音楽の科学研究会

第32回 研究会

(音響学会関西支部 談話会※)

にぎやかに再開した前回第31回に引き続き、第32回を開催いたします。さまざまな分野の研究者、音楽の科学研究に興味のある方、音楽愛好家、音楽に関連した職業についておられる方などの参加者間の交流をはかりながら、学会の枠を超えて音楽の科学研究の知見を共有し、音楽科学のこれからについて意見交換したいと考えています。当日、画面越しにお目にかかるのを楽しみにしております。(世話役:岡野真裕、大澤智恵)

今回(第32回)の研究会は、音響学会関西支部の「談話会」として助成を受けています。

日時・場所

  • 2022年5月8日(日)13:00 - 17:40(終了時刻は変更になる可能性があります)

  • オンライン開催(zoom)

参加費・申し込み

  • 参加無料/要申し込み

  • 参加をご希望の方は、第32回研究会参加登録フォーム から事前登録をお願いします。
    登録後、ミーティング参加に関する情報の確認メールが届きます。

プログラム

発表順は変更になることがございます。

  1. 合奏の「走り」やすさはコントロールできるか?:ビートの捉え方の影響

岡野真裕(神戸大学)

  1. 演奏者と「聴衆」間の聴覚情報の双方向性が同期に与える影響

水野伸子(愛知東邦大学)、津崎実(京都市立芸術大学)

  1. musician's brainはゆらぎの中で育まれる:非等時性合図に同期したfinger-tapping taskから明らかにする背側前部帯状回の役割

植村真帆(武庫川女子大学)

  1. 打叩動作の有無が無音中のテンポ保持に与える影響

塚本直樹(東京大学)、工藤和俊(東京大学)、宮田紘平(東京大学)

  1. ピアノの音色の好みとパーソナリティの関係

乗松美唯(武庫川女子大学 (卒))、大澤智恵(武庫川女子大学)

  1. 子どもはいかにして調性スキーマの学習を始めていくか

松永 理恵(神奈川大学)

  1. リアルタイム連弾システムを介した楽曲演奏における声部間協調モデルの検討

橋田光代(福知山公立大学)

  1. 50歳代で初めて動いた左第3指で楽曲演奏をした脳性麻痺者の事例:motor control の 可塑性

赤澤堅造(大阪大学/希望の家)、一ノ瀬智子(武庫川女子大学)、松本佳久子(武庫川女子大学)、奥野竜平(摂南大学)、蓬莱元次(希望の家)、益子務(武庫川女子大学/希望の家)

総合討議

大澤智恵(武庫川女子大学)岡野真裕(神戸大学)、松本佳久子(武庫川女子大学)

オンライン 懇話会

(参加自由:こちらもオンラインで開催します。参加方法は当日ご案内いたします。)

第32回音楽の科学研究会スケジュール

講演概要

合奏の「走り」やすさはコントロールできるか?: ビートの捉え方の影響

◯ 岡野真裕(神戸大学)

外部リズム刺激を伴わないリズム維持課題は、複数人で同期しながら行うと、単独で行う場合よりテンポが加速しやすいことが報告されている。本研究では、「複数のビート(4つまたは8つ)をひとまとまりと考え、まとまりの先頭のみ合わせようとする」という方略が、2人組で同期してのリズム維持課題におけるテンポ逸脱の方向性や度合いに与える影響について検討した。その結果、複数のビートをまとまりで捉えてもらう条件では、全てのビートを合わせようとしてもらう条件よりも、加速への偏りが顕著になる傾向が認められた。


演奏者と「聴衆」間の聴覚情報の双方向性が同期に与える影響

◯ 水野 伸子 (愛知東邦大学)

演奏者と参加者集団との間の同期に対する聴覚情報の双方向性の影響を演奏配信のみの一方向と比較検討した。参加者を2室に分け別室のピアノ演奏をリアルタイムに配信し,参加者はその音楽に合わせて手拍子を行った。1室の手拍子音のみ演奏者のヘッドホンへフィードバックした。演奏の拍時点と手拍子の誤差の比較,拍周期の相互相関解析の結果,双方向条件の方が演奏の拍時点と手拍子の同期度が高く,直前1小節以内の情報を互いに利用し相互に調整し合う様子が認められ,聴覚におけるインタラクションが生じたことが示唆された。


musician's brainはゆらぎの中で育まれる: 非等時性合図に同期したfinger-tapping taskから明らかにする背側前部帯状回の役割

◯ 植村真帆(武庫川女子大学)

音楽演奏において、演奏家は時間的な揺らぎを伴うリズムへの同期が要求される。リズムは皮質下の脊髄中枢パターン発生器(Spinal central pattern generators)により自動に抽出されるが、音楽家は演奏において様々なCPGを訓練により備える必要があるとされている。こうした脳は「musician’s brain」として機能的、構造的に非音楽家と異なるとされているが、その解明には至っていない。

