第10期「虎の穴」学生レポート集

2002年2月 長嶋洋一

「靄夜」メイキング風景(1)
「靄夜」メイキング風景(2)


大山真澄

今回の虎程充実した虎はなかったと思う。『私達でつくりあげた』という思いが強い
作品であった。新しいことにチャレンジした事が多い虎であったが、それがすべて達
成できたとは思わない。しかし、一歩ステップアップできたとは胸をはって言えると
思う。

今迄は個コラボレータといっても、ほとんど先生の指示どおりに動くという感か強かっ
た。確かにCGを描いたりしたものの、私達で作ったという思いは今回程なかったと思
う。その為達成感も一塩だった。元来面倒くさがりな私なので、今回のような地道な
作業が多いのは大変精神的に疲れる。一人の作品だったらおそらくやらないだろうと
言う事は、確信できるほど感じる。そのためこの量産なインタラクティブアート作品
は『良い経験』といのが一番ぴったりくる。結果的にも私の予想とは違ったものになっ
たのだが、すばらしい作品になったのは確かだ。『量産な作品とはこいうものなのだ
な』という思いが、私の経験の一つになったことが大きな収穫である。

また今回は徹底したいテーマがあった。それは『でしゃばらないこと』。初虎から参
加している私にとって、虎の雰囲気はなれたもの。どうしても一年生よりでしゃばっ
てしまうだろうなと参加前から思っていた為だ。参加してくる一年生は初体験ではな
いものの、私としては「わからなくても動く」ということを経験してほしいと思った。
初虎の時、まったくわからないコード配線や機械のなかで、未経験者ばかりの少人数
でありながら、とりあえず頭を絞り動いたと言うあの経験は私にとって忘れがたいも
のである。その為、今回先輩である私達がいることで、一年生にそういった経験をす
る機会が少なくなることを避けたかった。作業開始後、作業分担は分かれたものの、
一年生にはできることはしてもらおうといくつも仕事を頼んだ。私がなんでもできる
わけではないのだが、私ができることは一年生に伝えようと思ったのだ。

映像作品についてはあまり触れないでおきたい。『まだまだ』という事実を実感した。
次回の目標は『体力をつけること』。今回はかなり辛かった。


加藤奏子

今回、私が虎への参加を希望したのは、「何かパッとした事がやりたい」という
ただ漠然とした理由からだった。今回は募集時に内容が極秘にされており、何を
やるのか分からないところが大きな賭けだったが、今思えば参加することを決断
したことは正解だったと心底思う。以前、音虎として参加した時にも、貴重な体
験をしたという感想を持ったのだが、今回はそれとはまた違う充実感があった。
それはスタッフとしてだけではなく、自分で作品を作り、それが記録として残さ
れるという事を初めて経験したからだ。

64個のオブジェ作りと平行して自分の床置造形を制作することに、はじめは割
と軽い気持ちで「やる」と言い出したものの、なかなかいいアイデアが浮かば
ず、本当に時間ギリギリまで悩んで作っていた。色々と試行錯誤していくうち
に、何がきれいで何がきれいではないのかもよく分からなくなり、どんどん深み
にはまっていってしまった為、最終的な形にたどり着くまでにかなり時間がかか
ってしまった。特に東野さんの両脇に置かせてもらうことになった、枝と和紙の
オブジェの方は、本番3日前から作りはじめ、約2日で完成させた。造形的には
単純なつくりのものであった為、安っぽくなってしまわないかと心配していた
が、下のスポットライトの効果もあり、自分のイメージしていたものを、いい意
味で裏切ってくれたと思う。ただ、和紙を2色にしたにも関わらず、色の違いが
ほとんど分からなくなってしまったのが個人的に心残りだった。
本番の時、私はたまたま記録係をやることになったのだが、東野さんの周りで自
分の作品が演奏の邪魔になってしまわないかとハラハラしてしまい「あの子達っ
たらちゃんとやっていけるのかしら」と、まるで我が子の晴舞台をビデオに撮る
親のような状態になっていたのを覚えている。

とにかく自分が造形作りにもたもたしているおかげで時間が無かったので、64
個のオブジェも形を提案するだけしておきながら大量生産はほとんど自分は手伝
わず、人に任せっきりであったので、申し訳ないやら情けないやらで一人恐縮し
ていた。しかし、64個全てを瞑想空間の天井に吊るし終わって初めて暗闇で光
らせた時の光景は本当に想像以上で、このプロジェクトに参加して心底良かった
と思った。そんじょそこらのプラネタリウムなんかとはリアリティが違うし、最
高の贅沢だったと思う。

