過には前進,後退がみられた. 宮本 一巧, 起立動作に対するハンドリング技術の分析, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 41-44, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_41, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_41/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,リハビリテーション領域での患者の起立動作の治療に対するハンドリングにおいて,熟練セラピストの可視化することが出来る技を検討した.対象はセラピスト役として18 年目の作業療法士 (以下,熟練者)と作業療法学科学生の2 名,患者役として仮想片麻痺者を想定した健常者2 名とした.再帰性定量化分析より,熟練者は患者の動きに協調し,柔軟性を持ったスキルであることが示唆された.加えて,起立動作の進行に伴い患者との協調関係を質的に変化させていることが示唆された.また,患者との距離を大きくとりながらも,終始,セラピストと患者の距離間を一定にすることで起立動作に重要な前方への運動を誘導していたことが示唆された.その特徴を支持していたのは上肢運動の自由度を抑え,下肢運動の自由度を大きくするという全身の協応構造にあった.一方,このような身体構造は古武術などの武術的な身体運動の特徴にも見られる.そこで,古武術的な要素を取り入れた他者の上体起こしと一般的なそれを比較した結果,古武術的な上体起こしの方が再帰性とentropy が高かった.これらの高さは熟練者のハンドリングにも示されている.このことから熟練者の技術の「コツ」を表す身体の特徴は,自身の動きとの協調性の高さ,entropy が増大する動作の複雑化を戦略的に取り入れているという点で,古武術的な身体と類似の行動戦略を含んでいると考えられる. 舩越 稔, 移動空間における体性感覚と視覚との関係について─雑巾がけによる接近が歩行に与える影響─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 45-48, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_45/_article/-char/ja, 抄録: 歩行などの“ヒトの姿勢制御に関与する感覚系は,主に視覚,前庭覚および体性感覚の3 つ”(板谷,2015)であり,評価ではアライメントや姿勢緊張から体性感覚情報に着目し解釈することが多い.しかし,片麻痺者の移動の困難性は構造物への接近による視覚情報が体性感覚情報と相互関係が築けないことにあると考える.症例は,外部環境の変化に対する姿勢制御には代償固定を選択し,視覚と体性感覚との統合が図れず非効率な歩行となって いた.そこで,移動空間への適応に向け,雑巾がけを選択し実施した.雑巾がけは, 低重心での動作であり,この視覚と床面との空間が近接した姿勢は畳の目や壁の凹凸の拡大率による遠近や,床や壁の面構造からの,奥行き知覚や光学的流動の流入を捉えやすくする. それらは,身体と空間との適応に向けた相互関係の情報となり,姿勢の安定化にも寄与し,四肢も活動的に外環境へ接触を求めることができると,視覚-運動と統合された視知覚から全身反応として移動が導かれ,症例の歩行にも変化がみられた. 今回の介入を通して,視知覚と運動は双方向性の関係があり,どのような課題遂行においても配慮するべき要素であると学ぶことができた. 神田 友一郎, 大腿骨骨折症例に対する生態心理学的概念を用いた理学療法アプローチ─立ち上がり動作に変化が見られた一症例─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 49-52, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_49, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_49/_article/-char/ja, 抄録: 今回,当院入院中に複数回転倒し,大腿骨骨折を繰り返す症例を担当した.症例はこれまでの生活歴や既往歴から身体に傾向性が生じており,立ち上がり動作において骨折側である右下肢のみならず左下肢に不安定性が見られた.そのため関節可動域,筋力などに改善が見られても転倒を繰り返していた.そこで知覚循環を促したアプローチを行う事で身体の傾向性を軽減し,視覚的安心感を提供する事で立ち上がり動作に変化が見られたためここに報告する. 髙田 勇, 八木 崇行, 田村 妃登美, 上田 志帆, 冨田 昌夫, 跡見 順子, 清水 美穂, 跡見 友章, 宮下 大典, 尾関 保則, 歩隔が歩行時の体幹制御とバランス戦略に及ぼす影響─安定および不安定の意味性の再考─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 53-56, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_53, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_53/_article/-char/ja, 抄録: 健常若年者を対象に,Wide Base 歩行とNarrow Base 歩行における身体の動揺を3 次元動作解析装置で計測し,左右方向の動揺幅の平均値,標準偏差値,変動係数と,身体各部位間の相互相関係数から,歩隔が体幹制御やバランス戦略に及ぼす影響を検討すると同時に,安定および不安定の意味性を再考した. 田川 大輔, 歩行からの着座動作─高齢者の転倒予防に向けて─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 57-58, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_57, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_57/_article/-char/ja, 抄録: 高齢者の転倒予防を目的に歩行からの着座動作をビデオ観察した.理学療法の経過に伴い患者の動きには変化が観察された.動作観察の着眼点は①身体と座面との距離,②手のつき方の変化,③姿勢の変化,④見る動きとした.また,生態学的π値が存在するのではと仮説し,ビデオ観察を行っていった.今回の3症例では,経過につれて身体と座面との距離が合ってはくるものの,余分に座面を見る動き・手で触る動きが観察された.転倒を防ぐための補償としての動きではないかと考えている.今回の取り組みでは生態学的π値に関しての数値化はできていないが,今後の研究の第一歩としてビデオ観察より得られた経験を生かし,転倒予防に向けての指標として生態学的π値を示していければと考える. 伊藤 泰明, 和泉 謙二, 風船とロッキングチェアを用いたリハビリ介入によるパーキンソン症状の改善, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 1 号, p. 59-61, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.1_59, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/1/11_59/_article/-char/ja, 抄録: 動き出しが困難で,動作も緩慢な傾向の強いパーキンソン病患者のリハビリテーションには難渋する事が多い.理学療法として有効と言われているのは感覚手がかりを用いた外発性随意運動であるが,手がかりに対して手足は伸ばすことができても,そこに姿勢バランスが伴わないと,転倒の危険がある.患者の自覚的な動きにくさを解消するような介入手法の探求は重要である.今回は,風船とロッキングチェアを用いた介入を実施することで,即時的に患者の動作が軽快になった.