パソコン電源ラインのノイズ調査

2002年11月 長嶋洋一


電源のノイズを見てみよう」で紹介した 電源ノイズ計測システムの第1次試作が完成しました。 とりあえず身の回りの身近なところから、ということで、 大学のパソコン多数演習室と研究室内のパソコンとで実験してみました。 まだ電流プローブが安物しかないのと、コンセントに差し込むタイプの 計測ということで、配電盤で取るデータに比べると問題も多いのですが、 傾向としてはなかなか面白いデータが取れましたので、このあたりを 割り引きながらご覧下さい。


計測ソフトウェア

今回の電源ノイズ計測システムでは、計測対象は電源ラインの「電圧」と「電流」の2種類、 そしてそれぞれについて「波形(時間軸)」と「スペクトル(周波数軸)」の2種類、 ということで、合計4つのグラフをリアルタイムに計測/表示/記録する、ということで 進めました。

ハードウェアとソフトウェアのプラットフォームについては、既に 「電源のノイズを見てみよう」で紹介 しているのでここでは省略します。まだまだ未熟ですが、LabVIEWによって開発 したソフトウェアのパッチ(ダイアグラム)は このような ものです。下半分が切れていますが、基本的には同じものが二つあるだけです。 電流プローブの周波数帯域がぜんぜん低いので、電流の方は 電圧に比べて周波数領域を大幅に低くしてあります。

2002年11月30日、ゼミ学生の内田涼子さんに手伝ってもらって、 一日で一気に実験データを取ってしまいました。内田さんには、 手慣れたところで記録ムービーの編集までしてもらいました(^_^)。

マルチメディア室

最初に、SUACで唯一のMac室、マルチメディア室に行きました。ここは このように、デュアルCPUのG4Macが39台、並んでいます。 今回は電源高周波/高調波の計測なので引っ掛からないのですが、 たぶんこの部屋の電源ラインには偶発性のサージノイズが乗っている模様で、 深夜に無人のこの部屋で突然にMacが起動したりする、という現象が 何回か起きています。(^_^;)

最初の計測は、まだ部屋の機器の電源をまったく入れない状態で、 講師席にあるG4Macを単体で調べてみました。 計測の様子は こんなもので(^_^;)、雑然としていますが、他の機器の電源を全部抜いた 状態で行いました。

これ は、何も電源を入れない状態でのコンセントの状態です。まず電圧ですが、 ほぼ綺麗なサイン波の電圧がかかっています。電流は流れない筈ですが、 この計測システムはオートゲインですので、実質的には電流を消費していない 場合でも、このように微弱な電流を表示しています。スケールからこれは 無視できる量だ(次のデータと比較してみて下さい)、と判ります。

これ は、G4Macの電源を入れたところの計測データです。右上の電流波形の スケールが10倍になり、ここでは実効電流が流れていることが判ります。 電圧波形はなかなか綺麗なサイン波ですが、電流波形は典型的なスイッチング 電源の波形、ただしエッジがなかなか「丸い」波形です。最近の スイッチング電源ではこのように、電流が流れている時間は限られて いるものの、波形を滑らかにすることでノイズ低減しています。

これ は、この講師席のG4Macの周辺機器(プリンタ、LCDモニタ、MOドライブ等)の 電源も全て入れてみた、という波形です。電流プローブはG4Macの電源ライン しか計測していないので、他の機器の電源はそれより上流なので関係 ない右側の「電流」グラフについては変化がありません。ところが、 ちょっと遠い経路であるにもかかわらず、左下の電圧スペクトルでは、 30KHz付近にチラッと、さらに85KHz付近では明確に強くなっています。 これは明らかに、コンセントを経由して到来した、この周波数成分を 発生する他機器の電源システムからのノイズということです。今回は 実験しなかったのですが、この周波数帯域はEP2000の得意なところです。

そしていよいよ、マルチメディア室のほぼ中央のMMC11のG4Macに 拠点を決めました。 これ はMMC11の電源コンセントの付近でまだ何も電源を入れていない状態、 これ はMMC11の電源をONにした状態のグラフです。

これ は、マルチメディア室の39台すべてのG4Macの電源を入れた状態です。 期待(^_^;)に反して、ほとんど違いがなかったのですが、これは元々、 G4Macの電源からコンセント側に出るノイズが非常に小さいので、 距離によって減衰するノイズは全体としてもほとんど影響がない、という ことなのかもしれません。また、後述するGWS室では全てのディスプレイが ブラウン管なので内部に高圧電源回路を使用していますが、ここは 全てLCDモニタなので、それも関係しているかもしれません。