全体的な事を振り返ってみて、まだまだ自分には技術も知識も乏しく、たくさん
の経験を積む事が必要だという事が実感できた。今回は主に造形で参加させても
らったのだが、映像にも興味があるので、機会があればそちらにもチャレンジし
てみたい。


池谷綾香

 今回の虎の穴に私が参加しようと思ったきっかけは・・・前回、メディアアー
トフェスティバルのスタッフとして虎の穴に参加した時、とてもすばらしい体験
をすることができました。前回はスタッフとしてだけの参加でしたが、今度は是
非、自分で作品を制作することにもチャレンジしてみたいと思っていた時に、第
10期「虎の穴」の募集を見て、内容は極秘だったものの、作品のキーワードと
「瞑想空間プロジェクト」に関するインスタレーションの共同制作という言葉に
惹かれて、参加することを決心しました。

 今回私が挑戦した映像は、作ると決心はしたものの映像作りという事自体が初
めての体験で、フラワーパークでの素材集めから映像制作まで全てがチャレンジ
でした。素材集めといってもビデオを片手に何をどういうふうに撮っていいや
ら、とりあえず自分の思うままに撮ることにしました。実際、映像作品を作るこ
とになって、とりあえず、説明書を見ながら試し試しでいろいろな技法を使って
編集していったのですが、いろいろな技法を使い過ぎたため、思いのほかレンダ
リングに時間がかかってしまい、本当に試作品という感じの映像で終わってしま
いました。レンダリングが終わるのを待っていて、映像作りをするのには時間と
根気が必要だなということを思い知りました。
  とりあえず、1つ映像作品を作り上げて、瞑想空間で見てみたら、編集してい
る際に小さい画面で見ている時とは雰囲気が全く違い、また、2年生の二人の映
像と並べてみても、自分の作品だけ妙に浮いている感じがして、統一性のない映
像作品になってしまいました。
 今回の経験で、私が一番感じたことは、映像を作る際にもっと自分の中でどう
いう作品をつくりたいのかまとめてから作りはじめることが大切だということで
す。今回の失敗をバネに、次回映像作品を作る時には、今回よりはいいものをつ
くれるようになってればいいなあと思います。また、映画やCMなど映像作品を
作る側の視点から見るなどして、映像を作るための勉強も私には必要だなという
ことを強く感じました。

 もう一つ、発光体オブジェの方は、量産し、全てをネットにつるし終わり、明
かりを消して見た時には、想像以上の作品に仕上がっていました。まるで暗闇の
空間の中に64個のオブジェが浮いているようでした。ただのLEDを試しにぶらさ
げた時に見た感動とはまるで違ったものでした。天井の窓から少し明かりが漏れ
ていたのと、非常口のランプがついていたのは残念でしたが・・・。

 今回の虎での映像作り、大量生産の共同制作ともに、すばらしい貴重な体験が
できたと思っています。映像に関しては、これからも何度も挑戦してみたいと思
っています。また機会があったら虎に参加していろいろなことに挑戦してみたい
です。


加藤美咲

虎は、恵まれた状況で活動できる、貴重な知識吸収と経験の場である。
毎回思うことだが、今回特に強くそれを感じた。実り多い結果が得られた。そ
して誰の胸にも満足感があったと思う。むろん手直しすべき点は数あれど、
真っ暗な瞑想空間に64個の光が灯ったときの感動は、確かに自分たちの手で作
り上げてきたものであった。

虎として作業する時に気をつけるのは、作業に没頭できる時間を確保しておく
ことと、体調を崩さないことだ。どちらが欠けても集中して作品に望めない。
作業時期が春休みだったのは大変にありがたかった。風虎の時に経験した「授
業後に作業」というのは、一日の疲れもあって作業がはかどりにくく、日常生
活から虎への意識の切り替えも難しかった。その点この虎は朝集合してから5
時(多少の残業はあれど)解散するまで靄夜に一点集中することができ、短期
集中で作ることで作業効率が向上したと思う。しかしその分体調管理が難し
かったのも事実だ。下宿するようになってから体力低下を自覚していたので、
連日ドーピングをしながらもコンディションを崩さないよう気を使った。

