2009年03月21日

毎日新聞がフリーエネルギー詐欺に引っ掛かっている件について

昨日疑似科学関連のニュースをつらつらと見ていたら、こんな記事を見かけた。
毎日新聞は相変わらず疑似科学にまるで免疫がないようだ。
この程度のネタを笑い飛ばせない記者には、特許とか新製品とか取材させないほうがいいよ。>毎日新聞

発電装置:太陽光や風力より効率良く、電磁力で電力供給−−木下さん開発 /神奈川 - 毎日jp(毎日新聞)
 電磁力を応用した高効率な小型発電装置を、相模原市の「ソフォス研究所」代表の木下博道さん(74)が開発した。川崎市の住宅展示場で19日から実用運転の公開展示をする。木下さんは「装置は使う場所に置くのでロスが少なく、電線などのインフラ整備が一切不要。太陽光発電や風力発電に比べて格段と効率が良く、電力供給の分散化が図られる。地球環境にやさしく、低炭素社会にふさわしい装置だ」と話している。【高橋和夫】

以下解説。 
 
 
◆人物紹介
まずこの発明者が何者かについてだが、
どこかで見たような名前だと思ったらデー・エム・ベー・ジャパンの木下ファミリーのおっさんじゃないか。

・木下博道
・木下政信
・木下葉子

上記の三人はその道の人間にとっては結構良く知られた名前で、
グローバルエナジーjpという会社で、磁力と風力を利用した画期的な発電機をうたって出資を募ってドロンしたり、
それ以前も
デー・エム・ベー・エクセルジャパン(DMWエクセルジャパン)というネットワークビジネスを主催していたりという、
典型的な「サギとマルチと疑似科学」で食っている連中だ。

また同じことを繰り返そうとしているようだが、そうは問屋が卸さない。
ここにまとめて晒しておくことにする。
関連:■■デーエーベー(DMW)のなんだかんだ■■


◆発明(という名のトリック)の内容
次に今回の連中のネタだが、毎日の記事だけでは分かりにくいが、特許を調べてみたところ、フライホイールを利用した発明モドキであるようだ。
2007〜2008年にかけて関連特許をいくつも出願しているあたり、それなりに本腰をすえて下準備をしていた模様。まあ全部水泡に帰すわけだが。
http://www.j-tokkyo.com/2007/H02K/JP2007-089379.shtml
【発明の名称】 磁石のN極とS極を交互に空芯コイルの中心を通過させる事により発電を図る発電機
【氏名又は名称】株式会社デー.エム.ベー.ジャパン
【氏名又は名称】木下 葉子
http://www.j-tokkyo.com/2007/H02K/JP2007-089380.shtml
【発明の名称】 発電機の磁石の負荷を取り除き入力の電力を減少させる発明
【氏名又は名称】株式会社デー.エム.ベー.ジャパン
【氏名又は名称】木下 葉子
http://www.j-tokkyo.com/2007/H02N/JP2007-097385.shtml
【発明の名称】 円型の多層式発電機
【氏名又は名称】株式会社デー.エム.ベー.ジャパン
【氏名又は名称】木下 葉子
http://www.j-tokkyo.com/2007/H02K/JP2007-116883.shtml
【発明の名称】 二重フライホイルの発電機
【氏名又は名称】株式会社デー.エム.ベー.ジャパン
【氏名又は名称】木下 葉子
http://www.j-tokkyo.com/2008/H02K/JP2008-131852.shtml
【発明の名称】 電流供給機構
【氏名又は名称】株式会社デー.エム.ベー.ジャパン
【氏名又は名称】木下 博道
【氏名又は名称】木下 政信
http://www.j-tokkyo.com/2008/H02K/JP2008-172911.shtml
【発明の名称】 電流供給機構
【氏名又は名称】木下 博道
【氏名又は名称】木下 政信
【氏名又は名称】木下 葉子
http://www.j-tokkyo.com/2008/H02K/JP2008-263690.shtml
【発明の名称】 発電装置用コイル
【氏名又は名称】木下 博道
【氏名又は名称】木下 政信
【氏名又は名称】木下 葉子

今回カモを引っ掛けるために利用されているトリックは、
フライホイールを使ってエネルギーを貯めておき、小さなインプットから大きなアウトプットを得たように見せかける、まあ定番といえば定番のネタ。
当たり前すぎる話だが、フライホイールを使う以上、発電の前には電力なり何なりのエネルギーを消費してフライホイールを回してやらなくちゃならないし、フライホイールから取り出せるエネルギーも、投入したエネルギー以上のものにはならない。

イメージとしては、たとえ小さなポンプでも、それを使って水槽に十分水を貯めれば、水槽の底の栓を抜いたときにポンプの何倍もの勢いで水が放出されるのと似たようなものか。
もちろんその分出力時間は短いが、公開実験の短い時間なら持つわけだ。
この辺前に取り上げたウォーターエネルギーシステムの構図とよく似ている。

まんまと引っ掛かって
 これまでの計測結果によると、回転速度によっては、始動用モーターの消費電力の100〜1000倍程度も発電可能。また始動に必要な電力は400ワットモーターなら乾電池(単3)1本でも足りるという。

 研究所での実証運転では、回転体は最高で毎分1500回転し、直径80センチ(重さ約70キロ)の装置で毎時10〜15キロワット、同120センチ装置で毎時500キロワットを発電した。始動時に5・5キロワットのモーターを使った場合、1個100ワットの電球30個を点灯させていて3キロワットを発電できているのに、モーターの消費電力は2・6ワットしかなかった。

なんて書いている記者と、これを通したデスクは恥を知るべきだと思う。
この部分はそれ以外にも色々とおかしいところがあって意味がわからんからな。

まあもっと恥ずかしいのは、
 特許出願中のため構造は極秘だが、電気工学や機械工学、物理学の研究者らが相次ぎ視察。元九州電力最高顧問で核燃料サイクルのプルサーマル研究に携わってきた元国際原子力機関委員の松下清彦さんは「画期的な発電装置」と認めている。

なんて書かれている、東大工学部電気工学科卒でずっと九州電力に勤めてきた経歴を持ちながら、
まんまとこんなのに引っ掛かっている松下清彦氏のほうだけどな。
関連:九州電力役員履歴書(2005)

それとも、
 松下さんはたびたびドイツを訪れ第一級の研究者と、この発電装置の理論的な解明に取り組んできた。松下さんは「ドイツの学者、研究者は発電装置として認めている」と話し、同研究所は「ほぼ実証された」として公開展示に踏み切ることになった。

なんて書かれているあたり、彼も騙す側の人間なのだろうか?


幸い今回のネタに関しては各所反応が早く、
はてブとスラドを中心にかなり話題になっているので、少なくともネット上でこれに引っ掛かる人間は少なそうだ。
はてなブックマーク - 発電装置:太陽光や風力より効率良く、電磁力で電力供給−−木下さん開発 /神奈川 - 毎日jp(毎日新聞)
「永久機関」としか思えない発電装置が報道される - スラッシュドット・ジャパン
これで騙される人間はよほどアンテナの鈍い人間くらいだろう。
とりあえずうちのブログでもダメ押しに関連情報のまとめエントリを上げておくことにする。


◆関連記事
幻影随想: サギとマルチと疑似科学
幻影随想: 何のエネルギーも使わずに水を燃料化?高校の物理化学から出直して来い。
幻影随想: ウォーターエネルギーシステムの中身が予想以上にしょぼくて脱力した件