その様子を紹介し,要因について推察を含めて報告する =========================== 11 巻, 2 号 =========================== 樋口 貴広, 室井 大佑, 宮本 一巧, 中原 亜美, リハビリテーションから見た生態心理学, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 3-5, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_3/_article/-char/ja 友野 貴之, 牧野 遼作, 渡邉 諒, 稲葉 直樹, 青山 慶, “空間・知覚・行為”─私たちは空間をどのように知覚し, その空間の中でどのような行為をするのか─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 6-9, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_6, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_6/_article/-char/ja 右田 正夫, 野中 哲士, 齋藤 帆奈, 森山 徹, 素材の心理学─心理学の新たなニッチを探る─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 10-11, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_10, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_10/_article/-char/ja 山本 尚樹, ろくろ挽きによる作品制作過程の道具環境の相違─3名の作家の比較から─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 15-16, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_15, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_15/_article/-char/ja, 抄録: 作家が独自の作品作りを行うさいに周囲の環境はどのように関わるのであろうか.ろくろ挽きという同じ木工技法を用いて制作を行う3 名の作家の制作の様子を撮影し,鉋,ハメ,馬というろくろ挽きの際に使用する主要な道具の違いについて見ていった.3 名の作家はそれぞれ異なる作品作りを行うが,それに応じて主要な道具も異なるものが用いられていた. 野澤 光, 臨書の研究─書道熟達者の視線探索─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 17-19, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_17, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_17/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,書道熟達者1 名が16 試行を通じて「臨書」を制作するケーススタディである.本稿では臨書中の書家の視線探索に焦点を当てた.臨書と見本を交互に観察する書家の視線探索を検討した結果,頭部旋回の数は 1 文字あたり平均50.33 回(SD23.88),旋回間隔は1 文字平均0.90 秒/1 回(SD0.43 秒)と高い生起頻度を継続しており,なおかつ,旋回方向は,紙面上の位置に対して適応的だった.外的制約に対する感受性と,試行を通した一貫性を両立させた書家の視線探索は,安定性と柔軟性をあわせもつ,高度な熟達を示している.このような書家の特徴的な視覚的探索には,一度かいた線を書きなおさず,紙面に墨汁が流出しないよう,筆尖を一定の速度で動かしつづけなければならないという,書に特有な生態学的制約がかかわっていると考えられる. 三浦 哲都, 紅林 亘, 岡野 真裕, 山本 裕二, Marin Ludovic, Bardy Benoît G., リズミカルな対人協調における視覚的結合, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 20-21, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_20, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_20/_article/-char/ja, 抄録: これまでの対人運動協調に関する研究は, 二者の視覚的結合を相対位相のヒストグラムにより推定してきた. しかしこの方法では, 相対位相時系列データの背後にある系が持つ潜在的なダイナミクスは不明のままである. そこで本研究では, 対人協調における視覚的結合を結合振動子の位相モデルにより検出することを目的とした. 被験者は向かい合って立った状態(対面条件), もしくは背中合わせで立った状態(背面条件)で, リズミカルな膝の屈伸運動を行った. その結果, 対面条件では二者の相対位相が同位相へと引き込まれた. 背面条件では, 二者の引き込みが生じることはなく, 両者のリズムがずれることで位相逸脱が観察された. 位相モデルにより推定した二者の結合強度は, 背面条件ではほぼ0 であり, 結合が存在しないことが示唆された. 一方, 対面条件では結合強度が0 と有意に異なり, 結合が存在することが確認された. 今後本モデルにより, 二者の相対位相を生み出すダイナミクスそのものを評価していくことで, 二者間の情報学的な結合が解明されることが期待される. 佐古 仁志, 批判的常識主義を媒介とした直接知覚と間接知覚の統合─生態学的知覚論をめざして─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 22-25, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_22, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_22/_article/-char/ja, 抄録: 本稿の目的は,生態心理学における直接知覚と間接知覚との関係を,パースの批判的常識主義の観点から発展的に統合することにある.生態心理学の直接知覚に関する主張は,ギブソンのみならずほとんどの生態心理学者が共有する生態心理学のドクトリンである.他方で,生態心理学における間接知覚の働きは,ギブソン自身が言及しているにもかかわらず,少なくとも生態心理学の外部の研究者たちはほとんど注目していないし,直接知覚と間接知覚がどのように関係しているかはかならずしも明白ではない.そこで本稿では,生態心理学への不毛な批判を解消するために,生態心理学の源流にあるプラグマティズム,特にパースの批判的常識主義の観点から検討することで,両者を統合した生態学的知覚論の構築をめざす. 豊泉 俊大, 画像的再現をめぐるギブソンとグッドマンの論争, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 26-29, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_26, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_26/_article/-char/ja, 抄録: 画像的再現をめぐるギブソンとグッドマンの論争について考えたい.論争をあつかったこれまでの論考は,ギブソンの主張をグッドマンの理論の枠組みにおいて再構成するか,論争のきっかけとなった遠近法の慣習性という特殊の話題にのみ言及するかのどちらかであった.この小論では,ギブソンとグッドマンの主張の相違を明確にし,論争が両者の立論の根本に係わっていること,論争の核心が古来の実在論,唯名論の対立へと通ずることを指摘したい. 高梨 克也, 瞬発的運動のジレンマ─雪上での木遣りの事例分析から─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 30-33, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_30, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_30/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,野沢温泉村の道祖神祭のための準備作業の中で見られた“木遣り”の協同作業を対象とした分析を行う.この作業の特徴の一つは行為の失敗が頻繁に生じており,また,こうした失敗が回避困難であるように見えることであると考えられる.そこで,ビデオデータを用いて失敗場面を微視的に分析することによって,雪上という悪環境での“瞬発的行動”に含まれる複数のジレンマが失敗の要因となっていることを特定していくとともに,行為の失敗が触覚-身体運動感覚での経験においてもつであろう価値について考察する. 園田 正世, 母子の抱きにおける生態心理学的研究─道具とコミュニケーションに着目して─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 34-36, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_34, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_34/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では初めての子育てをしている母とその生後2 カ月の子10 組を対象に, 2 種類の抱っこ紐を使用して立位及び歩行する場面を設定した. 抱き状態での立位と180 秒間の歩行を行い, その様子を観察した. 観察の結果は抱き姿勢と掌のふるまいについて特徴ごとにまとめた.結果, 構造的な性質を持つ抱っこ紐では母の上肢による探索的な動きが継続的にみられた.