Chaos日記

長嶋 洋一


2024年3月18日(月)

昨日フトやってみた下図のような実験がある。 このMaxパッチは、もう30年以上も昔にやったLogistic関数 [ X(n+1) = μ・X(n)・(1-X(n)) ] の可聴化なのだが、かつては小数点以下6桁目の数値を1ずつ変化させて、相当に長い(10数秒〜数十秒)スパンでの変化に耳を傾けるという作業は、そんな暇はないのでやっていなかった。 しかし今回、「3.634848」・「3.634847」・「3.634846」・「3.634845」というのをやってみた様子である。

基本的にはこのあたりでは倍周期分岐が3からさらに倍の「6周期」で回っているのだが、μの値をこの付近にすると、完全なカオス(ランダム)でもなく、安定の6周期でもなく、「カオスの淵」近傍なので、6つの値のうち下から2番目の値が微妙に揺れ動く。 可聴化しているので、等間隔の音符の長さが75msecとかなり高速のアルペジオのフレーズのうち、この下から2番目のサウンドだけに注目する「耳フィルタ」で聞き取ることが出来る。 そしてこの音が3音周期フレーズ、時に2音周期フレーズで繰り返しているのだが、異なる音になると「カオスの淵」をかすってグチャッと6周期が壊れるのだが、おいおいまた元に戻る。 ここが、僕には「押し返してくる(生き物?)」ように感じられて好きなのである。
今回、上記の4つのμの値で実験したところ、数値計算の精度限界のところでそれぞれ異なるキャラの変化を初めて比較して聞くことが出来た。 これは正に温故知新である。 6周期のところでこれだったが、μを上手く調べれば、5周期や7周期などの「窓」の近傍にも「カオスの淵」がある筈なので、それらをしらみつぶしに調べる・・・という作業である。

午後にこの「μの散策(探求)」をさらに進めてみた。 まず昨日の実験Maxパッチを過去のものと差し替えて「0.1」・「0.01」・「0.001」・「0.0001」・「0.00001」・「0.000001」のそれぞれをμに加算する/減算する「可聴化」Maxパッチに改良した。 さらに過去にNLP研究会で発表していた「ロジスティック関数の拡大描画」Maxパッチを発掘して、μの値を調べてみると、昨日の「3.634848」あたりというのはごく一部であって、上のように以下のゾーンをそれぞれ攻めるという可能性が見えてきた。

そして遂に、上の「5分岐の『窓』」の右側のカオスの淵で「μ=3.7447775」というピンポイントの地点で、とても面白い挙動をする場所を発見した。 これは30年前の初期カオス実験でも、その後のNLPでのカオス可視化・可聴化の実験でも、ここまで精緻に時間をかけて探索する暇がなかったので、まさに僕にとっては「発見」となった。 Maxから内蔵QuickTime音源のピアノで鳴っているこのサウンドをどう記録するか・・・でまたしばし悩んだ(これも楽しい)が、Mac miniのヘッドホン出力のステレオミニのところに「二股に出す分岐アダプタ」を挿していた事を思い出して、安易な方法としてここから別のMacBookAirのQuickTimeProでアナログ的に「録音」してall2mp3で変換したのが 1分間version2分間version  であるが、なかなか「聞き応え」のあるサウンドである。

2024年3月19日(火)

ネットからは 円周率が105兆桁まで明らかに という記事が届いた。 僕はかつて、手元の非力なパソコンで、それぞれ数日かかって 10万桁の「π」 とか 100万桁の「π」 とかを計算していたが、この領域になると、CPUパワーも重要であるものの、それぞれの「桁」の数字を保持して演算を続けたり最終的なテキストファイルの出力のために、バックエンドのストレージがボトルネックになる(この例では30.72TB×36基分のSSD)というのは面白い。
ちなみにこのGIGAZINE記事の「関連リンク集」に載っていた2015年の記事 円周率を12進数に変換すると神秘的で美しいメロディを奏でるようになった というやつは、デモのYouTubeも聞いたが、「ランダム数値列を恣意的に操作すれば『聞きやすい音楽』に仕立て上げられる」という好例となっていた。 別にπを「12進数に変換」しなくてもこれは出来るし、下の方にあったYouTubeのように「レクイエム」にも「メタル」にも「タンゴ」にも仕立てられる。 ポイントは「音価を恣意的に選択し、さらに恣意的に休符を入れて、メロディーのリズムを恣意的に作り込んでいる」点であり、さらに「数値からマッピングしたメロディー音高に、恣意的なハーモナイズによる和音を配置する」ことで、どのようにでも「よくある音楽スタイル」に編曲できるのだ。 これらを作っているというJim Zamerski氏のサイト The Cosmic Melodies に行ってみると、案の定、瞑想系というか宗教系というか、Donateを求める「そういう人」だった。

そして午前中から午後まで、楽しい楽しいMax8プログラミングに没頭した。 過去に作ったLogistic Functionの「可聴化」パッチと「可視化」パッチとを合体させて、上のように、μの値を「可視化」マウスによって当たりを付けて[スペースキー]で微調整用の新たなμの値として確定させ、そこからはマウスでなくカーソルキーの上下によって小数点以下1桁から小数点以下6桁までの値を選んで[リターンキー]によってインクリメント/デクリメントした新たなμの値として、長時間の「可聴化」によって挙動を見る・・・という仕様とした。 最初はやはり、最も大きな「カオスの窓」である3周期の部分の「左端」からである。 上のようにおよそ「μ=3.8284」あたりに当たりを付けて、試しに「μ=3.82847」としてみると、いくら待っても3音フレーズが繰り返されるので、ここは「カオスの淵」よりも3周期に分岐した「窓」のゾーンであり、「淵」はこれより小さいμのところにある。

そこで上のように「μ=3.8283」としても挙動に変化はなかったが、「μ=3.8282」にすると、10数秒ほどして3周期フレーズが崩れる瞬間(後には戻る)が出現した。 これはμを減らしすぎたからであり、見極めたい値は3.8283と3.8282の間にあることになり、調整の桁は小数点以下6桁目に移動して、今度は下限の「μ=3.8282」から「μ=3.82821」と少しずつ増加していくことになる。 この「μ=3.82821」でも、しばらくすると3周期フレーズが崩れる瞬間が現れた。

小数点以下6桁の数字を1つずつ、つまりμの値を0.000001ずつ増やすという作業を続けていくと、上のように「μ=3.82822」から「μ=3.82826」まで、3周期フレーズが崩れる瞬間が訪れるという現象が続いたが、それぞれの所要時間はまちまちで、さらに「崩れ方」もそれぞれ異なっていて、簡単には傾向が掴めないというのが、カオスの面白いところである。

そして上のように、「μ=3.82827」となってみると、だいぶ(1分以上)待ったものの、3周期フレーズが崩れる直前に出てくる「3音のどこかが変化する」という挙動が消えて、どうやらここまで来ると「カオスの淵」を離れて「窓」に出た・・・ということになった。 これ以上の精度での演算はこのままでは出来ないので、ここから先はまた探索手法を検討することが必要である。
今日の実験は「カオスの窓」の左端を攻めてみたが、このような「カオスの窓」が3周期だけでなく5周期・6周期・7周期・9周期・11周期・・・といくらでも拡大してみると存在している。 さらに、「カオスの窓」の右端は次第に倍周期分岐を繰り返すゾーンではあるが、ここも詳細に追いかけてみる価値がある。 始まったばかりのカオスの探索は、まだまだ厖大な未踏領域を提供してくれているのだ。