マルチメディア室では、他の全ての機器の電源を再び落とした上で、3種類の プリンタ/プロッタ についても、ディジタル機器として単独で電源を入れた状態 のデータを計測しました。

まず、 この EPSONのレーザープリンタです。この部屋のバックグラウンドとして、 ある程度のノイズは電源OFFでも乗っていますが、 これ はこのプリンタの電源だけを入れた状態での、そのコンセントでの電源です。 モーターやヒーターなどの電力回路のインバータ電源に特有の 高調波ノイズがある程度(もちろん規制をクリアしたレベルで)出ています。

次に、 この RICOHのレーザープリンタです。 これ は電源を入れた直後数秒の状態、そして これ は1分ほど経過してスタンバイ(アイドリング)状態になったところです。 面白いことに、スタート直後の大電流を必要とする時の電流波形に比べて、 定常状態になるとスイッチング電源のモードを切り替えているらしいことが 判ります。これにより、省エネの規制をクリアしているようです。

最後に大物として、 この EPSONの「B0サイズ・プロッタ」です。大きさは この ようになります(サイズの比較に内田さん登場(^_^))。このプロッタは部屋の壁側 の専用コンセント(全て床下配線工事)の電源で、この装置だけ専用です。 これ は電源を入れていない状態で、電流波形が暴れているようですが、これは 非常に小さなレベルの外来ノイズです。そして電源を入れると この ようになりました。電流波形は、2つのプリンタに比べて電力が必要なためか、 面積としてはより大きな形状にうまく滑らかに整形されていて、特定の 周波数成分の電圧ノイズは見当たりませんでした。

GWS室

次に、多数のWindowsベースのGWS(Graphic WorkStation)が並ぶGWS室に 行きました。ここは このように、コンパックの高性能NTマシンが39台、並んでいます。 マルチメディア室と違って、多数の17インチブラウン管ディスプレイが 並ぶ部屋なので、この影響がどうなるか興味がありました。

最初の計測は、まだ部屋の機器の電源をまったく入れない状態で、 部屋のほぼ中央にある1台(GWSC20)を単体で調べてみました。 計測の様子は という感じです。 これ は電源を入れていない状態で、既にコンセントまで色々な低レベルの ノイズが来ているようです。そしてこの1台だけ電源を入れたのが これ です。Macのスイッチング電源の電源電流波形はかなり「電流の流れる時間が 狭い」ものでしたが、この電流波形はかなり違っていて、高調波電流のスペクトル も低い帯域に限定されています。しかし、この機器自身とは限らないのですが、 この電圧波形はちょっと気になります(^_^;)。

そして、いよいよ周囲のパソコンとディスプレイも次々と電源ONして みました。これが その模様です。計測データとしては、 これ はデスクの並びから「御近所」の配電ラインと思われる列の12台を 電源ONしたもの、そして これ はそれ以外も全て電源ONして、39台のパソコンが全て立ち上がった状態です。 1台とかグループの波形にも見られていたのですが、11KHzあたりの電圧ピーク が大きくなっていますから、おそらく全てのコンパックのパソコンの電源回路が このスイッチング周波数である可能性が推定されるところです。

407情報演習室

そして最後に、62台のWindowsパソコンが並ぶ407情報演習室に 行きました。ここは このように、コンパックのNTマシンが62台、並んでいます。 GWS室と違って、ブラウン管でなくLCDデモニタが並び、さらに 2人に1台の、講師席からの情報提示LCDモニタもある部屋です。

まず、部屋内の機器の電源をまったく入れない状態で、 部屋のほぼ中央にある1台(CBI228)を単体で調べてみました。 計測の様子は という感じです。 これ は電源を入れていない状態です。GWS室でもそうでしたが、最近の 電子機器は「電源OFF」といっても、人間が電源スイッチをONする のを密かに監視(待機)していたり、あるいはちょっと遠いところですが 連続運転しているサーバコンピュータがあったりして、このように 「何も電源を入れていない」といっても、明らかに電子機器から出ている 電源ノイズが乗っている状態にあります。特に左下の電圧スペクトルを 見ると、8KHz付近、45KHz付近、70KHz付近、といくつか不自然な ピークがあります。