布で巻き付ける抱っこ紐では探索行為はほとんど確認されない一方でタッピングがより多く生起した. この結果により抱っこ紐使用時にも子にかかわりを持とうとする親は, 抱っこ紐によってふるまいを変えていることが示された. 山﨑 寛恵, 移動時における幼児の見えと姿勢, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 37-38, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_37, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_37/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,保育所幼児室における幼児の移動場面を観察した.ウェアラブルカメラを装着した5 歳児の室内移動の記録から,幼児がオープンスペースの保育室を目的地点に向かって移動する場合と,種々の活動に取り組みながら移動する場合の2 パターンで選択されるレイアウトについて,幼児の見えの変化から比較した.目的地に向かう移動では,オープンスペースがフロアに置かれた家具などに遮蔽されることで経路が選択されていた.一方,様々な活動を行いながら移動する場合,幼児の頭部は低くなり,部屋の開けた部分のほとんどが遮蔽されることによってそれぞれの活動エリアが具現した. 西尾 千尋, 工藤 和俊, 片付けの始まり─独立歩行開始期の乳児による物の運搬と協同的配置換え─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 39-42, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_39, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_39/_article/-char/ja, 抄録: 1 名の乳児の観察を家庭において縦断的に行い,歩行開始期における片付け行為への参加事例について検討した.独立歩行開始後には,大人が片付けを遂行中に,直接的に物の配置換えに関わる事例が生じた.歩行経験と,協同的な物の配置換えへの参加の関係について考察した. 廣瀬 直哉, 食事マナーに対する動作の流暢性からのアプローチ, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 43-44, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_43, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_43/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,食事マナーの問題を既存のマナーの継承,つまりこれまで行われてきたマナーが守られているかどうかとしてではなく,マナーの原点として美意識があるという美醜の観点からアプローチする.この美醜としてのマナーは,動作の流暢性やマイクロスリップと関連しているというのが本研究の主張である.食事マナーの事例として嫌い箸を取り上げ,食事動作の分析から動作の流暢性が美しい動作や食事マナーと結びついているかどうかを検討する. 森野 花梨, 真下 英明, 友野 貴之, 拳によるすき間の通過可否判断は可能か─知覚とボディイメージにより構築される上肢機能─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 45-46, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_45/_article/-char/ja, 抄録: Warren & Whang (1987)は, 様々な幅のすき間を人が歩いて通過する場面の観察を行い, すき間の幅が肩幅の 1.3 倍よりも広い場合はすき間の通過時の歩行姿勢に変化はないが,すき間の幅が肩幅の1.3 倍よりも狭くなると, 通過者は肩を旋回させながらすき間をすり抜けようとすることを示し, 通過者がその身体を基準とした一定の基準である“π値 = 1.3”において通過可否の判断を行っていることを明らかにした. 本研究では, Warren & Whang (1987)の実験を元に, 上肢のみによるすき間の通過実験をおこなった. 物体へのリーチや操作など身体で最も繊細な運動が求められる上肢のみであっても,Warren & Whang (1987)と同様にすき間の通過可否判断が可能であるのかを検証した.上肢によるすき間の通過可否判断を明らかにすることで, 上肢が麻痺した患者のへ治療にあたっての訓練の重要な手がかりとなると考えられる. 松田 紘太朗, 吉澤 望, 柴田 崇, 影から得られる情報─距離の知覚─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 47-49, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_47, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_47/_article/-char/ja, 抄録: 私たちは光に満たされた空間で生活しており,影も生活空間からは切り離せないものとなっている.本稿では影から抽出可能な情報の一側面について検討を行うために,太陽光を利用して,球体の影を被験者に観察させ,被験者の申告値と輝度分布を比較することで,投影面と球体の距離の変化が知覚と物理量の関係に及ぼす影響を検証する実験を行なった.その結果,半影部の輝度勾配を周辺部の輝度で除した値が,被験者の距離の申告値と最も高い相関が得られた.これを言い換えると,[本影部と周辺部の輝度対比]を[半影部の幅]で除した値が,距離の知覚と関係している可能性を示唆している. 青木 敏晃, 身体傾向性の変化が無意識的な反応に与える影響, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 53-54, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_53, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_53/_article/-char/ja 真下 英明, 寝る動作における生態学的測定法に関する検討, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 55-56, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_55, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_55/_article/-char/ja, 抄録: 臨床場面において,患者がベッドに横になる際にふと見せる枕への適応動作(枕を動かすまたは自分が枕に近づくか離れる)は,まさに自分の頭部が枕に乗る的確な位置を見越した動作となっている。この動作はWarren1)らや三嶋2)らの実験を思い起こさせる. しかしすべてのヒトで枕との位置が適切に調整できるわけではない.特に臨床の場面では,この枕との不適応を多く経験する.不適応を示す方々の特徴として,様々な要因によって身体の運動機能に問題を有しており,機能が保持されている側でのみ生活を成立させていることが挙げられる.このように枕との距離が身体機能と関係が深い可能性があると思われる. 本研究の可能性は,枕と身体との関係から,患者が有する身体と環境との適応性を評価し,さらにこの動作を用いて身体と環境との適応性を再構築することで,疾患によって機能低下した外界への注意領域を拡張し,環境からのアフォーダンスのピックアップを活性化させることにつなげたい.本研究はその前段階として,健常人と疾患を有する人とで関係を観察し検討を試みたいと考える本発表では健常者の実験結果を報告する. 右田 正夫, ヒトデの起き上がり行動における基質の肌理の影響, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 57-58, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_57, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_57/_article/-char/ja, 抄録: 分散型の神経系を持つヒトデの起き上がり行動では,自律性の高い腕の運動が主に神経系を介した相互作用を通じて組織される自己組織化過程が見られる.本研究では,肌理の異なる基質の触覚が得られる時,起き上がり行動の自己組織化過程がより効率よく行われるかどうかについて考察する. 