私は「靄夜」として造形・設営に参加する一方で、映像作品という未知の領域
に取り組むことになった。今まで静止画像を動かしたことはあっても映像素材
を扱うことはなかったが、今回それが可能になったのは、ビデオ編集機器の存
在によるところが大きい。私たちは研究室で最初のオペレーターになり、その
機能をある程度知ってから映像を作り始めた。
しかし不慣れなもので、その上頭の中に明確な青写真があったわけではない。
適当に撮った素材を適当な効果で適当につないでいっただけで、作品というよ
りは単なる試作品になってしまい、結果はあまり満足できるものではなかっ
た。それでも画面上で見たときとプロジェクションしたときの違い、どんな動
きが見栄えよく映るかということが分かったので、これから作る改訂版はもう
少し見やすいものになっていることだろう。
瞑想空間の壁面にプロジェクションするという場合においてだが、以下のよう
な点に気をつけて映像製作に取り掛かるとよいと思う。
1、パッと見何色に見えるか
2、どのように視点を移動させるか
3、作品のコンセプトを抑えた上で映像を切り替える
特に2については、映像そのものではなく見る者がどのような視点で捕らえる
かということを良く考えるべきだ。人間の脳味噌は足りないものを補ってくれ
るので、あえて要素を欠落させることでそこに目を向けさせるなど、抽象と具
象をうまく取り合わせることで面白い効果が得られるだろう。

今回の虎は初虎から参加している私たちと、まだ慣れない?一年生とで構成さ
れている。私の目からすれば一年生は(高野除く)少し積極性にかけるような
気がしたのだが、私たちもそうだったのだろうか。大人しかっただろうか。あ
の時とは違い「先輩」がいるからかもしれない。たいした先輩ではないが。違
いは研究室に入り浸る時間と色んなものの扱いを少しは心得ているというとこ
ろだけだ。一年生達にはぜひこれからも参加してもらい、「他の誰か」ではな
く「私がやる」という積極性を持って虎に活気をもたらしていただきたい。


高野結花

  わたしは今回、上から吊るす造形物に力を入れようと思いました。が、しか
し、時間がないのと材料が限られているのとイメージが膨らまないなど、いろい
ろとあって本当に苦しい日々でした。どうやったら靄夜のイメージに近づくの
か、実際に現場で光らしたら人はどう感じるのかなど、考えたり実験してみるこ
とはいっぱいあったはずなのに、夜な夜な家で実験してみたものの、深く考えて
いく前にタイムオーバーになってしまいました。始めから、いつ発表するのかが
わかっていたのだから、もっと早くから準備を始めればよかったなぁと思いま
す。長嶋先生が、「制限があると、ぐわぁーっとより多くの力を発揮する。」み
たいなことを言っていたのですが、そこまで力が出なかったのが残念でした。で
も買い出し1回というのは見直せないかなー?と思います。いろいろ試した結
果、何か違う!ということもあり得ると思うので。

  今回の一番の問題点はみんなのイメージが統一されていなかったことだと思い
ます。「靄夜」といういい感じのテーマができたものの、みんなが同じビジョン
を持つことができなかったし、わたしもイメージがグラグラとしていてしっかり
固まっていませんでした。イメージが統一されれば、それを目指して造形物をつ
くれるし、吊るす長さもただランダムなのではなく何か意味を持たせることがで
きるし、光り方も長嶋先生にすべておまかせなのではなく、自然と虎のメンバー
から「こうした方がいいのではないか」と意見が出てくるのではないかと思いま
す。それぞれが違う分担の作業をしながら同じビジョンを描くというのはとても
難しいことだけど、重要なことだと思います。

  と、ここまで反省点ばかりですが、やってみたからこそ反省がたくさん出てく
るのです。それに、新たな発見もいっぱいありました。 実際に物体を64個光
らした時は本当にびっくりしました。異世界に来てしまったような不思議な感じ
がしました。その時改めて何かおもしろいことができそうだなーと可能性を感じ
ました。今回使ったLEDを使って他にもいろいろできそうだし、テーマの「靄
夜」も想像力を掻き立てるというか、奥が深いなと思いました。今回学んだこと
を、また何かつくる時につなげていきたいと思います。

  最後に、もう2つだけ。つくる前にメンバーがもっと話し合った方がいいと思
いました。いろいろと話しながら方向をしっかり決めていきたいなと思います。
だから、あやっちとかなっち(池谷さんと加藤かさん)とももっと話したいと思
います。なので、あやっちとかなっちも思ったことは何でも言っちゃってくださ
い。あと、もう1つは、見に来てくれた人の意見を聞くことです。高梨先生と
か、佐藤先生とか、鳥居先生とかせっかく見に来てくださったのに、どう感じた
かなど意見を聞いていません。もっともっと貪欲にならなければいけないと思い
ました。