タイミング制御を行う上で、背側前部帯状回(dACC)はCPGの周波数をモノアミン神経系を介して変調しうることから、musician’s brainの形成の中核を担っていると考えられる。したがって本研究では、位相揺らぎを伴うタッピング課題から、この仮説を支持する神経学的メカニズムを明らかにすることを目的としている。


打叩動作の有無が無音中のテンポ保持に与える影響

◯ 塚本直樹(東京大学)・工藤和俊(東京大学)・宮田紘平(東京大学)

テンポ保持は音楽演奏における最も基礎的な技能の一つであるが、音の無い状況ではテンポが不安定になる場合がある。無音中におけるテンポの誤差は周期的な身体運動を伴わせることで認識しやすくなることが報告されており、テンポ保持の正確性も動作の有無によって変化する可能性がある。そこで、無音中に動作を行う場面/行わない場面におけるテンポ保持の様相について、音楽非熟達者を対象にドラムスティック打叩課題を用いて検証した。本発表ではその結果と、そこから得られた考察を報告する。


ピアノの音色の好みとパーソナリティの関係

◯ 乗松美唯(武庫川女子大学/卒)・大澤智恵(武庫川女子大学)

楽器の音色には個人によって好みがあることが経験的に知られている。好みを決める要因には様々なものがありうるが、ここではパーソナリティに注目し、関連を調査した。フィジカルモデリングピアノ音源ソフト “Pianoteq 7 Standard” で、半音階及び和音による音形のMIDIデータをMP3として書き出し、実験参加者はそれらを聴取して、音色の好みの度合い、形容語への当てはまり度を7段階で評価するとともに、「ニューカッスル・パーソナリティ評定尺度」による質問に回答した。各値の間の相関を算出したところ、「調和性」「外向性」といった性格特性が音色の好みと一部関連していた。


子どもはいかにして調性スキーマの学習を始めていくか

◯ 松永 理恵(神奈川大学)

聞き手は,言語と同じく,音楽に曝されるだけで,育つ文化に特異的な調性スキーマを獲得する。その獲得はかなり早い発達段階からなされており,1歳の乳児でも既に調性スキーマの基本的性質を学習していることが知られている。では,乳児はいかにして調性スキーマの学習を始めて行くのであろうか。本発表では,スキーマ学習の端緒に関する仮説を提案し,その仮説の妥当性を確認した実験結果を報告する。


リアルタイム連弾システムを介した楽曲演奏における声部間協調モデルの検討

◯ 橋田光代(福知山公立大学)

一般的な自動伴奏システムにおいては、通常、(1)人間の入力演奏と楽譜情報を音符単位で追跡した上で、(2)次の発音タイミングを予測しつつ、(3)コンピュータパートの演奏表情も付けるという処理が必要となる。技術的に最重要かつ最難関なのは(1)で、かねてより人工知能の観点で研究が進められている。一方、個人用で独自の演奏システムを構築してみたところ、合奏や連弾に臨む奏者の立場では、演奏技術や表現意図、さらには使用楽器の物理的特性との兼ね合いで(1)とは異なる独特な音楽認知が構築される状況が観測できた。本発表では、その様子を報告しつつ、楽譜の捉え方について議論したい。


50歳代で初めて動いた左第3指で楽曲演奏をした脳性麻痺者の事例: motor control の可塑性

◯ 赤澤堅造(大阪大学名誉教授/希望の家)・一ノ瀬智子(武庫川女子大学)・松本佳久子(武庫川女子大学)・奥野竜平(摂南大学電気電子工学科)・蓬莱元次(希望の家),益子務(武庫川女子大学名誉教授/希望の家)

生後長い間,随意に収縮しなかったヒトの筋が収縮するようになるのだろうか?あるいは,また随意に手足を動かすことができるようになるのであろうか?文献調査等からは,その答えを得るには至っていない.motor controlの可塑性は成人においても確認されているが,「機能の回復」であり,今回話題提供として発表する「機能発現」の報告は神経科学の立場から価値あるものと考えた.

筆者らは種々のユーザインタフェースが使用でき,重度の障害のあるヒトでも演奏できる新しい電子楽器サイミスを開発しており,数年前に本研究会でも発表した. 本報告は全介助の両側性脳性まひの方の事例である.随意的に四肢を動かすことはほとんどできなく,ナースコールを随意的に動かせる左足拇指で行う.生後50数年後,初めて左手第3指を動かし,数か月後にサイミスで楽曲(ぞうさん,もののけ姫など)の演奏をした.記録動画を基に指の運動と制御の様子を定量的に解析した結果とmotor control の可塑性の観点からの考察を述べる.

世話役

  • 岡野真裕(神戸大学)

  • 大澤智恵(武庫川女子大学/音楽の科学研究会 事務局)