井上 拓也, アフォーダンス知覚を促すデザインとしての言語─生態学的言語論の理論的考察─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 59-62, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_59, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_59/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,従来の言語学,特に認知言語学の理論と,生態学的な観点との接合について考察する.まず従来の研究として,Reed (1996) や河野 (2003) 等が述べるような,言語の知覚や行為を促す役割について確認し,Norman (2010) の議論を参考に,アフォーダンスの選択を制限するものとしてデザインの役割を定義する.さらに(認知)言語学におけるフレーム意味論(Fillmore 1982, 1988)におけるフレームの概念を導入し,生態学的に〈実在〉する社会的アフォーダンスとして読み替えることができることを主張する.言語表現はそのフレームとしての社会・環境デザインの上で知覚を促すデザインとなっている.文の理解は情報伝達ではなく〈実在〉するフレーム内におけるアフォーダンスの現前化であると読み替えることができることを述べる. 井川 大樹, 三浦 哲都, 工藤 和俊, 二者間の身体接触が立位動揺に与える影響, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 63-66, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_63, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_63/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,二者間での身体接触が,立位動揺の軌跡の方向性および複雑性に与える影響を調べることを目的とした研究である.二者間の軌跡の方向性は,動揺にみられる低周波のトレンド成分によって影響を受ける可能性があるという仮説を立て,トレンド成分を含めた解析と,トレンド成分を除去したフラクタル時系列解析法を用いた.結果は,二者の接触は,静止立位の保持とともに接触を維持しようとする相互の調整をもたらし,リーダーとフォロワーの関係が固定されずに入れ替わるハイパーフォロワー関係の中で,二者の動揺パターンの類似性が増大した.さらにこの類似性は,局所的な動揺パターンの一致にとどまらず,より長期的な揺らぎを含めた姿勢動揺の複雑性にまで及んでいた.このことは,身体接触を介した静止立位時の相互作用を,テンセグリティ―構造をもつ身体間の相互作用として理解できる可能性を示唆している. 田野崎 はるか, 三浦 哲都, 東野 美夢, 向井 香瑛, 惠谷 隆英, 工藤 和俊, リズム音と運動の周期の非対称性が引き込みの安定性に与える影響, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 67-68, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_67, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_67/_article/-char/ja, 抄録: 音楽演奏やダンスでは, 拍子構造をもつ音楽に合わせて身体を協調的に動かす聴覚運動協調が行われている. 本研究では, 複雑な拍子構造をもつリズム音が協調運動の安定性に与える影響を検討するため, 2 拍子と3 拍子の拍子構造をもつリズム音に対して2 つの運動局面(屈曲、伸展)をもつリズム運動を協調させた. 3 拍子のリズム音と2 つの運動局面を協調させる非対称性を含む聴覚運動協調課題を行った結果, 2 拍子条件では安定して協調を維持できていた一方で, 3 拍子条件では, リズム音の周波数と運動の周波数がずれる位相逸脱や, 運動が 2 拍子へ引き込まれる現象が確認された. 以上の結果より, 協調が最も安定するのは, リズム音に毎回同じ運動局面が引き込まれる場合であることが示唆された. 右田 正夫, 古山 宣洋, 報告:ワークショップ“運動を通じた数の知覚”の開催, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 71-72, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_71, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_71/_article/-char/ja 澤 宏司, 鶴島 亨, 一意性と普遍性と逸脱─“サワ☆博士の数楽たいそう”の実践を通して─, 生態心理学研究, 2018, 11 巻, 2 号, p. 73-76, 公開日 2020/12/01, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.11.2_73, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/11/2/11_73/_article/-char/ja, 抄録: 筆者らが考案し,運営する“サワ☆博士の数楽たいそう”は簡単な計算を伴う全身運動群である.その特徴の筆頭は“運動しながら無関係な計算をする”のではなく“与えられた運動タスクのためには必然的に計算を要する”ことである.定期的なクラス指導,様々な機会のイベント指導,高齢者施設へのメニュー提供などに基づく数の知覚に関する知見や,2018 年2 月の日本生態心理学会でのワークショップの様子を報告しつつ,計算行為と身体の関係について論じる. =========================== 12 巻, 1 号 =========================== 炭谷 将史, 保育所園庭の傾斜付砂場が園児に与える遊びの機会, 生態心理学研究, 2020, 12 巻, 1 号, p. 3-13, 公開日 2020/10/24, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.12.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/12/1/12_3/_article/-char/ja, 抄録: 園児の遊びに物的・人的環境が果たす役割を明らかにするために,保育所にある傾斜付砂場で遊ぶ園児を観察 した.遊びにある水の行為と砂の行為を対象に,遊びの展開,遊んでいる場所とそこで行われている行為,移動の場所という3 つの視点から分析した.遊びは水を流すことから始まり,偶発的な出来事を利用していた.最初に砂場に入った園児の多くは水を流すことから遊びを始め,途中から砂場に入った園児は,入った当初は特定の場所に滞留しないという特徴が明らかになった.園児は砂場の複数の箇所に分かれて遊んでいた.園児は多様な場所を移動していたが,水を上に運ぶ際には足場が安定した石段を移動していた.園児たちが偶発的事象を活かして遊びを生み出し,水の流れが複数箇所で遊ぶ園児たちをつないでいたことが示唆された.“そこでできること”に基づいて作成する生態学的地図を用いて子どもの遊びを理解することの可能性を論じた. 佐藤 将人, 南 誠一, 成人片麻痺者におけるボールと風船の治療的応用, 生態心理学研究, 2020, 12 巻, 1 号, p. 17-21, 公開日 2020/10/24, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.12.1_17, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/12/1/12_17/_article/-char/ja, 抄録: 脳卒中後遺症による成人片麻痺者の上肢や手の治療場面では,積み木や輪投げといった物品やハサミなどの道具を治療手段として用いる事が多い.片麻痺者が,物品や道具を扱う為に必要な知覚情報を探索し,運動スキルに変換していく過程を用いて,中枢神経系の回復を期待できるからである.また,物品や道具といった対象の操作に注目し,回復の妨げとなりやすい運動への過剰な意識を減弱させる事は自律的な運動学習の獲得に有用であり,その対象の選択には片麻痺者の心身の状態,用いる対象特性などの分析が要求される.ボールや風船は,変化に富む多様な動きが楽しさをもたらしてくれる運動性の豊かさに特徴がある反面,それ自体を扱うためには自由度の高い運動性から安定性を探り出す特徴的な知覚情報の探索が求められるが,片麻痺者は上肢・手の機能の問題に加え,知覚情報の探索過程にも困難性を抱えており,それらを上手く扱えない事が多い.今回,片麻痺者の臨床から,ボールや風船を操作する時,目的動作が成立する為に必要な運動要素と手に入力される様々な情報の中からその運動と共に導き出せる特有の知覚情報を抽出する過程への援助・誘導が上肢・手の機能改善に有用である事が示された.そして,ボールや風船の治療的応用は,対象-操作の知覚過程を再連結する機能的活動の遂行であると捉えられた. 野中 哲士, 佐藤 由紀, 生物ソナーシステム―アクティブセンシングによるコウモリ空間知覚術(飛龍志津子教授講演会), 生態心理学研究, 2020, 12 巻, 1 号, p. 25, 公開日 2020/10/24, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.12.