この1台のパソコン(とLCDモニタ)だけの電源を入れたのが これ です。電流の値がさきほどのバックグラウンドレベルから一気に 15倍以上と実効値になりました。電圧スペクトルでも、さきほどの 45KHzのちょうど半分の周波数にピークが出ていますし、同じコンパックでも GWS室のマシンとは電源回路が違うようです。そして、同じデスクの「島」に あるRICOHのレーザプリンタの電源を入れた直後の波形が これ です。モーター起動時のサージなのか、電圧ラインにちょっと嫌な 変動波形が乗りました。さらに同じ「島」の7台のパソコンと 2台のプリンタの電源を入れたのが これ、 さらに部屋の62台全部のパソコンの これこれ です。違いは微妙なものですが、同じパソコンが多数並ぶことで、同じ周波数成分 のノイズが重なっていることが判りました。

ここから6枚の連続計測グラフは、右側の電流グラフはプローブを 接続している肝心のパソコン(CBI228)の電源を落としているのであまり 関係ないのですが、左側の電圧グラフには他機器の影響が乗っているので、 詳細に比較するとちょっと面白いものです。個々の解説は省略しますが、 これ はCBI228の電源だけ落として同じタップにつながったCBI229は稼動している 状態、 これ は同じ「島」の7台のパソコンまで全て電源を落としたもの、 これ はさらにこの「島」の並びの続きにある両方の「島」の8台もさらに停止 させた状態、 これ はこの3つの「島」の列の16台の隣の16台と2台のプリンタまで落としたもの、 そして これこれ は、残りの全てのパソコンとディスプレイとプリンタの電源をどんどん 落としている時の途中経過の計測データです。計測の様子は という感じです。定常状態にない電子機器は、 ときにこのような瞬間的な電源ノイズを、いわば「断末魔」のように出して いるものなのだ、と新鮮な発見でした。

1106研究室

3つのパソコン演習室での計測を終えて、11063研究室に戻ってきました。 ここでは既に、 「電源のノイズを見てみよう」 のところで、今回のノイズ計測システムに使用した富士通のノートパソコン のACアダプタのノイズを計測していましたが、まだ多数のコンピュータが あるので、せっかくなので計測してみることにしました。

デスクの上にあるコンピュータ群(ここには6台、写っています(^_^;))

のうち、G4Mac

については、マルチメディア室にあるものよりも高速であるだけで 違いが特にないので、この計測は省略です。そして隣のSGI Indy

について、まずデスク上の全ての機器の電源を落として計測して みました。ちなみにこのSGI Indyは1106に7台あり、4台が稼動中(3台は 壊れた時のためのスペア(^_^;))です。 これ が電源OFFの状態でバックグラウンドに乗っているノイズ、そして これ がIndyの電源を入れた状態です。典型的なスイッチング電源の動作で、かなり 昔のマシンであるにもかかわらず、このワークステーションの電源電流波形は なかなか滑らかになっていて、電源電圧には特に高域のノイズスペクトルが 見当たりません。なかなかやります(^_^)。

さて、ここからは1106研究室にあるノートパソコンをいろいろと実験しました。 まず実験環境を確認しておきます。部屋の中央のテーブルに のように、計測システムを置きました。もちろんこのパソコンのACアダプタ のノイズの影響を排除するために、 のように、ACアダプタなどは接続しないで、内蔵バッテリだけで動作させます。 これが計測プローブ部分で、それぞれのノートパソコンのACアダプタを接続する 電流プローブと、その出力を分岐して電圧計測プローブをつないでいます。ここに、 のように、部屋の反対側で何もつないでいないコンセントから 延長ケーブルで延ばした電源ライン「だけ」をつないでいます。その結果、 電源を入れない状態では このように 非常に綺麗な電源状態とすることができました。基本的に、ここにつないで 出て来たノイズは、そのつないだ機器によるもの、と考えていいでしょう。 (「○台」というのは、1106にある台数)

最後のNECのパソコンは、買った時に入っていたWindowsを消去してLinuxを インストールしたマシンですが、CPUがトランスメタ社のクルーソー、そして LCDも反射型でバックライト無し、という究極の省エネ・パソコンです。 電源電流波形の形状だけを見ていると他のパソコンとの違いがピンと来ませんが、 よく縦軸のスケール(電流プローブによって比例して電圧に変換されている)を 見ると、Libretto並みの低消費電流であり、さらにLibrettoで出ている 電圧の高周波ノイズ(42KHz付近)も無い、という非常にクリーンな電源である ことが目立ちます。