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/12/1/12_25/_article/-char/ja =========================== 13 巻, 1 号 =========================== 豊泉 俊大(大阪大学大学院), 画像経験の特異性―ギブソンの画像理論―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 3-14, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_3/_article/-char/ja, 抄録: 本稿の目的は,ギブソンによる画像理論の全容を解き明かすことである.ギブソンは画像経験の本性を,その二重性にみる.画像経験が二重性を伴うことは事実である.われわれは画像をまえにして,たしかに,画面と画面に描写されているものとを見る.しかし,私の見るところ,そうした二重性によって画像経験の内実が尽くされることはない.画像経験の本性は二重性にではなく,むしろ三重性にあると,本稿は論ずる.そして,そのことが,ギブソンが示した画像の定義そのものから導きだされうることを,したがって,本稿の提示する見解が,ギブソンによる画像理論の正統な解釈たりうることを,精緻なテクスト読解によって証明する.本稿は,これまでには十分に検討されることのなかった,ギブソンによる画像理論の真意を精確に見定めるものとなる. 山﨑 寛恵, 西尾 千尋, 野澤 光, 「どうしてここにこれがあるのか?」―住環境のダイナミクス―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 17-19, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_17, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_17/_article/-char/ja, 抄録: 本シンポジウムは,子どもと住環境について生態心理学の立場から検討する.山﨑は,縦断的に収集した写真をもとに,保育室の大小さまざまなモノの移動の変遷を調べ,ヒトの集団的なレイアウト変更の特徴について報告する.西尾は,家庭環境での乳児の物の運搬行動についての縦断的データから,乳児が関わるモノに注目して,家庭という場所に潜在するアフォーダンス群の知覚探索の可能性を報告する.野澤は,Rosch のBasic object,Bateson の情報学的議論を参照して,山﨑・西尾の報告に含まれている理論的・方法論的問題を明らかにする. ホンマ タカシ, 佐分利 敏晴, 野澤 光, 佐藤 由紀, アート/表現と表面の二重性, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 21-22, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_21, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_21/_article/-char/ja, 抄録: J.J. Gibson(1979)は,「画家にしても写真家にしても,自分が現実の場所やもの,人,出来事をまさに見ているという感じを,見る人に与えようとするべきではない.そんなことをする必要はないし,そうしようとしたところで,その努 力は失敗に終わるに違いない」と述べた.これは,いかに精巧であったとしても,自然の不変項のすべてを提示することはできないためであり,また,情報には限りがないからである. むしろ開口視を強制されていない鑑賞者は,そこに提示されている何かについて知覚しながらその表面自体も知覚している.画像は光景でもあり表面でもあるのだ.Gibson はこれを二重性(Duality)と呼んだ. さて,画家や写真家が「まさに見ているという感じを与えようとしている」のではないとすると,表現とは何に向かう活動なのか,また表現を鑑賞するものは何を体験しているのか.本シンポジウムでは,ギブソンの指摘する二重性を,表現の限界としてではなく,むしろ表現が発生する本質的な裂け目として積極的に 位置づけ議論を深めたい. 山本 尚樹, ろくろによる木工作品制作過程の分析―道具の設えと制作プロセスの変動―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 25-28, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_25, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_25/_article/-char/ja, 抄録: 本研究ではろくろ挽きという同じ木の加工技術を用いつつも,異なる作風をもつ木工作家2名の制作過程について,道具の設えと制作プロセスの変動に着目して分析した.結果,ろくろ挽きの際に使用する主要な道具,「鉋」「ハメ」「馬」 について,制作物に応じて,使い分けがなされていたこと,作家間で質の異なる変動が制作プロセスに見られるということが示唆される結果が得られた. 板垣 寧々, 谷貝 祐介, 古山 宣洋, ヴァイオリン合奏におけるリード関係の定量化―奏者間の身体動作のグレンジャー因果性に着目して―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 29-32, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_29, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_29/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,ヴァイオリン合奏における,奏者間の身体動作によって構築されるリード関係を定量化し,ヴァイオリン合奏がどのように成立しているかを解明することを目的とし,本稿では予備的な探索結果を報告する.2 者で同パートを演奏した際のリード関係を,グレンジャー因果性分析を用いて定量化し,奏者の合図,および奏者が評価した曲の難易度と対応づけて考察した.その結果,奏者が技術的に難しいと評価した部分ほど大きなまとまりでリード関係を構築する一方で,奏者が技術的に簡単であると評価した部分では小さなまとまりでフレーズの節目ごとにリード関係を構築していた.さらに,双方からのリードが抽出された部分は,合図を出す奏者がリーダーであると判断できる部分と,他の要因でリーダーが特定される部分,あるいは両者が働きかけ合っていてリーダー・フォロワーが存在しない部分がある可能性が示唆された. ヒュース 由美, 工藤 和俊, 即興演劇における俳優間の身体行為の読み取り, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 33-35, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_33/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は演劇における即興性に着目する. 即興演劇とは, 台本がなく, 役柄やストーリーが未決定な状況から, 観客が見ている前で, 時間の中断なしに, 架空の演劇を創作するものである.この劇空間 を成立させるためには, 相手の俳優の行為(発話を含めて)を読み取り, 方向性を予知して, もし予期せぬ状況に直面した場合は, すぐさま解決を見出し行動するという, 柔軟な行為の修正が必要となる. そこで本研究では, 実際に演じられた即興演劇の映像と俳優へのインタビューのデータから, 2名の俳優がどのように相手の行為を読み取り, 自分の行為を開始するか, どのように環境の資源を使ってアイデアを生成するかという点に関して検討を行った. その結果, 俳優たちは, 劇中に行われたアイコンタクト , 身体の向きや行為, セリフの言い方など, 劇空間に埋め込まれた相手の行為を, 自分の創作の資源として活用していることが分かった. 梛木 功介, 谷貝 祐介, 古山 宣洋, 津軽三味線の叩き課題における打圧データの熟練度比較, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 37-40, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_37, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_37/_article/-char/ja, 抄録: 津軽三味線は,三本の弦を備える弦楽器の一種だが,打楽器的な奏法が用いられることに特徴がある.弦を弾きつつ打面を叩くという独特な制約が課される課題では,熟達によってどのような違いが見られるだろうか.本研究では,3つの熟練度の参加者(初心者,中級者,熟練者)が,二つの要因(テンポ:90bpm,120bpm,150bpm,弦:一の糸,三の糸)を組み合わせた叩き課題に参加した.打面に設置した圧力センサから得られたデータについて,各打の開始点から終了点までの時間幅(接触時間)について検討した.分析の結果,熟練度によって接触時間の傾向が分かれ,初心者では制約によって接触時間が左右される傾向が,熟練者では制約によらず接触時間が一貫する傾向が,中級者では熟練者的特徴,初心者的特徴,熟練者と初心者の中間的特徴の三つの特徴が条件によって変化して現れる傾向が見られた.津軽三味線叩き動作において打圧データの特性が重要な意味を有することが示唆された. 西尾 千尋, 乳児の歩行の発達と物との関わり―複数物の操作に着目した事例検討―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 41-43, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_41, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_41/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,2 名の乳児の歩行開始前後の日常生活を観察し,物との関わり方の変化について検討した.歩行開始前と比べるとそれ以降は,物と関わる行為の出現頻度,複数の物を組み合わせる行為,運搬が増加した.これらを踏まえ,複数の物を組み合わせた事例の検討を行った.事例の検討より,乳児向けのおもちゃや本だけでなく,日常生活で使用される様々な物と乳児は関わることが示された.また,歩行開始直後の1歳台の乳児でも,物を拭く,容器に出し入れする,ある物で他の物を操作するといった行為を行っていることが分かった.歩行開始期の乳児の物の操作の発達,発達を取り巻く環境について議論を行った. 中澤 剛, 野中 哲士, 歩行者が街中でナビゲーションを行った時に見られる視線―道に迷う人と迷わない人の視線の違い―, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 45-47, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_45, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_45/_article/-char/ja, 抄録: 人が目的地までの経路をナビゲートする時, 近道を発見し目的地に短距離で到着する人と,近道を発見せず回り道で到達してしまう人に分かれる. 今回の研究では, 其々のパターンに見られる視線を計測した。この計測データから, 近道を発見する人がナビゲーション中に見せる視線の動きと, 遠回りをする人がナビゲーション中に見せる視線の動きの違いを分析する. 谷貝 祐介, 三嶋 博之, 三浦 哲都, 古山 宣洋, 大局的な身体協応が達成する体肢間振り子協応, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 49-52, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_49, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_49/_article/-char/ja, 抄録: 従来の体肢間協応研究では,課題達成に直接かかわる“局所”部位の協応を,身体の一部を固定するなどの実験統制により,“姿勢”と切り離して研究してきた.しかしながら,実践的な運動をより良く理解するためには,“局所”の課題達成を,“姿勢”を含む全身の“大局的な”協応構造から捉える必要がある.本研究では,左右の振り子を音に合わせて動かす課題を二つの条件で行った:immobile 条件(前腕を固定し局所部位のみで行う条件),mobile 条件(身体を解放し部位間を連動できる条件).これらの条件下で,左右振り子の位相モードや課題周波数に応じて,どのような協応構造が出現するのか,局所の課題達成と大局的な協応はどのように関係しているのか,について探索的に比較検討した.分析の結果,身体が解放されたmobile 条件では状況に依存した課題特定的な協応構造が創発し,大局的な協応を妨げることによって課題達成度も低下する可能性が示唆された. 野澤 光, 全身運動と精緻運動が一体化した書家の描画スキル, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 53-55, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_53, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_53/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は,文字をかく書家の描画姿勢を,全身協調という観点から検証した.プロの書家1 名が,漢字を臨書する過程の筆尖・頭部・体幹軌道の相互結合の度合いを,相互相関関数を用いて評価した.その結果,書家の身体が,筆尖と体幹の運動を強く結合させていること,また,この結合度合いが,字画の特定の描画局面に応じて変化することが示された.筆尖と体幹の2 変数は,とりわけ「点」の収筆動作や「払い」動作において,強く結合していた.この結果は,書家の身体が,字画を描画する場面に応じて協調パターンを変化させる,全身を使った描画姿勢を獲得していたことを示している. 森山 徹, 齋藤 帆奈, 園田 耕平, 右田 正夫, 飯盛 元章, 心の語源研究と行動抑制ネットワーク仮説, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 57-58, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_57, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_57/_article/-char/ja, 抄録: 行動抑制ネットワーク仮説は,動物が環境に適した行動を発現すること,その行動にゆらぎが生じること,そして,動物が未知の環境で創発的行動を発現することを,動物行動学が取り組んできた行動の生得性の研究と干渉することなく説明する.また,このネットワークの動的維持機構は,“心(こころ)”という日本語から失われつつある“うら”という意味によく一致し,それらの現代社会における有用性をも含意する.本発表では,以上のような行動抑制ネットワーク仮説の性質を,日本語の“心”の語源研究と照らし合わせながら概説する. 酒井 千恵, 模擬患者が演じる脳梗塞右麻痺患者に対して看護師が行う体位変換の知覚と行為, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 59-62, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_59, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_59/_article/-char/ja, 抄録: 看護の技術において体位変換は,身体に直接触れる行為を伴い,かつ,すべての安楽ケアを成立させるのに必要な基礎的な技術の一つである.一方で,症状や障害をもつ患者の変化する状況に合わせて実践しなければならない応用的な技術でもある.患者に合わせて体位変換を実践することが求められるとき,どのような情報を利用しながら看護師は体位変換をしているのか.人との直接的なかかわりとそこに存在する環境とのかかわりあいの中から,看護師の知覚と行為を見出すには,アフォーダンスの観点が参考になるのではないかと考えた.そこで本研究は,以下の実験を行った.模擬患者団体の70 歳代男性1 名に,『右麻痺のある患者がベッド上に左向きで横になってテレビを2 時間見た後に,同じ姿勢が辛くなったためナースコールを押す』という場面を演じてもらい,看護師2 名にそのナースコール対応を3 日連続で行うという設定で,体位変換を実施してもらった.その場面をビデオカメラ2 台で撮影し,その映像から,看護師が行う体位変換を構成している知覚と行為を解析した. 青井 郁美, 野中 哲士, 座位獲得以前の乳児が日常場面において自発的に手を動かして触れた環境内の対象, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 63-66, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_63, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_63/_article/-char/ja, 抄録: 座位獲得までの生後0か月から7か月頃までの乳児の育児記録をもとに,日常生活において,手が自発的に動いて触れた環境対象についての記述から分析し,対象と手の動きの関係について明らかにしていきたい.43 の記録を自発的に手が触れた18 種の環境の対象によって分類し,それらを5つの視点で分析した.A)姿勢;仰臥位、伏臥位、支座位に分けられた.B)環境にかかわる手の動きの開始;自ら手が向かった対象物と、他者が手に持たせたり置いたりする対象物があった.C)環境にかかわる手の動き;「触る」「握る」「振る」「開く」「移動する」「止める」が見られ,各々が組み合わさって見られる記録があった.D)手の動きにより環境に起こること; 手の行為により環境対象は「音がなる」「揺れる」「落ちる」「見える」「近づく」「ちぎれる」「はねる」「自分の感触」「無変化」という事象が起きていた.E)他者のかかわり;環境内の対象が手の動きにより変化したことに対して,直接的あるいは間接的な他者のかかわりが起こっていた.本研究の結果は,誕生直後から座位前段階までの乳児の手の動作を,環境との関係形成として記述する可能性を示唆するものである. 三嶋 博之, 日本生態心理学会第8回大会 報告, 生態心理学研究, 2021, 13 巻, 1 号, p. 69-71, 公開日 2021/06/10, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.13.1_69, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/13/1/13_69/_article/-char/ja =========================== 13 巻, 1 号 =========================== 井上 拓也, 生態学的意味論の提案:シグニファイアとしての言語, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 3-30, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_3, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_3/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,生態学的に言語を位置付けるために,まず生態学的言語論における各論者による言語の位置付けとそれらの課題点について確認する.次に,生態学的実在論の立場を踏まえ,アフォーダンス知覚における「現勢化」と「知覚化」の二つの段階を区別しつつ,後者の段階でアフォーダンスを知覚可能なものとする「シグニファイア」として言語を定義する.その上で,生態学的な言語観を継承する意味論としての「生態学的意味論」を提案する.最後に,生態学的な観点から,言語によって表現される抽象概念に関する議論や,言語の創造性についての議論も可能になることを示す. 西尾 千尋, 青山 慶, 山﨑 寛恵, 発達:持続と変化のイベント, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 33, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_33, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_33/_article/-char/ja 西尾 千尋, 移動の発達研究への展望:Karen Adolph の生態学的アプローチとは, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 35-50, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_35, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_35/_article/-char/ja, 抄録: 近年,乳児の歩行の発達は,運動学的な観点からだけではなく,言語発達や社会的相互行為との関連に焦点を当てて研究されている.Adolph は,運動発達と行動の変化の関係について,新しい運動スキルを獲得することが,様々な心理的領域にまたがる発達的変化につながるという,発達のカスケードとして捉える見方を示した.本研究では,歩行を中心とした乳児の移動の運動発達研究を行ってきた Adolph の研究を概観し,研究のキーワードである,柔軟性と経験,変動性,日常の環境の観点から検討を行った.それらを踏まえ,移動の発達を生態学的な観点から研究することが,発達研究のこれからの展開にもたらす意義について考察した. 山本 尚樹, 木工作家の道具の設えと微視的発達:ろくろ挽きによる作品制作プロセスの事例分析, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 51-86, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_51, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_51/_article/-char/ja, 抄録: 古典発達研究やThelen のダイナミック・システムズ・アプローチ,生態心理学に基づく国内の観察研究を検討し,発達を身体とその環境を包摂した系における行為の時系列的な変化として捉えるという観点を提示した.この観点を踏まえ,ろくろ挽きにより大型の一点物の作品をつくる木工作家,N の一名を対象に,2 つの作品の制作していくプロセスを縦断的に観察した.特に,ろくろ挽きの主要な道具に着目して分析を行った.結果,N は探索的に作品の形状を決めていくことが示された.また,制作プロセスのなかで,ハメという固定具の入れ替えや加工,鉋の持ち手を変えるなど,工房内での道具の設えの変化が観察された.ハメの入れ替えや加工は1 つの作品を作る間にも何度か生じていたが,ろくろの下の穴の部分に板を渡すなどの設えは2 つの作品制作プロセスを通して持続していた.これらの結果を踏まえて改めて理論的な考察を行い,発達には身体的なものだけではなく道具の設えのなどの環境の変化も含まれうること,作家-道具系として技術の発達を捉えるなどの理論的観点が示された. 宮里 暁美, 山﨑 寛恵, 素材とレイアウトの可能性:宮里暁美氏インタビュー, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 87-94, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_87, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_87/_article/-char/ja, 抄録: お茶の水女子大学附属幼稚園副園長,文京区立お茶の水女子大学こども園園長を歴任し,保育者として長年子どもたちの成長を見続けてきた宮里暁美氏にインタビューを行った.乳幼児の日々のエピソードから,モノやモノ同士の可能性,習慣がつくられる過程や現前するそれへの気づきなど,掘り下げるべき生態学的問題を見出すことができる.インタビューは2021 年4 月,新年度開始直後のこども園で行われ,西尾千尋氏が同席した. 大崎 晴地, 青山 慶, 発達の資源としてのバリア:大崎晴地氏インタビュー, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 95-108, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_95, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_95/_article/-char/ja, 抄録: 心と身体,発達のリハビリテーション,精神病理学の領野にかかわりながら作品制作,研究活動を展開しているアーティストの大崎晴地氏にインタビューを行った.4 層のシートが媒質を包み込むようレイアウトされている氏の作品「エアトンネル」で起きることから,出会いと気配,遮蔽とフィクションなど今後の生態心理学における発達研究への示唆を得た.なお2021 年11 月「エアトンネル」の体験ワークショップ開催後,茨城県取手市のスタジオにてエアトンネルの実体験後に行われた. 佐藤 由紀, 佐々木正人教授 記念講演会, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 111, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_111, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_111/_article/-char/ja 佐々木 正人 , エコロジカル・アプローチ:はじまりの動機と展開, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 113-141, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_113, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_113/_article/-char/ja, 抄録: こんにちは,佐々木です.日本生態心理学会20 周年おめでとうございます.この機会を記念して何か話すようにご依頼いただきました.パワポを用意しました.はじめに本会創設の頃を短く振り返ります.次にエコロジカル・アプローチについて,自分のフィールドでの経験も紹介しながら,身体,場所,モノの3 つをテーマに話します. 野澤 光, 山﨑 寛恵, 西尾 千尋, 「どうしてこれがここにあるのか?」(2)―住環境のハビトゥスを成り立たせるもの―, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 145-148, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_145, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_145/_article/-char/ja, 抄録: 本シンポジウムは,子どもの生活する住環境で生起するレイアウト変更過程から,環境の機能的に単位を記述する最新の実証研究を紹介するとともに,それらのレイアウト研究に,考古学の記述手法を導入する可能性を議論する.企画者の野澤は,狩猟採集民の住環境のレイアウトからヒトの行動パターンを復元したBinford(1983)の記述手法が,Reed(1996)の基本アフォーダンスという発想を補完するものであることを解説するとともに,その視点が現代の住環境を記述する際にも有効であることを示す.山﨑は,約一年間の保育室内の縦断的な静止画記録から,室内のモノの動き方のパターンを分類し,動的でありつつも同じ場所がそこに存在していることを報告する。西尾は,乳児を養育する家庭における,物の配置替えに焦点を当てる.特に,乳児による物の運搬や遊びの後に行われる,養育者の収集と片付けの場面に尺目し,どのような相互的な活動の流れの中で,片付けが起きるのかを検討する. 伊藤 精英, 丸尾 海月, 沢田 護, 超高周波を含む空気振動の曝露に対する身体応答:知覚-行為循環の観点から, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 149-156, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_149, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_149/_article/-char/ja, 抄録: 本研究は可聴域外の空気振動が無自覚的な生体活動に対する影響を明らかにすることを目的と した.予備実験では,可聴域上限以上の空気振動(超音波)を含む自然環境音を聴取している際の人の耳周辺の血流量を解析した.その結果,超音波付加時には血流量の速度に変化が認められ,超音波が生体活動へ影響することが示唆された.そこで,次の実験では,心拍変動解析及び皮膚表面温度解析結果を超音波付加の有無で比較した.その結果,超音波が可聴音に重畳すると,皮膚表面温度が上昇すること,自律神経系の均衡の指標とされる値の変動パターンに特徴的な傾向が現れることが認められた.これらを元に,自然界に存在する空気振動を知覚することが自覚的及び無自覚的な行為調整に果たす役割について議論する. 鈴木 ほのか, 伊藤 精英, ヨツユビリクガメの移動とアフォーダンス知覚, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 157-165, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_157, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_157/_article/-char/ja, 抄録: 本研究では,飼育下におけるヨツユビリクガメの段差を降りる行為に着目し,カメの段差を降りる行為がどのように調整されているのかを視覚情報とカメの行為の関係から明らかにすることを目的とし,研究を行なっている.本稿ではこれまでの予備的な実験結果を報告する.実験では実験個体に対し,段差の高さを変化させる実験と段差下の床の光学的肌理のパターンを変化させる実験の二つを行なった.その結果実験個体は,床の光学的肌理のパターンを用いて段差を降りる行為を調整していることが示された.さらに段差の高さが高くなると降りるまでの時間や降り方,降りる場所が変化することから,これらの情報も段差のアフォーダンス知覚の指標として用いることができると考えている. 野澤 光, 沢田 護, 工藤 和俊, 熟練ドライバーの知覚の能動的な再帰性, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 167-172, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_167, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_167/_article/-char/ja, 抄録: 本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9〜4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している. 板垣 寧々, 谷貝 祐介, 古山 宣洋, ヴァイオリン合奏における奏者間のリード関係と自己・他者評価の関連, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 173-181, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_173, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_173/_article/-char/ja, 抄録: 本研究の目的は,ヴァイオリン奏者が共演者と身体動作を調整する過程と,自己あるいは共演者に対する評価の関連を探索的に検討することである.2 者で同パートを演奏した際のリード関係を, グレンジャー因果性分析を用いて定量化し,奏者による実験時の自己の演奏/相手の演奏に対する満足度,相手の演奏の好ましさ,好きな演奏と相手の演奏の類似度に関する回答結果と関連づけて考察した.その結果,奏者による自己の演奏に対する満足度の評価は奏者によって異なるが,相手の演奏に対する満足度は概ね高く評価することが明らかになった.また,相手の演奏の好ましさは,奏者自身が好きな演奏と類似しているかどうかより,合わせてくれたといった経験によって評価が分かれる可能性が示唆された.さらに,リード関係の構築過程はペア毎に異なるが,自己/他者の演奏に対する評価(特に満足度)に応じて各奏者が調整を行なっていることによる可能性が示唆された. 園田 正世, 工藤 和俊, 野澤 光, 金子 龍太郎, 生後1年間の抱き時間とその変化:身体発達と養育者の役割, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 183-187, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_183, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_183/_article/-char/ja, 抄録: ヒトの乳児は出生後すぐには自ら移動できないため,しばらくは養育者による移動に委ね,身体の発達とともに能動的で探索的な移動に変化していく.抱くことは移動を可能にするだけでなく,授乳やあやし,コミュニケーションの基底的手段である.本研究では,家庭内での抱きの生起と継続の様相を明らかにし,成長発達と日常生活のなかで抱きの意味を検討するために,出産から独立歩行までの発達が著しい生後1年間(各月1回24 時間連続)の2組の抱き時間を計測した.新生児期から計測をスタートし,A 参加者は7 時間29 分, B 参加者6 時間48 分だったが,A 参加者は12 ヶ月後に3 時間56 分まで減少し,B 参加者は7 時間33 分に増加した.抱きは移動やあやしのための行為から,家事と平行するためのおんぶや授乳中心に変化し,子の受動的な移動が減少する様子がみられた. 山﨑 寛恵, 西尾 千尋, 山本 尚樹, 日本生態心理学会第9 回大会報告, 生態心理学研究, 2022, 14 巻, 1 号, p. 191-194, 公開日 2022/06/27, Online ISSN 2434-012X, Print ISSN 1349-0443, https://doi.org/10.24807/jep.14.1_191, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jep/14/1/14_191/_article/-char/ja =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== =========================== ===========================